この連載では『改訂版 キクタンBRITISH』(アルク)の著者・小川直樹先生が、本書の内容よりさらに詳しくイギリス英語の発音の秘密を深掘りします。最終回となる第6回では、強勢型の点で注意が必要な句を、本書に出ていないものまで含めて扱います。敬称のついた固有名詞の強勢型、bank holidayのような見た目だけではその強勢型を判断しにくい句、さらに英米で強勢型が異なる句など、他ではなかなか知ることのできない事例を取り上げます。
目次
※この記事では、強勢(アクセント)の位置を分かりやすく示すために一部の英単語を強調して表示しています。文字強調が正しく表示されない場合、English Journalのオリジナルサイトをご覧ください。
(第1回~第5回の記事はこちら)
その他、気をつけたい句
この連載の最後に、『改訂版 キクタンBRITISH』(以下「キクBR」)に出てくる句で、注意すべき点を含んでいるものを取り上げておきます。
カッコのついた数字は、キクBRの見出し語番号です。番号に「解説」とついている場合は、見出し語以外の解説部分に含まれる句であることを意味します。
- Madame TUSSAUDS (351) 「マダム・タッソー館」
MadameやMr、Mrs、Ms、Dr、さらに「山」を表すMtなどは、後ろに来る名前に第1強勢が付きます。MrなのにMsと言ってしまってあとから敬称を訂正する、というような特別な事情がない限り、敬称に第1強勢が付くことはありません。なお、BE(イギリス英語)ではMrなどの後にピリオドを付けないのが普通です。
ところで、Madame TUSSAUDSは、日本では「マダム・タッソー」という呼び方をされています。でも英語では違うんです。Tu-は強勢のない[tu](または[tʊ]、[tə])、-ssaudsは[sɔ́ː(d)z](または[sə́ʊ(d)z])。フランス語の名前から来ているので、英語での読み方には揺れがあるのです。なお、キクBRに載せた[tusɔ́ːdz]が一番一般的な読み方。いずれにせよこの蝋人形館の名前では、日本語式とは異なり、語末の子音を発音するのが普通です。
- Swiss ROLL (600) 「ロールケーキ」
日本語の「スイス」は固有名詞ですが、英語のSwissは形容詞「スイスの」です(国名の「スイス」はSwitzerland)。だから形容詞+名詞となり、Swiss ROLLと後方強勢になります。日本語っぽく「スイスロール」と発音すると、前方強勢っぽくなってしまいます。
なお、Swissの出だしは[swɪ]です。「ス」⇒「イ」だと[w]が足りませんし、「ス」で力んでしまいます。Swissをうまく出すには、まず-wiss [wɪs]を練習します。言い慣れたら、出だしに声のない[s]をそっと付けて、-wissをちょっとだけ力を入れて発音します。
- return TICKET, single TICKET (312解説) 「往復切符」「片道切符」
returnもsingleも、それぞれ単独であっても「往復切符」「片道切符」という意味で使えます。この場合、returnもsingleも名詞です。ならばreturn ticketもsingle ticketも名詞+名詞となり、前方強勢でよさそうです。しかし!ticketが付くと、return TICKET, single TICKETのように後方強勢となります。この場合のreturnとsingleは形容詞として使われるからです。
とはいえ駅や列車内で切符を買うとか、運賃の話になれば、ticketよりもreturnやsingleのほうが大事な情報です。現実的には、RETURN ticket、SINGLE ticketと言う可能性も極めて高く、それで問題ないと言えそうです。
ちなみにreturn TICKETは、BEでは「往復切符」ですが、AE(アメリカ英語)では「帰りのみの切符」となります。AEでの「往復切符」はround-trip TICKET(*)だからです。
*なお、名詞形はround TRIPで、形容詞形はround-TRIP。いずれも後方強勢。round-trip TICKETでは、強勢移動( 第5回 参照)が起きて、tripよりもroundのほうを強く発音します。
- rearview MIRROR (610解説) 「バックミラー」
「バックミラー」を表す句です。rearview自体がrear+viewからなる、REARviewという複合名詞です。それにmirrorが付くと、後方強勢になります。rearviewは「後ろを見るための」という形容詞として働いているようです。ちなみにこのrearviewという単語、単独ではほとんど使われないようです。多くの辞書ではrearview mirrorという句の形のみ取り上げられています。
bank holidayの強勢型について
キクBRには採録されていないのですが、英国ではよく使われる表現に、bank HOLIDAYという句があります。英国での「祝日」を表す表現です。この表記でおわかりのように、この句は後方強勢です。
bank holidayはbank+holidayですから、普通に考えれば名詞+名詞という構造、つまり複合名詞ですので、前方強勢となるはずです。しかし後方強勢なのです。
Longman Pronunciation Dictionary(第3版)を見ると、bankで始まる複合名詞で、2語で表記するものは、bank holiday以外に7つ出ています。
