同じ単語の繰り返しを避けるための「代名詞」:その指し示すものが「何か/誰か」を意識するクイズ5問【大竹保幹の英文法パラダイス】

現役高校英語教師・大竹保幹さんと一緒に、クイズを解きながら英文法の「分からない」「苦手」を楽しく解消していきましょう。今回は「代名詞」を取り上げます。he/she、itなどいろいろありますが、どれをどんな形で使うのか詳しく見ていきましょう。

パラダイス行き切符を手に入れる問題

年を取るとやたらと使うようになる、なんて言われている「あれ」や「それ」。文法では「代名詞」と呼ばれ、あらゆる名詞の代わりになってくれます。特に英語では同じ単語を繰り返し使うことを避ける傾向にあるので、代名詞を使う機会がものすごく多いのですが、皆さんはその細かい決まりをどの程度意識して使っていますか?

なんとなく使っている代名詞を少しでもスマートに使いこなせるよう、今回も間違い探し問題に挑戦してみましょう。


問題

次の (1) ~ (5) の英文について、正しいかどうかを判断してください。
・正しい:〇
・間違っている:×
・ちょっと怪しい:△

(1)

Whose bag is it over there? Is it Naoto’s?

(2)

“Have you ever seen a whale?” “Yes, I have seen it once.”

(3)

Everyone has his own opinion, so it is quite difficult to understand each other.

(4)

This jacket is too large. Please show me the others.

(5)

At midnight, Yoji saw him in the mirror.

bookやdeskといった普通の名詞と違って、youやheなどの代名詞はやたらと変化するのが特徴です。みなさんも英語を習い始めた頃にI、my、me、mine...、とブツブツ唱えて暗記したのではないでしょうか。

指し示すものが男性ならhe、女性ならshe、物にはitを使うという分類があるかと思ったら、なぜか複数のものに対しては人でも物でも何にだってtheyを使うなど、ちょっと強引なところもあります。

基本的には日本語の代名詞と同じような感覚で使用できるので、「形」以外に困ることは少ないわけですが、それでも「こういうときはどっちなのだろう」と迷ってしまうこともありますよね。今回はほんの一部ですが、代名詞の文法を一緒に確認していきましょう。


解答と解説

(1)

【答え:×】
Whose bag is it over there? Is it Naoto’s?
     ↓
Whose bag is that over there? Is it Naoto’s?
あそこにあるのは誰のカバン?ナオトのやつ?

itを「それ」という日本語に当てはめて覚えていると、「それ誰の?」という感覚で (1) の修正前のような英文を使ってしまいます。しかし、もちろんこれではいけません。こういうときはthatを使うのですが、それはどうしてでしょうか?

まずはitとthis、thatの違いについて整理しましょう。

This is my house.
これが私の家です。

That is my house.
あれが私の家です。


近くのものを指してthis(これ)、遠くのものを指してthat(あれ)を使うのは日本語も英語も同じです。ただ、この状況はどちらも目の前にあるものを指しているというのがポイントです。

❖ itは直前に話題になった物事を指し示す

(×) It is my house.
それが私の家です。

(○) Can you see the house over there? It is my house.
向こうにある家が見えますか?それが私の家です。


itは、誰かが言った名詞の代わりとして使われるのが基本です。また、日本語訳は「それ」になりがちですが、日本語の「それ」とは違い、目の前にあるものをいきなり指し示すことはできません

(○) の例文が正しいのは、向こうに実際に見えている家を指しているというより、直前の発言で話題に上ったthe houseそのものを表しているからなのですね。言い換えれば、直前に話題となったことを頭の中で一度抽象的に捉え直すというのがitの役割だということです。

そのため、こんな違いも生まれてきます。

(○) We have the cafeteria in the school. It is mainly used by the students.
学校には学食があります。それは主に生徒に利用されています。

(△) We have the cafeteria in the school. This is mainly used by the students.
学校には学食があります。この学校は生徒に利用されています。


itだと話題の中心となっているthe cafeteria(学食)を表しますが、thisでは直前に出て来た名詞のthe schoolを意味してしまいます。もちろん、学校案内など口頭で説明を行っているのであれば、This is...のタイミングで学食に手を向けるでしょうから、thisであっても問題はありません。

では、(1) の問題文(Whose bag is it over there? Is it Naoto’s?)の場合はどうでしょうか。部屋に入って来るなり「それ誰のカバン?」と聞いているのであれば、やはり目の前の物を指し示すthatにしなくてはいけません。もちろん、すでに会話の中で「置きっぱなしのカバン」が話題に出ているならitのままでも大丈夫です。そういう風に考えたのであれば「〇」ですね。

いずれにしても、何を指し示すのかという原則をしっかりと知っていることが大切です。

では、もう一度解答を確認しておきましょう。

解答(再掲)

【答え:×】
Whose bag is it over there? Is it Naoto’s?
     ↓
Whose bag is that over there? Is it Naoto’s?
あそこにあるのは誰のカバン?ナオトのやつ?


