「エグい」「エグい球」と訳された英語とは?【ウルトラ英会話表現】

カン・アンドリュー・ハシモトさんの連載「ウルトラ英会話表現」。今回は大谷翔平選手の通訳、水原一平さんが、WBCで「エグい」と訳した英語を取り上げます。スポーツの世界で禁句といわれる「たられば」についてもお話しいただきます。

ちょっと不満が残ったWBC

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での日本の活躍は素晴らしかったですね。連日、どのチャンネルでもその話題ばかりなので、優勝でもしたら大変なことになるだろうなあ、と思っていたら、本当に優勝してしまいました。この原稿を書いている今、日本人選手たちは皆とっくに帰国しているにもかかわらず、テレビではいかに日本代表チームが素晴らしかったかをいまだに伝え続けています。

Congratulations on your victory!
日本の皆さま、おめでとうございます。

I’m not very familiar with baseball, but I’ve got something to tell you.
僕は野球にはあまり詳しくないのですが、ちょっと言いたいことがあります。

なぜなら、アメリカ代表チームには2022年に大谷選手を抑えてMVPを取ったニューヨーク・ヤンキース(※1)のアーロン・ジャッジ選手も、3度もサイ・ヤング賞(その年に一番活躍した投手を選ぶ賞)を取ったロサンゼルス・ドジャース(※2)のレジェンド、クレイトン・カーショウ選手も加わりませんでした。

一方の日本代表チームには、野球ファンでないアメリカ人にもその名前を知られている大谷翔平選手も、シカゴ・カブス(※3)で大活躍し、そしてサイ・ヤング賞を2回も惜しくも2位で逃している、現在サンディエゴ・パドレス(The San Diego Padres。padreとはスペイン語が語源で神父や牧師の意味です)で活躍中のダルビッシュ有選手もいます・・・。

スポーツの試合に「たられば」は意味がないのは分かってはいるのですが、ジャッジ選手が出ていたら、カーショウ選手が投げていたら、とどうしても思ってしまいます。

※1 英語ではthe New York Yankeesとtheが必要です。Yankeeは米国北東部に住む白人のアメリカ人を意味する俗語です。アメリカ以外の国(特に北ベトナムとか北朝鮮)やアメリカ南部では蔑称としてこの言葉を使いますが、アメリカ北部ではその意識は薄いです。少なくともウィスコンシン州(中西部ですけど)では蔑称という認識はありませんでした。「不良少年」を意味する日本語の「ヤンキー」の意味合いは英語にはありません。

※2 英語ではthe Los Angeles Dodgers。theが必要です。dodgerとは「よける人」という意味です。ドッジボールのdodgeはボールから素早く「よける」「身をかわす」という意味。この場合、何をよけるかというと、トローリー(trolley)と呼ばれる路面電車です。the Los Angeles Dodgersは元々、ニューヨーク州のブルックリンに本拠地を置くチームでthe Brooklyn Trolley Dodgersと呼ばれていました。1895年ごろのブルックリンでは、路面電車が市内の重要な交通手段の一つで、人々はこの路面電車をよけながら街中を往来していたのです。その街の人々の愛称がtrolley dodgersでした。チーム名はここから来ています。参考:Origin of Name "Dodgers" for Los Angeles Dodgers(Los Angeles Almanac)

※3 英語表記はthe Chicago Cubs。cubとはクマやキツネ、ライオンなどの肉食獣の子供のことで、ここでは「子グマ」です。マスコットキャラクターはクラーク(Clark)という名前まで付いているクマです。若手の選手ばかりだったこのチームに、「子グマ」の他に「若輩者」という意味もあるcubをチーム名に使ったのですね。参考:CUBS HISTORY AND TIMELINE(Wrigleyville Sports)

「たられば」を英語で表現すると?

さて、「〜していたら」「〜していれば」を短くした「たられば」と全く同じ表現が英語にもあります。shoulda、woulda、coulda という言い方で、日常生活でもよく使われます。

shouldaはshould have(〜すればよかった)、wouldaはwould have(〜したのに)、couldaはcould have(〜できたのに)、が短くなった言い方です(短くなったと言うより、そう聞こえると言うべきでしょうか)。いずれも「実際に起こったこととは別のことが起こっていたら」と、過去の事柄を仮定する仮定法過去完了と呼ばれる表現方法です。

Talking about “shoulda, woulda, coulda” is meaningless.
「たられば」の話をしても意味がない。

No more, “shoulda, woulda, coulda.” It’s just a waste of time.
「たられば」はもうやめて。時間の無駄よ。

ビバリー・ナイト(Beverley Knight)というイギリス出身のR&Bシンガーが“Shoulda Woulda Coulda”というタイトルの切ない歌を歌っています。

How I wish, I wish I’d done a little bit more.
(二人のために)もっともっと何かできたはずなのに

Now “Shoulda, woulda, coulda,” means I’m out of time.
「たられば」の話をしても手遅れね

’Cause “Shoulda, woulda, coulda,” can’t change your mind.
だって「たられば」ではあなたの気持ちは変えられないもの

「エグい球」という訳が付いた英語とは?

