「自分のことを英語で言ってみる」楽しさが力を伸ばす:「起き寝る」監修・吉田研作先生特別インタビュー【後編】
「起き寝る」シリーズの歴史や、読者へのメッセージについて語る吉田研作先生。

「つぶやきメソッド」で英語の力を伸ばす、アルクの「起きてから寝るまで」シリーズ。『新装版 起きてから寝るまで英語表現1000』の刊行を記念し、シリーズ監修者・吉田研作先生(上智大学名誉教授)へのインタビューの後編をお届けします。初版から35年という長い歴史の中で、「起き寝る」はどのような進化を遂げてきたのでしょうか。そして、吉田先生から英語を学習する皆さんに伝えたい思いとは――。前編と併せてお読みください!

前編|後編

物語のような構成に進化していった「起き寝る」

(【前編】から続く。)

――35年という長い歴史を持つ「起き寝る」シリーズですが、始まりから現在に至るまで、ずっと監修してこられた吉田先生だからこそ感じる変化や進化についてお話しいただけますか。

最初の方は、人の「行動」についてのフレーズが中心だったと思います。それがだんだんと、そのときの状況や気持ち、その結果どう感じたかなどの表現も取り入れ、一つのまとまりができていきました。

「起き寝る」シリーズは、いわば「1人でできる英会話」。私たちが日常生活で英語を話す際には、「~する(した)」という行動だけではなく、今述べたように「気持ち」「状況」「考え・感じたこと」も表現できるようになることが重要です。

例えば、今僕の置かれている状況については、 I’m in this room. や It’s rather hot here. のように説明できます。それから I’m talking to the interviewer. という行動になっていき、その後は After the interview, I’m looking forward ~というふうに考えを表現できますね。「起き寝る」シリーズも、このように一連の流れがつながっている一つのパッケージ、あるいは物語のような構成に発展させていきました。

――パッケージや物語という点でいうと、今回の『新装版』の章立ては「朝」「通勤」「仕事」「スマホ・PCライフ」「家事」などのように、日常の場面ごとに10個のChapterに分けられています。各Chapterでは、まず「Word/単語編」で出てくる単語を予習する。次に「Behavior/体の動き」で行動を表すフレーズを言ってみる。続く「Tweets/つぶやき表現」では行動・状況・気持ち・考えなどいろいろな表現を押さえる。それから、ここまでで学んだ表現を使って、「1-Turn Dialogue/やりとり」で1ターンの会話を完成させる。そして「Skit(一場面)」で、実践編として表現を使いこなす練習を繰り返す、という流れになっています。

『新装版 起きてから寝るまで英語表現1000』の紙面抜粋。

アルクの出版サイトからも試し読みが可能です。ぜひチェックしてみてくださいね。)

現在形と過去形をペアにして使う

――単語からフレーズへ、ダイアログからスキットへ・・・という流れで、学習者が1人でテキストと音声を使って英会話の練習ができるのが「起き寝る」の特長です。一方、今はオンライン英会話やアプリなども登場し、いろいろな形で英会話が学べるようになりました。こうした時代において「起き寝る」の果たす役割とは、どのような所にあるとお考えでしょうか。

「起き寝る」の、朝起きてから夜寝るまでというタイトル通り、夜帰宅してから寝るまでの表現もありますよね。寝る前に1日を振り返ると、過去形が多くなるはずです。今日は何をした、そしてどう思った、というように。この時制の違い、つまり、現在形や進行形だけでなく、過去形を使って話すということはとても大事だと思っています。

僕は「航空英語能力証明審査会」〔*2〕の会長を務めているんですが、緊急事態発生時にパイロットと管制官が交信する際、重要なポイントがあります。管制官が「どうしましたか」と聞けば、パイロットが「現在こういう状況です」と話す。状況というのは、現在形もしくは進行形で表します。それから、「エンジンがこのようになってしまった」など、過去形での説明を行う。

現在形・進行形と過去形でのやりとりが中心となるのは、その他のどんな場面や分野でも同じと言えるでしょう。だから、「起き寝る」で表現を学んだら、朝出かける前は現在形や進行形を使ってその日の目標を立てたり、予定について言ったりしてみる。そして1日が終わったら、その日の出来事を振り返って過去形で日記を書いてみる。この2つをペアにして続けることで、大いに力を伸ばせるんじゃないかな。

僕は時々講演会を行うこともあって、終了後にはよく「いい英語の勉強法があったら教えてください」と聞かれます。その際は、description(状況の説明)、feeling(気持ち)、thought(考え)、action(行動)、この4点を一つのまとまりにして、1日のどこかで話をする練習をしてごらん、と言っています。

また、日記を書くことも勧めています。夜帰ってきたら、今日やったことについて「4行日記」を書いてみてはどうかと。要するに、「今日はどこに行った、そのときこういう気持ちだった、何をした、それから明日はどうするか」という4つ。これを毎日続けたら、英語力はすごく伸びるでしょう。

●〔*2〕 航空英語能力証明審査会
国際航行を行う操縦士に必要な英語力を公的に証明する国家資格が「航空英語能力証明」。日本では国土交通省航空局がこの証明制度の管轄。「航空英語能力証明審査会」は、制度の適切な運用のために、受験者の能力判定、能力判定員の認定についての助言、航空英語能力証明の実施に必要な項目の検討などを行っている。
(参照:国土交通省:航空英語能力証明審査会

実践し、実感してほしい

――「4行日記」というのは非常に興味深いアイデアです。本やアプリの企画にもつながりそう・・・。

せっかくだったら、何かやってみてください(笑)。

――ぜひそのときはご相談させてください。ここまで、貴重なお話をありがとうございました。最後に、「起き寝る」の読者や英語学習者の方たちに向けたメッセージをお願いできますか。

通勤や家事の最中、外食や買い物に出かけたときなど、実際に具体的な場面で「起き寝る」の表現を使ってみる、声に出して言ってみる。そんなことを心がけてみてはどうでしょうか。

言葉というのは、本とじっとにらめっこをして暗記するものではありません。使って初めて身につくものです。さらに、1人でもできるということが、この「起き寝る」の良さとも言えますから、ぜひ実践して、そして実感してもらいたいな。きっとますます、自分のこと、身の回りのことを英語で表現していくのが楽しくなると思います。

撮影前のひとコマ。歴代の「起き寝る」シリーズを前に、
「うわー、すごいねえ。こんなにもあったのか」と
思わず声が漏れる吉田先生。
その後、ばっちり笑顔とポーズを決めてくださいました。

――本日はありがとうございました!

【前編】がまだの方はこちらから。


吉田 研作(よしだ・けんさく)
吉田 研作(よしだ・けんさく)

1948年生まれ。上智大学名誉教授、専門は応用言語学。「起きてから寝るまで」シリーズや『小学校英語指導プラン完全ガイド』(ともにアルク)などの監修を務めるほか、著書多数。

撮影:山本 高裕(アルク)、構成:ENGLISH JOURNAL編集部


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