
多くの人がつまずきがちな英文法のポイントを、現役高校英語教師の大竹保幹さんが分かりやすく解説。今回のテーマは「冠詞」、theの用法です。誰もが「それ」と分かるものに付ける、というのはありますが、もちろんそれだけではなく・・・なかなかややこしい!クイズを解きながら使い方の感覚を体になじませましょう。
パラダイス行き切符を手に入れる問題
英語で一番使われている単語は何でしょうか?get?have?――いえ、違います。正解はtheです。
この単語には皆さん同じような感想を持っていると思いますが、theは英語学習の序盤で習うはずなのに、使い方がやたらと難しい語でもあります。読んだり聞いたりしている分にはなんとなく理解できるけど、いざ自分が使うとなると難しい。
今回はそんな「the」と、その仲間である「a」についてクイズで学んでいきましょう。
問題
次の (1) ~ (5) の英文について、正しいかどうかを判断してください。
・正しい:〇
・間違っている:×
・ちょっと怪しい:△
(1)
On my way home from work, I saw cat on the road.
(2)
A tea with a lemon, please.
(3)
It’s a bit cold in this room. Will you close a window?
(4)
We can see a crescent moon in the sky tonight.
(5)
The lion is the king of beasts.
theは「誰にでも『それ!』と分かるもの」を表したいとき名詞に付ける、定冠詞と呼ばれる語です。分かりやすいものとしては、the world(世界)やthe sun(太陽)などは世界に一つしかないので、「ああ、あの太陽のことね」と誰にでも分かるというわけです。
誰かがすでに話題に出したものにも付けられるのは「ああ、さっき買ったって言っていたthe book(その本)のことね」と、何について話をしているのかをはっきりさせたいからです。
一方で、「それと特定できないもの」が一つのときはa (an) を使います。a book(本)とは「世の中にたくさんある本のうちのどれか一冊」なので、まだどの本なのかは分かりません。このように、theとaの区別は意外とシンプルなのにもかかわらず、英作文で冠詞を正確に使うのは至難の業(わざ)です。
the cat/a cat/cats/cat・・・今ここに挙げた「ネコ」はどのように違うのか。自信を持って説明できるようになりましょう。
解答と解説

(1)
【答え:〇】
On my way home from work, I saw cat on the road.
家に帰る途中でネコの死体を見てしまいました。
非常に悲しい内容ですが、英文としては問題ありません。cat(ネコ)という語は普通ならaやtheなどを付けたり、複数を表すcatsにしたりしますが、こういう悲しい報告をするときには無冠詞で使うのです。
まずここでは、aやtheの有無がどのような意味の違いを生むのかについて考えてみることにしましょう。
基本的にaは「物が一つ」であることを表します。
I have a chicken as a pet.
ペットとしてニワトリを一羽飼っています。
I have chickens as pets.
ペットとしてニワトリを何羽か飼っています。
I had roast chicken for dinner.
夕食にローストチキンを食べました。
chicken(ニワトリ)が一羽ならa chickenですし、何羽もいるならchickensにします。「数えられる名詞」はこのようにして「いくつあるのか」を表すのでしたね。ということは、逆を言えばaや複数の -s がなければ、それは「数えられないもの」になるということです。
❖ 「決まった形がなくて数えられない」ものは無冠詞
英語の数えられない名詞は、例えばwater(水)やpaper(紙)など入れ物や切り方によって大きさがまちまちだったり、difficulty(難しさ)など一定の形を持たないものです。
a chickenにはニワトリとしての決まった形がありますが、chickenには決まった形がない。つまり、chickenはニワトリが切り分けられた「鶏肉」の状態であることを表すということですね。
(1) のcatにも同じことが言えます。I saw cat on the road. であるならば、「ネコ」にネコとしての形がない・・・車などにひかれてしまったのでしょうか。あまり想像はしない方がいいですね。
もちろん、もしこれがI saw a cat on the road. なら帰りにかわいいネコちゃんを見たよ、という楽しい話になります。aの有無でこんなにも意味が変わるのですから、慎重にならなくてはいけません。
ちなみにthe roadのtheは話の流れ的に「私の帰り道」だと特定させる役割をしています。詳しくは (3) で説明しますが、こんな風に初めて話題に出すことにも、相手が「それ」と分かるだろうと考えられるのであればtheが使われます。
(2)
【答え:×】
A tea with a lemon, please.
