日常会話でも頻出の「仮定法」:現在の願望や要求・提案など表現の幅を広げるクイズ5問【大竹保幹の英文法パラダイス】

現役高校英語教師・大竹保幹さんと一緒に、英文法の「ややこしい!」「分からない」を解消していく連載最新回。今回のトピックは「仮定法」。名前を聞いた瞬間「ウッ」と苦手意識に襲われた方もいるのでは?大竹先生いわく、使いこなせるようになると表現の幅がグッと広がるのが仮定法ですので、クイズに挑戦してこの機会にマスターしましょう!

パラダイス行き切符を手に入れる問題

日常会話でもよく使うし、使いこなせれば表現の幅がぐっと広がる文法があります。それが今回のテーマでもある「仮定法」です。

過去形や現在完了形と比べてみても、そこまで複雑な形をしているわけではないのになぜか使いこなせない。なかなか難しい文法ですよね。

まずはいつものように間違い探し問題に挑戦して、自分の知識を試してみましょう!

問題

次の (1) ~ (5) の英文について、正しいかどうかを判断してください。
・ 正しい:〇
・ 間違っている:×
・ ちょっと怪しい:△

(1)

I wish you won the championship!

(2)

Without your help, we couldn’t succeed in our project last year.

(3)

He looks as if he knows nothing about the secret.

(4)

The data suggests that their academic ability be improving.

(5)

Could you please pass me the soy source?

仮定法はその名の通り、「もし~だったら・・・」とある状況を仮定して、実際には起こり得ないような出来事を想像するときに使う形です。if(もし~)やI wish(~ならなあ)などの定番の表現と共に、動詞や助動詞の過去形を使うのが基本でした。

「空を飛べる」とか「空からお金が降ってくる」といった夢のようなことを語るための文法ではありますが、実はそれ以外の場面でも大活躍するのがこの仮定法という文法です。問題を解きながら仮定法の役割について確認していきましょう。

解答と解説

(1)

【答え:△】
I wish you won the championship!
   ↓
I hope you win the championship!
優勝するといいね!

スポーツのクラブチームなどに入っている友人に向けて、優勝祈願の一言。願いを込める気持ちからI wishを使うのは分からなくもないのですが、このままでは大きな皮肉に聞こえてしまいます。

まずは仮定法過去の基本的な形についておさらいをしていきましょう。

If I had plenty of money, I would travel abroad.
もしお金がたくさんあるなら、海外旅行に行くのになあ。

I wishやifなどの表現と共に動詞や助動詞の過去形を使うと、「~なのになあ」という現在の願望を表すことができ、これを仮定法過去といいます。

この文法のややこしいところは、現在の願いを表すために動詞の「過去形」を使うところにあります。あり得ない出来事を話すので、普段ならあり得ないような動詞の形を使っているのだ、くらいに考えておきましょう。上の例文ではhad、would travelという過去形が使われていますが、日本語訳の通り、あくまでも「今」の話です。

I wish I were a bird.
鳥だったらいいのになあ。

be動詞を使う場合だけ、ちょっと注意が必要です。本来ならI am ~. の過去形はI was ~. なのですが、仮定法過去ではI were ~. という形が基本になります。ここでもあり得ない形が採用されているわけですね。

話し言葉などではI wish I was a bird. のように普通の過去形を使うこともあるので、あまり神経をとがらせる必要はありませんが、こういう形は知っておかなければいけません。

❖ 仮定法を使わない方がいいケース

仮定法が表す意味についてもう少し考えてみましょう。

仮定法過去は「現実にはあり得ないこと」を話すときの形ですが、裏を返せばこんな風に考えることもできます。

先ほどの「お金があるなら海外に行きたい」という例文では、「実際には今お金がないから海外に行けない」という悲しい現実があり、さらに「鳥ではないし、鳥にはなれない」からこそ「鳥になりたいなあ」と強く願っている・・・というわけです。

つまり、言い換えると仮定法は「事実とは全く逆のこと」を伝える文法だとも言えるのです。

そんなわけで、(1)「I wish you won the championship!」は文法的には合っていても、仮定法過去を使わないほうがいいのです。「君が優勝することなんてあり得ない」という気持ちが伝わってしまっては何の応援にもなりませんよね。こういうときはI wishではなくI hopeを使って次のように表現しましょう。

I hope you win the championship!
優勝するといいね!

仮定法でない表現を「直接法」と言いますが、こちらの形は素直にそうあってほしいというストレートな気持ちを相手に伝えることになります。I hope you will win ~.のように助動詞を使ってもいいのですが、ないほうがより確信を持っている感じがして相手にはうれしい言葉になりそうです。

では、解答を再確認しておきましょう。

解答(再掲)

【答え:△】
I wish you won the championship!
   ↓
I hope you win the championship!
優勝するといいね!

