「学び逃し」をなくし、「使える」英語へ―『Realize 英文法 MASTERY[基礎~必修レベル]』著者・駒橋先生インタビュー

『Realize 英文法 MASTERY[基礎~必修レベル]』 は、基礎レベルの英文法を丁寧に積み上げ、「使える」英語を身につけるための英文法の学習書です。著者の駒橋輝圭(てるたか)先生に、本書の狙いや制作のこだわりを伺いました。編集を担当したアルクの中西も同席し、制作過程の裏側や本書の特長について紹介していきます。

基礎レベルの文法の教材を作るという挑戦

――よろしくお願いいたします。本書は400ページ近いボリュームの単著ですが、執筆を終えて完成した今、率直にどのようなお気持ちでいらっしゃいますか。

駒橋先生:まず個人的には「大変だったな」という思いがあります。それから、編集担当の中西さんはじめ、いろいろな方の力をお借りして形にできたもので、決して一人ではできなかったという気持ちです。本当に感謝しています。

――具体的には、どういったところに苦労されましたか。

駒橋先生:まず、中西さんからは「文法の本は大変ですよ」と聞いてはいました。私は何も知らずに、「文法の本を書きたい。しかも初歩レベルの文法の本を書きたい」と言い出したわけです。それは、世の中で「やっぱり英語って発信にも使えるようにならなきゃだめだよね」って言われる中、基礎文法の力を的確に伸ばせるような教材で、私自身満足できるものがあまりないと感じていたからです。ESL(注1)系の文法書には良いと感じる部分もありましたが、未習事項が多く出てきたり、日本語話者に対応していなかったりします。そこで、日本語を母語とする話者が、初歩から学びやすい文法の教材を、この本できちんと形にしたいという思いがありました。

(注1)ESL:English as a Second Languageの略。英語を母語としない人向けの英語教育・教材のこと。

実際に執筆を始めてみると、基礎的な事項を正確に記述する作業は、想像以上に大変でした。名詞の複数形の作り方など、本当に基本的なことでも、どこまでルール化して、どこからは「慣れて覚える」とするのか、その線引きが難しかったです。基本的なことを的確に教えるのは、非常に大変なのだと改めて気づかされました。

英文法学習に対する長年の問題意識

――この本を執筆するきっかけとなった、英文法学習に対する問題意識についてお聞かせください。

駒橋先生:英語圏で暮らしていない状態で英語を学ぶ場合、正しい英語を「習って慣れる」ことが大事だと思っています。しかし、世間で英語の4技能化が言われるようになってからも、英文法の学習は結局、「大学入試の文法問題を解くための学習」のまま変わっていないと感じていました。共通テストや東大受験の場合、4択の文法問題の対策をする必要はないのですが、多くの大学入試では今も文法問題が出題されています。

そのため、みんな基礎的な文法が理解できていない段階から、文法問題に取り組むわけです。ただ、こうした問題では不正解の選択肢や、正誤判定の誤文などを目にする機会も多いですし、不自然で変な英語が含まれている場合もあります。そうした間違ったものや不自然なものに触れる機会が多いと、正しい英語に十分慣れる前にそれが学習者に定着してしまうことがあります。これを何とかしなければいけないという思いは、20年以上持ち続けてきました。

2014年に当時勤めていた駿台予備学校の講師3人で、全国の先生方に向けたシンポジウムに登壇する機会がありました。ちょうど英語の4技能や大学入試への外部試験活用が話題になり始めたころです。そこで、正しいものに素直に触れて慣れること、なるべく自然な英語で学ぶことの必要性をお話ししました。その時に、学校の先生方から「ぜひ実現してください」と言っていただいたものを、ようやく形にできたという思いです。

実際の場面で使える「自然な」英語を

――それで本書では、不自然な英文を極力排し、自然な例文で学べることも大きな特長になっているんですね。

駒橋先生:そうですね。一つの特長ではあると思います。ただ、世の中で「自然な英語」と言うと、レベルの高い英語だったり、ネイティブらしい表現を指したりする場合もあります。しかしこの本で目指したのは、第二言語、あるいは外国語として英語を使う学習者が、実際に使えるようになるべきレベルの自然な英語です。つまり、基礎レベルでありながら、学習者が外国語として英語を使うという観点から見たときに、使う可能性が十分ある英語です。良い意味での「普通の英語」です。