(2)

【答え:×】
“Have you ever seen a whale?” “Yes, I have seen it once.”
     ↓
“Have you ever seen a whale?” “Yes, I have seen one once.”
「クジラを見たことはありますか?」「ええ、一度だけ」

クジラ、生で見たらきっと大きいのでしょうね。一度だけでも見たことがあるというのはとてもうらやましい経験です。話題に上ったa whale(クジラ)を念頭にitと言いたいところですが、ここではitを使ってはいけません。というのも、クジラは世の中にたくさんいるからです。

(A) “I’ve lost my pen.” “You should find it.”
「ペンなくしちゃった」「探したほうがいいよ」

(B) “I’ve lost my pen.” “You should buy one.”
「ペンなくしちゃった」「買ったほうがいいよ」


itは直前に話題になったことを頭の中で捉え直すので、例文 (A)では「なくしたペン」のことを表しています。友人がなくしてしまった、世界に一つしかない大切なペンのことです。

一方、「探すまでもなく同じようなものをまた買えばいい」と言っている例文 (B) のような場合は、oneを使います。oneは直前に出てきた名詞の繰り返しを避けるための語なので、my penではなく単純にpenの代わりをしています。文房具屋さんにはpenが山ほどありますが、そのうちの「どれか一つ」ということです。

❖ 繰り返しを避けるためのoneの注意点

oneは数えられるものの代わりをしているというのも大事な特徴です。

I prefer a black jacket to a blue one.
私は青いのより黒いジャケットのほうが好きです。

I prefer red wine to white wine.
私は白ワインより赤ワインのほうが好きです。


jacket(ジャケット、上着)は数えられるので、繰り返しを避けるためのoneを使用することができます。しかし、残念ながらwine(ワイン)は数えられない名詞であるためwhite oneという言い方はできません。oneは元々数字ですから、数えられる名詞のときだけ使えるんです。

ここで (2) の英文について考えてみましょう。「クジラ見たことある?(Have you ever seen a whale?)」という問いかけに対して、「世の中にたくさんいるクジラのうちの1頭を見たことがある」という意味合いで答えたいわけですから、Yes, I have seen one once. がいいですね。

もちろん、小説『白鯨』に出てくる誰もが知るような伝説的なクジラを見たことはあるか、と聞かれているなら、Yes, I have seen it once. と答えることになります。

名詞の単純な言い換えなのか、題に上っているものなのか。代名詞の使い方一つでずいぶんと意味が変わってきますね。そのことをしっかり意識しながら、解答をもう一度見ておきましょう。

解答(再掲)

【答え:×】
“Have you ever seen a whale?” “Yes, I have seen it once.”
     ↓
“Have you ever seen a whale?” “Yes, I have seen one once.”
「クジラを見たことはありますか?」「ええ、一度だけ」


(3)

【答え:△】
Everyone has his own opinion, so it is quite difficult to understand each other.
     ↓
Everyone has their own opinion, so it is quite difficult to understand each other.
みんなそれぞれ自分の意見を持っているのだから、お互いを理解することはとても難しい。

この英文は、厳密に言えば全く直す必要のない正しい英文です。それでも、現代の英語の感覚としては「おやっ」と思ってほしい箇所があります。それが、everyone(みんな、全員)を受けているhisという代名詞です。

❖ 時代に応じて変化する英文法

当たり前の話ですが、「みんな」の中には男性だって女性だっています。それなのにhis(彼の)という語を使うのはなんだか差別的な感じがしてしまいますよね。そんな感覚から、現代の英語ではeveryoneなど「みんな」を意味する語に対しては、たとえ単数扱いであってもthey、their、themを使うのが標準的になっています。

ちなみに「お互い」を意味する語句としてeach otherは「2人」、one anotherは「3人以上」のときに使うという決まりが以前はあったようなのですが、現在はありません。好きな方を使いましょう。each otherのほうが使用頻度が高いので迷ったときはこちらのほうがいいかもしれません。

英語の文法は時代とともにゆっくりと変わってきているのです。では、これも解答を再確認していただければと思います。

解答(再掲)

【答え:△】
Everyone has his own opinion, so it is quite difficult to understand each other.
     ↓
Everyone has their own opinion, so it is quite difficult to understand each other.
みんなそれぞれ自分の意見を持っているのだから、お互いを理解することはとても難しい。


(4)

【答え:△】
This jacket is too large. Please show me the others.
     ↓
This jacket is too large. Please show me others.
このジャケットは大き過ぎます。他のを見せてください。

