英語は既に機械翻訳で事足りる時代は来ていて、今後もその状況は加速すると話す翻訳ラボ代表の山田優さん。だからと言って、英語が不要になるわけではなく、機械翻訳をうまく使いこなすために、英語は必要な知識になると考える山田さんに機械翻訳の未来について語っていただきます。
グローバルコミュニケーションのために必要な英語
機械翻訳があるから英語を学ぶ必要はなくなる、という考え方は、おおむね間違ってはいない。ただ、それよりも、将来的には機械翻訳のおかげで英語を使って世界的に活躍できる日本人がもっと増えていくことだろう。
われわれが英語を必要とする主な理由は、グローバルコミュニケーションのためだ。ベトナム人と話をするときも、フランス人と話をするときも英語を使う。また、多くの情報が英語で発信されているから英語で情報収集をするし、論文なども英語で書かれていることが多いから、取りあえず英語で書いておくことでいろいろな人に読んでもらえる可能性が高まる。この状況はしばらくは続くだろうから、英語力の必要性はなくならない。
しかし、その目的のためだけならば、機械翻訳で事足りる時代は既に来ているし、その状況は、今後も加速する。誤解してほしくないのだが、私は機械翻訳の使用がプライベートなコミュニケーション、例えば、恋人との会話だとかを可能にするとは言っていない。
かつてニコラス・オストラは著書『The Last Lingua Franca』(2010)の中で、「英語はエリートの言語であり、今後、英語に代わるリンガフランカ(共通語)が台頭することはない」と述べた。これを受けてシンクタンクTAUSは、機械翻訳が次の世界共通語になると予測した。私の将来の英語に対する見立てもこれに近い。ただ、私は、リンガフランカとしての英語と、母語(日本語)と機械翻訳を組み合わせて使うことが重要になる将来を予測する。すなわち、機械翻訳を使って英語を使いこなせる人が最強になるということだ。
機械翻訳を使うために英語の知識が必要になる
短期的には、日本人YouTuberが英語で発信をして、世界的な人気を得るような人が増えると想像する。機械翻訳とtext-to-speechのようなテクノロジーが裏で動いていて、あたかも本人が英語でしゃべっているような動画に仕上がる。そうすると、世界的に活躍できる日本人がもっと増えるという話は現実味を帯びる。
このような機械翻訳とその周辺技術の活用は、早い段階で実現される。社会的に広く認知されると、その利用数は指数関数的に広がるので、機械翻訳を使った英語でのコミュニケーションは、日常的に定着するだろう。
すると細かな分野や個人の用途・特徴に合わせてカスタムできる機械翻訳の需要が高まる。ティーンエイジャー女性の英語に訳せる機械翻訳とか、マッチョな男性英語を話す機械翻訳のようなものが登場する。と同時に、機械翻訳を使って英語を学習することも日常的になり、学習者の英語レベルに合わせた機械翻訳も登場するだろう。
重要なのは、機械翻訳を使うために英語の知識が必要になるということだ。英語がリンガフランカとしての地位にあり続ける限り、英語は機械翻訳をうまく使いこなすために必要な知識となる。つまり、機械翻訳があるから英語や外国語が不要になるのではなく、機械翻訳があるからこそ、それを使って英語でコミュニケーションすることがより重要になるのだ。それを実現している人が大勢活躍する世界が、私の考える英語の未来である。
シリーズ 英語の未来予想
山田優さんの本
ENGLISH JOURNAL 2023年1月号
本記事はENGLISH JOURNAL2023年1月号に掲載した特集「英語の未来」を再編集したものです。
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