「せっかく」と「さすが」が教えてくれる、翻訳しきれない言葉の面白さ

連載「スウェーデン人ブレケル・オスカルの 僕と日本茶しませんか?」では、日本茶インストラクターであるブレケルさんが、自身のことや語学、日本茶などの文化について語ります。第5回のテーマは、「翻訳の限界と外国語の面白さ」です。

お疲れさまです=You’re tired.?!

英語など外国語を話すときに、日本語の表現を使いたいと思うことはありませんか。

私にはよくあります。というか、うっかりしたら実際に使ってしまうことすらあります。英語を忘れたからではなく、自分が言いたいことを一つの英単語でぴったりと表現できないからです。頭の中でいくら探しても該当する言葉がなく、訳すこともできそうにありません。

例えば、職場などでよく使われている「お疲れさまです」や「よろしくお願いします」といった表現が、その典型的なものでしょう。英語では、帰る際に、あいさつ代わりにYou’re tired.またはI’m tired.なんて言う人はまず聞いたことがありません。

日常生活でよく使われる日本語には、「いただきます」や「お帰りなさい」などもあります。学生時代に邦画を見たときに、どう翻訳されるのかを、英語またはスウェーデン語の字幕で確かめるのが楽しかったです。

こうした日本語は訳し方によっては不自然に聞こえてしまいます。かといって映画のセリフなので、なくすわけにもいきません。滑らかな言い方にするにはセンスが必要とされ、翻訳はとても難しい仕事であることがうかがえます。

「せっかく」はどう英訳する?

同じように訳しにくい日本語には、私が好きな言葉、「せっかく」があります。

もちろん、「せっかく」の意味合いは、ほかの言語で表現できなくもありません。次のような文には確かに「せっかく」の気持ちがしっかりと組み込まれています。しかし、日本語とは違い、一つの単語だけでそのニュアンスが捉えられているとは言い難いでしょう。

Since we drove for two hours to get here, we might as well try the local food.

せっかく2時間もドライブして来たんだから、地元の食べ物を試そうよ。

「せっかく」「さすが」という日本語は便利過ぎる!

「さすが」という日本語も、言いたいことを鋭く伝えられますが、英語などに直訳したら違和感を覚えがちです。

特にこの2つの表現、「せっかく」と「さすが」は、一度覚えたらあまりにも便利過ぎるせいか、学生時代に日本語学科のクラスメートの会話で頻繁に交わされていました。授業中だけでなく、スウェーデン人同士でスウェーデン語で話すときにすら活用されるほどでした。

「木漏れ日」「積ん読」も好き

ほかに好きな日本語には、「木漏れ日」や「積ん読」があります。めったに使わない言葉なのですが、「さすが」などと同じように一度覚えたらとても便利です。

しかし外国語で話すときにそのまま日本語の言葉を使ってしまうと相手に伝わりませんので、映画のセリフを訳す翻訳者と同様に、なんとか言い回しを考えるしかありません。

デンマーク語のすてきなあいさつ

外国語に触れると、このように新しい表現と出合うことがたくさんあります。

私の母語であるスウェーデン語と語源学的に非常に近いデンマーク語でも、面白い発見がありました。

一時的にデンマークの首都コペンハーゲンでアルバイトをしたときのことです(隣の国ですが、生まれ育った南スウェーデンにあるマルメから電車で30分ほどで通勤できます)。

デンマークで仕事をすると必ず耳にするのが、god arbejdslystという表現です。「良い働きぶりになりますように」という意味合いなのですが、仕事が始まる前によく言われました。とてもポジティブで、聞く側としても前向きになれますので、気に入った表現の一つです。

同じデンマーク語には、hygge(ヒュッゲ)という面白い単語があります。心地良い空間や楽しい時間を表す言葉で、日本でも北欧のライフスタイルを紹介する書籍などで取り上げられています。

