ネットのエグい誹謗中傷に、強いはずの私の心が折れた ― そこから再び前を向くことができた理由【多様性の懸け橋 (17)】

言語学者のアンちゃんことクレシーニ・アンさんが「多様性」を主軸として、自身の経験や考えをつづります。念願の日本国籍を取得し、多くの友人・仲間に祝福され、喜びに包まれていたアンちゃん。しかし、ネット上で理不尽な攻撃が行われました。社会問題にもなっている「誹謗中傷」に、アンちゃんはどのように向き合ったのでしょうか。

最大の喜びを襲ったもの

ヤッホー!アメリカ系日本人のアンちゃんです。

前回の記事では、アンちゃんが「日本人」になった日について書いた。その日は今までの人生の中で一番幸せな日となった。これまで多くの物事を望んできたけれど、「日本人になること」以上に切望したものはない。

この夢が叶った瞬間を今も覚えている。あまりにもうれし過ぎて、しばらくは何があっても「日本人だから大丈夫!」みたいな前向きな気持ちでいた。

「ああ、疲れたぁ。仕事に行きたくない・・・。でもまあ、日本人だから大丈夫!」
「また娘たちがけんかしてる、腹立つわ・・・。でもまあ、日本人だから大丈夫!」
なんて感じで、「この最強の喜びが奪われることはないだろう」と思っていた。

“エグい”経験から得たヒント

ところが、しばらくの間、私はその喜びを失うことになる。

なぜかとういうと、とてつもなくエグいインターネット上での誹謗中傷を受けたから。その頃は、日本という国も日本人のことも嫌になってしまった。日本人になったことを後悔し、「しばらくはアメリカの国籍をキープしようかな」と考えるほどに。

今回は、その誹謗中傷のこと、そして、「誹謗中傷」と「多様性」の間になぜ繋がりが存在するのかについて話そうと思う。かなりエグい話だから、覚悟してね。

でも、心配はいらないよ!最終的には立ち直り、もう一度胸を張って「日本人になってよかった!」と言えるようになったから。

確かにとてもつらかったけれど、多様性社会へと進むためのいくつかのヒントを得られた。振り返って今は、「この経験があってよかった」と思える。

さて、それでは今回の旅に出発しよう!正直、あまり思い出したくはないんだけど、ここに記すことによって他の人たちの励みになるなら、それは何より嬉しいことだ。

◆ これまでの「多様性の懸け橋」一覧 ◆

あふれる幸せと祝福に包まれて

令和5年(2023年)11月21日―― 私の人生が変わった日です。アメリカ生まれ、アメリカ育ちのアン・クレシーニはこの日、日本人のクレシーニ・アンになった。

その日のうちに法務局から「帰化者の身分証明証」を受け取り、それを持参して、私が住んでいる福岡県宗像市の市役所で戸籍を作った。私の家族はみんなアメリカ国籍のままだから、サイズはA5くらいの、かわいい“1人戸籍”となった。それから、運転免許証とマイナンバーカードの名義も変更。時間が経てば経つほど、「本当に日本人になったんだ」と実感した。

Xやインスタグラム、フェイスブックなど、いろいろなSNSアカウントを通して日本人になったことを報告もした。ファンの人たちからは、数え切れないほどのお祝いメッセージが届いた。

特にXでは2週間くらい、喜びがあふれ出た投稿をし続けていた。不要になった在留カードとのツーショット。新しくできた戸籍。友達からもらったプレゼント。日本国旗を持つ姿。「日本人」と書かれたTシャツを着ているアンちゃん。

友人やファンの人たちからは連日、
日本国籍取得を共に喜び、お祝いする
メッセージやプレゼントが届いていた。

わずかな期間でフォロワーは急増

Xを通じても、数多くの祝福の言葉や素敵なプレゼントをいただき、1週間で新しいフォロワーが約1万人増加していた。

この新しいフォロワーは、日本人になるまでの私については全く知らない人たちがほとんどだ。すでにいたフォロワーとは違い、アンちゃんの7年間にわたる活動内容や、私がどんな人物なのか、どんなことを発信しているのかについて、全く知らない人たち。

「アメリカ生まれの元外国人が、日本人になれたことでめっちゃ興奮している」くらいの認識でしかなかったと思う。「おめでとう!」「日本人になってくれてありがとう」「よかったね!」「同じ日本人として嬉しい」といった祝福メッセージが永遠に来続けていた。

祝福から一転、炎上に見舞われた

日本国籍取得から2週間が過ぎた頃、知人に言われたことがある。

「アンちゃん、本当におめでとう。アンちゃんが日本人になってよかった。でも、Xでずっと日本を褒めたたえるよりも、アンちゃんが今までしていたような投稿が見たいな」

ジェンダー平等、多様性、多文化共生、PTA問題、ブラック校則など、さまざまな社会問題について、私は長年Xで投稿を行ってきた。声を上げたからこそ、理不尽なことが少し減ったという経験もある。その知人は、「そういう投稿をしているアンちゃんはかっこいい」と思ってくれていたのだろう。

