「しける(湿気る)」を英語で言える?ものまねと失敗が「英語を話す自分」を作ってくれる【英語アクショントレーニング 思考編】

俳優・英語コーチのヒロウエノさんが、英語を実践的に使うためのポイントを語る連載。第2回のテーマは、「英語を話す自分をどう作るか」です。私たちはなぜ、英語になると「正しさ」や「間違える恥ずかしさ」にとらわれてしまうのでしょうか。フレディ・マーキュリーのものまねや、「しける(湿気る)」を表す英単語を小さな子どもに教わった体験談などを通して、「英語を話す自分」を育てるヒントをお届けします。

英語の「正しさ」より「伝えたい」を先に

「英語を話すのが恥ずかしい」「緊張する」「間違えるのが怖い」――そう感じる人は多いと思います。僕自身、若い頃はそうでした。アメリカの大学にいた頃、授業で質問するために手を挙げるのは怖かったし、仕事で英語を使い始めてからも、話した後に「ああ、もっとこう言えたのに」「今の言い方は間違っていたな」と気にすることがありました。

でも今は、英語を話すことに全く怖さを感じません。そうなれたのは、英語力が上がって間違えなくなったからではなく、そもそも「ミスのない英語」を目指さなくなったからです。

考えてみてください。日本語で言い間違えても、僕たちはそのたびに深く落ち込みませんよね。ところが英語になると、途端に「正しい語彙を、正しい文法と発音で言わなければ」と考えてしまう。これって、相手に伝えることよりも、自分が上手な英文を言うことが目的になっている状態です。緊張や怖さは、そこから生まれるのではないでしょうか。

会話の目的は、きれいな英文を披露することではありません。たとえ下手でも、間違っていても、相手に言いたいことが伝わること。その目的に意識を向けられるようになると、間違いに対する感じ方も少しずつ変わっていきます。もちろん僕も、「ある日突然怖くなくなった」わけではありません。自分では大きなミスだと思っても、周りは案外気にしていないんだ――そう思える経験を重ねるうちに、徐々に慣れていきました。

前回も少しお話ししましたが、英語を話すというのは“運動”、つまり体を使うことでもあるんです。普段ピアノを弾いていない人が突然人前で弾けば緊張するように、しばらく英語を使っていなければ、久しぶりの会話で緊張するのは自然なこと。怖がる自分を責めるより、少しずつ使う回数を増やしていき、体や頭を鍛えていけばいいのだと思います。

「別人格」になって英語を話せばいい

僕は、英語を話しているときと日本語を話しているときでは、自身の性格や物事の捉え方が少し違うと感じています。英語では“I want ...”のように、自分の意思や文の核になる部分を早い段階で口にしますよね。一方、日本語では、前置きを重ねながら結論へ進むことも多い。使う言語が変われば、言葉の組み立て方だけでなく、世界の見え方や自分の振る舞いも微妙に変わるのではないでしょうか。

僕自身は、日本語で話している状態から英語へ切り替えた直後は、今でも少し気持ち悪さがあるというか……。スイッチを押すように一瞬で切り替わるのではなく、しばらく話しているうちに、だんだん英語を話す自分になじんでいく。だから、英語のときに性格や価値観が変わるのはおかしなことではないし、むしろ変わることが自然だと考えます。

中学生の頃、クラスメイトに笑われてもネイティブのような発音をまねて教科書を読んでいたのも、自分の中に「英語を話す人」のイメージがあったからでしょう。その人になったつもりで口を動かすことで、普段の自分なら感じる照れを乗り越えられていたのかもしれません。

フレディ・マーキュリーのまねが「英語を話す」ヒント!?

そこで皆さんにぜひ試してほしいのが、好きな歌手や俳優、海外ドラマの登場人物のものまねです。せりふを正確に繰り返すだけではなく、声質や表情、体の動きまで、その人に近づけてみてください。似ているかどうかは問題ではありません。自分の中でできる限り、その人になりきることが大切です。

例えば、クイーンのフレディ・マーキュリーの歌をまねるなら、音程や歌詞だけでなく、声の出し方や身ぶりまで含めてフレディになってみる。そうすると「英語を上手に言わなければ」という意識が薄れ、その人らしい声や性格に引っ張られるように、英語が出てきやすくなります。

これは俳優が役に入る過程にも似ています。俳優は衣装を着て、メイクをすると、気持ちや振る舞いが大きく変わります。役作りにおいて、「ある動物をイメージして動き、その特徴を人物の体の使い方に生かす」なんてこともあります。外側の形を変えることで、内側の感覚も変わっていく、というわけです。

英語でも同じことが言えます。いつもの自分のまま、発音だけを英語らしくしようとすると、照れが残りやすい。けれど、「今はこの人になって話す」と決めて、声や体ごと変えてみることで、英語を話すための別の自分に入りやすくなります。洋楽や海外ドラマが好きならぜひ、勉強だと構えず、まずは一人で遊び半分にまねてみてください。

