「気持ちを切り替える」と英語で言いたいときに出てくる動物って何?

スポーツで英語!

プロ通訳者の関根マイクさんが、さまざまなスポーツにまつわるストーリーと英語表現をご紹介する連載です。大のスポーツ好きの関根さんの熱い語りで、スポーツの知識も英語も学べ、まさに一挙両得!第5回は昨年に日本でも一躍大人気スポーツとなったラグビーです。「紳士のスポーツ」から学べる英語表現とはどんなものなのでしょうか?

スポーツに明け暮れた学生時代

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい始めてはや数カ月。もうコロナ前の比較的平和な世界が遠い昔のようでなかなか思い出せませんが、ほんの半年前にはラグビーワールドカップ2019が日本で開催されていました。

前回のテニスの回では、私は若い頃はテニス漬けの毎日を送っていたと書きましたが、実は8年生(Grade 8、日本では中学2年生に相当)から大学2年目まではラグビーもやっていました。

北米では複数のスポーツに取り組むことが推奨されているので、私は多いときで春夏にテニスとラグビー、秋冬にバスケットボールとクロスカントリー(野原や森林などで行われる長距離走)を掛け持ちしていました。クロスカントリーには全然興味がなかったのですが、部に所属していた先輩に惚れて、なんとか彼女の気を引きたくて入部しました。不純な動機ですね!

人間の本質が問われる「敗戦時の姿」

私のラグビーのコーチは常に「ラグビー選手は紳士であれ」と教えていました。どんなに技術が高くても、対戦相手を抜き去るほどの俊足の選手でも、練習や試合での態度が悪ければ次の試合は絶対に使いません。

敗戦後は「全力を尽くしても試合に負けることはある。人生も同じだ。負けたときに人間の本質が問われるんだ。腐るな。前を向け。立ち上がって再挑戦しろ」と熱く語っていた記憶があります。指導を受けていたときから数十年が経過した今でもこの言葉を覚えているからか、私は敗者が試合後の記者会見で何をどう語るかに注目してしまいます。

紳士のスポーツ、ラグビー

ラグビーワールドカップ2019では、優勝候補筆頭のニュージーランド代表オールブラックスが準決勝でイングランドに敗退しました。スピードとパワーを兼ね添えたオールブラックスの攻撃を、イングランドが鉄壁の守備で完封したと言っても過言ではないでしょう。

この試合後、ニュージーランド代表のスティーブ・ハンセン監督とキーラン・リード主将が記者会見場に姿を現します。監督の冒頭の発言に注目してください。次の動画の0:35からです。

…sometime you might find that sports is not fair, but tonight it was, we got beaten by the better side…

・・・スポーツでは、時にはフェアではないこともあるかもしれない。しかし今夜はフェアな試合だった。そしてより強いチームが勝利した・・・

ハンセン監督は記者からの質問を受ける前に自分のコメントを述べています。敗戦についてまったく言い訳せず、イングランドの素晴らしいプレーを称えるとともに、ホスト国である日本への感謝の言葉を忘れませんでした。これぞ、ザ・紳士ですね。

敗戦の責任問題から逃げない

敗戦の将といえば、試合終了直後から「なぜあのような采配をしたのか」と理由を問われるのが常です。この記者会見でも、準々決勝からの選手交替が敗因ではないかと聞かれ(質問は6:30から)、ハンセン監督はこう答えています。

…I’m not going to turn around and say it backfired, so I’ll taketake it on the chin, that one.

・・・あれが裏目にでたとは言いません。あの采配についてはすべて私の責任です。

take it on the chin(アゴに一発食らう)とは乱暴な、と思う読者もいるかもしれません。元々は格闘技、特にボクシング由来の表現です。格闘家は身体を鍛えて打たれ強くなることはできますが、アゴは鍛えられないので、ここに一発もらうとダメージがとても大きい。そこから転じて、「とても痛いけれど、それに耐えなければならない、事実を受け止めなければならない」という意味です。監督はこの痛い敗戦と、それに関係する采配について、「選手の責任ではない。起用した監督である私の責任だ」と言っているのです。

スポーツで重要な「気持ちの切り替え」に関係する動物とは?

