伸び悩む英語学習者が、ブレイクスルーを起こすために必要な学習時間とは?
「写真:Adobe Stock」

英語習得に必要な時間は1000時間である――いろいろなところで言われていることですが、本当にそうなのでしょうか。また、それが本当だとして、とてつもなく長く感じる1000時間を達成するには、何にどのように取り組めばよいのでしょうか。アルクの総合英語学習アプリ「booco(ブーコ)」で提供中の「ヒアリングマラソン」のコーチ、松岡昇先生に教えていただきます。

誰にでもある「中級者の壁」

どんな習い事にも「中級者の壁」というものがあります。水泳でもテニスでもピアノでも将棋でも、上達の過程で誰もが突き当たる越え難い壁です。

皆さんも経験しているかもしれませんが、入門から初級や中級までは、ルールや要領を少しずつ身に付けることで、練習が成果となって右肩上がりの上達を示す楽しい時期です。

ところが、中級レベルからさらに上を目指すとなると状況は異なってきます

今までと同じように練習しても、目に見える上達がない、次のハードルが越えられない、そして練習方法にあれこれ悩む、そんな時期が訪れるのです。これが「中級者の壁」です。

中級者の多くはそこで挫折し、結果的にごく一部の成功者のみが上級レベルの技術を勝ち得ることになります。

どんなレベルが英語の「中級者」か

英語の場合を考えてみましょう。英語の「中級者」とはどんなレベルでしょう。

近年、英語学習の一つの指標として定着している CEFR(Common European Framework of Reference for Languages/ヨーロッパ言語共通参照枠)には、次の6レベルがあります。

  • A1(beginner)
  • A2(elementary)
  • B1(intermediate)
  • B2(upper intermediate)
  • C1(advanced)
  • C2(proficiency)

このうち、B1(TOEIC 550~)と B2(TOEIC 785~)が「中級者」に該当します。
CEFR では B レベルを「自立したユーザー」(Independent User)と呼び、「熟達したユーザー」(Proficient User)である C レベル(TOEIC 945~)の下位に置いています。

参考: TOEIC® Program 各テストスコアと CEFR との対照表

ENGLISH JOURNAL ONLINE の記事を読んでいる、あるいは、アルクの教材やアプリなどで英語を勉強している多くの方が、この B1、B2 に属すると思われます。長年英語を勉強していて、TOEIC でも700点、800点といった高得点を取るような方です。

しかし、実際には「生の英語」を一度で正確に聞き取ることは容易でなく、また、話すことも意見を述べるような段階になるといまひとつ自信が持てず、そのギャップに悩んでいます。

壁を乗り越える鍵は「自動化」

中級者が「熟達した英語使用者」になるために越えなければならない壁は「自動化」です。自動化とは、私たちが母語で行っているように、英語においても言葉を自動的に使えるようにすることです。

言い換えれば、今まで以上に速い言語処理スピード。つまり、次のようなことです。

 1. 速く読める
 2. 速く(辞書の助けを借りずに)書ける
 3. 速く(一度で)聞ける
 4. 速く(流暢に)話せる

「速く」と言っていますが、母語話者の基準で言えば「自然な速さで」ということになるでしょう。
例えば 1. では、TOEIC の Reading Section で時間が足りないと感じなくなる、そうしたスピードの「読み」ができるということです。

3. の「聞く」は、スピードが速いものも、情報量が多いものも、繰り返し聞くことをせずに、一度で全容が理解できることを指します。

自動化には1000時間の練習が必要!

結局、「中級者の壁」とは「自動化」であり、「スピード」に慣れることなのです。

中級に至るまでの学習に比べれば、このステージは極めて単純です。なぜなら、何か新しいことを学ぶのではなく、ひたすら「慣れる」ことだからです。

しかし、「慣れる」には時間がかかります。最低限1000時間の練習が必要でしょう。「最低限1000時間」というのは、私自身の経験や私が指導してきた学生たちの経験などを通して実感してきたことです。

米国国務省の語学研修プログラムを見ると、日本に派遣される国務省の職員は、赴任前に2200時間の日本語研修を課せられます。日本の中学、高校では英語の学習時間が自宅学習を含めて約1200時間です。その差を考えると、「最低限1000時間の練習」にはそれなりに妥当性があるように思われます。

実はこの1000時間の練習ですが、5年間で1000時間ではあまり意味がありません。「量」だけでなく、練習の「密度」も考える必要があるのです。

3年以内に1000時間が限界

「自動化」するための1000時間は、「密度」も考えると「1年間で1000時間」が理想的です。毎日約3時間、週約20時間です。

「中級者の壁」を越えるには、いつかどこかで腹をくくって、この「1年間で1000時間」を経験する必要があります。一度「自動化」されれば、あとは維持するだけです。これがキツイ人は、密度を下げて1000時間を「週10時間で2年間」で、それでもキツイという人はさらに密度を下げて「週7時間で3年間」で練習します。

英語の「自動化」を実現するには、どうもこのあたり、つまり「3年以内に1000時間」の練習が限界のようです。これよりも密度が下がると、1000時間練習したとしても「自動化」は難しい。

実は、これは中級レベルにとどまっているほとんどの方が経験していることですよね。中級者の壁を越えるには、「地道にコツコツ」ではなく、「一定期間に一気に」が賢明なストラテジーなのです。

次回は「英語学習、頑張りたいのに続かない。挫折を防ぐコツとは?」と題してお届けします。では、また!

1000時間の相棒に、総合英語学習アプリbooco(ブーコ)

「英語の勉強をもっと便利に」をコンセプトに誕生した、アルクの参考書や問題集をスマホ一つで学習できるアプリ。電子版の学習参考書を読んだり、音声を聞いたりするだけでなく、クイズを解いて力試しや復習も可能。累計発行部数530万部突破の「キクタン」シリーズ、TOEIC(R) L&R 研究第一人者ヒロ前田氏の『TOEIC(R) L&Rテスト 究極の模試600問+』など、人気書籍を多数取り揃えています。

松岡 昇(まつおか のぼる)
松岡 昇(まつおかのぼる)

青山学院大学大学院国際政治経済研究科修了。専門は、国際コミュニケーション、社会言語学。現在、獨協大学及び大手企業を中心に講義やセミナーを務める超人気講師。アルクの1000時間ヒアリングマラソン(デジタル版)で、「英語スケッチング」「ディクテーション・コンテスト」の執筆を担当している。著書も多数ある。

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「外国人と自由に話せるようになりたい」「仕事で困ることなく英語を使いたい」「資格を取って留学したい」など、これまで受講生のさまざまな夢を支えてきました。

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