北九州市立大学准教授であり、言語学者でもあるアメリカ人のアンちゃんが、新連載では日本語ならではの表現に挑みます。題して「かなり不思議な日本語の世界」。最初に取り上げるのは「さすが!」です。
日本語の言葉のほうが便利なことがある
私の子どもたちは、日本生まれの日本育ちだから、日本語はペラペラです。子どもたちは日本語の環境にいる時間が長いから、家にいるときにはできるだけ英語だけ話そうとしています。
だけど、やっぱり日本語のほうがうまいから、英語の単語がわからないときに、日本語の単語を英文に勝手に入れます。その結果は、バリ変な文です!
たとえば…
“Mommy, めいちゃん and I played 外 but her throat was ガラガラ so she went to the 保健室.”
超ヤバイ!
一番好きなのは、この前聞いた末っ子の発言です。社会見学から帰ってきたときに、授業で習ったことを教えてくれました。
“That 泥 that looks like a ちょんまげ is 固まっとう.”
今回は博多弁も入った!
何を言いたかったのかは、今も全くわかりません。でも、もしかたら「固まっとう」という、ちょんまげみたいな泥は、危ない物なの かもしれない 。気をつけないかん!
それから昨日、私の口からこんな文が出ました。
“Don’t 消す it!”
うん。子どもたちだけじゃなく、私の言葉もちょっと怪しくなってきたらしい。
日本に長く住んでいる人は、誰もがこんなことをします。
なんでやろう?
なぜかはわからないけど、日本語の単語の方が便利なときがあるんです。
たとえば、「駅」「携帯」「水筒」や「玄関」。こんな単語を、英語ではほとんど言わない。
だから、“Hey, why is your 水筒 in the 玄関?” と言うと便利。日本に住んでいるアメリカ人の友達はみんな、同じようなことをします。
英語で何かを言いたいけど、当てはまる英語がないことはよくあります!超、腹立つ!!でも、どんな言語にも、ほかの言語に訳せない単語があります。
なぜ?
それは「言葉と文化はつながっている」ということが大きいと思います。たとえば、日本は曖昧さを大事にする国だから、その曖昧さを表す表現も当然多いです(その曖昧な表現については、後日書くバイ!)。
けど、今日話したいことは、バリバリ英語に訳しにくい単語「さすが」についてです。
まず、「さすが」を漢字で書くと、バリカッコいいバイ!書けますか?「流石」です。「さすが」は〈流れ星〉といったいどういう関係があるんでしょう??
わからないけど、わからなくてもよい。バリすてきだ!
褒めるときの「さすが」
日本語で「さすが」という言葉を聞くことは多いですよね。たとえば、私が何かをしたときに、友達は「さすが、アメリカ人だ」とか「さすが、大学の准教授だ!」などと言います。
これをバリバリ堅く訳すと次のような感じ。
“Oh! That is to be expected from you as an American ( Associate Professor).”
でも、こんなふうにはあまり言いません。
“ That is just like you!”
“ That is something an American ( Associate Professor) would do!”
通じるけど、どっちも微妙に変。ぴったり当てはまる英語はないんです。
「さすが」は単独でも使いますね。
「日本語のスピーチコンテストで優勝しました!」
「さすが!」
“Hey, I won the Japanese speech contest!”
“I’m not surprised at all ! That is just like you.”
“That’s what I expected !”
“It’s just like you.”
“Yeah, of course you did!”
“You’re awesome!”
最後の2つくらいがいい気がするけど、それでも、「さすが」のニュアンスを完全に表せてはいないと思います。
事実に納得するときの「さすが」
「さすが」にはこんな使い方もあります。
「さすがに暑い!」
これは、いったいどう訳したらいい?
“It’s hotter than I expected !”
こんな感じかな。
「さすがに暑いから、マフラーはいらない」なら、次のように言います。
“It’s hotter than I thought it would be , so I don’t need a scarf.”
こんな使い方もあります。
「さすがに遊びすぎて、そろそろ勉強しなければなりません」
“ Nonetheless , I have goofed off for so long, it is probably time for me to start studying.”
“ So , yeah, I have been having too much fun, so it is about time for me to get to work .”
“Now since I have been goofing around so much, I should probably start studying.”
ひとつの当てはまる単語がないから、英語にするのはバリバリ難しい!文脈によって、訳が変わってきます。
私自身、「さすが」の意味がわかるまでに、かなり時間がかかりました。なんとなく褒め言葉だとわかったけど、どういう褒め言葉なのか、どんなふうに使ってほかの人を褒めるのか。そんなことが、ずっとわからなかった。数年たってやっとわかったけど、英語にどうやって訳したらいいかは、その後もずっとバリ迷っていました。
価値を認めつつ否定する「さすが」
「さすが」には、「ポジティブなことを期待しているけど、結果はあまりよくない」という意味もあります。
「英語は楽しく勉強しているけど、さすがに発音が難しすぎる」
“I am having a blast studying English, but the pronunciation is crazy hard.”
「冬の北海道はとてもきれいだけど、さすがに寒い」
“Winter in Hokkaido is beautiful, but it is so stinking cold.”
次のような使い方もあります。
「さすがに大統領でも、国の問題は一人で解決はできない」
“ Even though he is the president, he can’t solve his country’s problems on his own.”
「さすがに日本語の先生でも、この漢字は読めない」
“ Even Japanese teachers can’t read this kanji character.”
まとめ
私は英語の obnoxious という単語がめちゃ好きなんだけど、当てはまる日本語がなかなかありません。日本語の「うるさい」と「失礼」と「腹立つ」を混ぜると、このすてきな英語の形容詞の意味に近くなります。
アメリカのスポーツ試合では、こういうファンをよく見ます。何回も立ち上がって、審判に相手チームの選手やバリうるさいことを言い続ける。「あなた、バカやろう!?彼は明らかにセーフだった!眼鏡を買ってやろうか?」みたいに。
こういう人のことを、英語では The fan is so obnoxious. と言います。日本は平和主義で、応援団は冷静に応援することが多いから、 そもそも こういうファンはあまりいませんね。
obnoxious みたいに、ぴったり当てはまる日本語がない英語はたくさんあります。一方、今回の「さすが」みたいに、どうしても英語に訳せない日本語も山ほどあります。やけん、これから、毎回、その単語をひとつずつ解説していきます。
ただ、ぴったり訳せない単語はいっぱいあるけん、できるだけ、一番近い、一番自然な英語を教えるね。さすがに難しいけど、頑張るバイ!
さすがアンちゃんだ!!
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アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語で綴るブログ「 アンちゃんから見るニッポン 」が人気。 Facebookページ も 更新 中!
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