ポップスターの光と闇をリアルに描き出す【FILMOSCOPE】

気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に真魚八重子さんが解説します。

今月の1本

『ポップスター』(原題:Vox Lux)をご紹介します。

学校で銃乱射事件に巻き込まれながらも一命を取り留めた14歳の少女セレステ。姉と作った追悼曲が大ヒットし、敏腕マネージャーに見初められてスターダムへと駆け上がる。18年後、度重なるスキャンダルでトップスターの座から転落した彼女のカムバックツアー初日を前に、ある事件が起こる。それは、かつて彼女が被害に遭った事件を模倣するものだった……。

ポップスターの代償

1999年、セレステと姉エレノアが通う学校で銃乱射事件が発生し、セレステは首を撃たれ重傷を負う。追悼式典ではセレステが姉の作った曲を歌い、犠牲者にささげた。その歌声は全米の注目を集め、レコードデビューの話が舞い込む。まだ14歳の控えめな少女だったセレステは、瞬く間に華やかなショービジネス界に染まっていき、夜遊びに明け暮れ、男性と関係を持ったり深酒をしたりといった日々に陥っていく。

2017年、31歳になったセレステは今もスターとして君臨している。ゴシップが絶えない彼女は常にパパラッチの標的だ。そんなさなかにクロアチアで銃乱射事件が発生し、犯人らがセレステの曲のミュージックビデオで使用された覆面を着用していたことが判明する。

ナタリー・ポートマンが演じるのは、31歳になったセレステ。常に人々の目にさらされて落ち着かない環境のため、明らかに情緒不安定気味だ。そしてそのストレスによってまた新たなトラブルを 引き起こす という悪循環に陥っている。そんなスターの悲劇と、その代償として神から与えられたようにステージで輝く姿を捉えた作品だ。

セレステが日常から戦闘状態に入るような、どぎついメイクとハードな衣装に目が留まる。娘を愛しているものの、忙しさから姉に育ててもらっているために、セレステは家族の中で疎外感を覚えずにはいられない。その状況下で起こる事件。自分の衣装を模倣した銃乱射事件が、かつてのスクールシューティングの生き残りである彼女と関連があるようにマスコミに騒がれても、セレステには犯人たちの意向が推測できるわけもない。

だが、精神的に追い込まれたセレステの心の混乱がうそであるかのように、ステージでは圧巻のパフォーマンスを披露する。クライマックスを飾るライブの模様は、重圧をかけられたスターだからこそ放てるカリスマ性を帯びていた。一人の人間としての葛藤と、ポップスターとしての稀有な宿命を背負った女性に肉迫する映画である。

『ポップスター』(原題:Vox Lux)

(C)2018 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC
Staff ">Cast & Staff

ブラディ・コーベット/出演:ナタリー・ポートマン、ジュード・ロウ、ステイシー・マーティンほか/ 6月5 日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全ロードショー/配給:ギャガ

gaga.ne.jp
文:真魚八重子(まな・やえこ)

映画著述業。『映画秘宝』、朝日新聞の映画欄、文春オンライン等で執筆中。著書『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『映画なしでは生きられない』『バッドエンドの誘惑』(共に洋泉社)も絶賛発売中。

編集:ENGLISH JOURNAL編集部

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年5月号に掲載された記事を再編集したものです。

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