英文法のつまずきポイントや間違えやすい点を、現役高校英語教師・大竹保幹さんが分かりやすく解説!第12回のトピックは「前置詞」。inなのかonなのかatなのか・・・とてもややこしいですよね。クイズに挑戦して大竹先生の解説を読み、「分からない」「なんとなく答える」から卒業しましょう。
パラダイス行き切符を手に入れる問題
英文法を学ぶと文や語の形による意味の違いをしっかりと理解できるようになりますが、ある程度勉強が進んでも、「ニュアンス的にこれでいいんじゃない?」と何かにつけて雰囲気で使われてしまう品詞があります。そう、前置詞です。
「ニュアンス」という語と結び付く文法項目は往々にして理解が難しいという特徴があります。「難しいから覚えない。覚えてないから雰囲気で使う。だって、通じるし」ということなのですが、少しでも正確に気持ちを伝えるために、避けては通れない苦労もあるのです。
なぜその語が使われているのかを考えることで、ただ暗記するよりずっと覚えやすくなるかもしれません。今回も間違い探し問題を解いて確認していきましょう。
問題
次の (1) ~ (5) の英文について、正しいかどうかを判断してください。
・ 正しい:〇
・ 間違っている:×
・ ちょっと怪しい:△
(1)
On my way home, I realized that I had left the key of my house in the office.
(2)
Naoto went out to drink to Yurakucho on November 22.
(3)
If you really want to become a doctor, you should read books about medicine much harder.
(4)
Judging from the situation, we can’t ask that of him.
(5)
Unfortunately, they are now in a love triangle between three friends.
前置詞は、ある物がどこにあるのかという「位置関係」を表す語です。物理的な位置を教えてくれるだけでなく、物事の関係性や心理的なことまで表すことができる便利な語なのであらゆる英文に使用されます。しかし、万能ゆえに使い方が多様で覚えるのがとても大変ですよね。
最近では各語のイメージを利用してばらばらに見えていた語法がすっきりと説明されることも多くなりましたが、それでも覚えていく作業は欠かせません。どんな手法を用いたとしても理屈をしっかり押さえておくことが大切です。ここで扱うのは前置詞のほんの一部分ですが、大切な考え方を学びましょう。
解答と解説
(1)
【答え:×】
On my way home, I realized that I had left the key of my house in the office.
↓
On my way home, I realized that I had left the key to my house in the office.
家に帰る途中、会社に自宅の鍵を置いてきてしまったことに気が付いた。
「~の」という表現に対してはofを使うことが確かに多いのですが、なんでもかんでもofにしてはいけません。日本語と英語は違う言語であり、単純に語を入れ替えればいいというわけではないからです。
物事の位置関係については、日本語は「相手に情報をふわっと伝える言語」だと言えます。試しに、次の日本語の「の」が表す位置関係を考えてみましょう。
- 壁のポスター → a poster on the wall
- 庭のお花 → flowers in the garden
- 僕の友達 → a friend of mine
日本語ではどれも「の」で表現されていることでも、英語では全て異なる前置詞になっています。
- 「壁のポスター」は、ポスターが壁に貼られていてくっついていることを表しているので、英語では接触していることを表すonが使われます。
- 「庭のお花」は庭の中に咲いている花のことなので、空間の中にあることを示すinがぴったりです。
- 「僕の友達」は、僕が所有している友達、と言うとちょっと嫌な感じですが、所有関係を表しているのでofです。
❖ 英語の前置詞は位置関係をしっかり考えよう
なんでこんなにも違うのでしょう?
それは、英語が「物事の位置関係を相手にはっきり伝える言語」だからです。
「の」だけでいろいろなことを表現できる日本語のほうが一見すると楽そうですが、英米圏の日本語学習者からすると「なんで『の』にはこんなにたくさんの意味があるんだ!」と難しさを感じることでしょう。難しさはお互い様なのです。
さて、本題の「自宅の鍵」についてですが、やはりthe key of my houseでは「うちの家が所有している鍵」という感じになり違和感が残ります。key(鍵)はドアなどに対して使うものなので、方向を表すtoがよく使われます。だからthe key to my houseと言うのが正解です。
名詞と前置詞の組み合わせは「覚えるもの」ですが、なんでその前置詞を使っているのだろうと考えながら覚えると忘れにくいですし、だんだんと前置詞の使い分けが身に付いてきますよ。
それでは、もう一度解答を見て振り返っておきましょう。
解答(再掲)
【答え:×】
On my way home, I realized that I had left the key of my house in the office.
↓
On my way home, I realized that I had left the key to my house in the office.
家に帰る途中、会社に自宅の鍵を置いてきてしまったことに気が付いた。
(2)
【答え:×】
Naoto went out to drink to Yurakucho on November 22.
