連載「使いこなせる!英会話頻出ワード」。言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、「英語のネイティブスピーカーがよく使うけれど、日本語では理解しづらい言葉」を徹底解説します!今回取り上げるのは「アメリカ」。どんなときにどんな名称が使われ、また、省略されたりするのか。アメリカに帰省していたアンちゃんが、じっくり教えてくれます。
アメリカ人はどういうときに、母国をAmericaと呼ぶ?
日本に来てから、私が頻繁に使うようになった語があります。それは「アメリカ」です。
I’m from America.
私はアメリカから来ました。
I am going back to America this summer.
夏にアメリカに帰ります。
In America, people don’t take baths together.
アメリカには、他の人と一緒に風呂に入る習慣がない。
考えてみれば、日本に来る前は「アメリカ」という単語は、あまり使わなかったことに気づきました。
The U.S.
The States
The United States
これらの語をよく使っていた気がします。
しかし日本では、私の母国について話していると、多くの人が「アメリカ」と言うので、私も日本語を話しているときに「アメリカ」と言うようになりました。
私が話す英語にも影響がありました。「夏にアメリカに戻ります」であれば、昔はI’m going back to the U.S. this summer.と言っていたのに、今はI’m going back to America this summerとなっています。
なぜでしょうか?
アメリカの正式名称は「アメリカ合衆国」です。英語ではThe United States of Americaになります。単語が5つあるので、省略の仕方がいろいろあります。
The United States
The U.S.
The States
The U.S.A.
ロサンゼルスの空港で、「Welcome to the United States」と書いてある大きな看板がありました。Welcome to AmericaやWelcome to the U.S.ではありませんでした。公的な場所では看板も公的だと思いました。
一方、日本語では「アメリカ合衆国」は正式な名前ですが、誰も「今年の夏、アメリカ合衆国に帰りますか?」とは言いませんよね?アメリカでも、時と場合によって「アメリカ」の呼び方はいろいろ変わります。今日は、アメリカ人が使う「アメリカ」について話そうと思います。
さて、始めよう!
the United States of Americaと呼ぶとき
子どもの頃の私は毎朝、学校でクラスメートたちと一緒にThe Pledge of Allegianceを言っていました。これは、「私たちがアメリカに忠誠であること」の誓いです。小さいときに覚えたので、今でも言うことができます。
I pledge allegiance to the flag of the United States of America, and to the republic for which it stands, one nation under God, indivisible, with liberty and justice for all.
私はアメリカ合衆国の国旗、並びにその国旗が表すところの共和国、全ての民のために自由と正義を備え、神の下に唯一分割すべからざる一国家であるこの共和国に忠誠を誓います。
参考:www.fruitfulenglish.com
パスポートにもThe United States of Americaと書いてありますから、この呼び方は主に正式な場合に使われています。
省略するとUnited StatesやThe United Statesになります。
United States Postal Service (アメリカ郵政公社)
United States Army(アメリカ陸軍)
United States Department of the Treasury(アメリカ財務省)
United States Department of Defense (アメリカ国防総省)
さらに省略するとU.S.になります。
U.S. Army(アメリカ陸軍)
U.S. Postal Service(アメリカ郵政公社)
正式な形としてThe United States of AmericaやThe United Statesはよく使われますが、日本語の「アメリカ合衆国」と同じように、日常会話にそれほど頻繁に出てくるわけではありません。
では、日常会話の中で、アメリカ人は自分の国をなんと呼ぶかというと、America、the U.S.、the Statesという形が普通に使われます。
愛国心、夢と希望でいっぱいのAmerica
Americaという言葉からは「愛国心」があふれています。ドナルド・トランプ前大統領のスローガンは、Make America Great Again (MAGA) でした。「アメリカ合衆国を再び偉大な国にする」という意味です。これをMake the United States Great Again (MUSGA) としていたら、アメリカ人の愛国の心には全く響かなかったかもしれません。
