この連載では『改訂版 キクタンBRITISH』(アルク)の著者・小川直樹先生が、本書の内容よりさらに詳しくイギリス英語の発音の秘密を深掘りします。第1、2回では「名詞+名詞⇒前方強勢」、第3回では、「形容詞+名詞、分詞+名詞⇒後方強勢」というパターンを見てきました。ところが、英語には「名詞+名詞なのに後方強勢」という、ひと筋縄ではいかない句もあります。第4回では、その代表例である地名や人名などを取り上げ、その仕組みを見ていきます。
※この記事では、強勢(アクセント)の位置を分かりやすく示すために一部の英単語の文字の大きさを変えて表示しています。文字の大きさが正しく表示されない場合、English Journalのオリジナルサイトをご覧ください。
(第1回~第3回の記事はこちら)
名詞+名詞なのに前方強勢にならない例
第1回から述べてきたように、名詞+名詞=複合名詞⇒前方強勢というのが、名詞句の強勢型の基本の1つです。でも、このルールにそぐわない事例、つまり名詞+名詞なのに後方強勢となってしまう事例があるのです。これ、けっこう身近にたくさんあります。今回はそういったものを見ていきましょう。
地名
名詞+名詞なのに前方強勢にならない。その代表が2語以上からなる地名です。地名は後方強勢の代表です。地名は旅行に行けば、まずは口にするもの。なのにその読み方は、日本では案外知られていません。単語は読めても、地名の読み方はいい加減になりがちです。
キクBR(『改訂版 キクタンBRITISH』)の「ロンドン観光地」(p.102-103)にはたくさんの地名が出ていますよね。よく見てもらえばわかります。Harrods以外はすべて2単語以上からなっています。それらは全部、後方強勢です!

とりあえず2語からなる地名がわかりやすいので、取り上げてみましょう。
- Westminster ABBEY (342) 「ウェストミンスター寺院」
- Trafalgar SQUARE (343) 「トラファルガー広場」
- Piccadilly CIRCUS (344) 「ピカデリー・サーカス」
- London EYE (345) 「ロンドン・アイ(観覧車の名)」
- Buckingham PALACE (346) 「バッキンガム宮殿」
- Hyde PARK (347) 「ハイドパーク」
もちろん、3語以上からなる地名でも後方強勢です。つまり最後の単語に第1強勢が付くのです。The Houses of PARLIAMENT (341)のような、冠詞や前置詞を含むような形であっても、この規則が当てはまります。
地名での後方強勢を説明する、面白い例を挙げましょう。ロンドン中心部には、Tottenham [tɒ́t(ə)nəm] Court Roadというthe Tubeの駅があります。

この駅名を利用した、地名での後方強勢の練習です。下の4例のそれぞれで最後が強くなるよう、声を出して読んでみてください。
TOTTENHAM
Tottenham COURT
Tottenham Court ROAD
Tottenham Court Road STATION
※再生ボタンを押すと音声が流れます。ボタンが見えない方はオリジナルサイトでご覧ください。
このように、地名はいくら長くなっても、第1強勢が付くのは最後の単語だというわけです。(なお、第2強勢が付くのは、一番前側の単語です。ただ長ければ長いほど、出だしがとりわけ際立つことがあります。そこをしっかり響かせないと、わかりにくくなるからです。その一方で、最後まで行かなくても、その長さで意味がわかってしまったり、息切れによって、最後の単語が弱まってしまうこともあります)
ちなみに、この中に出てくる「オ(ー)」には注意が必要です。Tottenhamは[ɒ]、Courtは[ɔː]、Roadは[əʊ]です。いわばオ段三段活用。全部違うオ系母音です。
人名
人名はどうでしょう?実は、フルネームなどの2語以上からなる人名も後方強勢です。例えば大谷翔平選手の英語式の名前なら、皆さんにも馴染みがあるんじゃないでしょうか。これ、Shohei OHTANIと発音されます。苗字がとても強く、長く発音されるんです。
日本語での名前の言い方は、人名に限らず、たいてい終わりに行くにしたがって声が低く小さく、しぼんでいきます。英語とは真逆。それだけに、英語で名前を言うときはかなり頑張らないといけません。
キクBRにも人名が出てきます。それは……
- Ruby MURRAY (623) 「ルビー・マレー(歌手の名)」
もちろんMURRAYに第1強勢が付きます。発音は[mʌ́ri]です。これ、curryと韻を踏むので、-rayは[ri]となるということです。ちなみに日本語的な読み方では、「マレー」となりますが、これはこれで「カレー」と韻を踏んでいますね(笑)。
もちろん、他の人名も後方強勢です。William SHAKEspeare, Michael JACKSONとなります。
会社名なども、人名同様、後方強勢です。Saputo Dairy UK (430解説), United BISCUITS (436解説)となります。なお、Dairyの発音に注意してください。「デイリー」と読みたくなりますが、[dέːri]です。
*注:UKはもともと大文字表記ですが、もちろんここ(特にK)の部分に第1強勢があります。なお略語の強勢型については第5回以降で扱います。
他にもある、名詞+名詞のようだが後方強勢となる句
地名や人名以外でも、名詞が並んでいるようなのに、後方強勢になる句はけっこうあります。
- Sunday ROAST (456) 「サンデーロースト(日曜に食べる肉料理)」
例えばこれです。どうして後方強勢なんでしょう? 実は、Sundayのような曜日の表現は、名詞の前に置かれると形容詞として扱われるんです。この現象は曜日だけじゃありません。
- spring ONION (592) 「春タマネギ」
