イギリスでは容認発音(Received Pronunciation/RP)が標準発音とされていますが、実際にどんな発音でどんな人が使っているか知っていますか?本記事では、英語音声学者の小川直樹さんが、王道のRPを話すエリザベス女王のスピーチ音声と共に詳しく解説します。
※本記事は、ENGLISH JOURNAL2022年12月号に掲載した内容を一部抜粋したものです。
どんな人たちがRPを話すのか
RPはReceived Pronunciation(容認発音)の略称です。つまり、RPは発音のみを指すのです。ただ、RPを話す人は身分の高い人、教養のある人たちです。だから彼らの英語は発音ばかりか、文法や語彙もきちんとしていることになります。その意味で模範的な英語です。RP は、King’s/Queen’sEnglishと言われることもあるように、高貴な人が使う英語です。
しかし、イギリスの映画やドラマを見ると、RPが当たり前のように使われています。そのため日本人は、イギリスでは誰もがRPで話していると思いがちです。でも現実には、イギリスでRPを話している人はごくわずかしかいません。RP話者はイングランドの人口の3~5%程度といわれています。20~30人に1人くらいしかいないのです。イギリス全体で見れば、もっと比率は下がります。RPは、いわば超エリートの言葉で、階級社会を象徴する言葉ということです。
では、庶民がそんなRPを聞いたら、どう思うでしょう。憧れ?でもそれだけではありません。自分たちとは別の世界の人たちですから、憧れにねたみが混ざった気持ちが湧いてくるのです。日本人はRPと聞けば、憧れの上品な英語というイメージですよね。でもイギリス人にとっては、もっと複雑なものなのです。
RPの王道、エリザベス女王のスピーチ音声で解説
2019年、チャタムハウス賞授賞式でのスピーチ
As patron of the Royal Institute of International Affairs, I’m delighted that members have awarded this year’s Chatham House prize to Sir David Attenborough and the Blue Planet II team. Sir David, this award recognises your many talents and one can’t help but feel that for those of us of a certain generation we can take great pleasure in proving age is no barrier to being a positive influence. Your ability to communicate the beauty and vulnerability of our natural environment remains unequalled as you and your team have engaged and enthused many people, young and old, to appreciate and preserve our world’s oceans. For that we should all be thankful. I congratulate you and all involved in this endeavour.
(©Reuters, November 21, 2019)王立国際問題研究所の後援者として、所員たちが今年のチャタムハウス賞をデイビッド・アッテンボロー卿ならびに『ブループラネットⅡ』チームに授与したことをうれしく思います。デイビッド卿、この賞があなたの多才さを認めるとともに、ある世代の私たちにとって、有益な影響力を持つ存在となるのに年齢は障害にならないと証明したことは、大いに喜ばしいと思わずにはいられません。自然環境の美しさともろさを伝えるあなたの才能は依然として無類のものであり、あなたとあなたのチームは、世界の海の真価を認めて守るために、年齢を問わず多くの人々を魅了し、感動を与えてきました。そのことに私たちは皆、感謝しなければなりません。あなたとこの試みに携わる全ての方々にお祝いを申し上げます。
解説
王室や貴族のみが話す本道のRPです。thoseやnoは[əʊ]です。ただこれだけでは、royalな英語らしさとは言えません。こういう上流階級の英語では、あまり口を大きく動かしません。力みもありません。自然体の英語です。その結果、本道のRPのみに聞かれる特徴が表れます。
まず、出だしのpatron of the Royalや、for those of us of a certain、さらにはvulnerability のあたりの音のつながりと崩れ具合がそれです。口を動かさない発音だからこその、滑らかさと崩れです。RPは折り目正しいから音が崩れない、と思っている人がいるかもしれません。でもそれは誤解です。
力みのない英語の特徴は、文末にも現れます。通常の英語は、文や句の最後の単語(内容語[名詞・動詞・形容詞・副詞など、情報を伝える上で大事な語群])が目立つように発音されます。ところが貴族の英語では、ここが弱まります。女王のスピーチの最後のあたりはその見本市です。young and old、our world’s oceans、be thankful、in this endeavour いずれの太字部分も、消え入るように発音されています。
ちなみにAttenboroughは、日本では「アッテンボロー」と表記されますが、[átɪmbrə]と発音されています。
RP以外のイギリス英語の発音と比較できる
『ENGLISH JOURNAL』12月号では、エリザベス女王のRPの他に、前イギリス首相のリズ・トラス氏が話すイングランド南部なまりや、イングランド中部、北部、スコットランドなまりなど、さまざまなイギリス英語のインタビュー音声を比較して紹介します。その他、イギリス英語の歴史やイギリスで話されている英語の種類、効率的なアウトプットの練習法を紹介。「知る」「聞く」「話す」の3ステップで、イギリス英語の習得を目指しましょう!
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翻訳:片桐恵里
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