Americaという語には「夢」も「希望」も入っています。誰もがアメリカに来て努力したら、The American Dreamをかなえられる可能性があります。
歌にもよくAmericaが登場します。
God Bless America
America the Beautiful
America (My Country ’Tis of Thee)
多くの人に夢を与えるのは、the United Statesではなく、間違いなくAmericaです。
アメリカに帰国していたときのある日、私は故郷のいなか町で買い物をしに行きました。その日、私が来ていたTシャツには、I Love Japanと書いてありました。
近くにいた男性がそれを見て、私にI love Americaと言いました。その人はなぜ、そう言ったのでしょうか。それは、「アメリカ」という言葉は愛国心にあふれているからだと思います。
その男性は私のシャツを見て、「日本が大好きなら、この人はアメリカが好きではないに違いない」と思ったかもしれません。その人にとってはI love Japan. = I don’t love America.だったかもしれません。
もちろん、そんなことはありません。私はアメリカで生まれて良かったと思っていますし、アメリカという国が大好きです。日本が好きだからといって、アメリカが好きではないと言っているわけではありません。
アメリカ人の愛国心は、アメリカの至る所で見ることができます。例えば独立記念日が近づくと、どこを見てもアメリカの国旗が飾られています。アメリカ国旗のグッズは山ほどありますし、国旗の色である赤・白・青の洋服を着る人も多いです。
素晴らしい愛国心を表す単語Americaですが、時に排他的になることもあります。
英語があまり話せない移民者にThis is America. Speak English!(ここはアメリカだ。英語を話せ!)と言ったり、不法滞在者を望まない人はWe need to protect America’s borders!(われわれはアメリカの国境を守らなければいけない!)などと言ったりします。良いときであれ悪いときであれ、そんなアメリカ人の愛国心を表す言葉がAmericaです。
先ほどの2つの表現は、This is the United States. Speak English!やWe need to protect the United States border!と言っても同じ意味になりますが、実際に聞くことはないように思います。
個人的な話ですが、私は長年日本に住んでいて、どんどん日本の考え方や価値観を持つようになっているので、実はそろそろ日本国籍を取得しようかと考えています。ただ、日本は二重国籍を認めていないため、そうするにはアメリカの国籍を放棄しなければなりません。個人的にそれでもよいですが、周りの人はどう思うでしょうか。もしかしたら、愛国心の強いアメリカ人は、買い物に行ったときに出会った男性と同じように、「日本が好き=アメリカが好きではない」と考えるかもしれません。正直なところ、そう考えると少し不安になります。
形容詞「アメリカの」は英語で言うと?
実はAmericaは、北アメリカも南アメリカも指す言葉ですが、多くの人、特にアメリカ人は、The United States of Americaを省略した意味で使っています。
また、アメリカ国民を指す言葉はAmericanしかありません。United Statesian、USAer、USicanのような単語はもちろん存在しません。
Americanは「アメリカ人」という意味以外にも、形容詞としてアメリカ合衆国のさまざまななこと表します。
I’m American.
私はアメリカ人です。
I like American food.
アメリカ料理が好きです。
My favorite American custom is talking to strangers.
私が好きなアメリカの習慣は、知らない人と普通に話すことです。
I don’t understand American humor.
アメリカのユーモアは理解できない。
That’s as American as baseball and apple pie!
あれは、野球とアップルパイと同じくらいアメリカ感がある!
U.S.も時々、形容詞として使われています。これは主に公的な場面で使われているように思います。
I have a U.S. (American) passport.
私は、アメリカのパスポートを持っています。
I have U.S. (American) citizenship.
私はアメリカ国籍を持っています。
ところで、America以外にもう一つ、愛国心が感じられる語があります。それはU.S.A.です。
皆さんも、次のような場面をテレビで見たことがありますよね?オリンピックでアメリカの選手が金メダルを獲得した後、表彰台でU.S.A.! U.S.A.! U.S.A.!と大声で叫び続けます。するとアメリカのファンも同じように叫びます。
これは日本人が「ニッポン!ニッポン!」と応援するのと同じです(そういえば、このときは「にほん」ではなくて、必ず「にっぽん」ですね)。ただ、謙虚な日本人選手は表彰台で「ニッポン!ニッポン!」とは叫ばないと思いますが・・・。
アメリカ人が普段の会話で「アメリカ」と言うときは?
