英語の「名詞」:分かるようで分からない問題5選【大竹保幹の英文法パラダイス】

現役の高校英語教師、大竹保幹さんの連載「英文法パラダイス」。第2回は「名詞」を取り上げます。分かっていたつもりなのに分からない?そんなクイズ5問に挑戦しながら、英語の名詞に関する知識を深めていきましょう。

パラダイス行き切符を手に入れる問題

英文法と仲良くできる楽園(パラダイス)を目指す連載の第2回。前回は「動詞」を中心とした文法を取り上げました。さて、今回は一体、どんな知識が試されるのでしょうか。早速、みなさんの文法知識を試す正誤問題を見ていきましょう。

次の(1) ~ (5) の英文について、正しいかどうかを判断してください。
正しい:〇  間違っている:×  ちょっと怪しい:△

(1) My favorite fruit is bananas.

(2) The cattle is eating grass in a pasture.

(3) You may choose meat or a fish.

(4) Some people are seriously thinking about how to build the better world to live in.

(5) The international students who will start at our university are about sixty this year.

今回のテーマは「名詞」です。名詞は基本的には「モノの名前」を表すので、誰もがイメージしやすい品詞です。しかし、その使い方は一筋縄ではいかないこともあります。

この名詞は数えられるのかどうか、ここではaとtheのどちらを使うのか、など英語の名詞にはどうしても日本語の論理からは理解しきれないことがあります。

ここで扱うものはほんの一部ですが、少しずつ英語ならではのルールを整理していきましょう。

解答と解説

(1)

答え:〇 My favorite fruit is bananas.

主語が単数ならisのうしろの補語も単数にそろえないといけないのかな、と考えたことはありませんか? 結論から言えば、一致させる必要はありません。むしろ、今回の英文ではMy favorite fruit is a banana.と言うほうが不自然なのです。

英語は一般的なことや全般的なことには複数形を使います。これは、「犬が好き」ならいろんな種類の犬が好きだからI like dogs.と言う方がよいだろうと考えると分かりやすいかもしれません。I like a dog.では何か特定の犬種がお好みなのかしら・・・と相手に少し違ったメッセージが伝わってしまうということです。

冠詞は数えられることを示す大切な要素

では、次のように好きなものを紹介するのはどうでしょうか?

I like dog.

おそらく、これが一番やってはいけない形でしょう。冠詞aや複数形は、その名詞に一定の形があり、数えられる存在であることを示す大切な要素です。それがないということは、つまり「この犬には形がない」・・・あまり言いたくはないのですが、食肉などに加工されていたり、毛皮などになっていたりと姿かたちが変わっていることを意味してしまいます。

aや複数形の仕組みは英語を習い始めたときから知っている文法ですが、案外扱いが難しかったりもするのです。失敗を繰り返して身に付けていきましょう。

(2)

答え:✕ The cattle is eating grass in a pasture.

cattleは「牛」です。だから牛が放牧地で草を食べているならこれで問題ないだろうと思ってしまうのですが、違うのです。

英語には「集合名詞」と呼ばれる種類の名詞があります。これは「何かがたくさん集まっているもの」をひとまとめに表した語で、family(家族)、staff(職員、従業員)、police(警察)などがその例です。確かに、familyの中にはfather(父)やmother(母)など、さまざまな人が含まれていますよね。policeは大きな組織ですから、そこにはたくさんのpolice officer(警察官)がいるというわけです。

集合名詞の面白いところは、その集団を一つのまとまりとして見るときは単数扱いで、中にたくさんいる構成員を意識するときは複数形になるという点です。

(a) The staff of this hospital is well-trained.
(b) The staff of this hospital are well-trained.

どちらも「この病院の職員はよく教育されている」と言っているのですが、(a)は全体をまとめて、(b)は職員がたくさんいることをイメージして話をしています。

常に複数扱いされる名詞

しかし、このように柔軟に単複を使い分けられる集合名詞ばかりではありません。先ほど挙げたpoliceや問題文にあったcattle(牛、畜牛)は常に複数として扱います。

The cattle are eating grass in a pasture.

常に複数扱いなのでcattlesという形になることもありません。こういう例外は英文法には付きもので、だから嫌われてしまうのかもしれませんが、そんなにたくさんあるわけでもないのでまずはこの二つだけでも覚えておきましょう。

ところで、を1頭ずつ数えたいときはどうするのでしょうか? 答えは簡単で、a cow(乳牛)やa bull(雄牛)などを使えばいいのですね。

(3)

答え:△ You may choose meat or a fish.

