日本人の発音の鬼門ともいえる「L」と「R」。聞き分けができない、発音の違いが分からないと思っている方も多いのでは? 英語音声学者の小川直樹さんが、最新J-POPを使ってLRを聞き分ける方法を解説します。
最終回でLを極めよう!
いよいよ大詰めです!この連載、今回で最終回です。
最終回と言えば、NHKの朝ドラ「舞いあがれ!」ももうすぐ終わりです。前回の記事で書いたように、「舞いあがれ!」の主題歌、back numberの「アイラブユー」のラ行の一部はLです。今のうちにぜひ聞いてみてください!
ところで、ボクが制作しているYouTubeのアゲアゲEnglish!シリーズで、関係代名詞講座(全5本)を新たに公開します。関係代名詞って、日本人なら誰しも苦手意識を持ってますよね。でも、「本当は易しいんだよ、そしてその使い方には本当はこういう意味があるんだよ」という内容です。よそじゃ教えてもらえない、すごい内容です。なにしろこの方法なら、小学生でも関係代名詞が分かりますから。
1本目はこれ!↓↓
さて、今回は前回に引き続き、Lの発音です。これを機に、ぜひLを極めてください!
LとRでは、日本人は一般的に、Rの発音ができないと思われがちでした。でも、日本人ができないのはLなんです。例えば、カタカナ語の「コレクション」をGoogle翻訳(以下「G翻」)に入れると、correction「修正」が出るんです。
詳しくは前回の記事をご覧ください。
Lを聞き分けられるようになるには・・・
では、Lを聞き分けられるようになるには、どうしたらいいんでしょうか。
実は、英語の音は、日本語の中に混ぜると、かなり際立つんです。だからLを聞き分けられるようにするには、まず日本語の中に混ぜ込んで聞いたり、発音したりするといいんです。例えば「おひルにカレーライスとカラアゲを食べル」の太字のところをLにするんです。この練習法は拙著『英語の発音 直前6時間の技術』(アルク)などで紹介しています。
またアゲアゲEnglish!では、ボクが実演しています(笑)。この動画を見ると、Lが日本語と違うということが、よぉ~く分かると思います。
その方法の延長線上にあるのが、J-POPを丁寧に聞くことです。前回の記事でお話ししたように、J-POPでは、ラ行音にLを使った曲がけっこうあるんです。上述のback numberに加え、前回は桑田佳祐(以下敬称略)、福山雅治、米津玄師という大物を挙げました。それ以外にも、最近の歌手にはLを使っている人がかなりいます(次のセクションで紹介します)。
いつもあなたが聞いている歌のこの部分はLだ、と分かれば、Lの響きのイメージがぐっと明確になります。それが、ひいては英語でのLの聞き分けにつながるのです。
そもそも、日本人がLRの聞き分け、出し分けができないのは、LRの練習が不十分だからです。特に聞き分けは、Lがどんな響きなのかイメージできないと無理です。日本人にはそのイメージがないんです。だからLを認識できないんです。学校などでLRを扱うと、時間が限られているので、指導が不十分。でも、すぐLRの聞き分けテストをしがちです。これでだいたい失敗します。なにしろ音のイメージがないですからね。
しかも、語頭や語中のL(他の子音もそうですが)は一瞬の音。短いんです。日本人学習者が、音の特徴をつかめるほどの持続時間がないんです。そんな中でLRの判定テストをするから、結果は散々。それで学習者は「自分には無理」と思い込むようになるのです。日本人がLRに苦手意識を持つのは、こんな指導の仕方に原因があるんです。
Lの音のイメージを頭に作り上げるには、時間と回数が必要です。そんなとき、J-POPを使えば、楽しみながらLが覚えられるわけです。なにしろJ-POPで現れるLは、ゆっくり長く発音されるものが多いのです。だからこそ、Lの音質を知るためには、もってこいの素材なんです。
Lが出てくる今どきのJ-POP
では、ボクの学生に教えてもらった、Lを使っている今どきの曲を3つ紹介しましょう。ボクのようなおじさんは、どれも知りませんでした(笑)。
まず、優里の「ドライフラワー」。Lがあちこちで使われています。例えば1番では、中ほどの「今日の事をわラってくれルかな(動画の0:45辺り)」以降から最後の「いロ(ここは微妙です)あせル(動画の1:29辺り)」まで、いくつも出てきます。特に最後の「ル」は非常に分かりやすいLです。
優里は英語版も歌っています。そちらは、とても英語らしい英語です。なので、日本語版でのLは、かなり意図的に使っている可能性がありますね。
興味深いのは、日本語の「ドライフラワー」と英語の「dried flowers」の発音が全く違っている点です。ここはぜひ聞き比べてみてください。そんな彼ですから、日英で歌い方も変えています。日本語版ではささやくような、か細い感じです。英語版では、よく響く力強い声です。だからこそ、とても英語らしい感じがします。彼は、英語に関してはただ者ではないようです。
SHE‘Sの「White」。これも、Lがかなり使われています。「わルい方向に受けとラレそうだかラ(動画の1:55辺り)」がそうです。特に「わルい」と「だかラ」は分かりやすいものです。
Adoの「新時代」。この冒頭の「新時代はこのミライだ(動画の0:01辺り)」がまさしくそうです。ある学生が、「Lと気付かず、いつも聞いていた」と言っていました。でもこれがLだと分かると、常にLに意識が向くようになります。そうすると、どんどんLが聞こえてくるようになるはずです。
May J.が「新時代」のカバーを挙げています。「ミライ」をしっかりLで歌っていました。彼女の場合、英語ができるからという理由もあるでしょう。とはいえ、歌のうまい人というのは、細かいところまで丁寧に聞いていることがよく分かります。
優里、SHE‘S、Adoに加え、前回紹介した大御所の桑田佳祐、福山雅治、さらにはback numberや米津玄師・・・。J-POPでは、ラ行にLがかなり使われていますね。普通の日本人はLができないのですが、まずは歌の技術としてLが広まっているのかもしれません。
さて、ここまで読んで、実際に歌を聞いてきたら、そろそろ皆さんの中のLセンサーが発動し出します。これから、他の歌でもLが聞こえてくるようになるはずです。J-POPの聞こえ方が変わります。そして英語も!
