英語を話せるようになりたい、だけど忙しくて時間がない、もしくは時間はあるけど英語マジ無理、つらい、どうにかして上達させて!という皆さん、お待たせしました。相手との会話が(たぶん)弾む、さまざまな場面で役に立つ(かもしれない)英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けします。講師を務めるのは藤代あゆみさん。国際唎酒師として海外に飛んで日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画が海外で出版される際に翻訳を担当したり。過去にはシンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんが、思わず言いたくなるフレーズを教えてくれますよ。
目次
英語で話せるようになりたい、だがしかし・・・
「英語の勉強って、疲れません?」
日本武道館からほど近いレストランで、こんがりと焼かれたサーモンを食べながら、担当編集Kさんにふとこぼしたこの一言。ロング&ベストセラーの「キクタン」シリーズに「起きてから寝るまで」シリーズ、私も大ファンのクレシーニ・アンさんの『なぜ日本人はupsetを必ず誤訳するのか』など、英語ガチ勢に向けた出版をしているアルクの方にこんな発言をできたのも、当時、「#5秒英語」の連載をしていたからかもしれません。
のんびりとぬるま湯に浸かって、力を抜いてリラックス・・・そんな風に英語に触れるやり方もアリなのではないか?
ENGLISH JOURNALで「日本酒」や「推し」、「シングリッシュ」に「国際交流シェアハウス」など、これまで 7本の連載 を持ち、さらに『日本酒オタクのほろ酔い英語』や『推し英語入門』を出版してもらった私、藤代あゆみは、読者の方が楽しく英語を学べるようにと執筆をしてきました。国際唎酒師(日本酒のソムリエ)他の資格を活かして世界中の人に向けて日本酒のことを知ってもらったり、推しの素晴らしさを英語で発信するためのお手伝いなどを頑張ってきたりしたものの、気負い過ぎてちょっと疲れていたのかもしれません。
英語学習者に向けて全集中しているはずの担当編集Kさんから返ってきたのは「分かる~」の一言。語学の老舗アルクには、「TOEICテスト満点60回」「5カ国語堪能」みたいな人がたくさんいて、毎日会議では英語が飛び交っているとのこと。「トイック900テン、ムリィ・・・エイゴ、ペラペラ、イイナァ・・・」と悲しきモンスターのように嘆いているらしい彼女との対話の中で、「ぬる英語」は産声をあげました。
「なんだかわからないけど、面白いから読みたくなる」 をモットーに、思わず笑ってしまうフレーズや、意外と使える(かもしれない)英会話表現をお届けしていきますので、ぜひ力を抜いて読んでみてください。
それではスタートです!
国際唎酒師、花の都パリに飛ぶ
日本酒のプロモーションをするために、パリを訪れた今年の3月。何年か振りのシャルル・ド・ゴール空港で、私のお尻は悲鳴を上げていました。北極圏を通過する航路のため、フライトが15時間もかかったのです。人類は進化の過程で尻尾が不要になりましたが、どうして遺伝子は尾てい骨を残すことにしたのでしょうか。
Uberのタクシーに乗ってパリ市内中心部に向かうと、そこは趣のある石畳みが敷き詰められていて・・・ガタガタと揺れる後部座席で “C’est la vie.” とつぶやいたのでした。(フランス語で「それが人生」という意味)
冬のパリといえば、底冷えする寒さで、常に曇っていることで有名なのですが、私が行ったときはめずらしく快晴が続きました。松岡修造さんもパリにいたのかもしれません。
その天気が象徴するかのように、初日に行われた日本酒のプロモーションイベントは大成功。この調子で2日目もフランスにいるみなさんに日本酒を楽しんでもらおう!と意気込んでいました。
あゆみ、大ピンチ!「閉じ込められた」って英語でなんて言う!?
そんな中、人生で初めての経験に見舞われたのです。
I was stuck in an elevator in Paris.