飛行機内でのセリフでしょうか。「お肉とお魚、どちらかをお選びいただけます」と言いたいのでしょう。でもこのままだと一方の料理はちょっとだけ大胆な感じになりそうです。

(1)のところでもお話しましたが、英語にとって冠詞aがあるかないかは非常に大切な違いを表します。aがあれば「一定の形があって数えられる」のに対して、無冠詞の名詞は「形が定まらない」または「元の形を失っている」ことを意味します。

形が定まらない名詞に冠詞は付かない

動物にはa pig(豚)やa chicken(鶏)のように冠詞aを使い、食肉に加工されると無冠詞でpork(豚肉)、chicken(鶏肉)と言うことになるのはこういう仕組みがあるからです。食肉は薄切り、ミンチ、骨付きなどいろいろな切り分け方があって、誰もが同じ形を思い浮かべることができないというわけですね。

考えてみればpaper(紙)やmoney(お金)なども同じような理由で数えられないことが分かります。紙の大きさや形は使う人によってイメージが異なりますし、お金だって硬貨なのか紙幣なのかは言い切れないので非常に抽象的ですよね。一方で、リンゴや鉛筆はたいてい同じような形を思い浮かべることができますから、冠詞aを使ってan apple、a pencilとなるのです。

(3)の英文では本当は「魚料理」と言いたいはずです。そうであるならば、魚は元の形を失っているはずですので、You may choose meat or fish.と言うのが正解です。a fishだと「お肉料理にしますか? それとも魚をまるまる1匹召し上がりますか?」と、ずいぶん思い切った機内食に聞こえてしまいます。まぁ、そういうサービスも面白いですけどね。

(4)

答え:〇 Some people are seriously thinking about how to build a better world to live in.

皆さんはworldという語を普段どのように使いますか? そう、People around the world speak English.(世界中の人たちが英語を話します。)のように、たいていはthe worldという組み合わせが多いはずです。定冠詞theにはその名詞が「誰にとっても『それ』と分かるもの」を表す役割があるので、世界に一つしかないものは基本的にはtheを付けることになっています。the moon(月)、the sky(空)、the east(東)など挙げれば切りがありませんが、確かに全て一つしかありませんよね。

もちろん、世界に一つだけでなくても相手が「あぁ、あれね」と分かるものであればtheを付けます。

Close the window, please.

世界中に窓はたくさんありますが、「窓を閉めてちょうだい」とお願いされたとき、どの窓を閉めるべきか、相手ははっきりと分かるはずです。

特定のイメージを共有できるとき、できないとき

Mr. Seta had the students erase the blackboard.

セタ先生が生徒に消すよう言いつけた黒板は、まず間違いなくその教室内にあるものなのでtheを付けることになります。ここでa blackboardなんて言い方をしたら、「どこにあるやつでもいいから黒板を消してきなさい」とちょっと無茶苦茶な指示になってしまい、生徒も困ってしまうでしょう。

逆を言えば、相手にとって「特定のイメージ」が持てないようなときには普段theを使っている名詞であってもaと組み合わせることがあるということにもなります。

(4)の英文は「ある人たちは、どうすればより良い世界をつくることができるかを真剣に考えている」と伝えていますが、「より良い世界」の姿は想像する人によって違って当然です。だからここでは、a better worldが正しい言い方なのですね。

(5)

答え:✕ The international students who will start at our university are about sixty this year.

ある名詞がいくつあるのかを表すとき、例えば日本語では「リンゴが4つあります」と、述部に数を持ってきます。「4つのリンゴがあります」とも言えますが、おそらく前者のほうが自然な響きになることが多いのではないでしょうか。

ところが英語は違います。日本語と同じ感覚で次のような言い方をすることはできません。

(×)Apples are four.

英語では、物がいくつあるかを示すときには名詞に数詞を直接付けるのがルールだからです。

「数+名詞」の順になるのがポイント

そんなわけで、「○○個ある」と言いたいときは次のような表現を使います。

We have four apples.
There are four apples in the basket.

どちらの場合も「数+名詞」になっているところがポイントです。これを基に考えると、(5)の英文は例えば次のように直す必要があります。

There are about sixty international students who will start at our university this year.
今年、うちの大学に入学する留学生は約60人います。

the number(数)という語を使って、The number of ~ is ...(~の数は・・・です)という言い方もできなくはありませんが、普通はThere is ~.の形を使います。日本語の考え方のまま英語にしてはいけない。当たり前のことなのですが、案外忘れてしまいがちです。

まとめ

いかがでしたか? 

名詞は、世の中にあるモノの数だけ存在しています。それだけに語彙を増やすだけでも非常に苦労をします。それに加えて冠詞の有無や単数・複数の選択など、ちょっとした形の違いで相手に与えるイメージが大きく異なってくるわけですから、いつまで経ってもなかなかしっくりこないかもしれません。

しかし、言い換えるなら、名詞は誰にとっても難しい文法なので、あまり深く考えすぎずじっくり付き合っていくのがいいとも言えます。不規則なものも少しずつ覚えていけばいいのです。大切なのは、そういう例外を「あぁ、ヘンテコで面白いな」と思う気持ちなのです。

大竹保幹
大竹保幹

明治大学文学部文学科卒業。神奈川県立多摩高等学校教諭。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。著書に『子どもに聞かれて困らない英文法のキソ』『まんがでわかる「have」の本』(いずれもアルク)『APPLAUSE LOGIC AND EXPRESSION Ⅰ~Ⅲ』(開隆堂出版)など。

大竹保幹さんの本

『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』では、「仮定法」をはじめとする、子どもが抱きそうな疑問・質問に対して、ある程度答えられるように英文法の基礎を学ぶことができます。英語を学ぶ面白さに触れられる雑学的な小話も随所にあり、楽しみながら英文法を復習できます。

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