次に紹介するのは敗戦から一夜明けた記者会見です。キーラン・リード選手、ボーデン・バレット選手、サム・ホワイトロック選手が参加しています。

ホワイトロック選手は準決勝敗退という期待はずれな結果が残念だとしながらも、1:04あたりから気持ちの切り替えの重要性について語っています。

…it’s our job to make sure that you’re back on your horses

・・・(三位決定戦に向けて)しっかりと切り替えて臨むのが仕事だ・・・

「なんで急に馬が出てきたの?」と思うかもしれません。back on your horsesは元々は乗馬由来の表現で、落馬してケガをした場合、また馬に乗るのが怖くなる人もいるけれど、「恐怖に打ち勝つには失敗を恐れずに再挑戦することが大事」という意味です。

ラグビーに限らず、本気で優勝を狙うチームは早期敗退が確定すると目に見えてやる気がなくなり、三位決定戦などの順位決定戦でふがいないパフォーマンスをすることがあります。ホワイトロック選手はそのような不安を打ち消し、チームを鼓舞するためにもこのような発言をしているのです。

胸に秘めた闘志を見せるニュージーランド主将

試合直後のリード主将の言葉にも注目です。0:42あたりから始まります。

…these guys here have a great career and plenty more chances hopefully to come back to a tournament like this to set it straight

・・・(チームメイトについて)彼らは素晴らしいキャリアを築いているし、今後このような大会にまた参加して優勝する機会が何度もあることを願っているよ・・・

大会を通して強いリーダーシップでチームをまとめたリード主将。このset it straightの部分は私の訳例でもうまく訳しきれていません。これは直訳するなら「本来あるべき状態に戻す、過ちを正す」という意味です。常勝オールブラックスは常に優勝を求められているチームであり、選手もファンも「最強はニュージーランド」が本来あるべき姿だと心から信じています。リード主将もそう思っているからこそ、このような表現になるのでしょう。「今回は負けたが、近いうちに若い選手が必ず歴史を正しにくる」、または「若い選手が必ず俺たちのトロフィーを取り戻しにくる」くらいに思っているのかもしれません。

いつも謙虚で対戦相手への敬意を忘れないリード主将ですが、負けてもなお闘志に溢れている姿が垣間見える一瞬です。この気持ちを日本語で表現しようとすると、どうしても負け惜しみ的なニュアンスになってしまいがちなので難しい。英語だと全然そういった感じはなく、むしろ堂々としていてかっこいい印象なのですがね!

ラグビーニュージーランド代表の姿から学ぶ3つの英語表現

最後に、今回取り上げた表現をまとめておきましょう。

take it on the chin

本来は「苦しいけれど耐える」という意味です。

例えば“I didn’t get hired, but my CV was poor, so I have to take this one on the chin.”は「採用されなかったけれど、そもそも履歴書が全然ダメだから、残念だけど結果を受け入れるしかない」になります。CVはもともとはcurriculum vitaeというラテン語の省略語ですが、CVで一般的に使われます。

back on your horses

「(転んだ状態から)立ち直る」という意味です。スポーツの文脈では、「敗戦の後に気持ちを切り替えて次の試合に向けて頑張る」という意味で使われることが多いです。日常会話では「仕切り直し」という意味でも使用可能です。

set it straight

「本来の形・状態に戻す、間違いを正す」、もっとくだけた表現では「ちゃんとする」という意味にもなります。親が子どもに向かって”I’m going to set you straight”と言ったら、その後にはお仕置きが待っている可能性大。というか99.8%くらいの可能性できっとそう!子どもからしたら、要注意な表現です!

「スポーツと英語!」過去の連載はこちら

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関根さんが本業の通訳について語る連載はこちら

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関根マイク

文・関根マイク(せきねまいく)
フリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」http://blogger.mikesekine.com/