(2)

【答え:×】
Without your help, we couldn’t succeed in our project last year.
   ↓
Without your help, we couldn’t have succeeded in our project last year.
あなたのお力がなかったら、昨年、私たちはプロジェクトを成功させることはできませんでした。

実際に「あなた」に協力してもらえたのは事実としてあるので、「もしなかったら~」という表現は仮定法が担当します。ただし、仮定法は現在の出来事について「過去形」で表現する都合上、過去の出来事については別の形、「過去完了形」を使わなくてはいけません。

I wish I had enough time now.
今、時間が十分にあればなあ。

I wish I had had enough time then.
あのとき時間が十分にあったらなあ。

「今、時間があったら」という現在についての願望はI wish I hadという過去形で表しているので、過去のことは時制を一つ前にずらして過去完了形(had + 過去分詞)を使います。この形を仮定法過去完了と言います。had hadなんて並び、何度見ても違和感がありますがこれが正しい英語なんですよ。

If it hadn’t been rainy yesterday, we could have gone fishing.
もし昨日が雨じゃなかったら、釣りに行くことができたのに。

上の例文のように助動詞を使うときには「助動詞 + have + 過去分詞」になります。昨日の天気は変えることはできませんから、こういったことはすべて仮定法の担当です。

❖ 過去の出来事に対して現在の気持ちを表すなら・・・

ちなみに、could have goneをcould goに変えると過去と現在の合わせ技もできます。

If it hadn’t been rainy yesterday, we could go fishing.
もし昨日が雨じゃなかったら、(今頃)釣りに行くことができるはずだったのに。

昨日の大雨の影響で川が増水でもしているのかもしれません。危険だから今は釣りに行けないという無念を伝えています。こうやって組み合わせると本当にいろんなことを伝えられますね。

さて、(2)の英文ですが、プロジェクトの成功は昨年のことです。過去の出来事である以上、仮定法過去完了を使って表現しなくてはいけませんね。正解をもう一度確認しておきましょう。

解答(再掲)

【答え:×】
Without your help, we couldn’t succeed in our project last year.
   ↓
Without your help, we couldn’t have succeeded in our project last year.
あなたのお力がなかったら、昨年、私たちはプロジェクトを成功させることはできませんでした。

(3)

【答え:〇】
Yuri looks as if she knows nothing about her husband’s secret.
ユリは夫の秘密について何も知らないように見える。

夫の秘密・・・。一体、どんなことをユリさんに隠しているのでしょう。こっそり友人と飲んで来ちゃったとか、そのくらいのかわいい秘密であることを祈ります。

as if ~(まるで~であるかのように)は文法問題集などでは「仮定法と一緒に使う」と書かれていることがありますが、意外なことに現在形の動詞を使うこともあります。

そもそも、ある出来事が「現実には起こりそうもない」と思うかどうかは話し手の気持ちの問題です。

I wish I could fly in the sky.
空を飛ぶことができたらいいのになぁ。

I think I can fly in the sky.
空を飛ぶことができると思う。

普通、人間は空を自由に飛ぶことはできないのでI wish I could ~.の形を使います。でも、ライト兄弟のように本気で空を飛ぶことを考えていた人たちはI think I can ~.と言っていたのではないでしょうか。

仮定法は、ある出来事に対して話し手がどの程度確信を持っているかどうかを表しているということです。

❖ as if +仮定法だと、意味がガラッと変わる

(3)ではユリさんがknow nothing(何も知らない)ということを話し手が何となくわかっていて、「夫の秘密を本当に知らないように見えた」ことを表しています。当然、as if以下が仮定法になれば意味も変わってきます。

Yuri looks as if she knew nothing about her husband’s secret.
ユリは夫の秘密についてまるで何も知らないかのように見える(が実際には知っているのだろう・・・)。

なんと恐ろしいことでしょう。仮定法は事実と逆のことを表しますので、ユリさんが秘密を知りながらもあえて知らないふりをしていることになってしまいました。

動詞の形には本当に注意をしてください。

(4)

【答え:×】
The data suggests that their academic ability be improving.
   ↓
The data suggests that their academic ability is improving.
そのデータは彼らの学力が良くなってきていることを示している。

as ifのときと同じように、suggestという語を見ると反射的に「that節の中を動詞の原形にしなくては!」と思ってしまう人がいます。でも、それは違いますよ。

このsuggestは「示唆する、暗示する」という意味で、いわばshow(示す)と同じです。show that ~(~ということを示す)という表現に仮定法を使わないように、このsuggestにも使うことはありません。

His experience shows that learning foreign languages is very important.
彼の経験によると、外国語を学ぶことはとても大切だ。

His experience suggests that learning foreign languages is very important.
彼の経験によると、外国語を学ぶことはとても大切だ。

