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「多文化都市」と呼ばれるイギリスの首都ロンドン。この街で10年以上暮らすライターの宮田華子さんが、日々の雑感や発見をリアルに語ります。
はじめまして。今回から当エッセーを担当させていただく宮田華子です。語学留学のために渡英し、そのまま就職。以来ロンドンで暮らしています。渡英前に想像していたロンドンと、実際に「生活者」として見るロンドンはかなり異なり、長く暮らしている今でも驚くことが多々あります。そんな日々の発見を書いていきたいと思います。
紅茶”ばかり”飲んでいるわけでもないイギリス人
「イギリスといえば紅茶ですよね?」― 日本からロンドンに来た旅行者によく言われることだ。この言葉を聞くたびにちょっと迷い、しかし黙ってもいられず「でもね……」と続けてしまっては皆をガッカリさせている。
実は2000年前後にイギリスには空前のコーヒーブームが到来した。特にロンドンにはサードウェーブ系コーヒー *1 を提供するカフェがひしめき、家庭にもエスプレッソマシンが定着。つまりイギリス人はコーヒーも大好きなのだ。だから「イギリス人は紅茶“ばかり”飲んでいる」わけではないのだが、UK Tea & Infusions Association によるとイギリスでの1日あたりの紅茶消費量が約100万杯に対し、コーヒーは約70万杯。まだまだ紅茶は「王座」に君臨し続けている。
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スーパーの紅茶売り場。紅茶ブランドのものからスーパーのプライベートブランドまでずらりと並ぶ。
「手軽に」「たっぷり」が真のイギリス流
イギリス式“日常” の「紅茶道」のお点前は、あっけないほど簡単だ。まず電気ケトルのスイッチをオン。沸かしている間に大きめのマグカップに「ティーバッグ(注:リーフティーではない)」を放り込む。お湯が沸いたらマグカップにザーッと熱湯を注ぎ、お好みでミルクと砂糖を入れたら出来上がり。「雑でOK」の安易な飲み物だ。
この話をするたびに「えっ、ティーバッグなの?」と驚かれる。イギリスで飲まれる紅茶の約96%はティーバッグを使用しており、リーフティーはめったに使わない。これはイギリスでいかに紅茶が日常的に飲まれているかを示す数値でもある。リーフティーを使用する場合、ティーポットまたは茶こしが必要。しかし紅茶は朝から晩まで1 日に何杯も飲むものなので「手軽に」であることが大切なのだ。仕事の前も「まず1 杯」。出社すると何はさておき紅茶を入れるのが朝のオフィスでの風景だ。
そして「たっぷり飲む」ものなので、マグカップの存在も欠かせない。かなりposh(=「ぜいたくな」を意味するイギリス英語)な暮らしの人を除き、日常的にソーサー(皿)付きのカップで紅茶を飲んでいる人はいないだろう。カップ&ソーサーは来客時に使うものであって、普段使いは断然マグカップ。イギリスのお土産品やノベルティにやたらとマグカップが多いのは、それが「必需品」だからにほかならない。
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左:小袋の中に「ひも付き」ティーバッグが入っているタイプ。右:一般的な「ひもなし」ティーバッグ。
ミルクティーの「ミルクは先か?後か?」
「ミルクは先か?後か?」も永遠に終わらぬ論争だ。私は渡英直後に知り合ったマダムに「マグカップにミルクとティーバッグを 先に 入れ、後から熱湯を注ぐこと」と教わった。理由は「熱湯によって冷たいミルクが一度沸くので、香り高くなるから」。しかしこれが定番というわけではく「ミルクが後」派も多い。理由は「ミルクティーにしたい人だけが加えられる」「濃さに合わせてミルクの量を調節できる」からだと言うが、このへんは好みとしか言いようがない。「先か?後か?」での味の違いは私にはわからないが、イギリス人はこの話が大好きで、長年論争を楽しんでいる。
イギリスといえば豪華なアフタヌーンティーのイメージが強いが、これは特別な機会。日々の紅茶はもっと素朴な風景の中にある。スーパーで買える紅茶はとても安く、最高のお供であるビスケットの種類も豊富だ。イギリスの冬は厳しく長いが、どんなに寒くても、空がグレーでも大丈夫。紅茶を飲みお菓子を食べれば、体も心も温まる。紅茶はいつだって、すぐそばにある庶民の味方だ。
イギリスのロンドンってどんなところ?
イギリスの首都ロンドンはイギリス南東部に位置し、さまざまな人種・文化・宗教的背景の人たちが住んでいる「多文化都市」。ビッグベン、大英博物館など観光スポットも満載。
ライター/エッセイスト。2002 年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。 https://matka-cr.com/
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