「ラクして伸びる」に惹かれる「色欲の罪」――楽な学習と、続けられる学習は別【英語学習 七つの大罪】

「色欲の罪」と聞くと、性的な欲望を思い浮かべる人が多いでしょう。この連載では、目先の魅力や誘惑に惹かれ、本当に必要なものを見失ってしまう状態として考えます。「1日5分でOK」「聞き流すだけ」といった甘い言葉に流されず、成果につながる学習とは何か。第5回では、「楽にできる学習」と「続けられる学習」の違いを、濵﨑さんに教えていただきます。

第4回の記事はこちら▼

効率よく英語を学びたいと思うのは当然

英語をできるだけ効率よく学びたいと思うこと自体は、全く悪いことではありません。ほとんどの人は、英語だけを勉強して生活しているわけではありません。仕事もありますし、家庭のこともある。趣味やほかにやりたいこともあります。

限られた時間の中で、「できるだけ無駄を省きたい」「短い時間で成果を出したい」と考えるのは当然です。問題になるのは、効率化することと、学習に必要な負荷までなくすことを同じだと思ってしまうことです。

英語ができるようになるためには、覚えることも、何度も繰り返すことも必要です。実際に聞いたり、読んだり、話したりする練習も必要になる。そういう部分まで「省けるのではないか」と考え始めると、少し話が変わってきます。

「楽にできる」と「効果がある」は別の話

僕は、楽にできることと、効果があることは基本的には別だと思っています。これは英語だけの話ではありません。

例えば、筋トレを始めようと思ったとします。筋トレについて何も知らなければ、YouTubeやSNSで調べますよね。そこで「これだけやれば体が変わる」「毎日これだけで大丈夫」という情報を見ると、知らない世界だけに、「そういうものなのかな」と思ってしまうことがあります。

英語も同じです。ある程度勉強した経験があれば、「聞き流すだけで全部できるようになるわけではない」「短時間だけで急に英語力が大きく伸びるわけではない」と分かります。でも、これから初めて英語を勉強する人は、その判断材料を持っていません。

「1日5分でいい」「聞き流すだけでいい」「これをやれば一気に聞き取れるようになる」。そんな言葉を見たら、「英語ってそうやって勉強するものなのか」と思ってしまっても不思議ではありません。

SNSやYouTubeでは、まず見てもらわなければ始まりませんから、どうしても目を引く言葉が使われます。僕の感覚では、英語学習についてあまりに簡単な成果をうたっている情報は、かなり慎重に見た方がいいと思っています。

第1回でも触れたように、こうした情報を見るときは、キャッチーな言葉だけでなく「誰が発信しているのか」も確認した方がいいと思います。目を引く言葉と、その学習法を続けたときに実際に得られる効果は、分けて考える必要があります。

「1日5分」は悪いのか

ただ、「1日5分」という言葉そのものが悪いわけではありません。これまで全く英語を勉強してこなかった人に、「まず5分だけやってみましょう」と言うのは、入口としてはすごくいいと思います。「1時間勉強してください」と言われたら始められない人でも、「5分ならやってみよう」と思えるかもしれません。

第3回でも、「5分しかない」のではなく「5分もある」と考えて、その時間を学習に使おうという話をしました。5分あれば、単語を確認することも、問題を何問か解くこともできます。

でも、「5分を有効に使うこと」と「毎日5分だけやれば十分だと思うこと」は別です。

例えば英語を話せるようになりたいなら、単語やフレーズ、文法を身に付ける必要があります。自分で発音する練習も必要ですし、相手の言っていることを聞き取る力も必要です。つまり「英語を話せるようになる」という一つの目標だけを見ても、実際にはやることがたくさんあります。

同じく第3回でお話ししたように、「分かった」だけで終わらず、実際にできるようになるまで繰り返すことも必要です。5分をきっかけに始めるのはいい。でも、そこから必要な学習量に少しずつ近づいていく。その考え方が大事だと思います。

先に考えたいのは「効率」より「継続」

第2回では、「タイパ」「コスパ」を求め過ぎることについてお話ししました。AIで答えにたどり着くまでの時間を短くできたとしても、英語が身に付くまでの時間まで同じように短縮できるとは限りません。

今回も同じです。「効率の良い勉強法を教えてください」と聞かれることがありますが、僕はその前に、その勉強を続けられるかどうかを考えてほしいと思っています。

僕なら、例えばまず1日30分くらいから始めます。そして「毎日30分は英語をやる」という生活をしばらく続ける。30分という数字は、僕自身が一つの目安として考えているもので、誰にとっても30分が絶対に正しいという意味ではありません。

