イギリス英語の発音の特徴10!アメリカ英語との違いも音声で紹介

イギリス英語とアメリカ英語の違いは何でしょう?英語音声学者の小川直樹さんが「発音」に注目して、イギリス英語の特徴10個を解説。特徴を知ってコツをつかみ、イギリス英語の発音を上達させましょう。イギリス人ナレーターとアメリカ人ナレーターが読み上げる音声も聞けるので、比較して違いを確認してみてください。

※本記事は、ENGLISH JOURNAL2022年12月号に掲載した内容を一部抜粋したものです。

特徴1 母音字の後のrを発音しない

The girl heard birds singing in the garden.

BE(British English、イギリス英語)では、girlやbirdなどのrは発音されません。BEは概してすっきりした発音になる、ということです。しかし、スコットランドやアイルランドではこのrを発音します。また、イングランドであっても母音字の後のrを発音する地域はあります。従って、ここでいうBEというのは、基本的にイギリス南部の教養ある人が話す英語を指すと理解してください。

特徴2 tは強く発音される

The little boy did not talk about the letter at all.

BEでは、tは語頭ばかりか語中にあってもしっかり発音します。まず語頭のtです。これは、日本人が思っているよりもはるかに強く響きます。日本語の[t]を使っては、BEらしくなりません。口に力を入れて、時間をかけていいので、口内の圧力を高めてから発音するようにします。

BEでは、母音に挟まれたtもしっかり発音されます。letterのような単語の中ばかりでなく、at allのように単語間でも起こります。また、littleのように母音と[l]のような有声子音の間のtでも同様です。AE(American English、アメリカ英語)ならば、これらのtは有声化されます。

なお、有声化とは弱まることでもあります。BEではtの有声化が起こらないので、それだけtが強いのです。例文のようにtの多い文では、口の前の方に意識を向けて、口と舌を常に緊張させている必要があります。

特徴3 母音が短い① hatやappleの[a]

Jack grabbed the apple in his right hand.

BEの母音は、AEに比べ短いものが多いです。これは、BEが速く聞こえる理由の一つです。短い母音の代表は、hatやappleの母音[æ]です。AEでは、この母音はかなり長く発音されます。人によっては、[ɛə]のような二重母音のように発音します。AEに慣れた日本人は、イギリスでもこの[æ]を使ってしまいます。これでイギリス人に違和感を持たれるのです。

BEでの[æ]は、あっさり短いものです。日本語の「ア」に近く聞こえることもあります。それだけ「エ」の成分が弱いのです。こんな音質のため、最近では[a]と表記されます。ボリス・ジョンソン元首相はこの母音を頻繁に強く発音していましたが、決して長く伸ばして発音していませんでした。

特徴4 母音が短い② gotやshopなどの[ɒ]

You’ve got to pop into our shop, Tom.

gotやshopなどの、主にoの文字で表される母音は、BEでは[ɒ]です。[ɒ]は口を最大限に開いた「オ」です。口を最大に開いた母音が[ɑ]ですが、それよりもわずかに唇が丸まっています。円唇により「オ」の音色が出ます。この[ɒ]はかなり短いのです。

なお、従来、日本の辞書ではgotのBEでの母音は[ɔ]と表記されてきました。しかし[ɒ]と[ɔ]は、口の開きが違います。[ɔ]の方が口の開きが小さいのです。つまり音質が違うのです。

ところで、gotやshopに当てられるAEの母音は[ɑ]です。AEの[ɑ]は[ɑː]と書いてもいいぐらい長いのです。そのため、この例文を英米の人が読み比べたら、BEは素早く、AEはゆっくり聞こえるでしょう。

特徴5 母音が短い③ teacher、forward、Oxfordなどの弱音節

The traveller went northward from Oxford to Stratford-upon-Avon.

BEでは、弱音節は日本人が思うよりもはるかに短く、弱くなります。しかも日本人は、スペリングどおりに発音しようとするので、全く間延びした発音になりがちです。例えばOxfordはその典型です。スペリングの上では、弱音節-ford は、強音節よりも長くなっています。それにつられて、-fordを「フォード」と長く発音してしまうのです。BEでは、最小限の長さにしないといけません。実際、発音記号でも[ɔ́ksfəd]と、音を伸ばす記号はありません。

特徴6 [a]か[ɑː]かの区別

I can’t plan to build a plant without my aunt.

「ア」の母音に関して、BEならではの厄介な問題があります。AEの[æ]は、BEでは特徴3で述べたような[a]となるばかりでなく、時には[ɑː](口を大きく開けて喉の奥から出す「アー」)となることもあります。なお[ɑː]は、次に紹介する特徴7の[əʊ]同様、イギリス南部の洗練された英語を感じさせる母音です。

えばplanとplant。AEでは、共に[æ]を使います。一方、BEでは、planには[a]、plantには[ɑː]が使われます。では、どういうときに、BEで[ɑː]が当てられるのでしょう。これにはaの後に来る子音が関係します。

1)m/n+子音:aunt、can’t、command、chance、dance、exampleなど。
2)摩擦音:ask、bath、cast、half、last、laugh、pass、staff、vastなど。

planとplantの違いもこれに当てはまります。ただし、この区別には例外も多く、例えばpass やpassportは[ɑː]を使います。でもpassenger(乗客)やpassage(通路)は[a]です(同じ場面で使いそうなのに……)。こういうものは個別に覚えていくよりありません。これがBEの難しさです。

特徴7 上品な二重母音[əʊ]

No, I don’t know how to cope with it.

