分からないことがあれば検索し、AIに聞けば、すぐに答えが返ってくる。英語学習は以前より格段に便利になりました。その一方で、次々と答えや情報を取り込むばかりで、自分で考えたり試したりする時間が減ってはいないでしょうか。英語学習者が陥りがちな思い込みを「七つの罪」になぞらえて考える本連載。第2回は、検索やAIで答えを食べ続ける「暴食の罪」です。AIを使うこと自体が問題なのではありません。便利な道具を英語力につなげるには、どのように付き合えばよいのか。濵﨑さんに教えていただきます。
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目次
AIで答えを食べ続ける「暴食の罪」

今回取り上げる「暴食」は、必要以上に取り込み、消化しきれないほど摂取してしまうことです。英語学習に置き換えるなら、検索やAIで答えや情報ばかりを取り込み、自分で考えたり、試したり、思い出したりする時間が減っている状態だと考えています。
今は、分からない英文をAIに入れれば、すぐに説明してもらえます。文法事項の名前すら分からず、「文法書のどこを見ればいいのか分からない」という場合でも、英文そのものを示して「この文法を説明してください」と聞けば答えてくれる。
英文の意味を知りたければ訳してもらえますし、自分が書いた英文を添削してもらうこともできます。日本語で言いたいことを書き、それを英語にしてもらうこともできる。本当に便利ですし、僕自身、AIを仕事で使っています。昔なら時間がかかっていたことを簡単に処理できるようになった点では、とてもありがたい存在だと思っています。
ただし、AIが出した答えがいつも正しいとは限りません。こちらが別の可能性を示すと、それに合わせて答えを変えることもあります。ですから、AIが答えてくれたから、それがそのまま正解だと思い込むのは危険です。
そして英語学習という点では、もう一つ大きな問題があります。答えを次々に教えてもらうことで、薄いインプットだけがどんどん積み重なっていくことです。
AIから何かを教えてもらうこと自体がマイナスだとは思いません。でも、答えを読んで「なるほど」と思っているだけなら、ものすごく薄いプラスにしかなっていないことがあります。特に、「今年中にTOEICで800点を取りたい」といった明確な目標がある人なら、AIから情報を集め続けるより、本番につながる勉強をした方がいいと思います。
「答えを知る」と「英語が身に付く」は違う
AIを使うと、すぐ答えにたどり着けます。そこで「そうなんだ」と納得すると、一つ勉強したような気持ちになります。
でも、ここには大きな落とし穴があります。AIにお願いして答えを出してもらい、それを見ただけなら、自分自身はほとんど何もしていません。
自分で考えて答えを出したわけでもない。記憶の中から知識を取り出したわけでもない。AIがアウトプットしたものを受け取っただけで、自分の頭の中では知的な作業をほとんどしていないんです。
答えが分かった瞬間には、「一つ解決した」という達成感があるかもしれません。でも、それは本当の意味での達成ではありません。答えを先に見せてもらっただけです。
僕は、「答えを知ること」と「英語が身に付くこと」は全く別のことだと思っています。答えを知るというのは、「そうなんだ」と思った状態です。一方、英語が身に付くというのは、必要なときに自分の中からその知識を取り出せる状態です。
解説を読んで納得しただけでは、次に同じような問題が出たときに正解できるとは限りません。初めて見る類題にも対応できるようになって、初めてその知識が使える状態になったと言えるのではないでしょうか。
一番簡単なアウトプットは「問題を解くこと」
では、自分の中から知識を取り出すには、何をすればいいのでしょうか。
一番簡単なのは、問題を解くことです。別に難しいアウトプットをする必要はありません。TOEICの4択問題でも十分です。
4つの選択肢から一つを選ぶだけでも、問題を解くときには頭を使っています。英文を読み、持っている知識を思い出し、選択肢を比べ、自分で正解を判断する必要があるからです。これは、AIに「正解はどれですか」と聞いて答えを教えてもらうのとは全く違います。
