「あの人はもう700点を取っている」「毎日何時間も勉強しているらしい」「この教材で一気に伸びたそうだ」。他人の成果が目に入ると、自分も同じようにしなければと焦ることがあります。英語学習者が陥りがちな思い込みを「七つの大罪」になぞらえて考える本連載。第4回は、他人の成功をうらやみ、自分の現在地を見失ってしまう「嫉妬の罪」です。他人の成功や勉強法は、どこまで参考にすればよいのでしょうか。そして、自分の成長は何を基準に見ればよいのか。濵﨑さんに教えていただきます。
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目次
SNSには「できた人」ばかりが見える

今回取り上げる「嫉妬」は、他人の成功をうらやみ、自分を見失ってしまうことです。英語学習に置き換えるなら、他人のスコアや勉強法ばかりを気にして、自分に合った学習や自分の現在地が見えなくなっている状態だと思います。
今は特に、SNSを開けば他人の成果がたくさん目に入ります。
「今回、ベストスコアを取りました」
「試験に合格しました」
「今日はこんなに勉強しました」
そういう投稿を見る機会は多いですよね。でも、考えてみてください。「今日もテストで全然できませんでした」「今日も何も勉強できませんでした」という投稿を、毎日のように続けている人はそれほど多くありません。
人は、自分の良かったことを外に出したくなるものです。自分だってそうですよね。うまくいかなかった日より、うまくいった日の方を人に見せたくなる。
つまりSNSでは、他人の「うまくいった瞬間」を集中的に見ていることになります。一方、自分については違います。調子が良かった日も悪かった日も、勉強できた日もできなかった日も、全部知っています。
自分は等身大の状態なのに、相手については、その人が外に出した良い部分だけを見ている。それを比べて「自分は駄目だ」と思ったり、「あの人はいいな」と嫉妬したりしても、そもそも比較する条件がそろっていないんです。
等身大の自分と、他人のベストな瞬間を比べないこと。
まず、そこを意識した方がいいと思います。
同じスコアでも、本当に同じスタート地点とは限らない
英語学習では、数字があるだけに他人と比較しやすいところがあります。例えば、自分も相手もTOEICで500点だったとします。
しばらくして、その人が大きくスコアを伸ばした。それを見ると、「自分と同じくらいだった人がこんなに伸びているのに、なぜ自分は伸びないんだ」と思うかもしれません。でも、その「同じくらいだった」という認識自体が、本当に正しいのでしょうか。
表面上のスコアが同じでも、それまでの学習歴は違います。英語に触れてきた時間も違えば、勉強に使える時間も違う。得意な技能も違います。生活環境も違います。
同じ数字だからといって、同じスタート地点にいるわけではありません。
SNSでは、なおさらその裏側が分かりません。「短期間でこれだけ伸びました」という結果だけが見えていて、その人が実際にどれくらい勉強したのか、それ以前にどのくらい英語を学んできたのかは、外からは分からないことがあります。
他人の成果を見て、「自分も頑張ろう」と刺激を受けるのはいいと思います。でも、その人と自分をそのまま横に並べて、「この人より自分は遅れている」「自分は駄目だ」と判断するのは違います。
才能も環境も、それまで積み上げてきたものも、人によって違います。
他人の結果だけを見て、自分の学習を評価することにはあまり意味がありません。
他人ばかり見ていると、自分の現在地を見失う

他人との比較が問題になるのは、落ち込むからだけではありません。自分の学習そのものがずれてしまうことがあります。
例えば、SNSで高いスコアを取っている人が難しい問題集を使っているのを見ると、「自分もこれをやらなければ」と思うかもしれません。でも、その教材が今の自分に必要かどうかは別の話です。
本当はもっと基本的なところから勉強する必要があるのに、できる人が使っている教材をそのまま買ってしまう。始めてみたら難しくて、全然分からない。そこで「自分は英語ができない」と落ち込む。それでは、他人の成功に自分の学習を引っ張られているだけです。
他人を見る前に、まず自分の現在地を知る方が重要です。
今、どのくらい英語ができるのか。
何ができて、何ができないのか。
