「英検(実用英語技能検定)」は、入試、就職にも有利になるとして注目されている、英語の検定試験の一つです。最近では、英検S-CBTというコンピューター試験も認知度が高くなり、平日でも受験できるようになりました。本連載では、TOEFLや英検などの指導に関わり『完全攻略!英検準1級』(アルク刊)を著書に持つ、神部孝(かんべ・たかし)さんに、英検準1級について詳しく教えていただきます。
目次
英検準1級を持っていると得なこと
英語が出来ると得です。海外旅行もより楽しくなりますし、入試や就職にも有利ですよね。そして、英検準1級を持っているとさらに得なことがあります。それでは、準1級で得する代表的なことを見ましょう。
国家公務員採用総合職試験で加算点がもらえる
英検準1級では25点加算になります。残念ながら、英検2級以下では加算点はもらえません。
入試に英検準1級を活用する大学などが多い
英検のサイトで活用できる大学と英検級を調べましょう。また、入学を希望する大学の入試条件を調べるとよいでしょう。
例えば早稲田大学も英検準1級を持っていると有利なようです(商学部と国際教養学部に英検準1級の活用条件が書かれています)。
英検準1級のレベルは?
英検準1級のレベルは「大学中級程度」です。しかし、大学2年修了者が全てが準1級を取れる訳ではありませんね。大学生が努力して勉強すればとれるというレベルだと思います。それでは、他の級との比較を見ましょう。
2級
レベルの目安
高校卒業程度
出題目安
- 医療やテクノロジーなど社会性のある英文読解も出題されます。
- 海外留学、国内での入試優遇・単位認定など、コミュニケーション力が高く評価されます。
- ビジネスシーンでも採用試験の履歴書などで英語力をアピールできます。
準1級
レベルの目安
大学中級程度
出題目安
- エッセイ形式の実践的な英作文の問題が出題されます。
- 「実際に使える英語力」の証明として高く評価されています。
1級
レベルの目安
大学上級程度
出題目安
- 二次試験では2分間のスピーチと、その内容への質問がなされます。
- カギは英語の知識のみでなく、相手に伝える発信力と対応力。
- 世界で活躍できる人材の英語力を証明します。
準1級で求められる英語力
準1級では「社会生活で求められる英語を十分理解し、また使用することができる」レベルの力が求められます。では、具体的にはどんなことができればよいのでしょうか。
4技能の目標レベルは?
出典:準1級Can-doリストより一部抜粋(公益財団法人 日本英語検定協会)
● 読む
社会性の⾼い分野の⽂章を理解することができる。
- 英⽂の種類や読む目的に応じて、適切に読みこなすことができる。(新聞をさっと読む、評論⽂を注意深く読む、⼩説を楽しみながら読むなど)
- 英字新聞で社会的な出来事に関する記事を理解することができる。(The Japan Times/The Daily Yomiuri[現在はThe Japan News]/The New York Timesなど)
● 聞く
社会性の⾼い内容を理解することができる。
- 興味・関⼼のある話題に関するまとまりのある話を理解することができる。(講演、講義など)
- テレビやラジオのニュース番組を聞いて、その要点を理解することができる。
- ⾃分の仕事や専門分野の内容であれば、電話で注⽂や問い合わせを聞いて、理解することができる。
● 話す
社会性の⾼い話題について、説明したり、⾃分の意⾒を述べたりすることができる。
- 調べたことについて、まとまりのある話をすることができる。(課題の発表、仕事のプレゼンテーションなど)
- 自分の仕事や専門分野に関する講義や発表などを聞いて、それについて質問したり自分の考えを述べたりすることができる。
- 商品やサービスについて、苦情を言うことができる。(商品の故障、サービスの内容など)
● 書く
日常生活の話題や社会性のある話題についてまとまりのある文章を書くことができる。
- 興味・関心のあることについて、説明する文章を書くことができる。(簡単なレシピ、器具の使い方など)
- 日本の文化について紹介する簡単な文章を書くことができる。(食べ物、祝日、お祭りなど)
これを完全にできれば英検1級をあげたくなるほどですが、その少し手前と考えればよいでしょう。
他の英語検定試験との比較
「大学入試英語成績提供システム」の導入は令和元年に見送られましたが、当時作成された各種英語試験の対比表が分かりやすいので見ましょう。
英検準1級はCEFR(セファール)B2レベル
英検の幅の見方ですが、英検準1級の合格点はCSE換算(※)で2304点からです。満点だと3000点になるのですが、2630点以上だと英検1級に相当するためその部分は省かれています。
左端にCEFRと書かれています。CEFR (セファール)とは、Common European Framework of Reference for Languages という国際標準規格の頭文字です。欧米で採用され、6つの言語習得レベルがA1からC2まで設定されています。英検準1級合格はB2に相当します。
B2レベルは、欧米の大学に入学するときの試験のIELTSでは5.5から6.5、TOEFL iBTは72から94に相当します。すなわちB2レベルは、有名大学の合格基準を満たす高度な語学力を示しています。
※ 「英検CSEスコア」は、ユニバーサルなスコア尺度CSE(Common Scale for English)を英検の各級で表記したもの。参考:英検CSEスコアとは(公益財団法人 日本英語検定協会)
テストの構成
一次試験
形式 | 大問/部 | 問題数 | 解答時間 |