どちらも「事実」として示しているのでthat節の中は直接法が使われています。

❖ 要求や提案を表す「仮定法現在」

では、どういうときにsuggestは動詞の原形と一緒に使うのでしょうか。それは「ある状況を仮定して、そのようにしてほしい」という要求や提案をするときです。

Yuri suggested that her husband come home before midnight.
ユリは夫に夜の12時より前に帰って来るよう持ちかけた。

Yuri insisted that her husband come home before midnight.
ユリは夫に夜の12時より前に帰って来るよう要求した。

過去の話であれば、本来ならthat節内の動詞もcameになるはずですが、「夫が帰って来る」という理想的な状況を思い描いているので動詞は原形が使われています。抽象的なイメージでものを語っているような感じが出ていますよね。この形のことを「仮定法現在」といいます。動詞をshouldと一緒に使うこともありますが、これは主にイギリスで好まれる言い方で、なんと歴史的にはshouldを使うほうが新しい用法なんです。

使っている動詞についてニュアンスを確認しておきましょう。suggestは「提案する」なので、ややマイルドに夫婦間の話し合いが進められている感じがしますが、insist(要求する)となるとだいぶお怒りな様子が伺えます。demand(要求する)なども同様です。

ところで、(3)の英文を思い出してください。「Yuri looks as if she knows nothing about her husband’s secret.」でした。ユリさん、再びの登場だったわけです。彼女の夫の秘密は、やはり飲み会を隠していたことだったようですが、こういうことは事態が大きくなる前にちゃんと伝えなくてはいけませんね。

ユリさん夫婦の幸せを願いつつ、(4)の解答をきちんと振り返っておきましょう。データが事実を示しているので、仮定法ではなく直接法が使われています。

解答(再掲)

【答え:×】
The data suggests that their academic ability be improving.
   ↓
The data suggests that their academic ability is improving.
そのデータは彼らの学力が良くなってきていることを示している。

(5)

【答え:〇】
Could you please pass me the soy source?
醤油を取っていただけるでしょうか?

助動詞を過去形にすると丁寧さが増す。――これは、Will you ~?(~してもらえますか?)やCan you ~?(~してもらうことはできますか?)など依頼表現を習うときに覚えることの一つです。なので当然、この(5)の英文は文句なしの正解です。

ただ、Could you please ~?(~していただくことはできるでしょうか?)はあまりにも丁寧に相手の意向を尋ねているので、親しい人には使ってはいけません。親しき中にも礼儀ありとは言いますが、度が過ぎるとかえって皮肉に聞こえたりするのは日本語も英語も同じです。

❖ 「Could you ~?」の裏に隠れた“前置き”

でも、どうして助動詞を過去形にすると丁寧な言い方になるのでしょうか。実は、助動詞の過去形が仮定法を表しているからなのです。

Could you help me if you had time?
もしお時間があるようでしたら、手伝っていただくことはできますか?

仮定法は「事実とは全く逆のこと」を表す形でした。だからif you had time(もし時間があれば)という表現は裏を返せば「(あなたは忙しくて時間なんてないのは承知の上ですが、)もしお時間があれば・・・」という前置きを匂わせていると考えられます。こちらとしては、「忙しい人だから断られてしまうのも当然だ」くらいの気持ちで尋ねているので、相手はとても断りやすい立場になっているとも言えます。そんなわけで、仮定法は使い方によっては非常に丁寧な言葉遣いを担うことになるのでした。

Could you help me?
手伝っていただくことはできますか?

if以下が省略されていても、「相手にとってすごく無理なお願いをさせてもらってます」感をcouldがすべて引き受けています。ここまでへりくだられると逆に断りにくくなりそうですが、これが英語の丁寧表現の仕組みなのです。

まとめ

今回のテーマである「仮定法」は、「あれが欲しい」「これがしたい」のような欲望まみれな表現のための文法と考えられがちですが、英語の丁寧表現を担っていることも忘れてはいけません。ある意味、「大人の英語」を話すためには必要不可欠ですし、それだけに間違いが許されない文法とも言えますから、丁寧に形を身に付けていくようにしましょう。


大竹保幹
大竹保幹

明治大学文学部文学科卒業。神奈川県立多摩高等学校教諭。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。著書に『子どもに聞かれて困らない英文法のキソ』『まんがでわかる「have」の本』(いずれもアルク)『APPLAUSE LOGIC AND EXPRESSION Ⅰ~Ⅲ』(開隆堂出版)など。


大竹保幹さんの本

『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』では、「仮定法」をはじめとする、子どもが抱きそうな疑問・質問に対して、ある程度答えられるように英文法の基礎を学ぶことができます。英語を学ぶ面白さに触れられる雑学的な小話も随所にあり、楽しみながら英文法を復習できます。

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