連載「使いこなせる!英会話頻出ワード」。言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、「英語のネイティブスピーカーがよく使うけれど、日本語では理解しづらい言葉」を徹底解説します!今回は、アンちゃんが感銘を受けたというTED動画から、3つの英語表現をピックアップして紹介します。
目次
動画に学ぶ、ネイティブがよく使う表現
数年前、私はTEDxFukuokaに登壇することになりました。その準備のために、たくさん本を読んだり、ネットに上がっている動画を見たりしていました。
その中でも特に感動したのは、アメリカの有名な研究者のブレネー・ブラウン氏のプレゼンです。彼女のようにうまいトークがしたいと思いました。
動画の内容や伝え方に感動したので、周りの日本人の友達にも見せました。ただ、日本語に訳しにくい英語表現がたくさん出てきたので、私ほど感動したかはわかりません。
今回は、その動画“The Power of Vulnerability”に出てきた三つの単語について話していきたいと思います。
さて、始めましょう!
vulnerableの持つポジティブな意味
まず、題名に出てくるvulnerabilityから始めましょう。
英和辞典でこの単語を調べると、一番トップに出てくる意味は「脆弱(ぜいじゃく)性」です。
脆弱性とは、コンピュータやネットワークのセキュリティに関する用語で、第三者によってシステムへの侵入や乗っ取りといった不正な行為が行われる際に利用される可能性がある、システムの欠陥や問題点のことである。(中略)脆弱性はバルネラビリティ(vulnerability)とも呼ばれ、「攻撃されやすいこと」「攻撃誘発性」などと訳される場合もある。
(IT用語辞典バイナリ)
「ちょっと待って、アンちゃん!完全に悪い意味じゃん!なんで『脆弱性』についてのプレゼンに感動したの?」と言いたいでしょう?
その疑問にはあとで答えますので、ちょっと待ってね!
まず、英語の辞典でvulnerabilityを調べてみましょう。
the quality of being vulnerable (= able to be easily hurt, influenced, or attacked), or something that is vulnerable:
(Cambridge English Dictionary)脆弱であること(=簡単に傷ついたり、影響を受けたり、攻撃されたりすること)、または脆弱である何か。
the fact of being weak and easily hurt physically or emotionally
(Oxford Advanced Learner's Dictionary)肉体的・精神的に、弱く傷つきやすいこと
つまり、vulnerability=weakness。「弱さ」を表す単語として知られている単語です。英語でも、日本語とあまり変わらず、ネガティブな意味を持っています。
日常会話では、名詞のvulnerabilityより、形容詞のvulnerableの方がよく使われている気がします。
If you don’t upgrade your computer’s security, it is going to be vulnerable to hackers.
コンピューターのセキュリティーをアップグレードしないと、ハッキングされてしまうよ!
The country’s defenses were vulnerable to attack.
この国の防衛システムでは攻撃に耐えられない。
Children are very vulnerable because they cannot take care of themselves.
子どもは自分で自分の面倒をみられないので、とても弱い存在だ。
You took advantage of me when I was in a vulnerable position!
私が弱い立場にいる時に、あなたは私を利用した!
すべて「弱さ」を表します。そして、「弱さ」はいいことではありません。
けれど、ブラウン氏が話すvulnerabilityは、どう考えてもいいことです。つまり、精神的に強くなるために「弱さ」を認めてさらけ出すということです。プレゼンによると、ブラウン氏は長年の研究によって、自分のことをさらけ出すとメンタルが安定し、自分のことが好きになるということを発見しました。
「弱さをさらけ出す」という意味で使われているvulnerable、vulnerabilityの例文をみてみましょう。
Thanks for being vulnerable with me! If there is anything I can do to help you, please let me know.
ありのまま打ち明けてくれてありがとう!私に何かできることがあれば、教えてね。
She really understands me. I can totally be vulnerable with her.
彼女は私のことを本当にわかってくれている。彼女になら、なんでもさらけ出せる。
Vulnerability is important for mental health.
自分の弱さを認めることは、心の安定のために重要なことだ。
You are worthy.ってどんな意味?