---|---|---|---|
筆記(※) | 大問1~4/部 | 42問 | 90分 |
リスニング | Part 1~3 | 29問 | 約30分 |
※ 筆記にはリーディングとライティングが含まれます。その合計時間で90分となります。
二次試験
形式 | 構成 | 所要時間(※) |
---|---|---|
面接 | イラストの展開に関する説明+4つの質問への解答 | 約8分 |
※ 実際には、採点に含まれない簡単な自己紹介や「どのようにして試験会場まで来たか?」などの応答があるので、少しプラスされる時間があります。
合格点
合格点は一次試験と二次試験に分かれます。次の表を見ましょう。
試験名 | 技能 | 満点 | 合格点 |
---|---|---|---|
一次試験 | リーディング | 750 | 3技能合計で1792 |
ライティング | 750 | ||
リスニング | 750 | ||
二次試験 | スピーキング | 750 | 二次試験単独で512 |
一次試験の3技能合計の満点は2250点になります。そのうち、1792点を取れば合格。リーディングとリスニングで満点を取っても1500点にしかなりませんから、かならずライティングでも点数を取らなければなりません。「書くのは面倒だからやらなかった」、では合格できません。
受験の注意点
コンピューター試験の英検S-CBTで受験した場合には、最初にスピーキング、次に筆記、リスニングと続きます。4技能全てが1日で測られます。
そのため、仮に4技能合計で2304点(一次の1792点+二次の512点)を取ったとしても、上記の一次試験の合格基準が達成されていない場合には合格とはなりません。つまり、リーディング、ライティング、リスニングの3技能が1792点を超えていない場合は、スピーキングで満点を取ったとしても合格にならないということです。
同様に、リーディング、ライティング、リスニングで高得点を取ってもスピーキングが512点に満たない場合には、不合格となります。ただし、この場合には「一次試験免除」の特典を受けることができます。詳しくは英検のサイトで確認しましょう。
準1級の問題難易度
英検準1級は2級に比べてパワーアップした難易度です。全ての4技能で難易度が上がっていますが、特徴的なのはリスニングのPart 3でしょう。
問題用紙に書かれたSituationと選択肢を10秒で読み、リスニングをし、解答します。それでは、練習問題を解いてみましょう。
Part 3例題
音声再生ボタンをタップまたはクリックしてスタートしましょう。音声の最初にはSituationと選択肢を読む10秒間が含まれています。
Situation: You have arrived at an art museum and borrowed a device with headphones, which plays the audio for a guided tour. You only have 45 minutes, and are interested in impressionist paintings. You press “play” and hear the following.
Question: What should you do?
1 Press 1.
2 Press 2.
3 Press 3.
4 Press 4.
皆さんは分かりましたか?それでは、解答を見ましょう。
例題の解答・概説
詳細な解説は『完全攻略!英検準1級』(アルク刊)に書かれています(p. 142、143で解説しています)。ここでは簡単に説明しますが、①45分以内に終わらせる、②印象派(impressionist)の絵画を見る、という条件に合致するのは3の「3を押す」になります。3を押すとアールヌーボーと印象派展を30分で見るコースとなっていますから、正解は3です。
例題の訳
状況設定:あなたは美術館を訪れ、館内案内の音声を聞けるヘッドフォン付き装置を借りました。あなたには 45分間しかなく、印象派の絵画に興味があります。「再生」ボタンを押して、次の音声を聞きます。
スクリプト
You have 10 seconds to read the situation and question.
Welcome to the Ferngrove Museum of Art. The museum offers a wide range of automated tour options, depending on your interests. A complete tour of all museum exhibits takes about two hours. Begin this tour by following the green arrows on the lobby floor and pressing button number “1” on your device. Press “2” and follow the orange arrows for a one-hour tour of our modern art exhibit. For a 30-minute tour of our art nouveau and impressionist exhibit, press “3” and follow the blue arrows. Press “4” and follow the yellow arrows for a 45-minute tour of our sculpture exhibit.