洋服はできれば自分にぴったり合うサイズで買いたいですから、「他のを見せてください」というのはとても便利な表現です。ただし、theの有無によってだいぶ意味合いが変わってきてしまうことは理解していなくてはいけません。

まずはポイントとなるtheが表す意味について簡単に確認しておきましょう。

I want to buy a book.
本を買いたいなぁ。

I want to buy the book.
その本を買いたいなぁ。


❖ theは「特定できるもの」を表す

不定冠詞aが付くものは「たくさんあるものの中の一つ」を表します。買う本はまだ決まってないけれど、何か1冊本を買いたいという気持ちがa bookに込められています。

一方で、theは「これだと誰もが特定できるもの」に使うのが基本です。話の流れ次第ですが、すでに話題に上っていた「その本」を僕も買いたい、と言っているのでしょう。

theがother(他のもの)と組み合わさってもこの考え方は変わりません。

Please show me others.
他のものも見せてください。

Please show me the others.
他のものも全部見せてくださいよ。


othersだけなら「いくつかある他のもの」という意味になりますが、the othersは違います。theの力によって特定できるものを表すことになるので、例えば洋服屋であれば、「同じ服でこのお店の在庫にあるもの全部」を見せてくれと言っていることになってしまうこともあります。あるいは、店員さんが他のオススメ商品を何着か手に持っている状況なら「そのオススメ、全部見せてよ」ということにもなるでしょう。どちらにしても店員さん、ちょっと大変そうです。

ちなみに、「他のものを一つ」ということであればanother(もう一つ)という語を使って次のように言います。

Please show me another.
他のものをもう一つ見せてください。


他のを見たくなったときには使用する表現を慎重に選びましょう。

解答(再掲)

【答え:△】
This jacket is too large. Please show me the others.
     ↓
This jacket is too large. Please show me others.
このジャケットは大き過ぎます。他のを見せてください。


(5)

【答え:〇】
At midnight, Yoji saw him in the mirror.
真夜中、ヨウジは鏡に映るその男の姿を見た。

ふとトイレに行こうと目覚めたとき、鏡に怪しい男性の姿が・・・。なんとも恐ろしい話ですが、これがこの英文の意味するところです。

ただ、こういう状況は映画や小説の中だけにしてほしいので、もう少し平和に、「鏡に映った自分の姿を見た」という意味にしたいのであれば、「-self(再帰代名詞)」を使うことになります。

基本的に、文の中で主語と動詞の目的語が同一人物であるときは、主語に応じてmyselfやyourselfなどを使います。

I like myself.
俺は自分のことが好きだ。

You should take care of yourself!
体を大事にしたほうがいいよ。


日本語訳からも明らかですが、例文ではそれぞれ「I = myself」「You = yourself」という関係が成り立っています。Take care of yourself!(気を付けてね)のように命令文であっても、Youという主語が隠れていると考えてyourselfが使われます。

❖ -selfがなければ“主語とは違う別の誰か”のこと

ということは、-selfが付いていなければそれは別の誰かを表しているということにもなります。

Yuri should take care of her today.
今日はユリが彼女の面倒を見るべきだよ。


このherが誰を指しているかはこれだけではわかりませんが、もしかしたら娘さんが熱を出して・・・といった話かもしれません。いずれにしてもユリさん自身の話ではないのです。

ところで、everyoneが主語のときに使われる再帰代名詞はthemselves(彼ら/彼女ら自身)ですが、標準的な英語ではないものの日常会話などではthemselfが使われることがあります。himselfやherselfのように性別をはっきりさせないで、かつ単数を表現したい気持ちから生まれた形です。

こういう表現を見つけるのが楽しいという感覚は大切にしましょう。

まとめ

「代名詞」は名詞の代わりをする語ですが、日本語の感覚のまま使えない語もたくさんあります。同じ表現が繰り返し使われている会話や文章はくどいだけでなく、分かりにくいものになってしまいます。「thisやitなんて中学生で習ったから大丈夫だ」なんて過信せず、これをきっかけに文法を丁寧に学び直してみませんか。


大竹保幹
大竹保幹

明治大学文学部文学科卒業。神奈川県立多摩高等学校教諭。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。著書に『子どもに聞かれて困らない英文法のキソ』『まんがでわかる「have」の本』(いずれもアルク)『APPLAUSE LOGIC AND EXPRESSION Ⅰ~Ⅲ』(開隆堂出版)など。


大竹保幹さんの本

『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』では、「仮定法」をはじめとする、子どもが抱きそうな疑問・質問に対して、ある程度答えられるように英文法の基礎を学ぶことができます。英語を学ぶ面白さに触れられる雑学的な小話も随所にあり、楽しみながら英文法を復習できます。

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