この連載では『改訂版 キクタンBRITISH』(アルク)の著者・小川直樹先生が、本書の内容よりさらに詳しくイギリス英語の発音の秘密を深掘りします。第5回は名詞+名詞、形容詞+名詞以外の強勢型を扱う応用編。A and Bの句・所有格で始まる句・略語などに加えて、句になると単語のときと違った強勢型となる現象(強勢移動)を取り上げます。
※この記事では、強勢(アクセント)の位置を分かりやすく示すために一部の英単語の文字の大きさを変えて表示しています。文字の大きさが正しく表示されない場合、English Journalのオリジナルサイトをご覧ください。
(第1回~第4回の記事はこちら)
A and Bはどう読む?
まず最初は、世の中のいたるところにある、A and Bという句の読み方です。これ、Aが強い(つまり前方強勢)ですか、それともBが強い(後方強勢)ですか。日本の英語の教科書にも、たくさん出てくる表現です。でも皆さん、この強勢のつけ方、習ったことがありますか。
この問題は、BE(イギリス英語)ではすこぶる重大な問題ですよ。なにしろ、英国を代表する食べ物がfish and chipsなのですから。(第1強勢のつく単語は大文字で表します。カッコのついた数字は、『改訂版 キクタンBRITISH』(以下「キクBR」)の見出し語番号です。番号に「解説」とついている場合は、見出し語以外の解説部分に含まれる句であることを意味します。)
- fish and CHIPS (386) 「フィッシュ・アンド・チップス」
fish and CHIPSは後方強勢です。言うまでもなく、これに限らずA and Bという句では、Bのほうが強いのです。つまり後方強勢なのです。
BEではとりわけよく使われるので、きちんと使いこなしてほしいものです。実際、「イギリス名物料理」(pp. 114-115)のセクションでは、さらに2つ出てきます。

- bangers and MASH (387) 「バンガーズ・アンド・マッシュ」
- bubble and SQUEAK (393) 「バブル・アンド・スクイーク」
bubble and SQUEAKはキクBRにイラストが出ていないので、一言説明しておきましょう。主要な材料は加熱して柔らかくなったジャガイモとキャベツです。それを混ぜて固めて、外側がカリカリになるまで焼いた料理です。いわば英国版お好み焼きです。
その他、こんな句もキクBRには出てきます。
- nooks and CRANNIES (320) 「でこぼこ、小さいすき間」
- profit and LOSS account (404) 「損益計算書」
- bits and BOBS (421) 「こまごましたもの」
- Tate & LYLE (434) 「テート&ライル(砂糖のブランド)」
profit and LOSS accountでは一見、後方強勢というより中ほどに強勢があるように見えます。でもこれは、LOSS accountという複合名詞が、andでprofitと結びつけられたものです。やはり後方強勢なのです。
Tate & LYLEは固有名詞ですが、もちろん同じルールが適用されます。
ところでキクBRには出ていないものの、超基本的な句であるbread and BUTTER(*)ももちろん後方強勢です。とにかくA and Bの句はきわめて頻繁に使われます。自然と後方強勢で言えるようにしたいものです。
(*編集部注:bread and butterはもともと「バター付きのパン」のことですが、そこから転じて「生活の糧」や「生計を立てる手段」という意味のイディオムでもよく使われます。)
所有格はどう読む?
次は、所有格+名詞の場合です。これ、どう読めばいいのでしょうか。答えは、後方強勢です。
- Giant’s CAUSEWAY (302) 「ジャイアンツ・コーズウェー(北アイルランドの海岸地域の名)」
- shepherd’s PIE (388) 「シェパーズ・パイ」
所有格の表現は、後ろに続く名詞を修飾する表現です。つまり形容詞の役割をするからです。
略語はどう読む?