何のために英語を勉強しているのか。
次に何ができるようになればいいのか。
そこを見た上で、自分に必要な教材や勉強法を選ぶ必要があります。他人が何を使っているかは参考情報にはなります。でも、それがそのまま自分への処方箋になるわけではありません。
他人の勉強法をまねすること自体は悪くない
ここまで読むと、「では、人の勉強法は見ない方がいいのか」と思うかもしれません。でも僕は、他人の勉強法をまねすること自体は、むしろ良いことだと思っています。
僕自身、大学受験のときもTOEICの勉強でも、できる人のやり方をかなり参考にしてきました。「この人がこの方法で結果を出したなら、自分も同じようにやれば近づけるのではないか」と考えて、その人が使った参考書を使ったり、勉強法をまねしたりする。それで結果が出た経験もあります。
何から始めればいいか全く分からない状態なら、自分一人でゼロから学習法を考えるより、結果を出している人を参考にした方が早いこともあります。ただし、条件があります。
1.信用できる人をまねする
まず、「誰をまねするか」は大切です。
第1回でも触れましたが、その人がどんな経験をしてきたのか、どんな結果を出しているのかを見る。学習法を発信しているというだけで、誰の方法でもそのまま受け入れる必要はありません。
自分が「この人のようになりたい」「この人の考え方なら信用できる」と思える人を探す。そういう人から影響を受けるのは、全く悪いことではないと思います。
2.100%まねしなくていい
もう一つ大切なのは、全てをそのままコピーする必要はないということです。
ある人の勉強法が10個あったとして、自分には必要ないものが含まれているかもしれません。その場合は省けばいい。6割、7割だけ取り入れてもいいですし、複数の人から自分に合いそうな部分を取り入れてもいい。
重要なのは、その勉強法を自分が継続できること、そして実際にできることが増えていることです。
やっていて「どうも身に付いていないな」「これは自分には難し過ぎるな」と感じるのであれば、変えていけばいいんです。
自分に合う勉強法は、始めてから調整する
自分に合った勉強法を最初から完璧に選ぶことは、難しいと思います。結局、始めてみなければ分かりません。
例えば、いくつか教材を決めて勉強を始めたとします。実際にやってみたら、毎日こなすには量が多過ぎた。それなら減らせばいいんです。
逆に、やってみたら思ったより余裕があった。それなら、一日に取り組む量を増やしてもいいし、必要なら別の学習を加えてもいい。
始める。やってみる。多ければ減らす。少なければ増やす。
その試行錯誤をしていくと、自分の生活の中で、どれくらいなら無理なく勉強できるのかが分かってきます。
例えばSNSやYouTubeで、自分と似た生活をしている人の学習ルーティンを見るのも一つの方法です。「この人は仕事をしながら、こうやって勉強しているんだ」と参考にして、まず自分もやってみる。
同じ量が無理なら減らす。まだできるなら増やす。
他人のやり方は、完成された正解として受け取るのではなく、自分の学習を作るための出発点として使うといいと思います。
学習成果は「他人」ではなく「自分の目標」で測る
では、自分の勉強がうまくいっているかどうかを、何で判断すればよいのでしょうか。
TOEICなら、スコアという分かりやすい指標があります。英検なら級があります。例えばTOEICで700点を目標にすると決めたのであれば、その目標に向かって勉強する。そして達成したら、次の目標に合わせて学習内容を見直す。
こうした試験は、自分の現在地や変化を知る物差しとして使えます。何となく勉強していると、成果も何となくしか分かりません。だから、できるだけ自分なりの目標を持った方がいいと思います。
TOEICや英検を受けない人でも、
- 以前より覚えた単語が増えた
- 前は聞き取れなかった英文が聞き取れるようになった
- 以前より長い英文が読めるようになった
- 言えなかった表現が言えるようになった
という変化を見ることはできます。
他人が何点伸びたかは、その人の話です。自分が見るべきなのは、自分で決めた目標に、自分がどれだけ近づいているかです。
大きな目標より「絶対に続けられる量」を決める
他人の勉強を見ていると、自分も大きな目標を立てたくなることがあります。
「毎日100語覚える」
「毎日何時間勉強する」
