気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に長谷川町蔵さんが解説します。
今月の1本
『mid90s ミッドナインティーズ』(原題:mid90s)をご紹介します。
※動画が見られない場合は YouTube のページでご覧ください。1990年代半ばのアメリカ、ロサンゼルス。13歳のスティーヴィーは兄のイアン、母のダブニーと暮らしている。小柄なスティーヴィーは力の強い兄にまったく歯が立たず、早く大きくなって彼を見返してやりたいと願っていた。そんなある日、街のスケートボード・ショップを訪れたスティーヴィーは、店に出入りする少年たちと知り合う。彼らは驚くほど自由で格好よく、スティーヴィーは憧れのような気持ちで、そのグループに近付こうとするが・・・。
90年代のロサンゼルスを舞台に思春期を迎えた少年の青春物語
1990年代半ば、ロサンゼルス。13歳の内気な少年スティーヴィーは力の強い兄のイアンに歯が立たず、鬱々とした日々を送っていた。そんなある日、彼はスケートボード・ショップに出入りする少年たちと知り合う。口が悪くて乱暴だけど、驚くほど幸せそうな彼らの姿に衝撃を受けたスティーヴィーは、彼らの仲間入りをするのだが・・・。
『21ジャンプストリート』(2012)や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)への出演で知られる人気俳優ジョナ・ヒルの監督デビュー作は、1990年代半ばのポップカルチャーを知る者にはたまらない作品となった。この当時、アメリカ西海岸のスケートボード・シーンは、スケートボーダーが身に着けるスニーカーやTシャツ、BGMとして聴くヒップホップなどを巻き込んで、世界中の若者を夢中にさせる一大ライフスタイルになっていた。ヒルは、そうしたものを空気感込みでスクリーンの中でよみがえらせたのだ。デジタルカメラ全盛期にあえて16ミリフィルムで撮影された映像は、甘美な郷愁に満ちている。
そんな離れ業をヒルができたのも、1983年生まれの彼の半自伝作だからだ。ロケ地に使用されたスケートパークは少年時代のヒルが実際にスケートボードを楽しんだ場所だそうだし、イアンの部屋のマニアックなCDコレクションは、後にアメリカのバンド「マルーン5」のマネージャーになった兄ジョーダンのそれを再現したものだろう。
かといって本作が当時を知らない人間には理解不能な物語かというと、決してそんなことはない。思春期を迎えた主人公が家族以外の人間関係に夢中になるものの、それがあっけなく壊れる現場に立ち会うことで成長を遂げる・・・。スティーヴィーが体験するこうした出来事は、誰もが10代の頃に経験するものだからだ。時代を限定したタイトルが付けられながら、それ故に本作は普遍的な輝きを放っている。
大半がそれまで演技未経験のスケートボーダーだったという少年たちの自然な演技にも注目してほしい。
『mid90s ミッドナインティーズ』(原題:mid90s)
Staff ">Cast & Staff
監督・脚本:ジョナ・ヒル/出演:サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストンほか/9月4日(金)新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイントほか全国ロードショー/配給:トランスフォーマー
www.transformer.co.jpライター&コラムニスト。著書に『あたしたちの未来はきっと』(タバブックス)、『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワーブックス)、『文化系のためのヒップホップ入門3』(アルテスパブリッシング)など。
※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年10号に掲載した記事を再編集したものです。
SERIES連載
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