型破りなプロテニス選手のユニークな英語表現3選

スポーツで英語!

プロ通訳者の関根マイクさんが、さまざまなスポーツにまつわるストーリーと英語表現をご紹介する連載です。大のスポーツ好きの関根さんの熱い語りで、スポーツの知識も英語も学べ、まさに一挙両得!第4回のスポーツはテニス!スポーツにおけるdictateの意外な使い方に注目です。

幼い頃の夢は通訳者ではなく・・・

突然ですが、私は12歳頃から18歳まで、ほぼ毎日テニス漬けでした。胴回りに大きめのスペアタイヤを抱えている今の私を知っている人であれば絶対に想像できないと思いますが、一時は本気でプロを目指していて、カナダ留学時代はジュニア選手として、ランキング上位の選手を相手にブイブイ(死語)いわせていたこともあります。

まあ、結局は実力不足でその夢は儚く散ったわけですが・・・当時は次の動画に登場するアンドレ・アガシをかなり意識してまねしていました。髪は長め、ウェアはカラフルなナイキ、ラケットはHead製。バンダナも巻いていたような。アガシのプレースタイル以上に、保守的で伝統を重んじるテニス界において、「そんな古臭いもんはクソくらえ」的な言動を繰り返す姿に憧れていたのだと思います。思春期の男子にありがちですね!

私自身は今はもうラケットも持っていませんし、観戦する機会も激減したのですが、いつの世にも主流に抗う人はいるもの。現在のテニス界でその悪童ぶりを遺憾なく発揮しているのはオーストラリアの若手選手、ニック・キリオスです。

誰もが認める身体能力と才能を持っていながら、気分屋であるがゆえにこれまでメジャー大会ではいい結果を残していません。コート上でも、記者会見でも言いたい放題。ただ、ハマれば強い。こちらの動画でもわかるように、フォアハンド(forehand、利き手のショット)一発で試合を変える力を持っています。

普通に打てばよいものを、その場のノリで股抜きショットを打ってみることも。普通のコーチなら激怒するようなありえないプレーです。少なくとも私は怒られました!

「素直に生きる」発言の宝庫

さて、今回はそのキリオスの発言から学びましょう。次に紹介する動画の冒頭からです。キリオスほどの選手であればメディアトレーニング(メディアに対する話し方・接し方に関する訓練)を受けているはずなのですが、彼は基本的にいつも自由に、そのときに思ったこと、感じたことを自分の言葉で話します。それが正直過ぎてメディアやファンに叩かれることも少なくないのですが・・・。

I’m a great player but I don’t do the other stuff. You know, I’m not the most professional guy, I won’ t train day in and day out, I won’t show up everyday …

俺は強い選手だけど、必要なことをやらないからな。プロフェッショナルとして模範的な選手ではないし、毎日練習するわけでもない。毎日気持ちを込めてプレーできているわけでもない。

day in and day outとeverydayは同じ意味です。

show upは普通であれば「現れる」という意味なのですが、この文脈(I won’t show up)では、たとえ試合に「現れた」としても、心は上の空、集中できていない状態を指しています。皆さんも学生時代に、授業に(物理的に)参加してはいるけれど、ずっとほかのことを考えていたことはありませんか?それはYou showed up (physically), but you didn’t show up.と言えるでしょう。

I don’t do the other stuffを聞いて、このother stuff(ほかのこと)って何?と思う方もいるかもしれませんが、この文脈では「勝ち続けるために優れた選手であれば必ずしていること」、つまり毎日練習することだとか、遊び過ぎずにきちんと休むこと、栄養バランスがとれた食事を心掛けるだとか、そういう一つひとつの要素すべてを指しています。実際、キリオスは昔、テキトーな食生活をしていて、アスリートとしては太り過ぎ、思うようなプレーができていなかった時代がありました。

優勝スピーチでも発揮される個性

さて、子どもがそのまま大人になったようなキリオスは、優勝スピーチも個性的です。

感謝する人のリストをメモったスマホからそのまま読み上げるのが、なんともキリオスらしいというか。ファンやトーナメントディレクターをはじめとする関係者に感謝した後、2:20辺りでもう一度始まる感謝の言葉にも注目です。

… this week was awesome, props to you guys for putting it together ...

今週は最高だったよ。みんな本当にありがとう。

大会の優勝スピーチなのだから、もっと丁寧に“I sincerely thank …”とか“I would like to extend my appreciation to …” といった表現で仕上げる方法があるのですが、そんな紳士的なアプローチをキリオスに期待するのは難しいですね。でも、これはこれで彼の性格がよく表れていると思います。

props to感謝する対象者で感謝の意を表すことができるのですが、これはどちらかといえばくだけた表現で、信頼関係ができていなかったり、フォーマルだったりという場ではあまり使われることはありません。ただキリオスはこの大会を通して、スムージー店のスタッフと友達になったり、試合前に大会スタッフとピンポンで遊んだりと、純粋に関係者との交流を楽しんでいたようでした。だから心的距離もかなり縮まったのでしょう。

テニスにおけるdictateとは?

さて、次はこちらの動画の6:00あたりから。

次の対戦相手の印象を聞かれたキリオスはこう答えています。

Very aggressive player, you know, he’s difficult to play against, he’s got a big serve, big forehand, looks to dictate.

とても攻撃的な選手だと思うよ。難しい相手だね。強いサーブ、強いフォアハンドがあるし、ペースを握るのがうまい。

他動詞のdictateは辞書を引くと①「~を書き取らせる、口述する」、②「~を命令する、指示する」、③「~に影響する、~を決定する、決定づける」などとありますが、どれも彼の発言を訳すにはうまくフィットしません。あえて選ぶのであれば③がいちばん近いのですが、ここでいうdictateは「試合の流れを掴む」こと。looks to dictateとあるので、原文にもっと忠実に訳すのであれば「(対戦相手は)ペースを握ろうと仕掛けてくるだろう」になるのでしょうが、ここでは相手の長所を並べているので、「ペースを握るのがうまい」と踏み込んだ意訳をしてもいいと思います。

テニスにまつわる3つの英語表現

最後に、今回取り上げた表現をまとめておきましょう。

show up

普通だったら「現れる」や「表れる」の意味です。けれどスポーツの文脈では「気迫あるプレーをする」となります。

ちなみに使い方を間違うと「(相手に)恥をかかせる」という意味になってしまう場合もあるので要注意。たとえばシンプルに “He showed me up in front of my girlfriend” は「あの野郎、彼女の前で俺に恥をかかせやがった」となります。

props to感謝の対象

props to youであればthank youと同じ意味ですが、くだけたカジュアルな表現です。日本人が使っているのを聞いたことがないので、使っていみたら外国人に驚かれるかもしれません。

dictate

dictateという語からはdictatorship(独裁主義)などを連想しがちですが、スポーツの文脈では試合の流れやペースを支配することを指します。”I dictated the pace of the match.”(試合のペースを支配した)は “I controlled the pace of the match.”と同じ意味です。

 

「スポーツと英語!」過去の連載はこちら

ej.alc.co.jp

ej.alc.co.jp

 

ej.alc.co.jp

 関根さんが本業の通訳について語る連載はこちら

ej.alc.co.jp

関根さんの本

同時通訳者のここだけの話

同時通訳者のここだけの話

 
通訳というおしごと

通訳というおしごと

 

関根マイク

文・関根マイク(せきねまいく)
フリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」http://blogger.mikesekine.com/