↓
Naoto went out to drink in Yurakucho on November 22.
ナオトは11月22日、有楽町へ飲みに出かけた。
世間では11月22日は「いい夫婦の日」だとされていますが、ナオトくんは友人と飲みに出かけたようです。飲みに行けるのは夫婦間の信頼あってのこと。幸せ者ですね。
さて、どこかへ出かけるときにgo to ~(~へ行く)という表現をよく使いますが、ここでto Yurakuchoと言うのは英文としては間違っています。それはどうしてでしょうか?
Yohei went to Palau to teach arithmetic.
ヨウヘイは算数を教えるためパラオへ行った。
パラオへ行ったのは「算数を教えるため」なんだよ、とto Vの形を用いて目的を説明しています。この英文はgo toとto Vのどちらもこの形のまま使って大丈夫です。しかし、次のような語順のときは前置詞を変えなくてはいけません。
(×)Yohei went to teach arithmetic to Palau.
(〇)Yohei went to teach arithmetic in Palau.
ヨウヘイは算数を教えるためパラオへ行った。
同じ意味であったとしても、語順が入れ替わることでto Palauがteachと結び付いてしまうと考えてみましょう。to teach arithmetic to Palau(パラオに算数を教える?)というのはちょっとよく理解できません。国家に対して算数を教えるなんて普通は考えないからです。そのため、このような語順のときはto teach arithmetic in Palau(パラオで算数を教える)という言い方に変えることになるのです。
❖ 語順に要注意!
今回の問題 (2) の英文でも同じことが起こっています。
Naoto went out to drink to Yurakucho …では「有楽町に飲む」という感じになってしまうので、in Yurakuchoやat Yurakuchoとすることになります。
ちなみにdrink to ~ は「~に対して乾杯する」という意味があり、Let’s drink to Yuri!(ユリさんに乾杯!)のような使い方をします。まぁ、Let’s drink to Yurakucho!(有楽町に乾杯!)というのも楽しそうですけどね。
もう一度答えを確認しておきましょう。
解答(再掲)
【答え:×】
Naoto went out to drink to Yurakucho on November 22.
↓
Naoto went out to drink in Yurakucho on November 22.
ナオトは11月22日、有楽町へ飲みに出かけた。
(3)
【答え:△】
If you really want to become a doctor, you should read books about medicine much harder.
↓
If you really want to become a doctor, you should read books on medicine much harder.
もし本気で医者になりたいのなら、もっと真剣に医学に関する本を読むべきだよ。
aboutは「~について、~に関して」という意味を表すので、「医学に関する本」はもちろんbooks about medicineでも合っています。しかし、医者を目指す人たちはbooks on medicineを読んで勉強するのではないかと思います。この二つの違いはどこにあるのでしょう。
❖ 「イメージ」で捉えるとはどういうことか
ここで役に立つのが、単語の「中心となる意味」や「イメージ」です。イメージはどんな品詞で使われても基本的には変わりません。
Yesterday, we talked about the issue.
昨日、私たちはその問題について話し合った。
There are about twenty people in this room now.
今、この部屋には約20人います。
The kids are running about in the park.
子どもたちが公園を走り回っている。
下線が引かれたところだけを見ればaboutにはさまざまな意味があるように感じられますが、すべて「周辺にある」という共通のイメージを持っています。「その問題の周辺的なことを話す」のがtalk about the issue、「20の周辺にある数」だからabout twenty、「周辺を走る」からrun aboutというように、すべてaboutは同じ意味を表していると言えます。
では、今度はonの例を見てみましょう。
The picture hangs on the wall.
その絵は壁に掛かっている。
Japanese people live on rice.
日本人は米を主食にしている。
You should carry on.
そのまま続けなよ。
onは何かに「接触している」ことを表す語です。「壁に接するように掛けられている」からhang on the wall、「米が手放せないくらい生活に密着している」からlive on riceというように、接しているものは物理的でも心理的でもかまいません。また、ある行為に接し続けることは時間的な「連続」や「継続」を表すことになるので、carry onの場合は「やってきたことを続ける」という意味になります。
(3) の問題は「医学に関する本」をどうするかがポイントになっていました。aboutは「周辺」なのでbooks about medicineは「医学の周辺的な事柄を扱う本」、一方、books on medicineは医学への密着度が高いので「専門的に医学を扱う本」です。医者志望の人にはどちらがいいかと言われれば、答えは決まっていますね。下の解答でもう一度確認しておきましょう。
日本語訳が同じときには単語のイメージを活用して、細かいニュアンスを表現するのがおすすめです。
解答(再掲)
【答え:△】
If you really want to become a doctor, you should read books about medicine much harder.
↓
If you really want to become a doctor, you should read books on medicine much harder.