季節の表現も、名詞の前に使われると、形容詞として扱われるんです。a spring DAY (201例文)はその代表です。(ちなみに言い方を変えると、Sundayやspringなどを形容詞だとみなせるのは、それらに第1強勢が付いてないからだ、ということでもあります。)
キクBRには出ていませんが、summer HOLIDAYS / VACATIONは、季節名が形容詞として働く典型例です。とはいえ、「夏時間」はSUMMER timeとなります。こちらのsummerは、純粋に名詞として扱われているわけです。
このように前側の単語を名詞扱いして前方強勢とするのか、形容詞扱いして後方強勢にするのか、私たち日本人にはその区別はなかなか予測はできません。ここが難しいところです。
前側の名詞が形容詞として働く、別の例をもう少し挙げましょう。これ、キクBRの「イギリス名物料理」(p.114-115)での例です。
- Lancashire HOTPOT (389) 「ランカシャー・ホットポット」
- Yorkshire PUDDING (390) 「ヨークシャー・プディング」
- Eton MESS (395) 「イートン・メス」
そうです。地名が名詞の前に置かれると、形容詞の働きをするのです。キクBRの他のところにもあります。しかもLondonを冠した名前です。
- London PRIDE (440) 「ロンドンプライド(ビール)」
英国で有名なビールの銘柄です。英国のパブで味わったことのある人も多いでしょう。
さらに別の例を挙げましょう。
- tin CAN (116) 「缶」
- leather JACKET (625解説) 「革ジャン」
tinとは「スズ、ブリキ」という意味、leatherは「皮革」という意味ですから、いずれも単なる名詞+名詞の句に見えます。しかしtinやleatherのような材質や原料を表す単語は、名詞の前に置かれると形容詞として働くのです。ここでは「スズでできた」「皮革でできた」という意味になるというわけです。かくてこの句は後方強勢となるのです。
しかし、キクBRには、材質・原料+名詞の表現が他にありません。そこで、BEらしい例を1つ追加しておきましょう。cucumber SANDWICH(きゅうりサンド)がそれです。具は薄切りのキュウリだけというシンプルなサンドイッチです(ただしマヨネーズの代わりにクリームチーズを使います)。日本だったら、ハムが入ってないぞ、とか言われそうなサンドイッチです。でもこれは英国でのご馳走なのです。Fortnum & Masonなど高級店のafternoon TEAでも、このサンドイッチが必ずと言っていいほど出てきます。
- cream CRACKER (595) 「クラッカー」
このcreamも形容詞として働いていて、後方強勢です。ところで、このcreamの意味なんですが、これ「クリーム入りの」ということではないんです!
cream CRACKERとは、日本で言うクラッカーです。甘くない、パサパサした感じのスナックです。あれって、あまりクリームを使っているような感じがしませんよね。実はこのcreamとは、乳製品を指してはいません。「小麦粉と植物油と酵母をクリーム状に滑らかに混ぜ合わせてある」という意味(*)なのです。
つまり「クリーム状のものからできている」という意味の形容詞として使われているのです。
*注:https://en.wikipedia.org/wiki/Cream_cracker より
- cream TEA (595解説) 「クリームティー」
やはりcreamで始まるBEらしい句に、cream TEA (595解説)があります。これ、クリームの入った紅茶を意味することもなくはないのですが、通常は紅茶にスコーン、ジャムやclotted CREAM(クロテッドクリーム)を付け合わせた、午後の軽食を指します。cream CRACKERとはまったく別の意味のcreamですが、句としての強勢の付き方は同じ、後方強勢です。
では、cream TEAのcreamとは、何を指すのでしょう。これは付け合わせのclotted CREAMを指します。このteaの発祥地域はCornwall半島、デボン州の辺り。この地方ではclotted CREAMが特産品だったので、必ずそれをつけて出したから、この名前が付いたとのこと。ちなみに、他の食事の意味のteaには、必ずしもclotted CREAMが付くとは限りません。
- Liquid PAPER (376解説) 「修正液」
Liquid PAPERも興味深い例です。これも名詞+名詞に見えますが、後方強勢です。このliquidは「液体の」という形容詞として働いているからです。
Liquid PAPER自体は最近はあまり使われなくなっています。でも形容詞としてのliquidは、liquid CRYSTAL「液晶」のような形で健在です。
- cottage PIE (387解説) 「牛ひき肉のパイ」
cottageは「田舎の小屋」という名詞です。でもここでのcottageは、「田舎の小屋で作られる」というような意味合いの形容詞なのでしょう。
- hire PURCHASE (412) 「分割払い」
「hire」が「賃貸しの」という意味の形容詞として働いています。ただ、この定義はランダムハウス大英和のhireの最後のほうに、BE用法としてちらっと顔を出している説明です。普通の辞書ではなかなか出てこない情報です。
- corner SHOP (428) 「小さな商店、コンビニ」
ここでのcornerは「角にある」という意味の形容詞として使われています。これも簡単には見抜けませんね。しかしこの句には、前方強勢のCORNER shopという言い方もあるようです。実際、Oxford Advanced Learner’s Dictionaryでは前方強勢となっています。この句に関しては、強勢についてはあまり気にしなくてもよさそうです。
(次回に続く)
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