私はパリでエレベーターに閉じ込められました。
- stuck: stickの過去形・過去分詞形。stickは「(~を)動けなくさせる、(~を)立ち往生させる」の意。
過去に、エレベーターのドアに挟まれて救出されたり、乗っていたエレベーターの扉が開くと地面とずれていたりしたことはありましたが、閉じ込められたのは初めてでした。しかも、パリだからか、無駄におしゃれなガラス張りのエレベーターに、です。
乗って行き先階のボタンを押す。そうすれば、エレベーターは動くものだと思っていました。でも、動きませんでした。さらに、開ボタンを押しても、まったく反応しないのです。
異変に気付いたスタッフさんがエレベーターの外から何か話しかけてくれていましたが、分厚いガラスで何も聞こえません。その人は、身振り手振りで「助けを呼んでくるから待ってて!」みたいなことを伝えてくれています。そして、どこかへ行ったきり、戻ってくることはありませんでした。
エレベーターの中は全部フランス語表記で、なんと書いてあるのか私には分かりません。Google翻訳のカメラ機能で意味を調べようにも、エレベーター内はインターネットが繋がらないので、エラーになってしまいます。
10歳くらい老けたと感じた頃でしょうか。エレベーターに同乗していた方と共に、とにかくボタンを押しまくっていたことが功を奏して、無事にエレベーターは動き出し、扉は開きました。どうやら、ただの接触不良だったようです。
こんなことがあると「お酒を飲まなきゃ、やってられない!」と叫び出したいところですが、私は日本酒のソムリエ。その後すぐにお酒を飲むことが決まっていました。あんなにおいしい日本酒は、人生で初めてだったと思います。
SNSでバズるには「閉じ込められています」
いい感じに締めたので、ここまででこの記事が終われば、なんか面白いエッセイみたいな感じにできるのですが、アルクです。ENGLISH JOURNALです。
担当Kさんにも「一応、アルクなんで、そこんとこよろしく!って上から強めに言われてます」と言われてるので、仕方なく英語に関することを書きます。私は原稿料をいただいている身なので、長いものには巻かれるしかないのです。
「閉じ込められる」なんてシチュエーションは、異世界転生してダンジョンに行ったときとか、二次創作に多い「〇〇しないと出られない部屋」に閉じ込められる〔注1〕とか、そんなときくらいしか使い道がないと思います。読者の皆様がこのフレーズを使う事態に見舞われてほしくありません。
文字数を稼ごうとしていることがそろそろバレてきていると思うので、今回は【be動詞の時制】について書きます。「時制ってなんだっけ?デリシャスな宴なの?」という方に向けて説明すると、「今」の話をしているのか、「過去」の話をしているのか、それとも「未来」の話なのか、とかそういうことです。
この時制を使い間違えることを恐れる方は多くいますが、実際の会話では多少間違えても雰囲気でなんとかなります。外国語でも、コミュニケーションにおいて相手が空気を読んでくれることはよくあるんです。それに、ボディランゲージこそが世界共通語ですしね。
閑話休題。先ほどご紹介したフレーズは I was stuck in an elevator in Paris. でしたよね。「I was ~」というように2つの単語を使えば、「私は過去に〜した」ということを伝えられます。
言うまでもなく、この原稿を書いている今この瞬間、私はエレベーターに閉じ込められていません。(自宅のベッドの上でゴロゴロしながら、スマホで原稿を書いていることは内緒です)
仮に、パリに行ったあの日、エレベーターに閉じ込められていたその瞬間にSNSに投稿するならば、こうなります。
I am stuck in an elevator in Paris.