例えば、第1文型と呼ばれることが多いSV型の文の例文で、This dog barks.という英文を使っています。「この犬は吠えるよ」、つまりそれってこの犬の性質だから気をつけてね、というように、実際の場面を想像しやすい英文*をなるべく使うようにしました。文法を学ぶためだけの英文にはしたくなかったのです。
*本書では文の型を数字で表すことはしていません。

中西:いわゆる第1文型の文で自然な英語ってどんなのがあるか、結構悩みましたよね。

駒橋先生:苦労しましたね。なぜなら、この本は積み上げ型で作っているので、まだ習っていないことを使えません。非常に多くの制約がある中で、それでも自然な英文にするのは相当苦労しました。そこはこだわった点の一つです。

――それは他の本にはない特長の一つですね。

駒橋先生:本当に、見る人が見れば「とんでもない本を書いたな」と思っていただけると思います。ただ、多くの人にはその苦労はなかなか伝わらないかもしれません…。

『Realize 英文法 MASTERY[基礎~必修レベル]』を特におすすめしたい学習者とは

――今回、基礎レベルの文法書を作られたわけですが、どのような悩みや状態にある学習者に特におすすめしたいですか。

駒橋先生:総括すると、この本の日本語の説明が分かる人には全員に勧めたいです。例えば、説明が理解できるのであれば、中学生から取り組んでもいいのではないかと思います。その段階でこの本の内容を身につけてしまえば、英語にかなり強くなります。ボトムアップを目指した学習書として、自信を持って誰にでも勧められる一冊になっています。

ただ、その中でも特におすすめしたい人がいます。

まずは、中学英語までは何となく定期テストなどで点が取れていたのに、高校英語になったら急に分からなくなった、できなくなったという高校生です。中学と高校で先生や塾が変わると、どこかで学習事項が抜け落ちる部分が出てきます。例えば、ある先生はとにかく英語に慣れさせる方針だったのに、学年や学校が変わると、別の先生は英文法の理屈が「分かっている前提」で説明することがあります。そこに溝が生じてしまう。この一冊に取り組むことで、その溝がきれいに埋まるといいなと思っています。

その他にも2つのおすすめしたいタイプの人がいます。

1つは、和文英訳でも自由英作文でも、英作文で減点されてしまう人です。「簡単なこと」だと軽く見ているようなことが、実際には書けないために点を落としているわけです。そこを軽く見ず、手を動かして、手が勝手に動く、口が勝手に動くという状態になると、英作文の得点が変わってくると思います。

もう1つは、普段学校などで活動を中心に英語を学んでいて、文法をきちんとやってこなかった人たちです。英語をフィーリングでやってきた人の中には、文法用語や機械的な説明が苦手な人もいます。本書は、文法用語はゼロではありませんが、不要なものは使わず、なるべく分かりやすい説明にしています。文法に苦手意識がある人も、まずはパラパラ見て、「これだったらできるかな」と感じたらぜひ使っていただきたいです。

英語を学ぶ中で起こる「学び逃し」について

――先ほどのお話の中で、中学から高校に上がって急に英語ができなくなったり、分かっているつもりでもいざ英作文で書いてみるとできなかったり、という部分を本の中では「学び逃し」と表現されていると思います。学習者自身は、その学び逃しに気づきにくいものですか。

駒橋先生:学習者自身は、学び逃しが生じているとは捉えていないと思います。ただ、何となくできない、分かっているはずなのに点が取れない、という感覚はあるのではないでしょうか。

例えば単語では、active vocabulary(アクティブ・ボキャブラリー/発信語彙)とpassive vocabulary(パッシブ・ボキャブラリー/受容語彙)という言葉がありますよね。自分で使いこなせる語彙と、見て意味が分かるだけの語彙は違います。文法や英文を組み立てる段階でも、同じようなことが言えると思います。つまり、読んで英文の意味が取れるということと、自分が使いたいように英語を使いこなせることにはギャップがあるということです。そのことは英作文の添削や、学生とのやり取りをする中で実感してきました。身についていないのに「分かっていて当たり前」とされていることがたくさんあるせいで、実際に書いたり言ったりする場面になるとできないのだと思います。