では、アメリカ人は日常会話の中で、自分の国をどのように表現するでしょうか。海外に住んでいる人の場合は、The U.S.やThe Statesがよく使われます。
I have lived in Japan for 10 years, but I’m returning to the States this summer.
私は10年間日本に住んでいますが、この夏に帰国します。
There is so much division in the States right now. It makes me sad.
今のアメリカは分断が非常に多い。悲しいことです。
In the U.S., teenagers can get their driver’s license from 16.
アメリカでは、16歳から運転免許が取得できます。
Hey, are you going back to the U.S. this summer?
ねえ、今年の夏はアメリカに帰るの?
I haven’t been back to the U.S. since COVID began.
コロナ禍になってから、アメリカには戻っていない。
もちろん、これらの例文でAmericaを使うアメリカ人もいますが、一般的にはThe U.S., The Statesの方が多く使われていると思います。
おまけ:go backとcome backの使い分け
前の例文で「帰る」や「戻る」を取り上げたので、これらの英語での使い分けにも触れておきましょう。
私は長く日本に住んでいて、将来的にもアメリカに住む予定は全くありません。従って、私は個人的に「アメリカに帰る」ではなくて、「アメリカに行く」という表現を使います。そして、アメリカに滞在している間は、「日本に帰国する」とか「日本に帰る」と言います。日本は私のホームなので、そういう風に言うようにしているのです。
英語で「戻る」や「帰る」は、go backやcome back、be backなどです。使い分けを会話形式で見てみましょう。
A: Hey, are you going back to the States this summer?
B: Yeah, I’m going back in July.
A: When are you coming back to Japan?
B: I’ll be back in early September.
A:ね、今年の夏にアメリカに帰るの?
B:うん、7月に帰る。
A:いつ日本に戻るの?
B:9月の頭に帰っているよ。
日本に住んでいるアメリカ人が、アメリカへの帰国について話しているとき、アメリカに帰ることをgo back、日本に戻ることをcome backと言います。
I’m going back to the U.S. in July, but I need to come back by the end of August for my son’s wedding.
7月にアメリカに戻るけれど、息子の結婚式のために8月末までに帰ってこないといけない。
同じアメリカ人がアメリカに戻っている間に、日本に帰ることを話しているときは、アメリカに来ることをcome back、日本に帰ることをgo backと表現します。
I came back to the U.S. last Friday and will go back to Japan at the end of August.
先週の金曜日アメリカに戻ってきたけれど、8月末に日本に帰ります。
少し難しいかもしれませんね。話している人が今、物理的にどこにいるかによって、goとcomeを使い分けます。
まとめ
私は今、アメリカの弟の家でこの文章を書いています。久しぶりに来たアメリカはとても楽しいですが、アメリカに行く(「帰る」ではありません!)たびに、ここは私の居場所ではないと気付かされます。この思考の変化が、私の言葉遣いにどんな影響を与えるかを考えると、非常に興味深いです。大きなところでは、先にお話ししたcomeやgoの使い方が変わりました。
I’m back in the States for the first time since COVID began. I’ll go back to Japan at the end of September.
今回のトピックだったAmerica、the U.S.、the United States、the States。そして、追加で書いた「行く」「帰る」「帰国する」など。言葉には、深いニュアンスがさまざまあるに違いありません。
多くの人が一般的に使う表現はあるかもしれませんが、それでも人それぞれの好みがあります。英語も日本語も、知れば知るほど深いです。これからもアンちゃんと一緒にこの深い意味を勉強していきましょう!
(追伸)前回の記事で、アメリカのマスク着用について書きました。アメリカに来てから2週間が過ぎましたが、マスク着用については地域による違いが大きくて驚きました。都会では、特に学校や大学では、マスク着用率はまあまあ高いです。ワシントン周辺のある大学では、まだ建物内ではマスクの着用義務があります。田舎に行けば行くほど、マスクの着用率は下がります。「アメリカでは・・・」と一概に説明しづらい、と思いました。地域によって姿勢や反応が異なるからです。とはいえ、どう見ても日本の方がマスク着用率はずっと高いです。
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