AIに答えを出してもらう前に、まず自分で問題を解く。 それだけでも、自分から知識を取り出す機会を作ることができます。
「解けた」で終わらず、自分で説明できるところまでやる
僕が授業で問題演習をするときは、一度解いた問題について、「なぜこの答えになるのか説明してください」と言うことがあります。ものすごく細かい解説をする必要はありません。
例えば文法問題なら、「この位置には名詞が必要だから、この選択肢が正解です」といった程度でいいんです。大切なのは、答えを覚えていることではなく、なぜその答えになるのかを自分で言えることです。
一つの問題を身に付けるまでの流れを整理すると、例えば次のようになります。
- まず自分で問題を解く
- 解説を読んで、なぜその答えになるのか理解する
- 正解の理由を自分の言葉で説明する
- 英文中に分からない単語やフレーズを残さない
- 英文全体の意味を自分で確認できるようにする
ここまでできたら、その問題から学べることはかなり自分のものになっています。解説を読んで「なるほど」と思ったところで終わってしまうと、まだAIや教材から情報を受け取っただけです。
理解した知識を、今度は自分から出せる状態にする。 このプロセスを飛ばさないことが大切です。
AIに全て説明してもらえば、見た目の上ではものすごく効率よく勉強が進みます。でも、自分から何も出していない。僕は、この差はかなり大きいと思っています。
「面白い情報」を調べる前に、英語の土台を作る
AIが便利になったことで、今までなら簡単には調べられなかったことまで、どんどん知ることができるようになりました。これは良い面でもあります。
例えば、単語の成り立ちや接辞について聞けば、関連する知識をいくらでも教えてもらえます。そういうことを知るのが好きな人にとっては、とても楽しいと思います。
ただ、英語力を伸ばすことが目的なら、順番は考えた方がいい。例えば、基本的な単語をまだ十分に覚えていない段階で、接辞や語の成り立ちばかり詳しく調べているとします。それ自体が悪いわけではありませんが、その時間を使って基本単語を10個、20個と覚えた方が、その人の英語力には直接つながるかもしれません。
例えば、provideのような基本単語をまだ知らない人が、接辞について詳しく調べ続ける必要があるのか、ということです。
土台となる単語力や文法力を付けないまま、周辺の面白い情報ばかり集めても、英語そのものが使えるようになるとは限りません。
AIは、質問すればいくらでも情報を出してくれます。だからこそ、「調べられること」と「今の自分が勉強するべきこと」を分けて考える必要があります。
情報をたくさん食べることと、それを消化して自分の力にすることは別です。
「タイパ」「コスパ」を求め過ぎると、かえって遠回りになる
自分で考えるより先に答えを見たくなる理由は、すごく単純です。楽だからです。
自分で考えれば時間がかかります。問題を解き、間違え、解説を読み、もう一度考えるより、AIに聞いて数秒で答えを知った方が速い。そういう意味では、タイパもコスパも良く見えます。
でも僕は、勉強に関して「タイパ」「コスパ」を求め過ぎることには疑問を持っています。高い英語力を持っている人が「効率が大切です」と言っていることはありますが、その人自身がそこまで英語力を伸ばす過程を見ると、実際には地道に勉強を積み重ねていることがほとんどです。
TOEICにもさまざまなテクニックがあります。でも、英語ができる人が経験を積み重ねた結果として見つけたものも多い。テクニックだけを先に知ったからといって、その人と同じ英語力が身に付くわけではありません。
答えにたどり着くまでの時間を短くしても、英語が身に付くまでの時間まで短くなるとは限りません。
英語学習の本質的なところは、どうしても地味です。
- 問題を解く
- 覚える
- 思い出す
- 間違える
- もう一度やる
つまらなく見えるかもしれませんが、結局はそういう積み重ねが必要です。
復習は「ベストなタイミング」より回数を増やす
英語を定着させるためには、地道に繰り返すしかありません。毎日コツコツやる。僕自身は、復習するタイミングを細かく計算するタイプではありません。