この本に取り組んでいただいて、そうしたギャップを埋めてもらえたら、私の添削業務も楽になりますし(笑)、もし学校で取り組んでいただけたなら、中高生のアウトプットする英語の質は絶対に良くなるはずです。そうなれば、「日本人は英語を話せない、書けない」という評価も多少なりとも変わるのではないかと思っています。

練り上げられた学習の順序

初学者から取り組みやすい設計

――この本の目次を拝見すると、一般的な学習書が品詞や文型から始まるのに対し、学習する順序や項目がかなり違うと感じました。どのような狙いがあるのでしょうか。

駒橋先生:まず、本当の意味で初学者から取り組める本にしたいという気持ちがありました。そのため、なるべく文法用語の負荷を下げた状態で、英文自体が分かることを第一に考えました。実例が先に身につき、理屈が後からついてくるという順番になっています

例えば、Chapter 3や4ではhaveやlikeなど具体的な動詞を扱っていますが、同じChapterの項目に数量表現なども含めています。というのも、「持っている」と言えるようになったら、「たくさん持っている」も言いたくなるはずだし、言えるようになってほしい。少なくとも初歩のうちは、実例を優先して、そこから「これはこういうものだ」と理屈を説明する流れにしたかったんです。

中西:だからChapter 1~4までは、どちらかというと「習うより慣れろ」に近い学習になっています。ここでは単純な英文を使ってはいますが、例えばI like ...という文は目的語に限定詞なしの複数形や数えない名詞を使うことも多く、これらを使いこなせることは非常に重要ですが、実は文法的には意外と難しい。まずは目的語という言葉を使わずに実例で慣れる形で導入しておいて、正しい使い分けを行うための概念を少しずつ入れ込みました。

細かいことを言いすぎず、まず文を見て意味が分かる、書ける、言えるという状態にしてから、「今までやったのはこういうことだったんだ」という話がChapter 5から始まります。目的語という用語もここで初めて登場します。

最初に品詞や文型みたいな「理屈を入れる」というやり方が合わないから脱落する人たちがいるわけで、前半はそこをひっくり返していますね。

駒橋先生:Chapter 1~4と、Chapter 5に1つの大きな境目がありますが、その後も一貫して、英文が分かることを優先した作りになっています。

一歩一歩積み上げながら、無理なく学んでいける順番にするうえで、「このタイミングでこれをアンロック(解放)してあげると、言えることや分かることが少しずつ増える」という、学習者の目線を大切にしました。例えば、過去形はかなり早めのChapter 6で登場させています。これは自然な英語で学んでもらうために、過去形を早めに解放して使えるようにしてあげる必要があるからです。単純現在形の英文って自然な英文にするための制約が非常に多いので、どうしても不自然な英文が混入しがちになります。そのような視点で、Chapter 10くらいまでは特に苦慮しながら作りました。

中西:Chapter 7の「名詞句の拡充」とChapter 8の「文の拡充」も特徴的な項目立てです。「名詞句の拡充」では、名詞を修飾する形容詞的なものや、早い段階で正確な知識を身につけておいて欲しい数量詞を扱っています。「文の拡充」では、副詞要素を置く位置など、文レベルで書ける・言えるようになってほしい項目を扱っています。

駒橋先生:こういう括り方をしている本はなかなかないと思いますが、未習事項がなるべく生じないようにしつつ、自然な英文だけで学ぶためには必然的だったと言えます。

「学び逃し」を防ぎ、必要な土台をしっかり築く

中西:学び逃しということで言えば、Chapter 9「否定文」とChapter 10「Yes-No疑問文」もかなり重要ですね。この本では、その後に登場する進行形、みらいの表現や助動詞、受動文でも、否定文にする方法、Yes-No疑問文にする方法をその都度きちんと扱っています。一般的な参考書では、否定文は現在形と過去形で学び、他の単元では「ここにnotを入れる」といった簡単な説明で終わることも多いですが、そうするといざ否定文を書かなければいけない場面で、実際に正しく書けないということが起きます。

