現役高校英語教師、大竹保幹さんの連載「英文法パラダイス」。英文法で多くの人が間違えたり苦手とするポイントを、じっくり丁寧に解説します。今回のトピックは「準動詞」。“準”と付くことでなにやら難しそうな雰囲気が・・・。準動詞は、名詞、副詞、形容詞と同じような働きをしてくれるとのこと。どのように使えばいいのか、今回もクイズに挑戦しながら大竹先生と一緒にマスターしましょう!
パラダイス行き切符を手に入れる問題
みなさん、英作文はしていますか?そして、自分の英文を見直したときに「ここはなんだか怪しいな」と感じることはありますか?
辞書や文法参考書などで調べてみた結果、それが合っていたなら自信が付きますし、間違っていることがわかったならそれは新しい学びになります。英文の間違いを探すことはただの粗探しなどではなく、英語の一番の勉強です。
今回も英文法パラダイスで間違い探しに挑戦しましょう。
問題
次の(1) ~ (5) の英文について、正しいかどうかを判断してください。
・ 正しい:○
・ 間違っている:×
・ ちょっと怪しい:△
(1)
The couple talked about their son drinking a cup of coffee.
(2)
Seeing from the top of this tower, the people on the ground look like ants.
(3)
I had my teacher check my translation yesterday.
(4)
What made you come here?
(5)
I saw that Naoto came home.
今回は「準動詞」がテーマです。聞き慣れない用語かもしれませんが、簡単に言うと「不定詞」「分詞」「動名詞」のように、動詞が変化することによって名詞、副詞、形容詞と同じような働きをする語句のことです。時制のときとは違う動詞の働きの違いを丁寧に確認していきましょう。
解答と解説
(1)
【答え:△】
The couple talked about their son drinking a cup of coffee.
↓
The couple talked about their son, drinking a cup of coffee.
夫婦はコーヒーを飲みながら息子のことを話した。
夫婦が自分たちの息子について何やら話し合っていたようですが、その息子は何歳だと想像できるでしょうか?
もし、その子がすでにコーヒーを飲めるような年齢に達していると考えた場合、この英文は特に直す必要がありません。でも、もし修正例のように「コーヒーを飲みながら」という意味を伝えたいのであれば、「,(カンマ)」がないといけません。
❖ 分詞が果たす役割
まずは、動詞の変化形である「分詞」にはどのような役割があったのかを少しおさらいしましょう。
the sleeping cat
眠っているネコthe cat sleeping on the sofa
ソファで眠っているネコ
分詞には、現在分詞(ing形)と過去分詞形がありますが、基本的には形容詞と同じように名詞に説明を加えます。sleepingのように分詞だけのときは名詞の前から、sleeping on the sofaのように分詞に複数の語句がくっついているときは後ろから、どんなcat(ネコ)なのかを伝えることになっています。
しかし、分詞が説明を加えるのは名詞だけではありません。分詞は文全体を修飾することもあります。
My wife was washing the dishes singing a song.
妻は歌を歌いながらお皿を洗っていた。
「妻が皿を洗っていた」という文に対して、singing a song(歌を歌っている)という情報を付け加えています。歌っている人はmy wifeだというのが明らかですし、「皿を洗っていた → 歌を歌っていた」と言葉が続けば、「歌いながら皿を洗っていた」のだと推測できます。
このように、分詞を使って話の流れを作り出す文を「分詞構文」というのですが、つながり方はすべて文脈次第です。
Not knowing what to do, I remained silent.
何をしていいのかわからなかったので、私は黙っていた。
「何をしていいかわからない → 黙っていた」という流れから、「何をしていいかわからなかったから、黙っていた」と理由を述べていることは明らかです。解釈を雰囲気に任せるのが分詞構文の最大の魅力なのです。
❖ 「,(カンマ)」を入れて意味をクリアに
ただ、ここで少し疑問が出てきます。それは、先ほど1つ前の例文のお皿について、次のような解釈もできるのではないかということです。
My wife was washing the dishes singing a song.
妻は歌を歌っているお皿を洗っていた。
たしかに、『美女と野獣』のようにティーカップが踊るような世界では、こうしたこともあるのかもしれません・・・。そこで、このような誤解を避け、文全体を修飾していることをはっきりさせるために、分詞の前に「,(カンマ)」を入れることがあります。
My wife was washing the dishes, singing a song.
妻は歌を歌いながらお皿を洗っていた。
接続詞などを使わず、話の流れで読み手に解釈をゆだねているので、分詞構文はちょっと大人な文法とも言えます。曖昧なつながりが醸し出す雰囲気を楽しみましょう。
では、夫婦の会話を想像しつつ、問題文と解答を再確認しておきましょう。
解答(再掲)
【答え:△】
The couple talked about their son drinking a cup of coffee.
↓
The couple talked about their son, drinking a cup of coffee.
