連載「使いこなせる!英会話頻出ワード」。言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、「英語のネイティブスピーカーがよく使うけれど、日本語では理解しづらい言葉」を徹底解説します。今回、アンちゃんが取り上げるワードはcountry。日本語の「田舎」とどう違うのか、詳しく教えてもらいましょう。
「田舎」と「country」のニュアンスの違い
告白しなければならないことがあります。
私はバリバリ田舎者です。
皆さんも分かっているかもしれませんが、都会に行くたびにドキドキします。人の多さ、にぎやかさ、建物の高さ・・・。東京に行くと、ずっと上を見ている気がします。
ちなみに、この原稿を書いている今、私は東京に来ています。無事に羽田空港から西麻布にあるホテルに着くことができたので、もしかしたら、アンちゃんは成長したかもしれません!今までは分かりやすいJR山手線から少し離れるだけで不安になりましたが、昨日は自信を持って東京メトロに乗りました!
私は田舎者ですが、都会は大好きです。博多、大阪、東京などに行くたびに、震えながらもワクワクします。おしゃれな洋服を着ている人がたくさんいたり、知らないすてきな匂いが漂っていたり、とにかく刺激的です。とはいえ、都会にずっと住みたいとは、あまり思いません。いつか有名になって、渋谷でワンルームマンションを借りることができたらいいとは思いますが、やはり田舎が落ち着きます。
田舎という言葉は、人によって捉え方が全く異なるのではないでしょうか。この言葉が好きな人もいれば、あまり好きではない人もいると思います。先日、島根県の出雲に関する記事を書きました。その中で、褒めるつもりで「田舎」という表現を使ったところ、友人が「『田舎』という言葉は使わないほうがいいよ。嫌だと思う人がいるから」と言いました。
ええ?そうなの?
英語のcountryには、それほどネガティブなニュアンスはないと思いました。そこで今回は、英語のcountryとその類語について話していきたいと思います。
さて、始めましょう!
日本ではなぜ「カントリー・ロード」が人気なの?
でも、ちょっと待って!先ほど、countryにはそれほどネガティブなニュアンスは入っていないと思うと書きましたが、実は少しネガティブな意味があるかもしれません。日本人が大好きな曲「カントリー・ロード」に出会ったときのエピソードから説明させてください。
昔はアメリカでも「カントリー・ロード」は人気がありましたが、今、この曲を歌う若者はほとんどいないと思います。でも、日本に来てみたら、驚いたことに老若男女が「カントリー・ロード」の魔法にかかっていることが分かりました。もしかしたら、英語の歌詞が歌いやすいからかもしれません。多くの人は、カラオケで誰かに「英語の曲を歌って!」と言われたら、大体次のような感じの曲を選びます。
1.カントリー・ロード(ジョン・デンバー)
2.アイ・ウォント・イット・ザット・ウェイ(バックストリート・ボーイズ)
3.トップ・オブ・ザ・ワールド (カーペンターズ)
4.ビートルズのなんとか
そして、私が「出身地はバージニアです」と言うと、相手は大抵、「ああ!ウェストバージニアだ!知っている!カントリー・ロードだ!」のような反応をしました。確かに「カントリー・ロード」の歌詞に、“West Virginia, mountain mama / Take me home, country roads”とあります。
そう言われたときに私の反応はというと、
「違うよ!ウェストバージニアじゃなくて、バージニアだよ!」
私の故郷バージニアは間違いなく田舎ですが、自分の中では隣のウェストバージニアほど田舎ではありません。ウェストバージニアこそ、「ザ・田舎!」という感じです。
ここで気付くのは、私の中に少し偏見があるということです。でも、私だけではなく、多くの人がそう思っているはずです。田舎といえば、ウェストバージニアです(笑)。
でも、ウェストバージニアに住んでいる多くの人たちは、ウェストバージニアが好きです。そして、そのド田舎感が大好きなのです。ですから日本語の「田舎」と同じように、言っている人と言われた人では、その言葉から感じるものが違うかもしれません。
例えば、英語で誇りを持ってI’m a country girl.と言う人はたくさんいます。「田舎生まれ、田舎育ちの女性でいて良かった!」というニュアンスがあります。
また、自信満々ではなく自虐的でもない、ニュートラルな意味合いもあります。
I’m a country girl, so I get lost every time I go to the city.
私は田舎者で、都会に行くといつも道に迷う。
I’m a country girl, so I like pickup trucks and country music.