確かに、ちょっと興奮し過ぎだったかも。近いうちに落ち着いて、以前のような投稿に戻った方がいいかな、と私自身も思うようになった。

理不尽な言葉に立ち向かったけれど・・・

ところが、多様性、多文化共生、無意識の偏見などについて投稿し出した途端に、めちゃくちゃ叩かれた。ぶつけられたのは、「やっぱりあんたは米国のスパイだ!」「アメリカのおかしな多様性を日本に持ち運ぼうとしているんやろう?」といった内容だ。

生まれて初めて「反日」と言われもした。うーん・・・。私はカラオケに行くたびに必ず「君が代」を歌う。そういう人、他にはいる?私は「反日」じゃないよ!

炎上は2カ月にわたった。落ち着きを見せたかと思えば、再び荒れたりもして、12月頭から翌2024年2月初めまでは、「何を投稿しても叩かれる」という状態。当時は、どんなにひどいことを言われても、誰もブロックせず、アンチの人たちとやり取りをしていた。

「だって、それこそが多様性の定義やろう?」「自分と違う意見の人を理解しようとすることが大切だ」と考えていたから。当時の私は戦う気満々で、理不尽なことを言われたりディスられたりしたら、引用リポストをして、さらに炎上した。

あれから1年と数カ月が経った今は、振り返って「引用リポストはよくない」と感じている。全く意味がない。基本的に、Xをやっている人は意見が強く、どんなにやり取りしても、どんなに納得してもらおうとしても、あまり変わることはない。

エンドレスなやり取りは時間の無駄であり、そして、ヘイトも増す一方だ。一生懸命戦ったものの、結果はどんどん嫌に気持ちになっただけ。何もいい結果が生まれなかった。

日本人として受け入れてくれる仲間に感謝

周りの友達はかなり心配してくれていた。「アンちゃん、大丈夫なん?あなたの投稿がずっと私のタイムラインに流れてきているけど・・・」と、ほぼ毎日言われた。私は精神的にバリ強いから、彼らに対して「いや、大丈夫だよ。心配しなくていいよ」と返事していた。

年末にはいったん炎上が落ち着き、2024年を迎え、日本人として初めてのお正月を精いっぱい楽しんだ。餅つき、紅白歌合戦、おせち料理、初詣。「ああ、日本人になってよかったな」と思いながら、日本の伝統のフルコースを満喫した。

また、1月末には福岡市内で「アンちゃんの日本国籍取得パーティー」を開催。友達やファン、仕事仲間、家族など約60人が私を祝ってくれた。そして私も、ずっと応援してくれていた人たちに感謝の気持ちを伝えることができた。この日は自分にとって、今までの人生の中でハッピーな日ベスト10に間違いなく入っている。パーティー会場にいた人たちのおかげで今のアンちゃんがある。感謝の気持ちでいっぱいだった。

パーティー会場にも飾られた、アンちゃんの
これまでの歩みを表現した絵画。
アンちゃんの友人でもあるアーティスト、
ColorhythmRisa(カラリズムリサ)さんの作品。

ネット上にはさまざまな嫌な人がいるかもしれない。でも、やっぱり私は深く愛され、そして、完全に同じ日本人として受け入れてもらっている、とその日感じた。これからどんなに大変なことがあっても、大好きな仲間の力を借りながら、自分らしく日本人として頑張っていこうと決意した。

何よりこたえた誤解、そして殺人予告

その決意はすぐ試されることになる ―― パーティーが終わってすぐ、今までで一番ひどい誹謗中傷に遭ったからだ。それには本当に悪意を感じた。

例えば、私が英語のアカウントにコメントをすると、誰かがそのコメントを拾い、機械翻訳を使って訳した日本語訳を付けて投稿する。それは誤訳だったが、多数のフォロワーを持つ別の人がXで拡散したことで、ものすごく叩かれることになった。

「あなたは日本を変えようとしているだろ?自国を変えろ!」
「あなたは日本国籍を持っているガイジンだ」
「国へ帰れ!」
「日本国籍を返せ!」
「あなたは決して日本人にはなれません」

こんな風に、大人数に叩かれた。「いや、そんなことは言ってない。その訳は違う。私は日本をアメリカに変えようとしていない」といくら言っても通じない。

日本人の間だけではなく、「Gaijin Twitter(ガイジンツイッター)」界隈でも叩かれ、私をバカにするためのミームや動画が作られた。(X上で、日本在住の外国人が日本の生活について英語で投稿することを「Gaijin Twitter(ガイジンツイッター)」と呼ぶことがあり、ハッシュタグ「#GaijinTwitter」を付けて投稿されている)

初めてネットの怖さ、そして、人間の残酷さを実感した。その人たちにとって、私は「日本の文化を壊そうとしているグローバリスト」にしか見えなかったのだろう。

何より日本の文化を尊重することを大事にしている私にとって、こうした勘違いをされるのはとてもつらい。自分が一番大切にしている、つまり、自分のコア(中心部)を攻撃されることは、言葉に表せないほどのつらさだ。