WBCに話を戻します。最近、頂いたこんなメールを紹介したかったのです。

「ところで、WBCは見ていらっしゃいましたか?よくネットニュースで、大谷翔平がマイク・トラウトに『エグい球を投げた』と出てきますが、英語でなんて言っているのでしょう・・・」

「エグい」という日本語を僕自身は使ったことがありませんが、最近よく聞く言葉ですよね。「エグい球」って英語ではどう言えばよいのでしょうか。

優勝を決めた直後、大谷選手に元ボストン・レッドソックスのスター選手デビッド・オルティーズがこう尋ねています。2分6秒あたりからのセリフです。

オルティーズ氏はこう言っています。

Ohtani, congratulations, buddy.
大谷、おめでとう。

You’ve been playing with Mike Trout for the past couple of years now.
君はマイク・トラウトとここ数年プレーしてるよね。

You guys are brothers now.
君たちはつまり兄弟みたいなものだ。

Why you gotta get so nasty on him. Ha-ha!
なんで彼にそんなにnastyになれるんだ?ハハハ!

これを受けて通訳者の水原一平氏はこう訳しています。

「トラウト選手とは何年もやっていて、もう兄弟みたいな関係で、めちゃくちゃ仲良いと思うんですけど、なんであんなエグい球を投げたんですか?」

nastyは「嫌な」「意地悪な」という意味で本来は否定的な言葉です。オルティーズ氏もこの発言ではジョークで使っていますから、ここでの意味も「意地悪な」です。ただ、その裏で「すごい」という褒め言葉のニュアンスも感じます。次のようにはっきりと褒め言葉として使う場合もあります。

Steven Taylor is so nasty at playing the piano.
スティーブン・タイラーのピアノ、エグいよ。(=ピアノを弾くのが超うまいよ)

ちょうど日本語の「やばい」にそっくりです。「やばい」も本来は否定的な意味を持つ言葉だったはずです。しかし若者の間で、いつしか褒め言葉でも使われるようになりました。上の英語も「スティーブン・タイラーのピアノ、やばいよ」とも訳せます。

実は大谷選手自身もnastyを使っています。

デトロイト・タイガースのコディ・クレメンス選手が、大谷選手を三振に打ち取った翌日、大谷選手にサインボールをお願いしました。そのボールに大谷選手が書いたのがこのセリフです。

What a nasty pitch!
なんてエグい球なんだ!

大谷選手はクレメンス投手に時速68.4マイル(時速110キロ)の超スローボールで三振に打ち取られたのです。この球のことを言っているわけです。「なんだよ、あんなスローボール投げやがって」というような気持ちがあったに違いありません。

ついでに日本語の「エグい」についても調べてみました。分かりやすかったのはこれです。

「えぐい」とは、「最高」「素晴らしい」といった賞賛の意味合いや、「ひどい」「あり得ない」といった否定の意味合いの両方で用いられる若者言葉で、本来は刺激の強い嫌な味覚のことを表現する言葉。

「エグい」はnasty、「エグい球」はnasty pitchとするのが時かもしれませんね。

まとめ

今回は長い長い僕の負け惜しみに付き合っていただき、ありがとうございました。

「負け惜しみ」は英語ではsour grapes(すっぱいブドウ)と言います。語源はイソップ童話です。おいしそうなブドウを見つけたキツネが、何度も飛び上がってそれを取ろうとしたけれど取ることができず、「あれはきっとすっぱいブドウだよ」と言った、そのセリフからこの言い回しが使われるようになりました。日常生活でもよく使います。

I know I’m crying sour grapes.
負け惜しみだって分かってるよ。

Right, it’s just sour grapes.
そう、ただの負け惜しみさ。

次回もお楽しみに。

カン・アンドリュー・ハシモト
カン・アンドリュー・ハシモト

アメリカ合衆国ウィスコンシン州出身。教育・教養に関する音声・映像コンテンツ制作を手掛ける株式会社ジェイルハウス・ミュージック代表取締役。英語・日本語のバイリンガル。公益財団法人日本英語検定協会、文部科学省、法務省などの教育用映像(日本語版・英語版)の制作を多数担当する。また、作詞・作曲家として、NHK「みんなのうた」「おかあさんといっしょ」やCMに楽曲を提供している。9作目となる著作『外国人に「What?」と言わせない発音メソッド』(池田書店)が発売中。

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