「これはもう分かっている」「自分はもう十分できる」。英語力が伸びてくると、そんな自信を持てる場面も増えてきます。ただ、その自信が「もう学ばなくても大丈夫」という過信に変わると、成長が止まってしまうかもしれません。「英語学習 七つの大罪」最終回は「傲慢の罪」。ある程度できるようになった人だからこそ陥りやすい慢心と、学び続けるための姿勢について、濱崎さんに教えていただきます。
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目次
ある程度できるようになった人ほど「もう分かっている」に陥る

今回の「傲慢の罪」は、英語学習を始めたばかりの人よりも、ある程度できるようになった人の方が陥りやすいと思います。
初心者であれば、分からないことがたくさんあることを自分でも分かっています。でも、700点、800点とTOEICのスコアが上がってきたり、周りの人より問題に答えられるようになったりすると、「自分は結構できるんじゃないか」と思うようになります。実際、できるようになっているんです。それ自体は悪いことではありません。
僕自身、860点くらい取れるようになった頃、TOEICのセミナーに参加すると、周りの人より答えられることがありました。先生に質問されても自分は答えられる。ほかの人が分からない単語も分かる。そうすると、「自分はかなりできるな」と思うわけです。
問題は、その自信が「自分はもう分かっている」に変わってしまうことです。できていると思えば、「もっと勉強しなければ」と考えなくなり、今まで必死にやっていたことも少しずつ雑になっていく。そこで成長が止まってしまうことがあります。
「できる」が増えると、復習が雑になる
例えば問題集を解いて、8割、9割正解できるようになったとします。もちろん、それはかなりできている状態です。でも、裏返せば1割、2割はまだ間違えています。
向上心があるときは、その間違えた問題をしっかり復習します。「なぜ間違えたのか」「次に同じ問題が出たら絶対に間違えないためには何を覚えればいいのか」と突き詰めていく。
ところが、「自分はもうできる」と思い始めると、その復習の精度が落ちてきます。「ここは間違えたけど、まあ大丈夫でしょう」と流してしまい、分からないことを調べたり、細かいところまで追究したりしなくなる。
傲慢の怖さは、勉強を完全にやめてしまうことだけではありません。勉強を続けているのに、その中身が少しずつ粗くなることです。
本人は今までと同じように勉強しているつもりでも、復習の精度が落ちれば、そこから上にはなかなか行けません。
自分より貪欲な人を見て、慢心に気付いた
僕自身が「このままではいけない」と思ったのも、周りの人を見たことがきっかけでした。
先ほどお話ししたセミナーでは、授業中は僕の方が問題に答えられていました。だから、そのときは「自分は結構できている」と思っていたんです。でも、その後の集まりで、自分よりスコアが低い人たちが先生にどんどん質問している姿を見ました。
でも、その後の集まりで、自分よりスコアが低い人たちが先生にどんどん質問している姿を見ました。細かなところまで考えて勉強し、もっと知りたい、もっとできるようになりたいという姿勢が、ものすごく貪欲だったんです。
問題に答えられるかどうかだけを見れば、その時点では僕の方ができていたかもしれません。でも、学ぼうとする姿勢では負けていたんです。そこで、自分ももっとやらなければいけないと思いました。
第4回では、他人と比べ過ぎないという話をしました。ただ、他人を見ることが、自分の慢心に気付くきっかけになることもあります。「この人のこういう姿勢は自分にも必要だ」と思えれば、他人の存在はプラスになります。
中上級者ほど「細かな穴」に気付きにくい
ある程度英語ができるようになると、大きな部分はかなり身に付いてきます。800点台、900点近くまで来ている人なら、英文が全く読めないとか、文法が何も分からないという状態ではありません。骨格はできています。
でも、細かく見ていくと、ところどころに穴が残っています。一つだけ大きな弱点があるというより、広くできている中に、「実はここはよく分かっていない」という部分が点々と残っている感じです。
初心者なら、「ここが分からない」と自分でも分かりやすい。でも、かなりできる人は、問題自体は正解できてしまうことがあります。たまたま正解したのかもしれないし、感覚では選べるけれど、理由を説明できないのかもしれません。
それなのに「正解したから分かっている」と思ってしまうと、その小さな穴に気付けません。
「できた」と「完全に身に付いている」は、必ずしも同じではありません。
「分かっている」は、人に説明できるかで確かめる
第3回では、「分かった」で終わらず、実際にできるようになるまで繰り返すことが大切だという話をしました。
今回の「傲慢の罪」は、そこからさらに進んで、「もう分かっている」と思っていることを、本当に分かっているのか確かめるという話です。一つの目安は、人に説明できるかどうかだと思います。
例えば問題に正解したとしても、
- なぜその答えになるのか
- なぜほかの選択肢では駄目なのか
- 同じポイントを使った別の問題でも答えられるか
を説明できなければ、まだ曖昧な部分が残っている可能性があります。
「知っている」「分かっている」という言葉は、かなり曖昧です。自分では分かっているつもりでも、もっと高いレベルの人から見れば、「そこはまだ分かっていない」と言われるかもしれない。
だから、自分の感覚だけで判断しないことです。説明できるか。もう一度やっても再現できるか。そこまで確認して初めて、「身に付いている」と考える方がいいと思います。
できる人ほど、基礎に戻る
僕は中学英文法の本も出していますが、それでも「自分には抜けているところがあるかもしれない」と思っています。一度学んだからといって、今日も全部覚えているとは限りません。忘れていることは当然あります。