「死にたくなる」気持ちが分かった

さらに、2月の頭には殺害予告が届いた。いつ、どこで、どのように私を殺すかが細かく書かれてあった。警察に連絡すると、その日時が過ぎるまで自宅待機するよう指示された。所属している事務所からは、炎上があまりにもひどいため、しばらくはXを使わないようにと言われた。

ただの脅しだと思いはしたものの、深い悲しみに襲われた。ネットで激しく嫌われ、殺害予告まで受ける。日本人になった喜びが完全に奪われた。大好きな日本に、こんなにも嫌な人がいると思っていなかった。

そうして、数月前にはあり得なかったこと ――「日本人になったことを後悔する」という経験に至った。私は精神的にバリ強いと自分で思っていたのだが、心が折れた。数日はあまり食欲もなく、よく泣いていた。

自殺しようとは思わなかったけれど、生まれて初めて、誹謗中傷の被害者たちがなぜ自殺したくなるのかがよく分かった。とにかく、絶望感がすごい。それしか言えない。

「反省」のファンとして考えたこと

こういう時、人はどう立ち直るのか。

一番の薬は、時間と友達だ。Xの炎上は少しずつ落ち着いていったし、何より、大好きな友達に癒された。

少しずつ立ち直ろうとして冷静に考えるようになり、そして「学者モード」に突入。「なぜ、これが起きだんだろう?」、そして「日本人っていったい何なんだろう?」と必死に考え始めた。

私は「反省」の大ファンだ。われわれ人間が成長するためには、反省が欠かせないと思っている。私が経験したような炎上の状況下では、「あいつらが悪い!ひどい!」と考えがちだろう。その中で、「もしかしたら、もっと違った発信の仕方があったかもしれない」という風に振り返ることも、とても大切だと感じる。

確かに私の言い方は、時と場合によってはちょっと強かったかもしれない。日本語は母語ではないから、ニュアンスを間違えやすい時もあった。これからは何を投稿するにしても、その前にもう一度読み返し、勘違いされる恐れがないかどうか、慎重になる。

ただ、私の言い方は強かったかもしれないけれど、私が被害者であることに間違いはない。どんなに相手の発信が気に入らなかったとしても、人を傷つける攻撃的な反応はふさわしくない。私が言われた多くの言葉は、実は犯罪行為に当たる。「ガイジン、帰れ!」「うるさい、毛唐!」などは侮辱罪に該当する発言〔*1〕。そして言うまでもなく、殺害予告はバリバリの犯罪行為だ。

〔*1:編集部注・参照〕
・ 毛唐(けとう):外国人を卑しめていう言葉。
侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A | 法務省

この経験からもまた、学びを得た

この経験を通して、私には主に3つの大切な学びがあった。――そう、めっちゃ嫌な経験に見舞われても、きっと学びがあるんだ。そういう風に思えたなら、つらい気持ちが少し楽になるし、また、他の人の励みにもなるかもしれない。もし、私の試練を通して誰かが励まされたとしたら、それは何物にも代えがたい喜びだ。

次回は、その3つの学びについて話すから楽しみにしてくれると嬉しいです。きっと、今回の記事より明るい話になるからね。


クレシーニ・アン
クレシーニ・アン

アメリカ・バージニア州生まれの日本の言語学者(海外語学研修・言語学)。学位は応用言語学修士(オールド・ドミニオン大学・2002年)。北九州市立大学基盤教育センターひびきの分室准教授。和製英語と外来語について研究している。作家、コラムニスト、ブロガー、コメンテーター、YouTuber、むなかた応援大使、3人の娘を持つ母。(写真:リズ・クレシーニ)

●ブログ:「アンちゃんから見るニッポン
●Instagram:@annechan521
●X:@annecrescini

オススメのアンちゃん書籍・連載

アンちゃんが英語&英会話のポイントを語る1冊

upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!

編集部イチ押しのアンちゃん連載

boocoで読める!アルクの新刊、続々登場

語学アプリ「booco」なら、アルクのベストセラー書籍150タイトル以上が、学習し放題!

「キクタン」など、アルクの人気書籍600冊以上に対応!購入した書籍の本文と音声コンテンツをスマホで手軽に使用できるだけでなく、学習定着度を高めるクイズ機能が、日々の力試しや復習をサポートします。さらに、Plusプランを購入すれば、150冊以上の書籍が学習し放題に!

また、boocoの「読む」では次のような使い方ができます。

① 学習したいページを見ながら音声が聞ける!
② 文字のサイズや画面の明るさが変えられる!
③ 書籍内検索ができる!
※ これらの機能には本書を含め一部の書籍が対応しています。

▼「booco」の無料ダウンロードはこちらから

SERIES連載

2025 06
NEW BOOK
おすすめ新刊
仕事で伝えることになったら読む本
詳しく見る

3分でTOEICスコアを診断しませんか?

Part別の実力も精度95%で分析します