アルファベットを並べた略語も後方強勢です。最初の文字に第2強勢、最後の文字に第1強勢が置かれます。(このセクションでは、第1強勢は大きな文字で、第2強勢はそれよりも小さい太字で表示します。文字強調が正しく表示されない場合、English Journalのオリジナルサイトからご覧ください。)
- CV (418) 「履歴書」
2語の場合は、CVとなります。第2+第1強勢、つまり中⇒大というリズムです。英国を表すUKも同様です。managing DIRECTOR (401)の略称MDもこのパターンです。
ところで、CVの元の形は、curriculum VITAE (418 解説)です。BEの代表的な発音は[kərɪ̀kjələm víːtɑɪ]で、これも後方強勢です。この句が後方強勢になるのは、これがラテン語の表現で、発音もラテン語の影響を受けているためです。
3文字の略語の場合
3文字の場合も、最初の文字が第2強勢、最後の文字が第1強勢です。その間は弱まります。結局、中小大というリズムになるのです。
- AGM (400) 「年次株主総会(annual general meetingの略)」
解説欄には、他にIPO (397解説)「新株発行(initial public offeringの略)」、CEO (401解説)「最高経営責任者(Chief Executive Officerの略)」などが出てきます。また、USAも当然この読み方です。
3単語の句の場合
ところで、AGMとは、(400)の解説に出ているようにannual general meetingの略です。この3語の句は、形容詞+形容詞+名詞という構造です。これもAGM同様の読み方をします。つまり、中小大というリズムです。
- annual general meeting
英語のリズムでは、強と弱が交互に並ぶのが基本です。この句は後方強勢なので、一番強い最後から逆算して強弱が決まります。それで中小大というリズムになるのです。
その他の元々の表現の読み方は、こうなります。
- initial public OFFERING (397解説)
- Chief Executive OFFICER (401解説)
強勢は移動する!?
略語の強勢の話のついでに、英国の紅茶の代表的な庶民派ブランドのPG Tipsの強勢型を説明しておきましょう。PGは単独なら、PGです。略語の強勢規則に従って後方強勢です。しかし、それにTipsがくっつくと、Gにあった強勢がPに移ってしまうのです。
- PG+Tips ⇒ PG TIPS (433)
英語では、強勢同士は隣り合いたくないからです。強勢はライバル心が強く、お互いに目立ちたいのです。PG+Tips をそのまま発音すると、GとTipsが隣り合っちゃいます。これではお互い目立てません。そこで、第2強勢を受ける側の単語(PG)は、第1強勢からできるだけ離れたところに、自分たちの単語の強勢の居場所を移すんです。
そもそもPG Tipsは名前なので後方強勢。第1強勢はTIPSで確定です。PG側の強勢は、前に移動するしかありません。それでPのほうに逃げていくわけです。
ちなみにこの規則は「強勢移動」といいます。英語では案外多い規則。「強勢移動」については拙著『耳慣らし英語リスニング2週間集中ゼミ』(アルク)のpp. 30-31で詳しく扱っています。(なお、キクBRの音源では、ナレーターのエマさんがリズムに合わせて発音したため、Pに第1強勢を置いたような発音に聞こえます。)
- fish and chip RESTAURANT (360解説)
強勢移動のもう1つの興味深い例です。fish and CHIPSという句にrestaurantがくっつくと、fish and chip RESTAURANTとなります。場所を表す名詞なので、基本的に後方強勢。restaurantが一番強くなります。
第2強勢が置かれるのは、fish and chipの中で、できる限り前にある、強勢を置ける場所……ということでfishが選ばれるのです。(なお、ここでのfish and chipsは形容詞として使われるので、複数形の-sは不要です。)
前回、地名の強勢のところで挙げたTottenham Court Road STATIONの四段活用、実はあれも強勢移動が起こった例です。だからこそ、常に出だしのTottenhamに第2強勢が置かれるのです。
- TOTTENHAM+COURT ⇒ Tottenham COURT
- Tottenham COURT+ROAD ⇒ Tottenham Court ROAD
- Tottenham Court ROAD+STATION ⇒ Tottenham Court Road STATION
※再生ボタンを押すと音声が流れます。ボタンが見えない方はオリジナルサイトでご覧ください。

(次回に続く)
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