自信を持って答えられますか?文型を判断する問題【難問クイズで学ぶ文法知識⑪】

Twitterで話題になった北村一真さん作成の英語クイズで文法知識&読解力を高める本連載。第11回は正しい文型を判断する問題です。

クイズ

The world of the historian, like the world of the scientist, is not a photographic copy of the real world, but rather a working model which enables him more or less effectively to understand it and to master it. The historian distils from the experience of the past, or from so much of the experience of the past as is accessible to him, that part which he recognises as amenable to rational explanation and interpretation, and from it draws conclusions which may serve as a guide to action.

― E.H. Carr: What is History

文脈:歴史哲学の名著であるエドワード・ハレット・カーの『歴史とは何か』より。昨年、新訳が出て話題にもなりました。引用したのは歴史における因果の考察を論じた章の一節です。

5文型で表現すると、下線部分の文型は?

(1) SV
(2) SVC
(3) SVO
(4) SVOC

単語・語句

  • a working model:「作業用モデル、試作品」
  • be amenable to…:「…を受け入れやすい、…に従順な」

ヒント

…is accessible to himとthat partの間のコンマ(,)をどう解釈するかが鍵。

つまずきポイント

前半部である程度まで構造の可能性を絞っておかないと、後半部で詰まってしまうかもしれない

下線部に至る前の第1文の構造と意味を簡単に確認しておきましょう。まずは、文の構造です。

全体はシンプルなSVCの文型ですが、SとVの間にコンマ(,)で挟まれた挿入句が入っていること、また、Cの部分がnot A but B「AでなくB」の形になっていることがポイントです。歴史家の描く世界とは写真のように現実世界をありのままに写し出したものではなく、自分が現実を理解するのに役立つような作業仮説のようなものである、という趣旨をつかめれば大丈夫です。

続いて、問題の下線部に進みます。The historian distils from the experience…というところまで読んだ時点で、The historian (S) distils (V)という核は把握できるでしょう。ここで、distilという語をすでに知っていれば話は早いですが、それなりに難度の高い語なので、知識がない人も多いかもしれません。仮にそうだとしても、これが自動詞なのか他動詞なのかということは考えるようにはしておきたいところです。自動詞であれば、from…以降には続くとしても他の前置詞句や副詞要素のはずです。一方、他動詞であるならば、後ろにdistilの目的語となる名詞句が必ず出てこなければなりません。この意識を持って先を読み進めていくことが重要です。

distilの直後に続くfrom…の部分は、from the experience of the past, or from…という形から2つのfrom…という前置詞句が等位接続詞で並列された形だと判断します。1つ目のfrom the experience of the past「過去の経験から」はシンプルですが、2つ目のfrom so much of the experience of the past as is accessible to himは少し複雑な形になっています。so muchとas is accessible to himが呼応している形で、意味としては「過去の経験のうち、彼の手に入るだけのもの」→「過去の経験のうち、彼が手に入れることができるもの」となります。

himの後に続く、, that part…をどう解釈するかが今回の英文の最大のポイントになります。コンマの後に, that partという名詞句が続いているため、まず思いつくのはすでに出てきた表現との並列や言い換えなどですが、このフレーズと並列されるような語句は前には出てきていません。では、このthat part以降の名詞句をどう説明すればよいでしょうか。

ここで、動詞の自他を考える習慣が生きてきます。distilsについて上で確認したような場合分けをしていれば、この時点でdistilsを他動詞とみなし、that part…の名詞句をその目的語だと考えることで全てうまく説明がつくと、ある程度自信を持って判断できます。実際、distilには「引き出す」という他動詞の用法があり、distil A from B「BからAを引き出す」という形で使用します。ここは、that part…以下のより力点を置きたい部分を後ろに回すために目的語を後置し、distil A from B → distil from B Aと順番が入れ替わった形になっているということです。そうすると、この英文は通常の他動詞の文ということになるため、5文型で表すならSVOに相当するということが分かります。なお、下線部の後に続くandがdistils…とdraws…という2つの動詞句を並列させているという点も見落とさないようにしましょう。

正解 (3)

訳例

歴史家の描き出す世界は、科学者の世界と同様、現実世界を写真のように写し取ったものではなく、むしろ、それなりに効果的にそれを理解し、使いこなすことを可能にするための作業用のモデルである。歴史家は、過去の経験から、いや、過去の経験のうち手に入るものの中から、合理的な説明や解釈が可能だと思われる部分を抽出し、そこから行動の指針となるような結論を導き出すのである。

前回までのクイズはこちらから

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北村一真(きたむら・かずま)
北村一真(きたむら・かずま)

1982年生まれ。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。学部生、大学院生時代に関西の大学受験塾、隆盛ゼミナールで難関大受験対策の英語講座を担当。滋賀大学、順天堂大学の非常勤講師を経て、2009年に杏林大学外国語学部助教に就任。2015年より同大学准教授。著書に『英文解体新書』(研究社)、『英語の読み方』(中公新書)、『知識と文脈で深める 上級英単語ロゴフィリア』(共著、アスク出版)、『ジャパンタイムズ社説集2022』(解説執筆、ジャパンタイムズ出版)、『英文読解を極める 「上級者の思考」を手に入れる5つのステップ』(NHK出版新書)など。Twitter:@Kazuma_Kitamura

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