大切なのは、最初から最も効率の良い方法を探し続けることではなく、自分が続けられる形で、実際に勉強を始めることです。

続けられる負荷は「簡単過ぎる負荷」とは違う

「続けられる量」については、第4回でもお話ししました。大き過ぎる目標を立てて数日でやめてしまうより、まずは「絶対に続けられる量」を決める。その方が学習は積み上がっていきます。

ただ、今回もう一つ強調したいのは、「続けられる」と「楽である」は同じではないということです。

僕はランニングをするのですが、もともと走ることが大嫌いでした。小学生や中学生の頃のマラソン大会も、本当に嫌だったんです。そんな僕が走れるようになったきっかけの一つが、初心者向けのランニング法を紹介した本でした。

最初にやるのは30分なのですが、30分走り続けるわけではありません。最初と最後に5分ずつ歩き、その間は「1分走って、1分歩く」を繰り返します。30分のうち、実際に走っているのは10分程度です。

これなら僕にもできました。そして、「できた」という感覚があったから、次も続けられたんです。

英語学習も同じだと思います。

無理なくこなせる量から始める。でも、何もしなくてもできるくらいまで負荷をなくしてしまうわけではない。「今日はこれをやった」と自分で言える程度のノルマを決めて、クリアしていく。

楽だから続くのではなく、自分がこなせる負荷だから続く。ここは大きな違いだと思います。

例えばTOEICの単語なら、30分で20語、30語を覚えることを目標にしてもいいでしょう。仮に1日30語を1カ月続ければ、単純計算では約900語に触れることになります。

もちろん、誰でも30分で30語覚えられるという意味ではありません。人によって覚える速さも違いますし、必要な復習量も違います。

大切なのは、「30分勉強する」だけで終わらず、「今日は何語覚える」と学習内容まで決めることです。

「何時間やったか」より「何をどれだけやったか」

僕は、勉強時間だけを学習量の基準にすることには、あまり賛成していません。

例えば、AさんとBさんが二人とも3時間勉強したとします。Aさんはその3時間で単語を100個覚えた。Bさんは10個だった。

もちろん能力や学習内容の違いがありますから、この数字だけで二人を単純に比較することはできません。でも、「3時間勉強した」という情報だけでは、実際に何をしたのかが分からないということです。

僕自身、大学受験でもTOEICの勉強でも、「今日は何時間勉強した」という記録はほとんど気にしてきませんでした。

それより、

  • 単語を50個覚えた
  • 文法問題を50問解いた
  • この範囲まで終えた

というように、何をどれだけやったかを見る方が分かりやすいと思っています。

もちろん時間は目安になります。自分が3時間集中して勉強したら、これくらいの量をこなせる。それが分かれば、翌日以降の計画にも使えます。

でも第一に置くのは時間ではなく、中身です。

「3時間も勉強した」ではなく、「3時間で何をどれだけできたか」を見る。

それが、僕の考える意味での「効率」に近いと思います。

続かなかったなら「続けられる環境」を作る

以前に勉強を始めたけれど、続かなかった。そういう経験がある人もいると思います。その場合、「自分は意志が弱い」と考える前に、ペースメーカーになるものがなかったのではないか、と考えてみてもいいと思います。

第3回では、英語に触れたくなる環境を自分で作ることも大切だという話をしました。SNSに学習内容を投稿するのが楽しいなら、それでもいい。仲間と勉強することで続けやすくなるなら、それでもいい。

今なら、YouTubeなどに、みんなで一緒に勉強するライブ配信もあります。例えば僕が見たことのある配信では、朝の30分だけ配信を行い、参加する人たちがチャット欄に「今日はこれをやります」と書いて、それぞれ自分の勉強をします。

毎朝そこに参加すると決めれば、それだけで30分の学習時間を確保できますし、「ほかの人も今、一緒に勉強している」という感覚もあります。

一方、第4回では、SNSで他人と比べ過ぎないという話をしました。ただ、SNSで他人を見ること自体が悪いわけではありません。「あの人も勉強しているから、自分もやろう」と思えるなら、他人の存在は学習を続ける力になります。

自分一人で続けられないのであれば、続けられる環境を先に用意する。それも立派な学習法です。

伸びなくなったら「楽な方法」を探す前に量と質を見る

勉強しているのに、成果が出なくなる時期もあります。僕自身、TOEICを勉強していたとき、800点台半ばあたりでなかなかスコアが伸びなくなった時期がありました。

そういうとき、「もっと楽に伸びる方法はないか」と別の方法を探したくなるかもしれません。でも、それまでの勉強で今のところまで来たのであれば、同じ量、同じ負荷をずっと続けているだけでは、その先に進めなくなることがあります。

