この連載では『改訂版 キクタンBRITISH』(アルク)の著者・小川直樹先生が、本書の内容よりさらに詳しくイギリス英語の発音の秘密を深堀りします。テーマは英語の句の強勢です。今回は、後方強勢、つまり後ろ側が強くなる句を取り上げます。その代表は、形容詞+名詞の句です。ところが、これは日本人にとって意外と難しいのです。この第3回では、形容詞+名詞をはじめ、分詞+名詞、現在分詞+名詞など、後方強勢となる句について詳しく見ていきます。
目次
※この記事では、強勢(アクセント)の位置を分かりやすく示すために一部の英単語の文字の大きさを変えて表示しています。文字の大きさが正しく表示されない場合、English Journalのオリジナルサイトをご覧ください。
(連載第1回・第2回はこちら)
後方強勢になるパターン
第3回は、2単語からなるBE(イギリス英語)の名詞句で、後ろ側の単語が強くなるもの、つまり後方強勢となる句を見ていきます。後方強勢となる典型的な構造は、形容詞+名詞です。
形容詞+名詞
名詞句としてもっとも基本的な型は、なんといっても形容詞+名詞です。これは後方強勢となります。わかりやすい例を見出し語から取り上げてみます。(なおこの連載では、第1強勢の付く単語は、大文字で示しています。)
- fair HAIR (096*) 「きれいな髪」
*カッコ内の数字はキクBR(『改訂版 キクタンBRITISH』)の見出し語番号です。
fairは「色白の、ブロンドの」という意味の形容詞です。fair HAIRは典型的な形容詞+名詞の例です。なお、現代BEではfairとhairの母音は長母音[ɛː]です。そのため日本人が思う発音とはだいぶ違って聞こえます。
- white COFFEE (290) 「ミルク入りコーヒー」
white COFFEEも同様です。ここでのwhiteは「ミルクが入って白くなった」という意味の形容詞です。ちなみに、語頭のwh-は[w]だけです。「ホワ」とはなりません。
- full BREAKFAST (294) 「イングリッシュ・ブレックファスト」
fullは「完全な、略式ではない」という意味です。日本人が思うEnglish breakfastとは、このfullな状態の朝食を指しています。
whiteやfullは、わかりやすい形容詞です。それがcoffeeやbreakfastを修飾しているのです。これらは典型的な後方強勢の例というわけです。
後方強勢は日本人には難しい
後方強勢は、英語では非常に基本的な強勢型です。しかし実はこれ、日本人には案外難しいのです。なぜでしょう?
日本語の発音では、たいてい出だしが高く、終わりに近づくほど声が低く、弱くなるんです。簡単な実験をしてみれば、わかりますよ。「大きなネコ」、「きれいな花」と口に出して言うんです。ごく普通の感じで言ってみてください。声は大きめに出すとわかりやすいかもしれません。
どうでしたか? だいたい修飾語のほうで声が大きく高く、名詞で声が小さく低くなっているはずです。こんな具合です。
大きなネコ
きれいな花
(編集部注:オリジナルサイトでは「大きな」「きれいな」の文字が大きく表示されています。)
この逆の言い方をすると、どうでしょう?
大きなネコ
きれいな花
(編集部注:オリジナルサイトでは「ネコ」「花」の文字が大きく表示されています。)
こういう感じで言うと…。これ、日本語としては、ちょっと、いや、かなり不自然に聞こえますよね(唯一ありうるのは「大きな……なんだっけ?」「きれいな……なんだっけ?」の答えとしての言い方です)。
つまり、日本人にとっては、句を発音する場合、出だしで強く、終わりで弱まる言い方のほうが自然だということです。そしてこの癖は、当然、英語の発音にも反映されてしまいます。
実際、英語の初心者ならbig catやbeautiful flowerを、だいたいBIG catとか、BEAUTIFUL flowerのように言ってしまいます。日本人は日本語の影響で、前方強勢の感じで言うほうが発音しやすいということです(だからこの連載の第1回は、日本人にとって言いやすい複合名詞から始めたのです)。
英語の発音の基本ともいえる形容詞+名詞の句を、日本人が英語らしくいうのは、実は容易ではないのです。普段から後方強勢に慣れる練習をしておかないと、うまく言えないということです。
日本では後方強勢が根付かない!?
