「snitch」は許されない!メジャーリーグの「沈黙のおきて」とは?

スポーツで英語!

プロ通訳者の関根マイクさんが、さまざまなスポーツにまつわるストーリーと英語表現をご紹介する連載です。大のスポーツ好きの関根さんの熱い語りで、スポーツの知識も英語も学べ、まさに一挙両得!第3回では野球を取り上げ、その本場・アメリカで起きた大問題にまつわる英語表現をご紹介します。

アメリカ球界を震撼させた「サイン盗み」

3月26日に開幕するはずだったメジャーリーグ(MLB)ですが、新型コロナウイルスの影響で当面は延期。自宅待機で寂しい日々を過ごしている野球ファンも多いかと思います。

私も開幕を心待ちにしていた一人であり、特に今シーズンはヒューストン・アストロズの序盤に注目していました。別にアストロズのファンだからではありません。

アストロズといえば昨年末、元所属選手に組織ぐるみの不正行為(サイン盗み)を暴露され、2017年にワールドシリーズで優勝した際も不正をしていた事実が発覚しました。それを受けての今シーズンということで、やはり気になるものでしょう。

このサイン盗みは球界を超え、スポーツ界全体を巻き込んだ一大事件になりました。確かに2017年シーズンを通して、サインを盗んでいたホームゲームでは不自然なほど攻撃力が増していたアストロズ。ダルビッシュ有選手や前田健太選手が当時所属していたロサンゼルス・ドジャースをはじめ、対戦相手を徹底的に打ち込んでいた印象しかありません。

野球において、サイン盗みはルール違反ではありません。たとえば捕手が投手に送るサインを走者が目視で解読し、打者に伝えるのは問題ではありませんし、むしろ頭を使った賢いプレーと考えられています。

しかしアストロズの場合は自チーム球場に高性能カメラを設置し、テクノロジーを活用することで対戦相手がまったく対策を取れないレベルでサインを盗んでおり、これにより圧倒的に有利な立場にあったことが問題視されました。

投手が投げる球種が事前にわかれば、打てて当然。フェアプレーの精神に反する行為として、アストロズ球団と選手はスキャンダル発覚後、何カ月も非難・批判され続けることになりました。

「おとがめなし」にも批判はやまず

アストロズが不正を認めて公式に謝罪した後、他球団の選手が続々とコメントを発表。アトランタ・ブレーブスのニック・マーケイキス選手からは感情的にだいぶ踏み込んだ発言も見られました。

I feel like every single guy over there needs a beating.

あいつらを一人残らず殴り倒してやりたいと思ってるよ。

次の動画の0:28あたりからのところです。

さらにこの動画で注目してほしいのは、1:17あたりの発言です。

…and you got the players who did it who are scot-free.

実行犯の選手は無罪放免だ。

scotはもともと「税金」という意味で、scot-freeの直訳は「税金の支払いを免れる」なのですが、現代の英語では「罪を免れる、無罪放免の」という意味で使用されることが多いです。チームの監督とゼネラルマネージャーは今回の責任を取って解雇されたけれど、選手は「おとがめなし」という処置に対する怒りの発言です。

メジャーリーグの「沈黙のおきて」

過去にボストン・レッドソックスで活躍したデビッド・オルティーズ元選手は、事件発覚のきっかけとなった告発者・マイク・ファイヤーズ選手に対しても不満をぶつけています。ファイヤーズ選手はサイン盗みを行っていた当時、アストロズに所属しており、不正についても当然、その時点で把握していたはずです。

オルティーズ元選手はこれについて「優勝して、大金を稼いでいたときは一言も発しなかったのに、今になって言うのか?それって都合よすぎないか?なんで当時告発しなかったんだ?」と辛らつに批判しています。次の動画で、0:10あたりからの発言です。

オルティーズ元選手の英語は文法的に正しくはありませんが、発言したとおりに掲載します。

…why you didn’t say, I don’t wanna be part of. Or now. So you like a snitch.

なぜ「これには関われない」と当時言わなかったんだ。なぜ今喋るんだ。俺には裏切り者のように見えるけどな。

snitchは「密告者」や「垂れ込み屋」という意味。企業などの不正を告発する内部通報者はwhistleblowerですが、これには「正義を成す」というニュアンスがあるのに対して、snitchは「ずるい」や「悪賢い」というネガティブなニュアンスがあります。

オルティーズ元選手は、ファイヤーズ選手がアストロズを退団した後に事件を暴露したことについて、自分も得をしておきながら今さらずるいと思っているのかもしれません。ただ、実はこの言葉を使ったのには、別の意味もありそうです。

というのも、現代の英語ではsnitchはいわゆる「沈黙のおきて(code of silence)」を破った人間の呼称。マフィア映画でも裏切り者に対してよく使われています。

実はメジャーリーグ選手の大多数は、自チーム関係者のロッカールーム内での行動や発言、または内情を暴露すべきではないと考えていて、この沈黙のおきてを破った人物は完全に信用を失います。

ファイヤーズ選手は結果的には正しいことをしたのかもしれませんが、もうどこのチームに所属しても「裏切り者」「信用に値しない人物」として扱われる可能性が高いのです。

続く場外乱闘、今シーズンはどうなる?

問題が雪だるま式に大きくなる中、当時から今までアストロズに所属している選手の一部は、もはや開き直りとも見えるような態度になっています。

0:25あたりから、番組ホストがアストロズの投手陣の一人、ランス・マクラーズ選手の発言を読み上げています。

(The teams talking trash) are going to have to play us. Except for the guys who are popping off the most.

(厳しく批判しているチームは)いずれ俺たちと戦うんだぜ。一番声高にわめいてる奴ら以外はな。

trashとは相手をからかったり、威圧したり、厳しく批判するような発言のことです。

要は「お前ら好き勝手にいろいろ言ってるけど、いずれ俺たちと試合するんだぜ。ボコボコにするからな!」というニュアンスです。

pop offも同じような意味で、「うるさくしゃべりまくる」とか「デカい口をたたいて挑発する」ということ。

マクラーズ選手は、特に目立ってアストロズを批判しているロサンゼルス・ドジャースの選手に対して、「お前らデカい口たたいてるけど、それって今シーズンは俺たちと一度も試合が組まれてないからだろ?ああん?」と暗に挑発し返しているのです。まさに場外乱闘!アツいですね!

さて、肝心のファンはこの事件に対してどう反応しているのか。アストロズをどう思っているのか。それは、この動画を見れば明らかです。

新型コロナウイルス問題が収束して、無事に開幕したとしたら、シーズンを通してブーイング祭りになるのでしょうか・・・

野球とサイン盗み問題にまつわるまつわる3つの英語表現

最後に、今回取り上げた表現をまとめておきましょう。

scot-free

「罪を免れる、無罪放免の」という意味です。he’s scot-freeはhe got off without punishmentと同義です。ちなみに、Scott Free Productionsという有名な映画製作会社がありますが、つづりが違うのでご注意を! 

snitch

ディズニーの可愛い青いエイリアンの名前ではありません。マフィア映画でファミリーを裏切って敵に寝返った者、または情報提供した者をこう呼びます。ネガティブな意味でしか使われず、広い意味では「裏切り者」、狭い意味では「密告者」です。

pop off

「うるさくしゃべり倒す、ビッグマウスで挑発する」、または(あまり考えないで)「テキトーなことをずけずけと言う」といった意味が主です。自分がこうなっていないか、常に注意したいものですね!

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関根マイク

文・関根マイク(せきねまいく)
フリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」http://blogger.mikesekine.com/