現実が「いつもの自分=英語が話せない自分」なら、他人のまねをすることで、もう一人の自分を作る。しかし、それも「自分の一種」です。なので、ものまねは「英語を話せない自分(現在)」と「英語を話す自分(未来)」の間に存在してくれる「もうひとりの自分」という捉え方です。

「好き」や「興味」を英語への入り口にする

俳優を続けていると、「自分のどこを周りが価値として見てくれているのか」が少しずつ分かってきます。僕の場合、声や笑顔を評価していただくことがあり、それが自分の強みなのだと気づきました。強みが分かれば、そこを意識して磨き、仕事の中で生かすことができます。

英語学習でも、自分の得意なことや好きなことを起点にしていいと思います。音楽が好きなら、好きなアーティストについて英語で話せるようにする。絵画、旅行、パズル、動物など、何でも構いません。「このテーマなら話したい」と思えるものがあれば、伝えたい内容が先に立つので、英語の正しさばかりを気にせずに済みます。

英語のために自分を一から作り替える必要はありません。すでに持っている興味や強みを使って、「英語を話す自分」を育てていけばいいのです。

間違いは、決して忘れない英語を増やしてくれる

また、周りとのコミュニケーションも、「英語を話す自分」を築くためにとても大切です。

アメリカの大学に通っていた頃、撮影現場でエキストラの仕事をしたときのこと。同じエキストラの男性が、6、7歳くらいの娘さんを現場に連れてきていました。休憩中にその娘さんと一緒にソフトクリームを食べたんですが、コーンがしけていたのでおいしくありませんでした。僕は「これ、しけているね」とその子に言いたかったのですが、ぴったりの英語が分からない……。そこで知っている単語をつなぎ合わせて、“This cone has moisture. It’s not crispy.”などと懸命に説明しました。

すると、彼女は“Stale?”って。“You mean ‘stale’?”って静かに、ちょっと怪訝な顔で(笑)。stale は、「新鮮でない」「(パンや菓子などが)古くなった、しけた」という意味です。僕は大学で難しい単語をいろいろ学んではいたけれど、日常生活で子どもが使うこの言葉を知りませんでした。「日本にいたら習うことはなかっただろうな」というのと、「小さな子どもに教えられた」という光景が結び付いて、今でも忘れていません。

また別のある日、友人に「彼女はリチャードと付き合っている」と伝えようとして、“She’s dating with Richard.”と言ったことがあります。すかさず友人が「with は要らない」と教えてくれて、ただしくは“She’s dating Richard.”だと知ることができた。このときも、教えてくれた友人の名前や、その会話をしたカフェの店名まではっきり覚えています。

もし間違えず、用意した通りの文だけを上手に言えていたら――これほど強く記憶には残らなかったでしょう。間違いは、自分のだめな部分を示すものではありません。相手に助けてもらいながら意味を伝え、新しい表現を自分のものにするきっかけです。そして同時に相手にとっても、「こんなやりとりをした」という忘れられない楽しい思い出になります。

決められた台本を正確に読むだけでは生まれない、その場限りのやりとりがある。間違いがあったからこそ、2人の間だけのコミュニケーションになるのです。そう考えると、失敗は恥ずかしいものではなく、むしろ会話を面白くしてくれるものに見えてきませんか?そういう出来事や思い出の積み重ねこそが、人生における財産だと僕は思っています。

「伝えたい」を先に置けば、英語を話す自分は育っていく

大切なのは、完璧に話せる自分を準備してから会話を始めることではありません。好きな人のまねをしてみる。自分が夢中になれることを英語で話してみる。知っている言葉だけを並べてでも、相手に伝えようとしてみる。そうした経験の積み重ねが、英語を話す自分を少しずつ作っていきます。

日本語を話すときとは違う声、違う表情、違う性格になっても大丈夫。むしろ変えてみましょう!その変化を楽しみながら、まずは「正しく言えるか」ではなく、「この人に伝えたい」という気持ちを前に出してみてください。言葉を間違えたとしても、コミュニケーションまで失敗になるわけではありません。むしろ思い出に残り、大成功ではありませんか!相手と向き合い、伝えようとした瞬間から、英語はもうあなた自身の言葉になり始めているのですから。


ヒロウエノ
ヒロウエノ

俳優、英語指導。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)哲学科卒。英語指導・通訳を担当した映画『ドライブ・マイ・カー』(2021年、濱口竜介監督)が第94回米アカデミー賞で日本映画初の作品賞・脚色賞を含む4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞した。映画『コットンテール』(2023年、パトリック・ディキンソン監督)、「東京サラダボウル」(2025年、NHKドラマ10)では英語指導を務めた。俳優としての出演作は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」八十田明太郎役、CX「ナンバMG5」松島雄平役、映画『Red』(2020年、三島有紀子監督)安藤ウェス役、NHK連続テレビ小説「ばけばけ」福間役、映画『レンタル・ファミリー』(2026年、HIKARI監督)など。2025年6月より、NHK WORLD JAPAN「Japan Railway Journal」にてプレゼンター(MC)としてレギュラー出演中。
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