↓
A tea with lemon, please.
レモンティーをお願いします。
イギリスの人に言わせれば邪道なのかもしれませんが、レモンティーも爽やかでおいしいですよね。tea(紅茶)やcoffee(コーヒー)は液体なので、英語的には「数えられないもの」に当たります。正式にはa cup of tea(カップ1杯の紅茶)などの表現を使うわけですが、カップに入れて提供されるのを前提としてお店などで注文する際はa teaと言ったりもします。だからこのaは問題なしです。
しかし、ここで問題なのはむしろa lemonのほうです。実はこのままでは、とんでもない姿で紅茶が提供されてしまうからです。
My chicken laid an egg in the morning.
うちのニワトリが今朝卵を産みました。
Hey, you have egg on your shirt!
ちょっと、卵がシャツに付いちゃっているよ。
aが表す決まった形は、言い換えるなら「ある物が『丸ごと1個ある』ということ」です。当たり前のことですが、例文のニワトリが産んだ卵は丸ごと1個なのでan eggと言っています。
一方で、シャツに付いている卵はどうでしょうか。料理をしているときに溶いた卵の一部がかかってしまったのかもしれません。少なくとも、自分の体に卵が丸ごと1個張り付くなんていう状況はあまり考えられないですよね。だからここでは無冠詞のeggを使うことになるのです。
❖ 「丸ごと1個」でない場合は・・・
同じ理由でa tea with a lemonは直す必要があります。紅茶に添えられているのがレモン丸ごと1個というのはちょっと奇抜過ぎますから、切り分けられていることを示すためにa tea with lemonとしましょう。
もちろん、輪切りであることを強調するならa slice of lemon(輪切りのレモン1枚)という言い方もありますね。このときもlemonは丸ごとではないので無冠詞です。
aが付けば決まった形があり、丸ごと1個を表す。なければ一定の形がないものになる。この単純な仕組みによって、英語は名詞にさまざまな意味を持たせます。
- room(空間)→ a room(部屋)
- fire(炎)→ a fire(火事)
例を挙げるときりがありませんが、無数に広がるroom(空間)に一定の形を持たせればa room(部屋)になり、燃え盛るfire(炎)も一つひとつの出来事として捉えるとa fire(火事)になります。
辞書を開けば気付くことですが、英語の名詞は「数えられるもの」と「数えられないもの」両方の意味を持っていることが多く、案外柔軟です。だから、「この単語は『数えられる名詞』だからaが付いている」というより、「aが付いているから『数えられる名詞』になっている」と考えるほうが正確なのかもしれませんね。
では、解答をもう一度見ておきましょう。
解答(再掲)
【答え:×】
A tea with a lemon, please.
↓
A tea with lemon, please.
レモンティーをお願いします。
(3)
【答え:×】
It’s a bit cold in this room. Will you close a window?
↓
It’s a bit cold in this room. Will you close the window?
この部屋、寒いね。窓閉めてもらえる?
「窓閉めてもらえる?」とお願いされたとき、わざわざどこか他の部屋の窓を閉めに行くのは悪い冗談にしかなりません。こういう状況ではどの窓を閉めるべきかを簡単に特定できるはずなので、the windowという言い方をするのが正解です。
話題には一度も出てきていなくても、相手にとって「それ」と分かるtheの使い方は結構頻繁に使われます。
Please tell me the way to the station.
駅までの道を教えてください。
「the stationと言われても、東京駅のことなのか新宿駅のことなのか、どれを教えたらいいか分からない!」ということにはなりません。たしかに駅は世の中に無数に存在しますが、ここで相手が知りたがっているのは「ここから一番近い駅」だと解釈することができるからです。
「道」に対してthe wayという言い方をしているのも、たくさんあるものから「一番近い(または簡単な)道」を聞いているのだと理解できます。
❖ 特定がカンタンなときはtheを使う
このように、相手にとって特定が容易な状況ではtheが使われるのです。
Do you have time now?