スウェーデン語には、「祖父母」を表す単語が4つある

新しい発見ができるのは、外国語に限ったことではありません。外国語を使っていると、母語についても新たな発見があります。

日本で暮らすようになってからは、当然のことながらスウェーデン語を話す機会が少なくなりました。基本的には日本語で生活しますが、英語を話す機会もよくあります。日本語も英語も好きなのですが、やはりスウェーデン語の単語を使いたいときがあります。

意外かもしれませんが、スウェーデン語には日本語の「おじいさん」(祖父)と「おばあさん」(祖母)、英語で言うgrandfatherとgrandmotherに該当する言葉がありません。その代わりに、farmor=「父の母」、farfar=「父の父」、mormor=「母の母」、morfar=「母の父」、という4つの言葉があります。

スウェーデン語の母語話者以外の人からすると、なぜそこまで細かく特定しなければならないのかと疑問に思うでしょう。

しかしスウェーデン人の私からすると、「おじいさん」とだけ聞くと、誰の話をしているのかがわかりません。「お父さんの方の?」などと、いちいち確認するほどではないはずの会話なのに、やはり気になってしまいます。

スウェーデンのfika(フィーカ)って何?

ほかに好きなスウェーデン語には、最近日本の雑誌などでも取り上げられているfikaがあります。

fika(フィーカ)とは、コーヒーやお菓子をつまみながら、人と仲良くなる「きっかけ」を与えてくれる、スウェーデンに欠かせない文化です。忖度(そんたく)やプレッシャーなどがなく、お互いにフラットに話せる機会なのです。

直訳すると「お茶する」のような日本語になりますが、休憩して嗜好(しこう)品とおやつを楽しむこと以上の意味合いを持つ言葉です。

ストレスが多いとされる現代社会では、コンセプトとして他国に導入してもよいのではないかと思います。

便利な言葉は外来語になる

さて、英語はどうでしょうか。

日本語は物事を非常に細かく表現できる言語であるのに対し、英語はシンプルな言語という解説をたまに耳にします。

そう考えている人は、おそらくシェイクスピアなど英語の文学に真面目に触れていないのだろうとまずは突っ込みたいところですが、とにかく英語だって表現に乏しい言語とはとても言えないと思います。

その証拠としては、日本などで大いに使われている英語由来の外来語を挙げればよいでしょう。逆になじみがあり過ぎて例を考えるのが難しいほどです。

料理の味わい方の楽しみを広げてくれるumami

同じように、日本語の単語も外で外来語として使われることがあります。

自然の現象としてはtsunamiが有名です。ほかに日本発のものとして、karaokeemojiなどがそのまま英語やスウェーデン語に入り外来語として定着しています。

海を渡った日本語の中で私が最も好きなのは、なんと言ってもumamiです。日本の食文化だけでなく、人間が料理を楽しむ上で大事な味の要素であるうま味を意識する機会を与えてくれますので、とても良い言葉です!

日本文化が好きな身としては、この言葉に出合えてうれしいですし、外国人向けの講座を行うときにumamiという表現を使えるのは、日本茶の専門家としてもとてもありがたいことです。

このように、何らかの現象または概念をぴったりと表現できる言葉は国境を超え、ほかの言語に外来語として定着していきます。

スウェーデン語のfikaも、せっかくの良いコンセプトなので、各で使われるようになったらいいのですが、「さすがに」そんな「うまい」話はないかもしれません。

次回は2021年5月21日に公開予定です。

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ブレケルさんが日本茶を語る本

ブレケル・オスカル
ブレケル・オスカル(Oscar Brekell)

スウェーデン初の日本茶インストラクターとして、言語能力と専門知識を生かし国内外でセミナーなどを開催。書籍出版と新しい日本茶ブランド立ち上げのほか、テレビやラジオなどにも出演。日本のメディアでは、「青い目の日本茶伝道師」として親しまれている。

Instagram:https://www.instagram.com/brekell/
写真:Klara Maiko

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