もちろん、本当にできるなら構いません。でも、大きな目標を立てて数日でできなくなり、そこで全部やめてしまったら意味がありません。
僕は、最初はかなり小さい目標でいいと思っています。例えば単語なら、「1日5個覚える」くらいでもいい。自分では「これくらいならできそうだ」と思っている量の、さらに半分くらいから始めてもいいと思います。
それなら、忙しい日でも続けやすい。余裕がある日は、5個のところを10個やればいいんです。余分にできた日は、その分を貯金したように考えてもいい。
大切なのは、毎日の最低ラインを高くし過ぎないことです。
小さくても、途切れずに積み重ねる方が強い。
薄い紙1枚のような学習でも、毎日重ねていけば積み上がっていきます。逆に、一日だけ分厚い紙を重ねても、その後ずっと何もしなければ続きません。
モチベーションがある日はたくさん勉強できる。でも、毎日同じ気分でいられるわけではありません。だから「やる気があるかどうか」より、「行きの電車では必ず単語を見る」というように、最低限、自分との約束を決めておく。
気分に左右されないくらい小さな約束を作って、それを守る。
その方が学習は続きます。
SNSでつらくなるなら、距離を置いていい
SNSで他人の成果を見ること自体は、悪いことではありません。
「この人みたいになりたい」「自分も頑張ろう」「負けないように勉強しよう」と前向きな刺激を受けられるのであれば、どんどん見てもいいと思います。
問題は、見るたびに嫌な気持ちになったり、焦ったり、自分を否定したくなったりする場合です。その場合は、少し距離を置けばいい。
SNSそのものをやめる必要はありません。見たくない相手がいるなら、ミュートするという方法もあります。
自分の勉強にプラスにならない情報を、わざわざ毎日見続ける必要はありません。
人によって、良い刺激になる相手と、そうでない相手がいます。尊敬できる人、見ていて「自分もやろう」と思える人は見る。反対に、見るたびに他人との比較ばかり始まってしまう相手とは距離を取る。
SNSは、自分で見るものを選べます。学習に使うのであれば、自分の気持ちや行動が良い方向に向かうように使った方がいいと思います。
今日から「過去の自分」と比べる
他人と比べ過ぎてしまう人に、今日から一つ変えてもらうとしたら、比較する相手を変えてください。
見るのは、他人ではなく過去の自分です。
少し前の自分と比べて、
- 解ける問題が増えたか
- 分かる単語が増えたか
- 聞き取れる英語が増えたか
- 勉強を続けられるようになったか
を確認してみてください。
大きな変化でなくて構いません。前は分からなかった単語が一つ分かるようになった。それも変化です。前は三日でやめていた勉強が、一週間続いた。それも変化です。
TOEICを受けているなら、以前のスコアと比べればいい。他人がどれくらい速く進んだかは考えなくていいんです。
比べるなら、過去の自分だけでいい。
それなら、自分が実際にどれだけ進んだのかを見ることができます。
他人の成果より、自分の変化を見る
英語を勉強している以上、他人が気になるのは自然なことです。自分よりスコアが高い人を見れば、うらやましいと思うこともあるでしょう。その人の勉強法が気になって、同じ教材を使いたくなることもあります。
それ自体をやめる必要はありません。
信用できる人の方法なら、まねしてもいい。
尊敬できる人から刺激を受けてもいい。
自分では思い付かなかった勉強法を取り入れてもいい。
ただし、他人の成果を、自分の価値や成長を測る物差しにはしないことです。
その人には、その人の環境があります。自分には、自分の環境があります。使える時間も、これまでの経験も、現在地も違います。
だから、他人の成功を見たら「参考になるところはあるかな」と考えるくらいでいい。そして、自分の学習を見るときには、自分の目標と過去の自分を見る。
他人の成果より、自分の変化です。
昨日より、先月より、去年より、自分が少しでも前に進んでいるのであれば、それが自分の学習の成果です。
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取材・構成:山本高裕(ENGLISH JOURNAL編集部)
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