コービー・ブライアントが得意だった get an edge とは?

プロ通訳者の関根マイクさんが、さまざまなスポーツにまつわるストーリーと英語表現をご紹介する連載です。大のスポーツ好きの関根さんの熱い語りで、スポーツの知識も英語も学べ、まさに一挙両得!第1回で取り上げるのは、バスケットボールのレジェンド的存在の選手です。

スポーツにのめり込んで「英語力」が伸びた!?

読者の皆さん、はじめまして。日英会議通訳者の関根マイクです。会議通訳者として活動を始めてからは20年を超えました。

今でこそプロとして業界内で居場所をつくることができている私ですが、元々は今の時間も英語で言えませんでしたし、先生の言うことが聞き取れずに宿題を忘れて授業中にこっぴどく怒られたこともありました。

インターナショナルスクールの入学面接ではI love to listen to music.と言うはずが(それすらも父親にコーチングされたというのに・・・)、うっかりI love to listen to ... sound.と言ってしまい、「何かが・・・聞こえる・・・・・・」などと口走る怪しいタイプの人間かのような 展開 にしてしまったことも。まるでB級ホラーです。要は、 英語ダメダメ人間だった ということです。

そんな私の英語力が自覚できるほど劇的に伸びたのが、カナダに留学して プロスポーツにのめり込むようになってから です。相変わらず授業中は上の空で成績は悪かったのですが、毎日のように書店でスポーツ雑誌や関連書籍を読み漁り、学生寮ではずっとESPN *1 を見ている生活だったので、読解力と表現力が一気にアップしました。

「語学は自分が興味を持つ何かと関連付けて覚えるのが一番」 とよく言われますが、私の場合は、スポーツこそが正にそれでした。

本連載では私が大好きなスポーツを通して、スポーツそのものが持つドラマや裏にある物語を伝えることで、毎回紹介する英語表現を皆さんの記憶に定着しやすくできたらと考えています。

バスケ界のGOAT:コービー・ブライアント

さて、第1回で取り上げるスポーツはバスケットボールです。バスケを少しでもかじったことがある人であれば、 コービー・ブライアント という選手の名を聞いたことがあるのではないでしょうか。

2016年の引退後も短編アニメ作品『Dear Basketball』でアカデミー賞を受賞したり、ベンチャー投資家として活動するなど、マルチタレントぶりが広く知られていました。英語は当然として、スペイン語とイタリア語も流暢に操るという彼。それはもう「反則」じゃないでしょうか。
選手としてのキャリアを終える頃には一部のファンからGOAT (The G reatest O f A ll T ime。「史上最高の選手」という意味で、山羊の意のgoatと同じ発音)としてその名を挙げられるほどになったコービー。そのコービーが今年1月26日、娘と同乗したヘリコプターの事故で急逝しました。享年41歳。あまりにも早過ぎるスーパースターの悲劇に、世界中のファンが言葉を失いました。

新しい現実を歩む

動画の5:33あたりから、コービーの妻バネッサさんが悲しみの中でファンに向けたメッセージが番組ホストにより紹介されています。
She asks us to grant them respect and privacy they need to navigate this new reality.
読者の皆さんの中にも、ある日に突然、大切な人を失い、事実を受け入れられずに現実が歪むような感覚を覚えたことのある方もいるかもしれません。今日のこの瞬間まで想像したことがなかった現実。それが目の前に現れたとき、何をどうしたらよいのかまったくわかりません。あの日、多くのファンが、そしてコービーの妻と娘たちが、愛する人の死に深い悲しみと無力さを感じたことでしょう。

それでも人は前に進まなければなりません。バネッサさんは、残された娘のために。私を含むファンは、彼の記憶と共に。この新しい現実(new reality)の中で、一歩ずつしっかりと進んで( navigate )いかなければならないのです。決して妥協を許さず、常に最高を求め続けたコービーであれば、そうしたでしょうから。

「ヘビのような精神」の持ち主

コービーの親友であり、キャリア初期のライバルでもあったトレイシー・マグレディは、コービーの燃えるような競争心について次の動画で語っています。1:45あたりからです。

He likes to play mind games. He’s always trying to get an edge on his [opponent ].

※[ ]内は筆者追加筆

mind gamesは「心理戦」get an edge は「優位に立つ」や「有利になる」という意味ですが、ここでは「相手を出し抜く」とするのが自然 です。ここでトレイシーが紹介していたのは、コービーがトレイシーに勝ちたいあまり、口では「オフシーズンに筋トレなんてしないでしょ」と言っておきながら、実は自分はしっかりとウェイトルームで練習していたというエピソードです。

ちなみに 、コービーの常に上を目指す姿勢・心構えはいつしかMamba mentality と呼ばれるようになりました。mambaとは熱帯アフリカの樹上にすむ、猛毒を持つヘビのことです。Mamba mentality は、狙った標的は絶対に逃さない毒ヘビのように、目標を達成するまで絶対に諦めない強い意志のことを指します。

マイケル・ジョーダンも認める精神力

さて、バスケ界のGOATを語る上で無視できないのがマイケル・ジョーダンです。彼もコービーの追悼式に参加し、コービーのMamba Mentality について語っています。

Kobe left nothing in the tank. He left it all on the floor.
ここでのtankは 体力や精神力をガソリンタンクに例えた表現 で、「コービーはタンクに1滴のガソリンも残さないくらい、いつも激しく戦った」と称えているのです。He left it all on the floor. は、自分が持つ力をすべてfloor(バスケのコート)で出しきった、という意味です。2つとも実質的には同じ意味で、コービーは一度コートに立ったら決して緩むことはなく、勝つために完全燃焼した、ということなのです。

絵文字が示すファンからの変わらぬ愛

ツイッターでは今でも山羊の絵文字を使ってコービーをGOATと称え、お別れを告げるツイートが見られます。人生、いつ何が起きるかわからない。わからないからこそ今を大切に、一所懸命に生きたいものですね。

バスケとコービー・ブライアントにまつわる3つの英語表現

navigate this new reality

新しい現実を歩む

これはポジティブな意味でも使えます。例えば結婚したり子供が生まれたりして、生活がガラっと変化したことなども表現できます。
get an edge

相手を)出し抜く

 ( leave ) nothing in the tank

全力を尽くす、完全燃焼する

関根さんが通訳者の本業を語る連載はこちら

通訳者 vs 通訳者【通訳の現場から】 - ENGLISH JOURNAL ONLINE

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同時通訳者のここだけの話

文・関根マイク(せきねまいく)
フリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」( https://blogger.mikesekine.com/

*1 :アメリカのスポーツ専門チャンネル

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