頑張って英語学習を続けているのに、一向に英語力の上達を感じられない!と思ったことはありませんか?本連載では、イングリッシュ・ドクターの異名を持ち、1万人以上の英語学習者を見てきた西澤ロイさんが、あなたの英語の悩み「英語病」の解決方法を処方します。第5回は、日本人が英語のリスニングが苦手とされる本当の理由と、効果的なリスニング力アップの方法をご紹介します。
英語のリスニングが日本人にとって鬼門であるワケ
英語のリスニングに自信がある――という日本人の方は少ないでしょう。「スピードが早過ぎてついていけない」という人や、たくさんリスニングをしているけど一向に上達しない・・・という人も多いのではないでしょうか。また、かなり学習を重ねた結果としてTOEICでハイスコアを持っていても、「生の英語になると歯が立たない」という人も少なくありません。
日本語を母国語とする人が英語のリスニングを苦手としてしまうのには、きちんと理由があります。そもそも日本語に含まれる音の数が、英語と比べると圧倒的に少ないのです(母音は、日本語だと5個ですが、英語ではその倍以上で、それらを区別できなくてはなりません。また子音に関しても、日本語は約15個ありますが、英語では20個以上存在します)。
そのため、日本語を聞くのと同じような意識のまま英語のリスニングを行なっても、音がなかなか耳に入ってきません。結果として、たくさんリスニングをしてもリスニング力がほとんど上達しないケースが非常に多いのでご注意ください。
英語のリスニングは、日本人にとって鬼門だと言えます。その理由は、日本語と英語の「音の違い」や無知などに起因する、さまざまなハードルや誤解が存在するからです。それらがまるで「落とし穴」のように次々と待ち構えているため、正しいやり方でリスニングができていない人が非常に多いのです。
英語は「音が変化するから聞き取れない」のではない
例えば、英語が聞き取れない原因として多くの人は、音が変化する(前の音とつながる、音が落ちる etc.)からだと思っています。しかし、それがリスニングを苦手とする根本原因ではありません。音が変化しようがしまいが、聞き取ればよいだけの話なのですが、それができていません。音の変化以前に「音自体が聞き取れていない」のです。
例えば「This is a pen.」という音を聞かせたら、たいていの人が「This is a pen.」だと分かるでしょう。しかし、それは前後関係や経験値などからそのように“判断”できているだけであり、厳密な意味でthis(発音記号で書くと[ðis])という音が“聞き取れている”わけではないケースが非常に多くあります。
日本語に存在しない音は基本的に、きちんと発音練習をしない限り聞き取れません。つまり、日本語よりも音の多い英語をきちんと聞き取れるようになるためには、発音練習も含め、英語の音に対する意識を根本的に変えるところから始める必要があるのです。
「リスニング」に関する英語病診断チャートに挑戦してみよう
では一体、どのような意識を持って、どのようにリスニングの学習をしていけばよいのでしょうか?
英語の上達を妨げるさまざまな要因を、イングリッシュ・ドクターの私は「英語病」と呼んでいます。拙著『英語学習のつまずき50の処方箋』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、リスニングに関するさまざまな英語病を紹介しています。
そして、落とし穴のように待ち構えているリスニング関連のさまざまな英語病に関して、かかっていないかを調べることができる診断チャートをこの度開発しました。下のチャートで、質問に対して「はい」「いいえ」を選んでいってください。行きついた英語病に関して、かかっている恐れがあることが判定できます(「かかっている」と断定するものではありません)。
それでは次に、各英語病の概要について解説します。落とし穴に落ちることなく、効果的なリスニング学習を行なっていただくのにご活用いただければ幸いです。
特にリスニングが苦手な人が陥りやすいポイント
まず大前提として、特に初級者が絶対にやってはいけないのは、「英語をただ聞き流す」という聞き方(31. ノイズリスニング病)です。英語の音声を聞き流すと、自分で発音できない、日本語にない音は、脳が雑音として処理してしまうことが脳科学的に明らかになっています。つまり、上達はほとんど得られないと考えてください。まずは真剣にリスニングをすることが欠かせません。
ただし、注意点があります。真剣に聞いているつもりであっても、リスニング中に意味を考えたり、推測したり・・・という間違った聞き方をしてしまうことにより、結果的に聞き流すのと似たような結果になってしまうのが「34. 結果性ノイズリスニング病」です。そうならないためには、音を“聴く”ことに集中する必要があるのです。
次に、初級者が陥りがちなポイントが、英語の音声は速過ぎるから・・・と、ゆっくり発音している教材を求めてしまうこと(32. スロー教材癖)です。英語は本来、ゆっくりしゃべることが難しい言語ですから、不自然な音になってしまいます。また、遅い英語に慣れてしまうと、なおさら自然な速さの英語についていけなくなります。
また、多くの人が癖になっているのが、リスニング中に知っている単語や大事なキーワードを探すような聞き方をしてしまうこと(33. キーワードリスニング症)です。知らない単語であっても聞き取れるのが「本物のリスニング力」であり、知識に頼った聞き方をしていては、いくら聞いてもリスニング力は伸びません。
リスニング中に「意味」を考えてはいけない?