夫婦はコーヒーを飲みながら息子のことを話した。
(2)
【答え:×】
Seeing from the top of this tower, the people on the ground look like ants.
↓
Seen from the top of this tower, the people on the ground look like ants.
このタワーの頂上から見ると、地上にいる人たちがアリみたいに見える。
ちょっとこなれた英文を書こうと思って、分詞構文を使うとこのような間違いをしてしまうことがあります。パッと見て「これはここが違うよ」と言えた人は、きちんと分詞の訓練を受けてきたのでしょう。
(1)の問題でも触れましたが、分詞の動作主は、基本的には文の主語と同じ存在になります。
Doing his homework, Tomo started the video game.
宿題をしてから、トモはテレビゲームを始めた。
この場合、「宿題をしたのは誰なんだ?」などと特に難しく考えることもなく、動作主はTomoに決まっていますね。それは文の主語がTomoだからです。ということは、この英文は次のような流れを表していると言えそうです。
Tomo did his homework.
トモが宿題をした。
↓
Tomo started the video game.
トモがゲームを始めた。
これと同じことを問題(2)の英文でもやってみましょう。すると、ちょっとおかしなことになっていることに気付きます。
The people on the ground saw from the top of this tower.
地上の人たちがこのタワーの頂上から見た。
↓
The people on the ground look like ants.
地上の人たちがアリに見える。
「地上の人たちが頂上から見てみると、自分たちがアリに見える」というのは何だか変です。それは「地上の人たち」は頂上から見る人物とは別の存在のはずだからです。言い換えると、「地上の人たち」は頂上から「見られる」存在だということです。
The people on the ground are seen from the top of this tower.
地上の人たちがこのタワーの頂上から見られた。
こういうときは受動態を使わなくてはいけません。注意してほしいのは、日本語では「頂上から見ると、地上の人たちがアリに見える」というように、受動態を使わずに言っても自然なのですが、英語はそうではないということです。
そんなわけで、これを分詞構文で表現するときは「~される」を表す過去分詞形seenを使うことになります。
Seen from the top of this tower, the people on the ground look like ants.
このタワーの頂上から見ると、地上にいる人たちがアリみたいに見える。
❖ 「文の主語」=「動作主」でない場合は
ところで、主語と分詞の動作主が違うときはどうするのでしょう。答えは簡単で、分詞の主語を直前に入れて明らかにするのです。
Being ill, I didn’t go to see a movie.
(私自身が)病気だったので、私は映画を観に行きませんでした。My boyfriend being ill, I couldn't go shopping.
彼氏が病気だったので、私は映画を観に行きませんでした。
病気にかかってしまったのが「私」なのか「彼氏」なのか、分詞beingの前に主語を明示するかどうかで意味がずいぶんと変わりますね。
では、復習です。地上の人たち(the people on the ground)は頂上から「見られる」存在なので、受動態を使わないといけない。そして分詞構文で表現するときは、「~される」を表す過去分詞形seenを使うのでしたね。
解答(再掲)
【答え:×】
Seeing from the top of this tower, the people on the ground look like ants.
↓
Seen from the top of this tower, the people on the ground look like ants.
このタワーの頂上から見ると、地上にいる人たちがアリみたいに見える。
(3)
【答え:△】
I had my teacher check my translation yesterday.
↓
I asked my teacher to check my translation yesterday.
昨日、先生に自分の翻訳を見てもらったんだ。
英語を英語で理解するためには、少し難しい英文を日本語に訳す訓練は欠かせません。学校ではよく生徒から先生にお願いすることがありますが、ちょっとした言葉遣いの中に相手に対する気持ちが表れてしまうこともあります。
人に何かをさせたり、許可したりすることを表す使役動詞という語があります。代表的なものを見ていきましょう。
My parents made me eat potato salad.
両親は私にポテトサラダを食べさせた。My parents let me eat potato salad.
両親は私にポテトサラダを食べさせてくれた。
使役動詞は「使役」という言葉の通り、後ろに「目的語(名詞)」と「動詞の原形」を並べることで「誰かに何かをさせる」という意味合いを生み出します。強制力は動詞によって変わり、makeは「させる」と強制的ですが、letは「させてあげる」という許可の意味があります。例文中の「私」がポテトサラダを嫌いならmake、もっといっぱい食べたいと思うようならletを使うという具合です。
I had the students erase the blackboard.
生徒に黒板をきれいにしてもらった。I made the students erase the blackboard.
生徒に黒板をきれいにさせた。
❖ 使役動詞「have」を使う際の注意点
使役動詞には「依頼」を表すhaveもあります。例文と比べてみると、makeが使われているほうが何かの罰として黒板掃除をさせたような印象を与えますね。haveのほうは、一般的な清掃の時間に「○○さんたちは黒板掃除をしてね」と指示を出したことが想像できます。
ただし、haveに関して注意しなくてはいけないのは、この「依頼」はそれをするのが当たり前だと思われるような業者や、目下の人に対してのものだということです。
(3)の英文になんとなく違和感があるのはそのためです。生徒が「先生が添削するのは当然だ、これは先生の業務のうちの一つだろ」と思っているのであれば特に変える必要はありません。しかし、もう少し先生に対して丁寧な気持ちがあるのであれば、使役動詞を使わずにこのように伝えているはずです。
I asked my teacher to check my translation yesterday.