もし本気で医者になりたいのなら、もっと真剣に医学に関する本を読むべきだよ。
(4)
【答え:〇】
Judging from the situation, we can’t ask that of him.
状況から判断しても、彼にそんなことお願いできないよ。
やたらと怪しく見えるofですが、これは正しい英文です。ofは、元々はoffと同じ語で「離れる」ことを表していました。そこからいろいろな意味が生まれて、今では「所有」やら「原因」やら、ものすごくたくさんの用法ができています。
このofは「分離」のofと言われるもので、具体的に何をお願いしているのかはわかりませんが、彼からお願いしたいこと(that)を引き出すことを表しています。
The man robbed me of my wallet.
男は私から財布を奪い取った。
The doctor cured me of my disease.
医者は私の病気を治した。
Can I ask a favor of you?
お願いを聞いてもらってもいいかな?
分離のofは前後にあるものを引き離すことを意味します。日本語としては不自然ですが、「財布から私を離す」ことが奪うことになり、「病気から私を引き離す」と治療になり、「あなたからお願いを引き出す」のが懇願することになるという理屈です。
❖ イメージだけではうまくいかないケース
これだけを見ると、ofはイメージですっきりとなるのですが、あえて次の例を確認します。
You should inform the police of the accident.
警察にその事故のことを知らせた方がいいよ。
この例の場合、あんまり前後が引き離されている感じはしません。むしろ、警察に事故の情報を与えるのは分離とは逆の発想ですよね。このように離れたりくっついたりと、ofは変幻自在の動きを見せます。そのため、あらゆる用法をすべて一つの「イメージ」で説明するのはなかなか至難の業なのです。
イメージは、うまく活用できるときには大いに使いましょう。しかし、それでうまくいかないときは腹をくくって覚えることも大切です。
(5)
【答え:〇】
Unfortunately, they are now in a love triangle between three friends.
不幸なことに、彼らは友人同士で三角関係になってしまっている。
betweenは「2つの物の間」、amongは「3つ以上の物の間」というのはとても大切な知識です。しかし、betweenは時として3つ以上のものにも使われることは知っておきましょう。
分かりやすい例として「歯」があります。between one’s teethと言えば「歯の間」ということですが、歯は基本的には2本だけではありません。ではなぜbetweenを使うのでしょうか?
歯は一列に並んで生えています。列をなしている歯の間を糸ようじできれいにしようとしたら、どこであっても2本の歯の間を磨くことになりますよね。つまり、betweenはきれいに整列したものの間を表しているということです。
一方で、amongはごちゃっとした中にあることを表します。among the crowd(人ごみの中)、among the trees(木々の間)という表現だとイメージしやすいかもしれません。
❖ 覚えたことだけにこだわらず「思い込み」を捨ててみる
(5) で考えるべきポイントはtriangle(三角形)という語です。これは3つの点ではありますが、きれいに並んだ正三角形のようなイメージで捉えるといいでしょう。「3人の距離感は互いに等しい」というイメージをbetweenで表している、ということです。もちろん、実際の三角関係はどろどろでぐちゃぐちゃですけどね・・・。
前置詞はこのように「思い込み」を捨てなくてはいけないことがあります。
The mountain was covered with snow.
その山は雪で覆われていた。
be covered with ~(~で覆われている)を熟語として覚えた人は多いでしょう。しかし、いつでもwithが正しいとは限りません。
(〇)The damage is covered by insurance.
(×)The damage is covered with insurance.
その損害は保険で補償されています。
保険などで補償されていることを表すときはbyしか使えません。「保険さん」によって償われるという感じでしょうかね。
ちなみに、先ほどの「山の例」の場合はどちらでも構いません。
(〇)The mountain was covered with snow.
(〇)The mountain was covered by snow.
その山は雪で覆われていた。
「雪で覆われている」ならwithですし、「雪によって覆われてしまった」と言いたいならbyです。だから「be coveredは絶対にwithと使うんだ!」ということはありません。
こういった前置詞の思い込みを捨てると、英語の表現の幅が広がり細かいニュアンスを伝えられるようになるのです。
まとめ
「前置詞」はその用法の多様性から動詞や名詞、形容詞との組み合わせなどを覚えるのがとても大変な分野です。イメージ等を活用することで、ある程度知識を整理することはできますが、やはり覚える作業から逃げることはできません。とても大変な道のりですが、かっこいい英語を使えるようになるために、少しずつ前に進みましょう!
大竹保幹さんの本
『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』では、「仮定法」をはじめとする、子どもが抱きそうな疑問・質問に対して、ある程度答えられるように英文法の基礎を学ぶことができます。英語を学ぶ面白さに触れられる雑学的な小話も随所にあり、楽しみながら英文法を復習できます。
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