RP(Received Pronunciation、容認発音)でのみ使われ、地方では使われない二重母音です。そのため[əʊ]が使われると、そこはかとなく上品な感じがします。

音質は、極端に言うと「エウ」に近い響きです(ただし、音声のイギリス人ナレーターの発音は、[oʊ]に近い控えめな[əʊ]です。[oʊ]も上品な響きです)。出だしは「エ」よりも力を抜き、口を半開きにして声を出します。日本人がこういった曖昧な音を出そうとすると、舌が浮く感じになってrが混ざったような音になりがちです。rを含まないよう注意しましょう。

また、日本人の場合、[əʊ]がどの単語に使われるか分からないことがよくあります。日本では基本、英単語の発音の扱いが雑です。だからどの単語に[əʊ]があるのか、分かっていないことが多いのです。どこで使うべきか、常に意識しておいてください。

なお、[əʊ]とすべきところに[oː]を当ててしまうと、途端に地方なまりになってしまいます。no、know、oh、only、go、open、overなどは、[əʊ]の代表例です。

特徴8 「オ」の母音の使い分け

Shall we go for a long walk?

BEでは「オ」が3種類もあります。それだけに、日本人には難しい区別です。

まずは特徴7で述べた[əʊ]です(BEでは「オウ」とは言えない音ですが、ここでは「オ」の仲間として扱います)。例文ではgoです。口は、力を抜くことを忘れないように。

次にlongの[ɒ]です。これは口を最大限に開くも、唇は丸めて出す「オ」です。短く力強く発音すると、感じが出ます。

walkは[ɔː]です。これは口をかなり丸めて、長めに発音します。

「オ」を3段階に発音し分けるというのは、日本人にはなかなか大変なことです。しかも、どの単語でどの「オ」が使われるか、という区別もしなければなりません。日頃から発音に対して、細かいところまで意識しておく必要があります。

また、音声のイギリス人ナレーターは、ここで下降調を使っています。この点もBEらしさです(詳しくは特徴10参照)。

特徴9 二重母音の長母音化

I’m sure you’re much sought after here and there.

[ə]で終わる二重母音[ɛə][ɪə][ʊə]は、のBEではほぼ長母音のように発音されます。例えば[ɛə]は[ɛː]です。この音は、there やwhere など、はっきり発音されやすい単語で使われるので、強く耳に残ります。口を大きく開けて、やや締まりのない感じで「エー」と言います。

[ɪə]も現在はほぼ[ɪː]です(ただし、音声の例文はゆっくり発音されているため[ɪə]となっています)。これはeatの母音[iː]とは違う記号を使います。つまり音質も違うのです。[iː]は、口をしっかり横に引っ張って出す鋭い「イー」。hereの[ɪː]は、そこまで口を横に引っ張らない、緩んだ「イー」です。緩んでいるため、やや曖昧な響きです。

ただ、[ʊə]は[ʊː]とはならず、[ɔː]になります。現代なBEではだいぶ口を丸めて出します。sureとyou’reばかりでなく、poor、tour、yourなどもそうです。

特徴10 下降調になる yes-no 疑問文

Could you please help me ?

実は、BEらしさは母音や子音ばかりでなく、リズムやイントネーション(両者をまとめて「韻律」と言います)にもかなり表れます。いや、むしろ韻律の方が、BEらしさが強く出るとさえ言えます。

その代表例が、yes-no疑問文が下降調になることです。これはかなりの確率で起こります。しかし日本では、yes-no疑問文は上昇調というのが常識です。この先入観のため、BEを聞くと誤解してしまうことがよくあります。例えば、質問なのに質問だと気付かなかったり、叱られているように感じてしまったりするなどです。

BEらしさを表す韻律について詳しくは、Nadia McKechnieさんとの共著『もっとイギリス英語でしゃべりたい! UKイントネーション・パーフェクトガイド』(研究社)をご覧ください。

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『ENGLISH JOURNAL』12月号では、今回紹介した内容の他に、イギリス英語の歴史やイギリスで話されている英語の種類、効率的なアウトプットの練習法を紹介。また、エリザベス女王からリズ・トラス前大統領、イギリスの市井の人々まで、さまざまなイギリス英語を小川直樹さんの解説と併せて紹介します。「知る」「聞く」「話す」の3ステップで、イギリス英語の習得を目指しましょう!

小川直樹
小川直樹

英語音声学者。コミュニケーションのコンサルティング会社Heart-to-Heart Communications 代表。上智大学大学院言語学専攻博士前期課程修了。著書に『イギリス英語発音教本』『イギリス英語で音読したい!』(共に研究社)、『耳慣らし英語リスニング2 週間集中ゼミ』(アルク)、『イギリス英語を聞くTHE RED BOOK』(コスモピア)など多数。YouTube「小川直樹の英語発音動画」では新作を活発に公開している。

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