だから、気になったら調べます。文法書も見ます。
自分にはまだ分からないことがあると思えるから、確認するという行動が生まれます。
ある程度できるようになった人ほど、新しい難しいことだけを追いかけたくなるかもしれません。でも、基礎に戻って「あれ、ここは本当に説明できるかな」と確認することも必要です。
基礎に戻ることは、後退ではありません。自分の小さな穴を見つけて埋めるための作業です。
伸び続ける人は「自分は未完成だ」と知っている
長く伸び続けている人は、自分の弱点を客観的に見られる人だと思います。「自分はまだここができていない」と分かっているから、その穴を埋める勉強ができます。
そして、必要であれば自分のやり方を変える柔軟性もあります。
僕自身、以前は一冊の教材を1周したら、すぐ次の教材へ進むような勉強をしていました。でも、それで壁にぶつかってから、教材を絞って何度も繰り返す「狭く深く」の勉強に変えました。
第6回でも、うまくいかないときには、自分が変えられる行動を見るという話をしました。今回大切なのは、その前提として「自分にはまだ変えるところがある」と思えることです。
できるようになっても、自分はまだ完成していない。そう思える人の方が、結果として長く伸びていくと思います。
英語学習は「もういい」と自分で決めるまで続く

英語学習に終わりがあるかと聞かれたら、僕は「ある」と思います。自分で「もう英語はいい」「これからは勉強しない」と決めれば、そこで終わりです。でも、そう思わない限りは、別に終わりを決める必要はありません。
例えばTOEIC800点を目標にして、800点を取ったらそこで終わる人もいるでしょう。それはそれでいいんです。一方で、「ここまで来たなら850点を目指してみよう」「今度は900点を目指してみよう」と、目標を更新していく人もいます。
僕自身もそうでした。
大切なのは、英語を続けたいと思う限り、「もう全部分かった」と自分で学びを終わらせないことだと思います。
今日から「本当に説明できるか」を確かめる
「自分はもう大丈夫」「これはもう分かっている」と感じている人に、今日一つだけやってほしいことがあります。
以前に解いた問題を一つ、もう一度解いてみてください。そして、正解するだけではなく、なぜその答えになるのかを自分の言葉で説明してみてください。
説明できなければ、そこが次に学ぶところです。
もう一つは、基礎に戻ることです。昔使った文法書や参考書を開いて、自分が当然分かっていると思っているところを少し読んでみる。「あれ、ここは曖昧だったな」というところが見つかれば、それも次の学習材料になります。
自分だけでは分からなければ、信用できる先生や学習者に聞いてみてもいいと思います。
「もう分かっている」を証明しようとするのではなく、分かっていないところを一つ見つける。そのくらいの気持ちでやってみてください。
僕自身が一番陥りやすかったのは「強欲の罪」
ここまで7回、「英語学習 七つの大罪」についてお話ししてきました。その中で、自分自身が一番陥りやすかったものは何かと聞かれたら、僕は第1回の「強欲の罪」だと思います。
新しい参考書を買うと、それだけで少しできるようになった気がしていました。まだ読んでもいないのに、本棚にその本があるだけで、その本に書いてある知識まで自分のものになったような気持ちになる。教材を買って安心するタイプだったんです。
今はSNSでほかの学習者の様子もたくさん見えますから、第4回の「嫉妬」のようなことも起こりやすいと思います。一方で、教材や勉強法についての情報も昔とは比べものにならないくらい増えました。
だからこそ、情報収集のし過ぎにも気を付けてほしいですね。「英語学習について情報収集している」と思っていても、本当に必要な情報を集めているのか、それともただ見ているだけなのか。
情報を集めることより、実際に一つ勉強する方が、自分の英語力は前に進みます。
小さな約束を守れる人は、長く伸びる
これまで多くの英語学習者を見てきましたが、「この人はきっと伸びるだろうな」と感じるのは、自分が決めたことを続けられる人です。
ものすごい量でなくてもいいんです。毎日、自分との小さな約束を守り続ける。それができる人は、長く学び続けられると思います。
僕が英語学習を始めた頃の自分に何か一つ言うとしたら、「そのままやっていけば大丈夫」と言います。
途中には、遠回りもありました。もっと早く知っていればショートカットできたこともあると思います。でも、別にショートカットしなくてもいいんです。
やめずに続けていれば、少しずつ先へ進みます。
自信を持ってもいい。でも、過信しない
英語ができるようになったら、自信を持っていいと思います。努力してできるようになったのであれば、それは自分が積み重ねてきた結果です。
でも、自信と「もう全部分かっている」は別です。できるようになったからこそ、まだ知らないことにも気付ける。できるようになったからこそ、細かいところまで見られるようになる。
自信を持ってもいい。でも、過信しない。
それが「傲慢の罪」に陥らず、学び続けるために大切なことだと思います。
そして、この連載を読んで「自分にも当てはまる」と感じた人は、おそらく一つの「罪」だけではないと思います。二つ、三つ、もしかしたらもっと思い当たるものがあったかもしれません。
自分がどういうところで学習につまずきやすいのかを知ることができたのなら、それだけでも意味があります。ときどき、自分に当てはまった回を読み返してみてください。
そのときの自分を客観的に見るきっかけとして、この「七つの大罪」を使ってもらえたらと思います。
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取材・構成:山本高裕(ENGLISH JOURNAL編集部)
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