筋トレで、60キロの重さを扱えるようになった後、さらに力をつけたいのであれば、ずっと同じ負荷だけではなく、その先の負荷に挑戦していきますよね。英語も似ています。

壁にぶつかったら、

  • 学習量をもう少し増やせないか
  • 同じ時間でも取り組み方を変えられないか
  • 苦手な部分にもう少し時間を使えないか

と、量と質のどちらかを見直してみる。

僕の感覚では、停滞したからといって数日、数週間で「この方法は駄目だ」と判断するのは早いと思います。

僕なら、何カ月かは試行錯誤しながら、壁を越えようとしてみます。それでも変わらないのであれば、信用できる指導者やコーチに相談するという方法もあります。

大切なのは、成果が出ないたびに「もっと楽な方法」へ移ることではなく、今の学習のどこを変えればよいかを見ることです。

情報を選ぶときは「誰が言っているか」を見る

今は英語学習について検索すれば、本当にたくさんの情報が出てきます。その中から何を信じるかを考えるとき、一つの手掛かりになるのが、発信している人や会社が何者なのかを見ることです。

どんな経験があるのか。どんな実績があるのか。なぜその人がその情報を発信しているのか。そこを確認します。

これは、自分が詳しい分野を考えると分かりやすいと思います。例えばサッカーが大好きな人なら、サッカーについてSNSで発信している人を見たとき、「この人はちゃんとした情報を発信している」「この人は少し適当なことを言っている」と、ある程度見分けられますよね。

でも、自分が全く知らない分野では、どの情報も同じように見えます。英語学習をこれから始める人にとっては、英語学習の情報もそれと同じです。

だからこそ、「すごそうなことを言っている」だけで判断しない。

教材については、第1回でもお話ししたように、一般の書店に並んでいる商業出版の教材は、著者だけで作られているわけではありません。編集者や校正者など、さまざまな人の目を通って世に出ています。

僕は、そうした市販教材と、発信者の背景や実績が確認できないSNS上の情報を同じようには考えていません。

ただし、市販されている本なら何でも自分に合う、という意味でもありません。第4回でも触れたように、他人にとって良い教材でも、自分の現在地や目的に合っていなければ、うまく使えないことがあります。

「誰が、誰に向けて、何のために作ったものなのか」を見る癖をつけてほしいと思います。

今日から「続けられる負荷」を一つ決める

「楽な方法ばかり探してしまう」という人が、今日から一つだけ変えるのであれば、自分が毎日続けられるノルマを一つ決めてください。

例えば30分勉強する。単語を20個覚える。問題を10問解く。内容は、自分の現在地によって変わります。

第4回でお話ししたように、実際に始めてみて、多ければ減らす。余裕があれば増やせばいいんです。

大切なのは、「楽かどうか」ではありません。

これなら今日も明日も続けられる。でも、きちんと学習にはなっている。

そのくらいの負荷を探してください。

楽な学習より、続けられる学習を

英語学習は、楽である必要はありません。かといって、苦しければ苦しいほどいいわけでもありません。

「聞き流すだけ」「1日5分」という言葉を全部否定する必要もありません。それをきっかけに英語を始められるのであれば、意味はあります。ただ、そこで終わらないことです。

  • 必要なことを覚える
  • 実際に使ってみる
  • できるまで繰り返す

英語ができるようになるまでには、どうしてもそういう積み重ねが必要です。

だから、探してほしいのは「どうすれば楽に伸びられるか」ではありません。

どうすれば、自分は必要な学習を続けられるか。

そこを考えてください。

楽な学習と、続けられる学習は別です。

「ラクして伸びる」を探すのではなく、自分が続けられる負荷を作ること。それが、結局は英語力を伸ばすことにつながると思います。

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濵﨑潤之輔(はまさき・じゅんのすけ)
濵﨑潤之輔(はまさき・じゅんのすけ)

大学・企業研修講師、書籍編集者。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。
これまでに TOEIC L&Rテストで990点(満点)を100回以上取得。
明海大学、獨協大学、神戸女学院大学、早稲田大学EXT、福岡女学院大学など、全国の大学で講師を務めるかたわら、ファーストリテイリング、楽天銀行、SCSK、エーザイ、オタフクソース、ブシロードといった大手企業においても、TOEIC L&Rテスト対策の研修を行っている。
著書に、『改訂2版 中学校3年間の英語が1冊でしっかりわかる本』(かんき出版)、『TOEIC L&Rテスト 990点攻略』シリーズ(旺文社)、『TOEIC L&Rテスト 総合対策特急 絶対ハイスコア』(朝日新聞出版)などがあり、累計発行部数は100万部を超える。
TOEIC L&Rテスト対策のESB(オンラインスクール)主催。

Xアカウント:@HUMMER_TOEIC
Instagramアカウント:junnosuke_hamasaki

取材・構成:山本高裕(ENGLISH JOURNAL編集部)

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