私はパリでエレベーターに閉じ込められています。
あっ、でも、エレベーター内は電波が入らないよな・・・というのはご愛嬌ですが、先ほどとの違いは am なのかwas なのか、ということ。気付きましたか?「アハ体験みたい!」なんて言ったら茂木健一郎さんに怒られてしまうかもしれません。同じ媒体で執筆してる仲(?)だから許してください。
主語が「私」のときは am 、「彼/彼女/それ」だと is 、「あなた/あなたたち/私たち/彼ら/彼女ら/それら」なら are を使う、みたいなことを、英語を最初に学んだあの日あのときあの場所で覚えさせられたかと思います。だけど、英語って使わないと忘れちゃうんですよね。
でも大丈夫です。なんと、親切な私が今回は出血大サービスで、以下の通り表にまとめておきました!!
本日のぬる英語表現たち
ここくらいまで原稿を書いて、担当Kさんに出したら、「この間の打ち合わせのときに、伝えきれてなかったかもしれませんが・・・」という前置きから始まる長文LINEが届きました。要約すると「ENGLISH JOURNALなので、もっとフレーズとか紹介しないとヤバい」ということだったのですが・・・覚えてます。大丈夫です。私とKさんの2人きりなのに、20人くらい入りそうなアルクの大会議室「Rio de Janeiro」〔注2〕で5時間、打ち合わせしたとき、おっしゃってました。
名古屋名物のういろう(ソーダ味)を食べながら、そして時折、「鬼滅の刃」公式サイト で最新情報を確認しながら〔注3〕、5時間かけても連載タイトルが決まらなかったあの日のことは忘れません。
ということで、その他のフレーズもご紹介します。今回はお試しで、担当Kさんと2人でお送りしてみたいと思います!
I was stuck in the elevator’s doors.
私はエレベーターのドアに挟まれました。
閉じ込められるだけでなく、挟まれるときも stuck を使ってOKなんですね。
I was trapped in an elevator.
私はエレベーターに閉じ込められました。
エレベーターに閉じ込められたり、ドアに挟まれたりしたら助けが必要ですね。エレベーターの中には非常用ボタンが付いていますので、緊急時には押して助けを求めましょう。誰かと一緒に閉じ込められたなら、ボタンに近い人にこう言ってください。
Press the emergency button!
非常用ボタンを押して!
「押す」というと、 push を思い浮かべるかもしれませんが、ボタンのときは press を使います。もちろん、緊急時には Push the emergency button! でも意味は伝わります。間違いを恐れている場合じゃありません。
それに、もし、この状況で「ボタンを押すときは push じゃなくて press ですよ」なんてわざわざ解説してくる人がいたらどう思いますか?
めちゃくちゃイラッとします。昇り炎天を食らわせてやりたい。
全部鬼滅の話になるな・・・。
本題に戻ります。そんな風に、人をイラつかせたり怒らせたりすることを示すスラングがあるのはご存じでしょうか。「push」と「button」を使ってこう言います。
Don’t push my buttons!
私をイラつかせないで!
- push someone's buttons:~(人)を怒らせる
最後は、とにかく今すぐに助けが必要!というときの一言で締めましょう。
Help me!
私を助けて!
まとめ
安心してください。この連載は、普段からパンツをはいている私が、書きたいことを書きたいように書く連載ですよ。英語について難しいことは言いません。
安心してください(2回目)、ご紹介するフレーズに関しては、自分の身に起きた出来事が教科書に載っていなさすぎて、「英語でなんて言うのか分からない」と、うちの会社の従業員・Willowさん〔注4〕というネイティブスピーカーにめちゃくちゃ相談してチェックしてもらってますよ。
これまで、連載の依頼が来ると「とりあえず3回書いてください!」とか「3カ月くらいならいいですよ!」なんて言われてきたのに、今回は「1年やっちゃえ!」と言われたので、やりたいことをやりたいって宣言することの大切さを学びました。
ここまで読んでくださったあなたに心から感謝申し上げますと共に、急に打ち切りになるのが怖いので、どうか全国3万人くらいにこの連載のことを布教してください。絶対お願いします。
次回!「忘れられない夏の思い出」です。