イギリス貴族の壮麗な屋敷が舞台となるTVドラマの映画版第2作目『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』【EJ Culture映画】

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気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に長谷川町蔵さんが解説します。

今月の1本

『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』(原題:Downton Abbey:A New Era)をご紹介します。

※動画が見られない場合はYouTubeのページでご覧ください。

1928年、イギリス北東部ダウントン。広大な領地を治めるグランサム伯爵ロバート(ヒュー・ボネヴィル)らは喜びの日を迎えていた。亡き三女の夫トム(アレン・リーチ)が、モード・バグショーの娘と結婚したのだ。華やかなうたげとは裏腹に、屋敷は傷みが目立ち、長女メアリー(ミシェル・ドッカリー)が修繕費の工面に悩んでいたところへ、映画会社から屋敷で撮影したいというオファーが。父の反対を押し切ってメアリーは撮影を許可し、使用人たちは胸をときめかせる。一方、ロバートは母バイオレット(マギー・スミス)が、モンミライユ侯爵から南フランスにある別荘を贈られたという知らせに驚く。果たしてその秘密は、一族の存続を揺るがすことになるのか――?

伯爵一家と使用人たちが帰ってきた! 大ヒットドラマシリーズの映画第2弾

20世紀初頭、イギリスのカントリーハウスを舞台に、伯爵一家とその使用人たちを描いた群像劇TVドラマ「ダウントン・アビー」は2010年に放映開始され、2015年に完結した。しかし「その後の彼ら/彼女たちを見たい」との熱望が世界中から押し寄せ、2019年には映画版が製作された。主要トピックは、当時のイギリス国王ジョージ5世夫妻のダウントン・アビー来訪。伯爵家にとってはこれ以上ないほどの栄誉である。本作は、同作の大ヒットを受けて製作された第2弾なわけだが、国王以上のセレブは存在しない。果たして物語をどう盛り上げる?脚本・製作のジュリアン・フェローズが考え付いたのは、「格式を下げる」ことだった。伯爵家に現代社会の波が押し寄せるのだ。

時は1928年。実質的な当主は伯爵から長女のメアリーに交代している。そんな折、映画スタジオからダウントン・アビーをロケ地として使用したいとの申し出があり、当初は断っていたものの、老朽化が激しい屋敷の修繕費を捻出するために貸し出さざるを得なくなる。イギリス貴族の華やかなりし時代を知る前執事のカーソンはこれを知って嘆く。「俳優ごときが、あの場所をわが物顔でのし歩くとは!」

このセリフは強烈なギャグである。なぜならわれわれがダウントン・アビーとして認識しているカントリーハウスの本当の名は、イギリス国会議事堂も手掛けた名建築家チャールズ・バリーによって1830年代に建てられた、ハイクレア・カースルだからだ。細部まで凝りまくった屋敷の維持に膨大な費用がかかるため、所有者であるカーナヴォン伯爵家は「ダウントン・アビー」の撮影クルーの出入りを許しているのだ。

物語の終盤では、ある理由から使用人たちが貴族に扮することになる。正装したカーソンやベイツ、デイジーといったなじみの面々の姿には、長年のファンとしては笑わずにはいられないけど、同時にはっと気付くのだ。そもそも彼ら/彼女たちはイギリス貴族の使用人ではなく、優れた俳優であることを。

『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』公式サイト

Cast & Staff 監督:サイモン・カーティス/出演:ヒュー・ボネヴィル、ミシェル・ドッカリー、ジム・カーター他/9月30日(金)より全国公開/配給:東宝東和

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※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2022年10月号に掲載した記事を再編集したものです。

EJ
長谷川町蔵(はせがわ・まちぞう)

ライター&コラムニスト。著書に『あたしたちの未来はきっと』(タバブックス)、『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワーブックス)、『文化系のためのヒップホップ入門3』(アルテスパブリッシング)など。

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