「何日後に復習すると記憶に残りやすい」といった方法があることは知っていますし、科学的にも意味があるのだと思います。でも、社会人がそのスケジュール通りに毎回復習できるでしょうか。仕事が忙しい日もあれば、家族との予定が入る日もあります。
「今日はこの単語を復習する日だったけれど、できなかった」となって、そのまま学習自体が崩れてしまうくらいなら、僕はもっと単純でいいと思っています。
どんなやり方でもいいから、同じことを繰り返す。
隙間時間で構いません。むしろ隙間時間だけでもいい。できるときに何度もテストして、自分の中から知識を取り出す頻度を上げていく。
完璧な復習スケジュールを作ることより、実際に繰り返した回数を増やした方が、現実的には続けやすい人も多いと思います。
AIは「優秀なアシスタント」として使う

では、AIを使いながら英語力を伸ばすには、どう付き合えばいいのでしょうか。
僕は、AIに頼り過ぎないことが大切だと思います。AIをメインにするのではなく、あくまでアシスタントとして考えることです。
僕自身も、自分が書いた文章を発信する前に、「校正してください」とAIに見てもらうことがあります。日本語でも英語でも使います。これは、自分が何かを作った後に、編集者や校正者のような役割をAIにしてもらっているわけです。
まず自分で出す
大切なのは、AIを使う前でも後でも、自分でアウトプットするプロセスをなくさないことです。
TOEICなら、本番で問題を解くのは自分です。試験会場では、自分の代わりにAIが正解を出してくれるわけではありません。本番で自分から出せるものは、それまでに自分で出す練習をどれだけしたかによって決まります。
まず自分で解く。まず自分で書く。まず自分で考える。その後に、AIに確認してもらう。
この順番を大切にした方がいいと思います。
AIに「やってもらう」のではなく、AIに「直してもらう」
僕は、AIをものすごく優秀なパーソナルトレーナーのようなものだと思っています。
パーソナルトレーナーは、何をすればいいのか教えてくれます。フォームを見て直してくれるかもしれないし、トレーニングメニューも考えてくれる。でも、実際に体を動かすのは自分です。
トレーナーが代わりに筋トレをしてくれても、自分の筋肉は付きません。英語学習も同じです。
AIがどれだけ優秀になっても、学習そのものをするのは自分です。AIに使われるのではなく、自分がAIを使う。その関係を逆転させないことが大切だと思います。
今日1日、AIを使わずに勉強してみる
検索やAIに頼り過ぎていると感じる人に、今日から一つだけ行動を変えてもらうとしたら、僕は一度、AIを使わずに1日勉強してみることをおすすめします。
ずっと使わないでくださいという話ではありません。まず1日だけです。
そして、その日の終わりに、AIを使わなかったことで困ったことを思い出し、次の二つに分けてみます。
- AIを使わなくて本当に困ったこと
- AIを使わなくても、特に困らなかったこと
AIがなければ本当に解決できなかったことがあるなら、それはAIを使う意味があることかもしれません。反対に、使わなくても別に困らなかったのであれば、普段は必要以上にAIを使っていた可能性があります。
一度AIから離れることで、自分がAIに任せるべきことと、自分でやるべきことを仕分けすることができます。
AIを使う。AIに使われない
AIのおかげで、英語学習は本当に便利になりました。分からないことを説明してもらえる。英文を直してもらえる。自分では探しにくかった情報にも簡単にたどり着ける。使わない方がいい道具だとは思いません。
ただし、AIが答えを出してくれることと、自分の英語力が伸びることを同じだと考えないことです。
答えを読むだけではなく、自分で考える。問題を解く。説明する。思い出す。繰り返す。そうした能動的な学習があって、初めて知識は自分のものになります。
AIは、ものすごく優秀なアシスタントです。でも、あなたの英語力を高めるのはAIではなく、あなた自身の学習です。
AIを使う。AIに使われない。学習するのは、最後まで自分自身です。
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取材・構成:山本高裕(ENGLISH JOURNAL編集部)