私は田舎者だから、ピックアップトラックとカントリーミュージックが好きです。
そうそう!今アメリカではカントリーミュージックが大ブームになっています。私が小さい頃は、アメリカの南部に住んでいる人にファンが多い印象でしたが、今は全国に広がっています。最近は、音楽のジャンル的に日本の演歌に近いのでは?と感じています。主なテーマは、故郷、失った愛、お酒などです。
田舎に住んでいる人の多くは、多分、自分の住む場所が大好きです。でも、都会に住む人は、無意識に田舎に住む人を見下しているときがあるかもしれません。
私は田舎暮らしが好きなので、countryも「田舎」も、使うときは誇りを持って使っています。ちなみに、私が住む福岡県宗像市は「ちょうどいい田舎」です。この言い方は私が考案しました。なかなか良いでしょう?日本で今、はやっている言葉で表現するなら「トカイナカ」です。
ところで、country girlはネガティブな度合いが低いですが、同じ田舎者を指す言葉でも、country bumpkinやredneckは明らかにネガティブな意味で使われます。
例文を見てみましょう。
He’s just a country bumpkin. He doesn’t know much.
彼は実に田舎者で、何も分かっていない。
He and his friends are all rednecks. They are always getting into trouble.
彼らは田舎者そのものだ。いつも何かのトラブルに巻き込まれている。
redneckという言葉は農業に由来するそうです。農業に従事する人たちはずっと外で作業をするので、首の部分が日焼けをしたのです。これと似たように単語にfarmer’s tanがあります。日本語で言うと「くっきり半袖焼け」です。
I played tennis outside all summer, so I have a terrible farmer’s tan.
夏中、屋外でテニスをしていたから、くっきりと半袖焼けした。
He works in construction in the sun all day, so he has a serious farmer’s tan going on.
彼は一日中、日に当たって仕事をしているので、半袖焼けがひどくなっている。
Ah, I hate my farmer’s tan!
この半袖焼けが嫌い!
redneckの話に戻りましょう。
辞書で調べると、日本語での定義は「無学の白人」です。
はい、確かにそんな感じです。ですから、学のある人がredneckと言ったら強烈な侮辱になります。でも、redneckになっている本人が「自分がレッドネック」と言うときは、その発言に誇りを持っているかもしれません。コメディアンのジェフ・フォックスワーシー氏は、レッドネックのネタを自分のものにして、有名になりました。
面白いですね。どんな言葉も、それを使う人の視点次第ということです。でも基本的には、redneckもcountry bumpkinも侮辱的な言葉と思ったほうがいいですね。アメリカでは絶対に、
He’s a country bumpkin!
Hey, redneck!
You are a redneck.
というようなことは言わないようにしましょう。
一方、countryに住んでいる人がcity folk(都会人)と言うときにも、若干の侮辱を含んでいることがあります。
Y’all are a bunch of city folks so I bet you can’t ride a horse!
あなたたちは都会っ子だから、間違いなく馬には乗れないだろうね。
田舎って一体どこ??
ところで「田舎/country」とは具体的にどんな場所を指すか、考えたことはありますか? 私は、日本とアメリカとでは、一般的な「田舎/country」のイメージが異なると思っています。
私は大学院にいたときに、現在勤務している北九州市立大学の「ひびきのキャンパス」の面接を電話で受けて合格しました。実はその大学がどんな所にあるか知らなかったので、北九州の都会エリアに住む友人に、私の代わりにキャンパスを見に行ってもらいました。
そして、彼女から報告がありました。「バリバリ田舎バイ!」
アメリカのバリバリ田舎で生まれ育った私にとって、「バリバリ田舎」とはヤギや牛を普通に見かけ、見渡す限り野原が広がっているような所です。
でも、実際に北九大のひびきのキャンパスを訪れてみたら、そこは私が思う「田舎」ではありませんでした。牛はいない。住宅もたくさんある。スーパーもホームセンターもあって、わりと過ごしやすい、というのが私の印象でした。
ただ、鉄道の駅が遠かった。最も近い駅までバスで20分かかりました。そして、そのバスは1時間に2本しかありませんでした。
そうか。日本人にとっては・・・「田舎=交通の便が悪い」。なるほど。
つまり、英語でI live in the country.と言うときと、日本語で「田舎に住んでいる」と言うときとでは、話している人が思い描く風景が異なるということです。
英語で I live in the country.と言ったら、必ず南部なまり、カントリーミュージック、野原、ウシ、ヤギなどが頭に浮かびます。
ちなみに、countryと似たような意味を持つruralという語があります。これは形容詞で、意味は、
田舎の、田園の、田舎風の、農業の
この反対語で、「都会の」を表すのはurbanです。
例文を見てみましょう。
I have lived in a rural area all my life, so I want to move to a big city after college.
