「多文化都市」と呼ばれるイギリスの首都ロンドン。この街で10年以上暮らすライターの宮田華子さんが、日々の雑感や発見をリアルに語ります。
イギリスに春を知らせる黄色い花
今年の冬はまれに見る暖冬だったので、「春を待ち望む」という感覚にやや欠けるのだが、例年長く 厳しい 冬を耐え忍ぶイギリス人にとって、春は格別の季節。黄色いラッパ水仙が咲き乱れ、頬に触れる風がぬるんでくる季節の訪れを本当に楽しみにしている。
春といったら「イースター(復活祭)」
そして春と共に毎年巡ってくるのが「イースター(復活祭)」だ。イースターとは、イエス・キリストが十字架に架けられ3日目に復活したことを祝う、キリスト教の祭日。「春分の日以降、最初の満月の日の次の日曜日 *1 」と定められており、毎年日付が異なる移動祝祭日である。
今年は4月12日がその日に当たり、イギリスではキリストが磔刑(たっけい)となったとされる聖金曜日(Good Friday)から土曜日、復活祭当日の日曜日( Easter Sunday)、そして月曜日( Easter Monday)まで4連休になる。
と、ここで疑問が頭をよぎる方もいるはずだ。まず「磔刑が金曜日で復活が日曜日では、『3日目に復活した』ことにならないのでは?」ということ。
この答えは簡単。金曜日を1日目と数えているからである。また、「聖金曜日はキリストが処刑された残酷な日なのに、なぜ“Good” Friday なのか?」も疑問だろう。
これは諸説あるのだが、もともとは「God’s Friday(神の金曜日)」と呼ばれていたものが変化したという説が有力だ。この呼び名がキリスト教徒にも抵抗なく浸透しているのは、キリストが磔刑になることで全人類の罪が贖われ、福音(よい知らせ)の始まりの日であるからだ。
イギリスの祝日は年間なんと8日!
うんちくが長くなったが、このような背景のもとに祝われてきたイースター。しかし現代のイギリスでは、多くの人々にとって宗教的な意味よりも「めったにない4連休」の印象が強い。実はイギリスは大変祝日が 少ない 国。祝日は銀行が休みであることから「Bank Holiday」と呼ばれているが、驚くなかれ、年間を通じてたった8日(!)しかないのである。
2020年のイギリスの祝日
しかし連休が待ち遠しいのは世界共通。イギリス人はクリスマス休暇が終わると早々に、「次はイースター!」と意気込み、旅行の予定を立てるのだ。
holidayのために生きるイギリス人
よく「イギリス人はholiday(ホリデー)のために生きている」という言い方をするが、このholiday とは「休暇」の意味と共に「 go on holiday(ホリデーに行く)」、つまり旅行をすることも指す言葉。「長い休暇=旅行に行く」と考えている人も多いほど、イギリス人は本当に旅行が大好きだ。旅行の計画には相当の熱量と時間をかけており、かなり先々までのホリデーの予定を立てる。
そして「もう少し頑張ればホリデー!」をモチベーションに日々を乗り切るのが、イギリス流の年間の過ごし方だ。ホリデー好きのイギリス人にとって、有給休暇を使わずに旅行に行けるイースター4連休は本当に貴重。
みんながそう思うのでイースター時期はフライトもホテルも価格が跳ね上がるのだが、それも仕方なしとばかりに多くの人たちが近隣の欧州各国に出掛けていく。逆にロンドンは欧州国からの旅行者であふれ、観光地は混雑する。
イースターの楽しみ方 in ロンドン
イースターが近くなると「今年はどこに行くの?」という話で友人たちと盛り上がり、浮かれた雰囲気に包まれる。そんな「旅行派」をうらやましく思いつつも、私はロンドンに残りイースターの雰囲気を楽しむのが好きだ。チョコレート店には凝ったデザインのイースターエッグが並び、イースターカラーの黄色で彩られたショーウインドーを眺めるのも楽しい。
そしてこの時期に食べる「ホットクロス・バン」は格別だ。ドライフルーツが入ったシナモン風味のモチっとしたパンで、アイシングで十字の模様が付けられている。通年販売されてはいるものの、イースターを代表する食べ物だ。オーブンで温め、はちみつやバターを塗って食べると本当に美味。おなかいっぱいになった後は教会のイースター礼拝に行き、集まった子どもたちと一緒にエッグハント(色とりどりの卵を隠しておき、子どもたちが探して回る)で腹ごなしをする。これもまた楽しい春の風習だ。
イギリスは多文化共生の国なので、イースターを祝わない人たちも多い。しかし鉛色の冬を越え、やっと迎えた暖かな季節と共にやってくる4連休を誰もが待ち焦がれている。人々の気持ちを明るくする、春の一大メインイベントなのである。
イギリスのロンドンってどんなところ?
イギリスの首都ロンドンはイギリス南東部に位置し、さまざまな人種・文化・宗教的背景の人たちが住んでいる「多文化都市」。ビッグベン、大英博物館など観光スポットも満載。
ライター/エッセイスト。2002 年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。 https://matka-cr.com/