- BANK account 「銀行口座」
- BANK balance 「預金残高」
- BANK draft 「銀行為替手形」
- BANK loan 「銀行ローン」
- BANK manager 「銀行支店長」
- BANK rate 「公定歩合」
- BANK statement 「銀行取引明細」
いずれも前方強勢です。bank HOLIDAYだけが後方強勢なのです。何が違うのでしょう。
上掲の7つの前方強勢の句は、すべて銀行内で取り扱えることです。銀行が直接かかわることです(BANK rateは中央銀行が扱うことですが)。だからこそbankの意味が濃いのです。
一方、bank HOLIDAYは、銀行内で扱うことではありません。国レベルの制度です。銀行は休業を象徴する場なのです。つまり、このbankは、上掲7例のような銀行の機能と密接にかかわる表現ではなく、単に「銀行的な(銀行における)」という意味合いの形容詞として働いていると考えられます。結局、bank holidayのみ、形容詞+名詞という構造となり、だからこそ後方強勢になっているということなのでしょう。
green fingersの強勢型について(訂正とお詫び)
- green FINGERS (335) 「園芸の才能」
キクBRでは旧版以来、green fingers (335) の発音表示を前方強勢で記述していました。しかしこれは形容詞+名詞という構造です。それゆえ、green FINGERSと後方強勢のほうが適切でした。実際、音源でも後方強勢で発音されています。これは後方強勢に訂正させてください。申し訳ありません。次回増刷の機会には修正したいと思います。
なお、greenで始まる句には、前方強勢のものがかなりあります。
GREENgrocer’s (426) 「八百屋」やGREENhouse 「温室」など、とりわけ1語で表記するものは、典型的な複合名詞で前方強勢です。色名で始まる句は、1語で表記するか2語で表記するかも含めて、強勢位置に注意が必要だということです(自戒も含めて)。
『改訂版 キクタンBRITISH』の例文や解説に出てくる後方強勢の句リスト
この連載もいよいよ最終段階ですが、まだ取り上げていない句もたくさんあります。ここでは、見出し語ではなく、例文や解説の中に出てくる、BEの後方強勢の句をまとめて並べておきましょう。これらには強勢表示がないからこそ、ここで取り上げます。
(編集部注:以下、見出し語番号のうしろの「解説」の文字は省略しますが、すべて該当する見出し語の解説文中に登場する句を挙げています。)
なお、解説の中には、AEの句もかなり取り上げられています。でも、今回のこの連載ではAEの句は扱っていません。それについてはまたいずれ機会ある折に解説したいと思います。
Chapter 2「起きてから寝るまでのイギリス生活英単語」に登場する句
- boxed LUNCH (354) 「お弁当」
- general pracTITIONER (384) 「医者、一般開業医」
- mushy PEAS (386) 「つぶしたエンドウマメ」
- chartered ACCOUNTANT, certified ACCOUNTANT (403) 「公認会計士」
- extra TIME (414) 「延長戦」
- golden SYRUP (434) 「ゴールデンシロップ(さとうきびのシロップ)」
- main DISH (445) 「メインディッシュ」
- high TEA (449) 「ハイ・ティー(午後5~7時ごろの軽めの夕食)」
- frozen FOOD (451) 「冷凍食品」
- remote CONTROL (466) 「リモコン」
- the beautiful GAME (485) 「サッカーの別称」
- regular CUSTOMER (502) 「常連」
- second HELPING(s) (507) 「お代わり」
- Cor BLIMEY!, Gor BLIMEY! (517) 「びっくりだ!」
- 感嘆の表現。cor, gorともにGodから来た「おや、まあ、まさか」という意味の感嘆詞。
- fairly GOOD (555) 「まずまずの」
- terribly SORRY (558) 「まことに申し訳ない」
- Mickey BLISS (580) 「piss(小便)の隠語」
- 韻を踏んでいることから、ライミング・スラングと呼ぶ。コックニー(ロンドンの下町方言)で使われる俗語の一例。
Chapter 3「トピック別・英米で異なる単語」に登場する句
- sweet PEPPER (588) 「ピーマン」
- broad BEANS, French BEANS (591) 「ソラマメ」「サヤインゲン」
- dual CARRIAGEway (604) 「中央分離帯のある幹線道路」
- hard SHOULDER, soft SHOULDER (607) 「路肩」
- a high-necked SHIRT (627) 「ハイネック(のシャツ)」
- 強勢移動が起きているので、highをneckedより若干強く読む。
- industrial ESTATE (644) 「工業団地」
- headMISTRESS, HEADmistress (649) 「(女性の)校長」
- head TEACHER (649) 「校長」
- 1語で表記することもある。
英米で強勢型が異なる!?