生まれてからずっと田舎に住んでいるので、大学卒業後は大都市に引っ越したい。
It’s a pretty rural area, so there are not many restaurants to choose from.
かなり田舎なので、飲食店の選択肢が少ない。
I love the scenery in rural Virginia.
バージニアの田舎の風景が大好きだ。
I live in a rural area of Virginia.
私はバージニアの田舎町に住んでいる。
It’s really expensive to live in urban areas.
都会に住むのは本当にお金がかかる。
I like living in Munakata because it is rural but close to urban areas like Fukuoka and Kitakyushu. It’s a super convenient place to live.
田舎ではありますが、福岡市や北九州市のような都会に近く、宗像市での生活は好きです。とても住みよい所です。
It’s rural, but it has an urban vibe about it.
田舎ですが、都会の雰囲気があります。
The urban areas of Hakata and Tenjin are the business hubs of Fukuoka prefecture.
都会の博多と天神は、福岡県のビジネス拠点となっています。
the booniesはどこ??
単語をあと二つ紹介したいと思います。
the booniesはthe boondocksの省略で、「マジで何もないとこ!」を表します。この単語の由来は面白いです。
boondocksは、フィリピン語のbundok (mountain/山) から来たそうです。1910年に初めて使われたという説がありますが、フィリピンに派遣されたアメリカの兵士たちが第2次世界大戦のときに、再びはやらせたそうです。田舎のエリアについて話していたときにboondocksを使いました。
そして、ベトナム戦争のとき、再びアメリカの兵士たちがサイゴン(現在のホーチミン)以外の所を示すために、boondocksをさらにbooniesに省略したそうです。(参考:www.etymonline.com/word/boonies)
私の夫はフィリピン生まれのアメリカ人ですが、この情報はきっと知らないと思うので、早速使ってみたいと思います!
では、例文を見てみましょう。
I live in the boonies. There is nothing around my house for miles and miles.
私はど田舎に住んでいる。家の周りは見渡す限り何もない。
That area is really the boonies. I don’t think they even have running water there.
あの辺りは本当に何もないよ。水道水もないかも。
I hate living in the boondocks. I want to live in an urban area after I graduate.
へき地に住むのが大嫌い。卒業したら都会に住んでみたい。
もう一つの似たような表現は、in the middle of nowhereです。直訳すると「何もない所の真ん中」。面白いですね。
I ran out of gas in the middle of nowhere. It took two hours for a tow truck to come.
何もない所でガス欠になってしまった。レッカー車が来るまで2時間待った。
That school is in the middle of nowhere. There are only ten students in the whole school.
あの学校はど田舎にある。全校で生徒が10人しかいない。
booniesもboondocksも、言う人によってニュアンスが違ってきます。少し見下しているつもりで言う人もいますし、ニュートラルな意味合いで言う人もいます。いずれにしても、「何もないとこ!」という意味だと覚えておきましょう。
まとめ
長く日本に住んでいる私が、いろいろ考えた上で出した結論は、やはり日本の田舎は「駅が遠い所」で、アメリカのcountryは「ウシやヤギがいる所」です。
ところで、田舎かどうかが判断されるもう一つの基準として、なまりや方言があります。
例えば、アメリカ南部なまり(southern accent)で話すと、学がない、あまり教育を受けていない、という偏見も残っていると思います。もちろん、頭がとても良く、一流大学を出て、こてこての南部なまりを話す人はたくさんいます。早く、そんな偏見がなくなるといいと思います。
ちなみに私も日本に来る前は、南部なまりが半端ではありませんでした。アメリカで大学に進学したときに、周りの友達から「ね、ね!何か言って!なまりを聞きたい!」と興奮した様子で言われたことがあります。日本に来てからは、分かりやすい英語を話す必要があったので、私は標準的な英語を使うようになりました。しかし、実家に行くたびに、あのすてきな南部なまりが私の口から自然と出てきます。最高に好きです。
私は、田舎者です。アメリカの田舎にずっと住んでいて、そして、日本の田舎にも住んでいます。私が話す英語も日本語も「標準語」ではありません。でも、それはバリバリ魅力的だと思わん?
田舎に住んでいることが私の誇りです!
I’m proud of being a country girl!
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写真:Andreas, Danielle Teychenne from Pixabay
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