上記のような英語病を回避するためにも、リスニング中に持つべき正しい意識について解説します。
大原則として知っておいていただきたいのは、リスニング中には意味を考えてはいけないということです。英語の音が聞き取れるようになるためには、耳を鍛えなければなりません。ですから、何も考えずに音だけに集中して“聴く”という姿勢が欠かせないのです。
しかし多くの方が(既に癖になってしまっていますが)、リスニング中に意味を考え、前後関係を推測し、内容を理解しようとしてしまいます。そのような聞き方で身に付くのは、推測力とわずかな経験値くらいでしょう。耳のトレーニングをしなければならないことを、ぜひ肝に銘じておいてください。
また、よくいただく質問は「意味を考えなければ、意味が分からないのではないか?」というものです。意味を理解する行為は、リスニングではなくリーディングです。ですから、意味をきちんと取ること(リーディング)は、耳のトレーニング(リスニング)とは別に行なう必要があります。
また、「意味を考えない」というのは、あくまでも「リスニングのトレーニング中」の話だと捉えてください。実際の英会話の現場においては、意味を必死に考え、推測をする必要があるでしょうし、それでよいのです。ただし、普段のリスニング練習中に、意味を考え推測をしていたら、耳のトレーニングにほとんどならず、リスニング力は伸びない――ということです。
なお、リスニング中の正しい意識を養成できる教材として、拙著で恐縮ですが『TOEIC L&Rテスト最強の根本対策 PART1&2』(実務教育出版)をおすすめします。これは、TOEICの受験とは関係なしに、「ディクテーション」、つまり聞こえてきた英語を書き取ることを通じて、音への意識を高め、耳のトレーニングが行なえる教材です。
リスニング力が頭打ちになってしまう原因とは?
では次に、ある程度正しい意識を持って耳のトレーニングを行なえるようになった後に大事なポイントをお伝えします。
まず、必ずスクリプト(文字起こしやテキスト)の付いた音声を使い、きちんと確認するようにしてください。それを行なわない英語病が「35. スルーリスニング病」です。また、スクリプトを確認する際には、「目」と「耳」を一致させることが大切です。「目」とは、英文を見たときに「こう発音されるはず」だと思っている(思い込んでいる)音であり、「耳」とは、実際に耳で聞こえる音です。特に「音の変化」に関してもしっかりと確認することが重要です。
そしてスクリプトを確認したら、そこで「ああ、そう言っていたのか」と分かりますが、音声をあと1、2回聞くだけで安心してしまう人も少なくありません(36. 一過性で聞こえただけで症)。それは、脳が先回りをすることで聞き取れた気になっているだけの可能性が高いです。何度も復習を繰り返し、きちんと聞き取れるように耳を鍛えることが大切ですよ。
また、リスニング力が中級レベルで頭打ちになりやすい原因の一つとして、ネイティブの音声を聞く習慣がないケースも少なくありません(37. 教材特化リスニング症)。特に、教材の音声や、試験のリスニング問題は大抵、生の英語と比べると手加減がされていますし、聞き取りやすいようにノイズもありません。そういう音声ばかりに慣れてしまうと、生の英語には歯が立たなくなってしまいますのでご注意ください。
そしてもう一つ、リーディング力が原因で、リスニング力が伸びないケースもあります(38. R欠乏性リスニング停滞症)。リスニングは、耳から行なうリーディングだと言え、スピードが非常に大切です。1分間に150単語くらいのスピード(150 wpmと言います)が一つの目安であり、読む速度がこれを下回るようでは、リスニング音声のスピードに追い付けません。また、ナチュラルスピードの英語になると200~220 wpm程度のスピードで理解できる速読力が求められます。
こういったポイントをしっかりとクリアしていくことが、頭打ちにならずに、リスニング力を向上させていくためには欠かせないのです。
ネイティブの英語は誰でも聞き取れるようになれる
日本語は、音の数が少ない上に、紛らわしい音もほとんど排除されている、やや特殊な言語です。そのため日本語では、細かい音の違いを聞き分ける必要がまずありません。また、日本語には同音異義語が多く(例:交渉/高尚/考証/公称)、また言葉の省略も頻繁に行なわれるために、音だけを聞いてパッと意味が理解できる言語でもありません。
結果として、いかに上手に推測して、相手の話を理解するかというスキルが求められ、音をしっかり聞くという意識が薄くなりやすいのが日本語の特徴だと言え、日本語話者はそのような聞き方が癖になっているのです。
その影響で、日本語を母語とするわれわれが英語のリスニングを行なう際には、さまざまな落とし穴が存在します。リスニングが鬼門となってしまうのは、それらをうまく避けることがなかなかできなかったからなのです。
しかし、イングリッシュ・ドクターである私が、リスニングに関する落とし穴を「英語病」という形で「見える化」しましたので、これからはどなたでも、英語のリスニング力を効率的に伸ばしていただくことができます。本記事の内容、そして書籍『英語学習のつまずき50の処方箋』をぜひ羅針盤としてご活用いただけましたらうれしいです。そして、ネイティブの生の英語を、多くの英語学習者の方が自信を持って聞き取れるようになることを心より応援しています。
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