気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に長谷川町蔵さんが解説します。
今月の1本
今月は特別編として、Netflix配信の注目テレビドラマシリーズ『ハリウッド』(原題:Hollywood)をご紹介します。
舞台は1940年代、第二次世界大戦後のハリウッド黄金時代。人種・同性愛・ジェンダーへの偏見と闘いながら、俳優や映画製作者たちが懸命に夢をかなえようとする姿を描く。戦争から帰還しロサンゼルスで俳優を志す青年ジャックは、スターを目指すものの生活のためにガソリンスタンドで働き始める。しかし実はそこでは、若い男性の売春をひそかに斡旋しているのだった……。
1940年代のハリウッドを舞台に俳優や映画製作者たちが夢を追う姿を描く
アメリカのテレビ界で活躍するプロデューサー、ライアン・マーフィーは自らゲイであることを公言し、かつてはドラマの主人公に似つかわしくないとされていたLGBTQの俳優や、中高年の女優を積極的にキャスティングしながらヒット作を飛ばし続けている、稀有な人物である。その成功の秘密は題材の過激さ。血しぶきが乱れ飛ぶ「アメリカン・ホラー・ストーリー」や、トランスジェンダーの社交界に潜入した「POSE/ポーズ」といったプロデュース作では、ポリティカリー・コレクト(※)と下世話さが絶妙なバランスで両立している。
1947年のハリウッドを舞台にした最新作「ハリウッド」も、一見いかにもマーフィー作品らしいトーンで幕を開ける。何しろ俳優志望の主人公ジャックが就いた仕事はガス給油所を装った男娼サロン、彼が知り合った脚本家志望の青年アーチーが書いたのは、ロサンゼルスにある「HOLLYWOOD」サインから投身自殺した実在の女優ペグ・エントウィスルの伝記物語なのだから。
しかしアーチーの脚本を評価した映画監督レイモンドが、白人だったはずのペグをアフリカ系の女優カミールに演じさせようと決意したことをきっかけにドラマのトーンが変わり始める。主人公たちが映画製作を通じて当時のハリウッドに横行していた差別と闘い、史実が現実とは異なる形に改変され始めるのだ。
この改変によって、ステレオタイプの東洋系悪女(Dragon Ladyと呼ばれた)を演じ続けさせられた中国系女優アンナ・メイ・ウォンや、エイズで亡くなる直前までゲイであることをカミングアウトできなかった二枚目スター、ロック・ハドソンといった実在する人物の人生も書き換えられていく。ここでマーフィーが「ハリウッド」を作った意図が明らかになる。そう、本作は史実では失意の中で生涯を終えたマイノリティーの先人たちにHollywood ending(ハッピーエンドのこと)を迎えさせてあげようと作られたファンタジーなのだ。
『ハリウッド』(原題:Hollywood)
Cast & Staff
監督:ライアン・マーフィー、イアン・ブレナン/出演:デヴィッド・コレンスウェット、ダレン・クリス、ローラ・ハリアー、ジョー・マンテロほか/Netflixオリジナルシリーズ『ハリウッド』独占配信中
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年8月号に掲載された記事を再編集したものです。
SERIES連載
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