今お時間ありますか?
Do you have the time?
今何時ですか?
無冠詞のtime(時間)なら相手に時間があるかどうかを尋ねる表現ですが、the timeなら誰にとっても特定できる時間、つまり「現在の時刻」を聞く表現になります。
熟語や慣用表現の中で使われているtheにもちゃんと理屈があって、それぞれを丁寧に考えていくことが大切です。
では、解答を振り返っておきましょう。
解答(再掲)
【答え:×】
It’s a bit cold in this room. Will you close a window?
↓
It’s a bit cold in this room. Will you close the window?
この部屋、寒いね。窓閉めてもらえる?
(4)
【答え:○】
We can see a crescent moon in the sky tonight.
今夜は空に三日月が見えます。
英単語の中には「必ずtheと一緒に使う」と習うものがあります。例えば、the world(世界)、the sun(太陽)、the sea(海)など世界に一つしかないものは、誰でも簡単に特定することができるのでtheと相性がいいですね。
「月」もそういう理由でいつもならthe moonという言い方をするわけなのですが、今回の英文ではaが使われています。それはどうしてでしょうか。
❖ 世界に一つのものにaが使われるわけ
名詞にtheが付くのは誰もが「それ」と特定できたり、同じイメージを共有できるからです。言い換えるなら、いつもtheを付けていた名詞でもaが付けば「いつもとは違う姿」をしていることを意味します。
I felt as if I were in a different world.
私にはまるで別世界にいるかのように感じた。
「別世界」という語から誰もが同じ姿を想像することは難しいので、a different worldになっています。「自分たちが知っているいつもの世界とは違う姿であること」がaによって表現されていますね。
(4) の英文にあるa crescent moonについても同じ考え方で、夜空に浮かぶ月が今日は「三日月」といういつもとは違う形になっていますよ、と伝えているわけです。当然、a full moon(満月)、a half moon(半月)、a new moon(新月)など他の形についても、どれもaを使います。
あくまでもthe moonは「月」の存在自体を指しているだけで、形についてはあまり気にしていないということですね。
(5)
【答え:○】
The lion is the king of beasts.
ライオンは百獣の王だ。
サバンナを車で走り抜けながら、「ほら見ろよ、そこにいるライオンが『百獣の王』なんだぜ」と言っているわけではありません。では、このthe lionはどんな意味で使っているのでしょう。
たしかにtheは一度話題に出た名詞を指し示すときにも使われますが、このthe lionは「○○動物公園の△△という名前のライオン」のことではなく、実はライオンという種全体を表しているのです。
❖ ○○というものは・・・を表すthe
theにはある種の典型例を表す総称用法というものがあります。
The dolphin is an intelligent animal.
イルカは賢い動物です。
Naoto can play the piano.
ナオトはピアノを弾けます。
どちらも何か特定のイルカや特定のピアノについて話しているわけではなく、「イルカという動物」「ピアノという楽器」といった全般的なことに言及しています。Theによって、イルカと言えばあんな感じね、とイメージを特定させているということです。ピアノについても形や音色はだいたい同じものを想像できますよね。
典型的な姿を表わすことで、その種を際立たせているということです。
もちろん、総称を表すためにはa dolphinやdolphinsといった言い方もできます。たくさんいるイルカの中から1頭を思い浮かべて「世の中にいるイルカならどれでも・・・」と考えるのか、イルカの大群を思い浮かべて「イルカというのはね・・・」と一般的な話に持っていくのか、それは話し手のイメージ次第です。
大切なのは、「どれでも同じ」ではなく、「同じようだけどちょっと違う」ということを知っているかどうかでしょうね。
まとめ
「冠詞」ほど難しい文法はないのではないかといつも思います。説明を聞いても納得がいかないこともあるでしょう。それでも「そういうものか」と自分自身を納得させていくうちに、うっすらと使い分けが理解できてくるから不思議です。
冠詞が表すニュアンスを感じ取るのはたやすいことではありません。でも、だからこそ分かったときの喜びはひとしおです。英文に触れる際には、ぜひ冠詞に注目してみてください。
大竹保幹さんの本
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