英語では後方強勢は極めて基本的な強勢型です。しかし日本人にとって後方強勢は難しい。それは日本語の癖ばかりではないんです。もう1つ大きな問題があるんです。それは、日本では後方強勢が適切に示されていないという問題です。
例えば前回指摘したように、city hallやtown centre (ともに042解説)の強勢型は、英和辞典ではたいていこう出ています。
tówn cénter
cíty háll
*日本の辞書ではたいていAE(アメリカ英語)で表記されています。
右上がりの記号(´)は第1強勢です。つまり第1強勢が2つある、という表示になっているのです。これが日本での、一般的な後方強勢の表示の仕方です。
辞書の発音解説を見れば、この表示の意味合い(これが後方強勢だということ)が書かれているかもしれません。でも普通の人はそんなところは見ませんよね。
日本人がこの表示を見たら、「なんだ同じ強さか」⇒「強勢は重要じゃないんだな。適当でよさそうだ」⇒結果、句での強勢の重要性を認識できない、なんてことになってしまうのです。
一方、Oxford Advanced Learner‘s Dictionaryのような英国製の辞書を見ると一目瞭然です。こう出ています。
ˌtown ˈcentre
ˌcity ˈhall
下側の縦棒(ˌ)は第2強勢、上側の縦棒(ˈ)は第1強勢を示します。明らかに両者とも後方強勢なのです。
キクBRでは、この英国式の表示法は使っていません。発音記号を表示する際には、従来のアクセント記号を使っています。でも、日本の辞書のような第1強勢(´)をダブらせる方式は使っていません。代わりに第1強勢と第2強勢(`)をはっきり区別して表示しています。
キクBRに出てくる例を挙げましょう。town CENTERやcity HALLと同類の、city CENTRE (325)です。発音記号での強勢記号の付け方をご確認ください。

分詞+名詞
次は、形容詞の代わりになるものが、名詞の前に来る場合です。その代表は分詞です。分詞自体、かなり形容詞に近い性質を持ったものです。それゆえ分詞+名詞の場合は、やはり後方強勢です。
- detached HOUSE (333) 「一軒家」
典型的な過去分詞+名詞の例です。detachは「引き離す」という意味の動詞です。その過去分詞が名詞houseの前に置かれています。
ただ音源、特に例文の発音では、DETACHED houseのように聞こえます。どうしてでしょう。例えば「どこに住んでいますか?」と問われたら、「家に住んでいます」と答えますか?これじゃ、答えとしてはあまりに物足りないですよね。ナレーターのエマさんにも、そんなイメージがあったんじゃないでしょうか。だからこそ、情報として価値のあるdetachedが自然と強調されたと考えられます(句の強勢は、絶対的なものではなく、文脈などによって変わりうるということです)。
- Shredded WHEAT (432) 「シュレデッド・ウィート」
有名なシリアルの名前ですが、これも過去分詞+名詞です。だからこそ後方強勢です。なお、wheatでの口の動きは、日本語とは違って大きいですから、注意が必要です。出だしの[w]で口笛を吹くようにすぼめてから、[iː]で思いっきり口を横に開きます。しかもここに第1強勢が付くので、この発音、なかなかの難物です。
過去分詞+名詞の例では、clotted CREAM (010例文)も見逃せません。clotというのは「凝固させる」という意味の動詞です。それが過去分詞として使われているわけです。イギリスのteaでお馴染みの「クロテッドクリーム」は、後方強勢だということです。
現在分詞+名詞
次は、現在分詞+名詞の場合です。これももちろん後方強勢です。ただ、このタイプの句では、見た目が動名詞+名詞と同じです。なのに、動名詞なら前方強勢、現在分詞なら後方強勢となるわけです。-ing形の見極めが必要となる点が厄介です。
- managing DIRECTOR (401) 「最高経営責任者」
例えばこのmanaging。「管理する」という意味の形容詞として働いています。だから後方強勢となるわけです。
SPEED bump (367)の解説に出ている、同義のsleeping POLICEMANも好例です(旧版ではこっちが見出し語で、SPEED bumpは解説で紹介されていました)。sleepingは「眠っている」という現在分詞、つまり形容詞の働きをしています。「お巡りさんが寝ていても働いてくれる機材」ということなんでしょう。BEらしいユーモアの効いた表現です。
謎のsinking feeling
-ing形で始まる句は、1)動名詞+名詞⇒前方強勢、2)現在分詞+名詞⇒後方強勢だと述べてきました。しかし中には、その-ing形は現在分詞と思しきものなのに、前方強勢となってしまう、という謎の句があります。それがこれです。
- SINKING feeling (205) 「沈んだ気持ち」
意味から考えるとsinkingは、「落ち込んでいる」という現在分詞(つまり形容詞)のように思えます。だから後方強勢となりそうです。でもこれは前方強勢です。なぜでしょう?
sinking feelingという句は、くだけた定形表現です。ひとまとまりで頻繁に使われるからこそ、1つの表現(つまり複合名詞)として扱われるようになったと考えられます。sinking feelingは、第2回で扱ったthe White Houseやhigh schoolなどの、形容詞+名詞で前方強勢となる例の延長線上にある例だということです。
(後編に続く)
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