キクBRでは扱っていませんが、句の中には英米で強勢型が異なるものがあります。最後に、それを少しばかり紹介しておきましょう。
| BE(イギリス英語) | AE(アメリカ英語) | 意味 |
|---|---|---|
| weekEND | WEEKend | 週末 |
| ice CREAM | ICE cream | アイスクリーム |
| hot DOG | HOT dog | ホットドッグ |
| top HAT | TOP hat | シルクハット |
| cream CHEESE | CREAM cheese | クリームチーズ |
| white SAUCE | WHITE sauce | ホワイトソース |
| working CLASS | WORKING class | 労働者階級 |
ぱっと見てわかるように、BEでは後方強勢、AEでは前方強勢となる傾向があります。BEでは、2語のまま扱おうという意識が強い一方、AEでは、複合名詞として1つにまとめて扱いたいということです。AEのほうがより単純化して扱う傾向があるということです。
しかし、このように英米で強勢型が異なる句は、非常に少ないのです。たいていは英米共通です。また、この違いは絶対的なものではありません。ここに挙げたような句を、英国で前方強勢で言ったり、米国で後方強勢で言ったりしても通じるということです。例えば、hot dogをHOT dogと前方強勢で発音するイギリス人も多いのです。
ちなみに、1語でhotdog(またはhot-dog)と表記すると、「(スノーボードなどで)スゴ技を見せる」という意味の動詞になります。この場合は、英米とも前方強勢です(もともとAEの言い方だったからかもしれません)。
またcream cheeseの場合、Longman Pronunciation Dictionary(第3版)によると、アメリカ人のうち約7割は前方強勢(CREAM cheese)で、残り3割は後方強勢(cream CHEESE)で発音するようです。AE⇒前方強勢、BE⇒後方強勢というのは、傾向であって絶対的ではないということです。
こういう例は、発音辞典を丹念に見ていけば、けっこう見つけられます。しかし一般の辞書では、片方のみしか出ていないことも多いのです。その原因は、日本では句の強勢はあまり重要視されてこなかったこと、くわえて日本ではAEの発音が重視されてきたこと、などにあると思われます。
句の強勢も、聞いて身につく「キクタン」メソッドで
この連載ではずっと、前が強いのか、後ろが強いのかという句の強勢型について述べてきました。でも英米で強勢型が異なる句があるということは、句の強勢は間違えても通じる、それほど神経質にならなくてもよい、ということでもあります(構成する単語の強勢位置が正確でありさえすれば、という条件が付きますが)。
句の強勢というものは、周りの人が使っている音声を聞くことで、自然に覚えていくものです。東京で生まれ育った人は東京弁のアクセントで話すし、大阪で生まれ育った人は大阪弁のアクセントで話すのと同じです。
ただBEマニアなど、英語を外国語として学ぶ人にとっては、ここで述べたような情報は、知識として文字を通して覚えていこうとするはずです。しかし、それで句の強勢を覚えるのは、容易ではありません。ぜひキクBRの音源を活用してください。音源を何度も何度も聞きこんで、BEらしい句の響きを頭に擦り込んでください。句の強勢の学習には、キクタンならではのキク(聞く)学習法が一番キク(効く)というわけです。
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