playがヤバい!
最後にG翻の出番です。最後に扱うのは、L絡みの応用編です。といっても、取り上げるのは、基本中の基本単語、playです。
playの発音は、学校ではあまり詳しく教えられていないんじゃないでしょうか。だからこそヤバいんです。カタカナ語として日常的に使われる単語だけに、カタカナ発音になってしまいがちなんです。
「プレー」で出てくるのは?
じゃ、カタカナ発音の「プレー」とか「プレイ」を、G翻に音声入力すると、どう判定されるでしょうか。動画ではいきなり衝撃の結果が出ますよ!(笑)
「プレー」と入れると、なんとtodayと出ちゃうんです!しかもplayは1音節なのに、todayは2音節。音の構造が全く違います!(※「音節」とは、ひとまとまりの発音単位で、通常、母音を1つ持ちます。)
なぜでしょう?一番の原因は、「プ」がはっきりしてしまうためです。日本語の「プレー」は、「プ」+「レー」ですよね。「プ」が独立した音節[pu]になっちゃうわけです。その結果、G翻は「プ」+「レー」に響きが近い、2音節の単語を一生懸命(多分)探すのです。それで、母音の組み合わせがほぼ合致する、todayにたどり着いたというわけです。
しかも、子音だって、ちゃんと共通点のあるものを選んでいます。まずtodayの出だしの[t]は、[p]同様、無声の破裂音です。-dayの[d]だって、「レ」と共通点があるんです。これ、米語のbetterが、「ベダ」となったり、「ベラ」となったりしますよね(「ベラ」と聞こえるときの子音は、ラ行子音とほぼ同じです)。つまり、[d]とラ行子音は近い音ということです。
こう考えると、todayはかなり必然性がある答えなのです。とはいえ、playからかけ離れたtodayが出てくるというのは、悲しすぎる結果です!でもこれ、日本人の「プレー」がネイティブにはtodayと聞こえる、ということではありません。あくまで、G翻の機械的な論理で単語を探すとこうなる、ということです。ただ、日本人の「プレー」は少なくとも、スパっとplayと伝わるわけではないということです。
文で試すと・・・
動画ではさらに、文の形でも吹き込んでみました。Iplay tennis.とIplay the piano.です。極めて初歩的な文ですよね。で、こっちの方は、少し発音が上達してしまいました(笑)。この「プレイ」は見事1音節語と判定されたのです♪(笑)。
しかし、playではなく、prayと出ました。「コレクション」同様、Rと判定されてしまったのです。
残念ながら、日本語のラ行子音は、やはりLには聞こえないんです。日本式の「プレー」「プレイ」は、1音節で言えたとしても、prayに聞こえるのです。「テニスをお願いします」だの「ピアノを祈ります」のように聞こえるのです。もちろん、心ある英語話者なら、tennisやpianoという単語が聞こえるなら、最終的にはplayと分かってくれるでしょう。ただ、聞いた途端は混乱する可能性があります。
これが日本式発音の現実です!なのに、日本の学校ではplayの発音はきちんと教えてもらえないのです。
playの出し方
では、playの発音の仕方です。playでは、①[p]に母音を付けないこと、そして、②Lをしっかり出すことが必要になります。これはどうしたらいいんでしょう?
まずは、前回述べたLの出し方を思い出してください。舌先を上歯茎に付けた状態を保つことが必要です。ここから始めます。
次に、舌をこの状態にしたまま、唇を閉じます。そして息を溜めます。圧力が高まったら、息を吐きます。でも舌はまだ付けたまま!これが[pl]です。
スペリングでは[p]が先ですが、実際の発音ではLから始めてください。そして、Lはず~っと長く持続させます。その間に[p]が出るのです。これで[pl]となります。[p]から言おうとすると、[p]に力を入れてしまって、長く伸びてしまいます。結果、[pu]になってしまうのです。それを避けるためにも、Lから始めます。
これに二重母音[eɪ]を付ければ完成です。二重母音は前側を長く発音します。「エイ」ではなく「エーィ」ぐらいの感じです。
なお、発音のお手本は、G翻に文字入力して(音声入力でもいいですけど(笑))、スピーカーのマークのボタンを押せば、単語でも文でも発音してくれます。G翻の英語の合成音声はかなり自然です。G翻を使えば、発音のお手本はいつでも手に入るということです。昭和にカセットで英語の音を聞いていたおじさんには、夢のような話です(笑)。
では、いずれまたお会いしましょう!
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