未来の英語教師に求められるのは、生徒に寄り添うこと【どうなる?英語の未来④】

小学校で英語が必修化になり、スマホアプリやYoutubeなど無料で触れることができる英語学習素材も増え、英語を学ぶ環境はどんどん変化しています。これから先の未来の世界では、英語教師はいらなくなってしまうのでしょうか。学校教育の未来について、高等学校教諭の大竹保幹先生にお話を伺います。

英語教育を取り巻く環境の変化

学校の英語教育を取り巻く環境は、私が教師になってからのこの十数年だけでも随分と変わってきた。英語が小学校の必修科目となり、当たり前のように英語を使う子供たちが増えてきているし、今までは高校で教えていたことを「もう知っている」という中学生がたくさんいる。子供たちに求められる英語のレベルは信じられないくらい高いものとなっている。

スマホの進化のことも忘れてはならない。講義動画で自分の好きな時間に学習を進めたり、アプリで学習管理ができたり、英語の発音をチェックしてくれるものだってある。YouTubeなどを開けば簡単に、しかも無料で音声に触れることができる。

今でさえそうなのだから、未来の世界では英語は先生から習うのではなく、生徒たちが自ら身に付けていくものになっていくのではないかと感じる。では、英語教師はもういらないのか?こういう現実を突き付けられると、どこか寂しい

生徒に寄り添う教師が一層求められる、これからの教育

そもそも英語を学ぶことが不必要になるのではないかと考える人だっているらしい。機械翻訳技術の進歩によって、英語だけでなく、外国語学習は不要になってしまうのだろうか。確かに翻訳機が完璧なものであれば、自分たちでわざわざ苦労せずとも世界中の人とやりとりができるようになるのかもしれない。でもそれって、実際に自分の口で外国語を話して誰かと通じ合った経験がない人の言葉なのではないか。

これはスポーツの場合とちょっと似ている。プロスポーツ選手のプレーはいつ見ても楽しいしわくわくする。でも、その技術には全く及ばなくても自分でするスポーツはまた別の楽しみであふれている。機械翻訳技術によって自分の代わりの何かが世界中の人たちとコミュニケーションをしていたとしても、やはりどこかに「自分で話したい」という気持ちが残るのではないだろうか。

それに科学技術がどんなに発展したとしても外国語学習が楽になるわけではない。一粒飲めば英語がペラペラになるサプリが開発されることはないだろうし、脳内に単語データをインプットするようなことも当分はないはずだ。というか、それはもはや人間ではなくアンドロイドの外国語学習である。

恐らく未来の子供たちも今の私たちと同じように、単語や例文をたくさん覚える作業から逃げることはできないし、それを経ない限り本当の意味で英語を使えるようにはならない。英語学習には信じられないくらいの苦労が伴うからだ。だからこそそういう苦しみを理解し、励ます存在がずっと必要なのではないか。私はそれが英語教師の役割だと信じている。

未来の英語教師は子供に教科書の正解を与えるだけではいけない。子供たちは自ら学び、自ら成長するアイテムを手にしているからだ。未来の英語教師は、学習の苦しみに寄り添い、思わずもっと知りたくなるような素晴らしい英語の世界を見せ続ける存在でなくてはならない。そして、翻訳機に頼らずとも英語を自由自在に使いこなせる学習者の憧れの存在でなくてはならない。

だからというわけではないが、私は苦しみながら、それでも楽しく英語の勉強を続けている。

大竹保幹(おおたけ・やすまさ)
大竹保幹(おおたけ・やすまさ)

神奈川県立多摩高等学校教諭。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員表彰。著書に『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』(アルク)、高等学校検定教科書『Applause English Logic and Expression Ⅰ、Ⅱ』(開隆堂出版)など。

シリーズ 英語の未来予想

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記事はENGLISH JOURNAL2023年1月号に掲載した特集「英語の未来」を再編集したものです。

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