昨日、先生に自分の翻訳を見てもらったんだ。
ask(頼む)であれば、上から目線の依頼感はありません。添削をお願いしたことを友人に報告したその一言で先生への態度を見抜かれてしまわないよう、使う単語にはくれぐれも慎重になりましょう。そのためにも、解答をもう一度確認しておいてくださいね。
解答(再掲)
【答え:△】
I had my teacher check my translation yesterday.
↓
I asked my teacher to check my translation yesterday.
昨日、先生に自分の翻訳を見てもらったんだ。
(4)
【答え:○】
What made you come here?
どうしてここに来たのですか?
使役動詞makeには「強制」というイメージがありますが、それは人が主語になったときだけで、この(4)の英文のように人以外が主語のときは「何かが原因となって~するようになる」ことを表します。
Her smile made me feel very happy.
彼女の笑顔を見るととても幸せな気分になった。
彼女の笑顔が強制的に私を幸せにしたわけではなく、「素敵な笑顔を見て思わずこちらもうれしい気持ちになった」という意味の英文です。このように、makeは人以外を主語にした文(無生物主語構文)でもよく使われます。
❖ 使役動詞「make」の利点
ここで改めて(4)を見てみましょう。
What made you come here?
どうしてここに来られたのですか?
「何があなたをここへ来させたのか」という聞き方をすることで、その理由を聞いている表現です。遠回しな言い方かもしれませんが、そのおかげで相手とやや距離を置くことができ、客観的に冷静に尋ねていることになります。
Why did you come here?
なぜここに来たのですか?
一方で、理由を尋ねるときの定番であるwhy(なぜ)を使った上記の表現は、話の流れによっては「なんで来たの?来なくてもよかったのに・・・」というネガティブな思いが相手に伝わってしまうこともあります。
同じことを尋ねていても、聞き方ひとつで印象はがらっと変わるのです。
(5)
【答え:△】
I saw that Naoto came home.
↓
I saw Naoto come home.
ナオトが家に帰ってきたのを見たよ。
家にナオトがいると思ったらいない。家族に尋ねると「帰ってきたのは見たんだけどね・・・」という場面です。その後、ナオトがどこへ行ってしまったのかは分かりませんが、それよりここで大切なのはseeの使い方です。
実は、(5)の英文は文法的には正しいのですが、このままだと別の意味になってしまいます。
I saw that Naoto came home.
ナオトが帰宅したことが分かった。
seeがthat節と一緒に使われると「~ということが分かる」という意味になり、何かの行為や動作を目撃したということにはなりません。玄関にはナオトの靴がある。間違いなく家に帰ってきているのだろう、という感じです。ただ、これでは思っていた話とちょっと違ってきてしまいますよね。
そんなわけで、冒頭でも触れたように「~を見た」という意味で伝えたいのであれば、次のようにする必要があります。
I saw Naoto come home.
ナオトが帰宅するのを見ました。
❖ 「知覚動詞」の使い方とできること
seeやhearなど、五感を使って何かを見たり聞いたりすることを表す動詞を「知覚動詞(または感覚動詞)」といいます。このタイプの動詞は使役動詞と同じように、後ろに名詞と動詞の原形を並べられるのが特徴です。今回のようにseeなら「~するのを見る」ですし、hearなら「~するのを聞く」となり、実際に見たり聞いたりした情報を相手に伝えるときに役立ちます。
ちなみに、この知覚動詞は動詞の原形の代わりに分詞を使うこともできます。
I just saw Naoto sleeping on the sofa.
ナオトがソファで寝ているのをさっき見たよ。
現在分詞形(V-ing)のsleepingを使えば「眠っているその瞬間」を見たことが伝わります。原形ではその動作の一部始終を見たという感じになるので、ニュアンスは少し変わります。目撃談はできればその動作を細かく描写したいわけですから、知覚動詞を使うときは準動詞の使い分けに気を配りましょう。
それでは、本日最後の問題の振り返りです。
解答(再掲)
【答え:△】
I saw that Naoto came home.
↓
I saw Naoto come home.
ナオトが家に帰ってきたの見たよ。
まとめ
今回は準動詞の一部を扱いました。(1)と(2)で使われていた「分詞構文」は主に書き言葉として使うことになるので、話すときよりも文法上のミスを厳しく判断されてしまうかもしれません。ただ、書き言葉はじっくりと考えられますし、なんならいつだって書き直すことができるわけですから、ここで鍛えた間違い探しの力を存分に発揮することができますね。
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