駒橋先生:そういうパターンプラクティスはESLの本ではよくやりますが、日本の本では受信の視点で書かれることが多いので、そこまでしつこくやらないのかもしれません。

中西:空所補充問題では、notを選択したり書き込んだりすれば正解となりますが、notの前後がどうなっているのかを改めて聞かれると、実はよく分かっていないということもあります。それをなくしていくのが、「学び逃し」をなくすという話につながっています。

そしてChapter 11でようやく文型が出てきますが、編集者目線では、ここも第3文型から始めているところがよいと思いました。第1文型は修飾語句がついたり、there is構文が出てきたりして、突き詰めるとかなりややこしい。第3文型の方が素直で、実際の場面でもよく使いますし。

Chapter 11あたりまでに、どの英文にも必ず出てくる基本的な要素が一通りそろいます。そこまでを土台にして、ここから先は本格的な文法単元に入っていく、という構成になっています。

一文をまるごと書いて、声に出すことの重要性

――もう一つの特長として、文法の学習書でありながら、一文をまるごと書く、声に出すことを非常に重視されています。この部分の狙いを教えてください。

練習問題のほとんどは、正しい英語だけでなく、一文全部を書く

駒橋先生:基本的には、正しい英語をとにかくまねして、書いて、言って、慣れてほしいということです。単調かもしれませんが、それが十分にできて、正しい英語がきちんと自分から出てくるようになってから、文法問題を解く必要がある人は解けばよいと思っています。

英借文(注2)や瞬間英作文(注3)という言葉がありますが、それは英作文だから特別にやるということではなく、英語を学ぶこと自体が本来そうあるべきではないかと思っています。この本に取り組む中で、最初は単語が分からなくて正解できない人もいるかもしれません。でも、2回目、3回目に見た時に、「前に答えた、覚えた」と思いながら何度か書いて、結果的にスッと出てくるようになればよいのです。答えをまねるだけ、という形でもよいので、とにかく慣れてほしい。そういった意味では、本書は質の非常に高い瞬間英作文の本にもなっていると言えます。

(注2)英借文:既存の英文の型や表現を使って英文を作る方法。
(注3)瞬間英作文:日本語を見て、素早く英文を口に出したり書いたりするトレーニング。

この本では同じ基本的な型、同じ項目を使う文に何度も取り組んで慣れていきますが、これは英語圏で暮らしていない人たちにとって「必要なのに欠けがち」な部分です。それをしっかりやるべきだと思っています。

中西:問題の解答集はPDFにしています。スマートフォンに表示して、本の横に並べて答え合わせがしやすいからです。全部の問題と例文に音声がついているので、最終的にはトラック番号を参照して音声も聞いてもらえれば、暗記例文集のように使えるようになっています。

読者へのメッセージ

――最後に、この本で学習する方々にメッセージをお願いします。

駒橋先生:一つずつ積み上げていけるように丁寧に作りました。軽く扱われがちな易しめの言葉にも、きちんと説明を付けているので、楽しみながら少しずつ慣れていってほしいと思います。自分で発信できる英語を増やしていけば、しっかりとした基礎英語の土台ができます

英語を自分で書くことができれば、間違いなく読むこともできます。しっかり自分で書けるようになるところまでこの本と一緒に取り組み、基礎を築いていただけたら、著者としてはそれ以上の喜びはありません。ぜひ、自分で言えること、書けることを増やしていってください。

駒橋先生の本(共著)

駒橋輝圭(こまはしてるたか)
駒橋 輝圭(こまはし てるたか)

オンライン英語スクールE Cubed代表。駿台国際教育センター(帰国生・大学受験コース)や東進東大特進コースなどに出講。著書に『大学入試 無敵の難単語 PINNACLE 420』(共著、アルク)、『東大入試詳解25年 英語』(共著、駿台文庫)、『東大入試詳解20年 英語リスニング』(共著、駿台文庫)がある。東京大学文学部英語英米文学専修課程卒業。子ども時代を過ごした米国ミシガン州で英語を獲得した準ネイティブ・バイリンガル。英語感覚の的確な言語化に基づく授業で、初歩から最難関まで全レベルの学生から高い評価を得ている。

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