Now mark your answer on your answer sheet.
問題の訳
10秒間で状況設定と設問を読んでください。
ファーングローブ美術館へようこそおいでくださいました。当美術館では、さまざまな自動案内音声をご用意していますので、ご興味に応じてお選びいただけます。館内の全展示物を全てご案内するには、およそ 2時間かかります。このツアーにご参加いただく場合には、ロビー階の緑色の矢印に沿って進み、装置の「1」番のボタンを押してください。「2」を押した場合は、オレンジ色の矢印に沿って進み、1時間で当館の現代美術展をご覧いただきます。30分間で当館のアールヌーボーと印象派展をご覧になりたい場合は、「3」を押して青い矢印に沿って進んでください。「4」を押したら、黄色の矢印に沿って進み45分間で当館の彫刻展をご覧ください。
では、解答用紙に答えをマークしてください。
設問:あなたはどうすればいいですか。
1 1を押す。
2 2を押す。
3 3を押す。
4 4を押す。
2級から難易度がぐんと高くなる準1級
英検を教えていて感じるのは、準1級のレベルは2級までのレベルとは大きく異なるということです。英検3級レベルから6カ月で準2級まで行く、また準2級から2級に行くのは、もちろん努力は必要ですが、それほど難しくないと思います。しかし、英検2級から英検準1級に半年で行くのは、かなり難しいと感じます。
皆さんの普段からの英語との関わり方(例えば、英語を多く話す環境にいる、または、英語の書籍や書類をよく読む、など)により大きく変わりますが、半年で2級レベルから準1級レベルに合格するためにはかなりの努力が必要です。できれば、1年程度の時間をかけてゆっくりと力を伸ばし、英語の学習環境を整えていただきたいです。
筆者の英語環境
例として、私の英語の学習環境を紹介します。
私が読むのは、紙であれば「The Japan News」、オンラインでなら「The New York Times」「Reuters」などのニュースです。そして、最近読み始めたのは『Atomic Habits: An Easy & Proven Way to Build Good Habits & Break Bad Ones』(James Clear著)というペーパーバックの啓蒙書(?)です。
テレビは「NHK World」の英語番組の他、アメリカやイギリスのミステリー番組や映画などを見ます。この原稿を書いている最中は、「AFN」(American Forces Network、在日米軍向け放送でニュース、音楽などを放送)を聞いています。
とはいえ、「どうする家康」(NHK)は欠かさず見ますし、「名探偵コナン」(青山剛昌 作)も好きです。時代小説の『本所おけら長屋』(畠山健二 著)なども読んでいますから、100%英語漬けというわけではありません。
最後に、英検を受験したくなるような補足情報を説明しましょう。
英検の受験年齢層
英検の受験年齢は圧倒的に中学・高校生が多いようです。しかし、受験に年齢制限はありません。私は英検を何回も受験していますが、1級の二次試験なのに小学生くらいの受験者がいたり、一次試験では年齢が私と同じ程度の受験者の部屋(年寄り部屋?)があったりもします。
この記事を読んでいる皆さんの中に社会人の方もいるでしょう。キャリアアップ、キャリアチェンジのために受験することはとても良いことだと思います。社会人はTOEIC、学生は英検、などと決め付ける必要はないと思います。求められる技能は異なりますし、4技能を測る試験としては、他の試験と比べて安価だと思っています。ちなみに、2023年度の英検準1級の検定料は、税込みで9800円です。参考:受験案内[公益財団法人 日本英語検定協会]
英検S-CBTについて
英検S-CBTは従来の試験と同じ問題形式ですが、スピーキングを吹き込み式で行います。1日で従来の一次試験と二次試験を同時に行います。2023年3月現在、従来型と同様に年3回実施され、各回複数の実施分があってそれぞれ2回まで受験できます。そのため、S-CBTでは年に6回の受験が可能です。従来型を加えると年に9回の受験ができます。参考:日程[公益財団法人 日本英語検定協会]
なお、S-CBTは従来型と異なり、スピーキングから試験が始まりますので、面接対策をしてから受験しましょう。また、従来型と同様、スピーキングで合格点に達しない場合で、筆記とリスニングが合格した場合には「一次免除」扱いとなります。
神部孝さんの著書
トップ写真:Nils Leonhardt from Unsplash
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