この表現を聞いて感動しないアメリカ人はいないでしょう。worthは「~の価値がある」という意味の形容詞です。つまり、You are worthy.は直訳すると「あなたには価値がある」となります。多分、日本語だとあまりピンとこない表現ではないでしょうか。日本語では、物に対してはよく「価値がある」と言いますが、人に対して「価値がある」という言い方はあまりしません。
worthを物に対して使う場合、例えばこのように言います。
My house is worth $200,000.
私の家は20万ドルの価値がある。
How much is your car worth?
あなたの車、どのぐらい価値があるの?
This is worth a ton!
これはすごい価値があるものだよ!
It was so hard to get into the University of Tokyo, but all the sacrifice was worth it!
東大に入ることはすごく大変だったけど、苦労する価値はあったよ!
It is so worth it.
それだけの価値はあるよ!
反対に、「価値がない」と言いたいときは、worthless、not worth anything、not worth itなどと言います。
The house itself is not worth anything, but the land is worth a ton!
家には全然価値がないけど、土地にはめっちゃ価値がある。
I thought this painting was a masterpiece, but it is actually a worthless forgery.
この絵は名画だと思っていたけど、実際は価値のないにせものだった。
It’s not worth the risk. Don’t do it.
そんなリスクを取る価値はないよ。やめたほうがいい。
また、人の財産のことを話すときにもworthを使います。
How much is he worth?
彼の資産はいくらですか?
What is his net worth?
彼の自己資本はいくらですか?
He is worth $50 million.
彼の資産は5千万ドルです。
You are worthy.は、「ありのままのあなたでいいよ!」「愛される価値があるよ」「あなたがいてくれるだけで十分」という意味です。つまり、誰かに評価されるために変わらなくてもいい、そのままで愛されることにふさわしい、みたいなニュアンスです。
特に自己肯定感が低い人は、「こういうふうに変われば、評価されるのでは」とか、「愛されるために、こう変わらなくちゃ」というように、自分の「ありのまま」の姿が不十分だと思いがちです。
そういった考え方に対して、You are worthy.という言葉には、「いや、今のあなたでいいよ。そのままで計り知れない価値があるんだよ」という意味が含まれています。
You are worthyの後には、of+名詞がくることが多いです。
You are worthy of love.
あなたは愛に値する人間です。
You are worthy of acceptance.
あなたは受け入れるに値する人間です。
You are worthy of forgiveness.
あなたは許されるに値する人間です。
You are worthy of her.
あなたは彼女にふさわしい人です。
You are worthy.と言われると、ありのままの自分が認められた感は半端ないです。
逆に、You are not worthy.と否定形で言われることほど、つらい表現はないかもしれません。例えば、You aren’t worthy of her.には、「彼女の価値はあなたよりよっぽど高いので、あなたは一緒にいる資格がない」みたいなニュアンスがあります。
enoughも文脈次第でさまざまな意味に!
似たような表現に、You are enough.があります。ご存じのように、enoughは「十分な、足りる」という意味です。
I don’t have enough money.
お金が足りない。
There aren’t enough hours in the day!
1日24時間じゃ足りない!
I don’t have enough time.
時間が足りない。
I have had enough to eat. Thank you.
もうお腹いっぱいです。ありがとうございます。
Many children in the world don’t have enough to eat.
世界には、食料が足りない子どもがたくさんいる。
I have enough problems! I don’t need any more!
問題はもうたくさん!これ以上必要ない!
I have had enough of your bad attitude.
あなたの態度の悪さにはもううんざり。
Enough!
もういい!(=これ以上聞きたくない)
では、You are enough.はどういう意味でしょうか?「あなたは十分」と直訳してもピンとこないかもしれませんが、これも「ありのままのあなたで十分だよ、そのままのあなたで素晴らしいよ」という意味になります。なんて素敵な英語でしょう!
ネイティブがよく使う英単語を学ぼう
最近、世界中でメンタルヘルスが話題になっています。いろんな有名人が、強くなるために自分の弱さをさらけ出しています。これが“The Power of Vulnerability”の本当の意味だと思います。長いコロナ禍の中で、ありのままの自分を受け入れてもらえることに癒される人は多いでしょう。
今回勉強した単語、vulnerability、worthy、enoughを聞いたことがある方はたくさんいると思いますが、この記事で新しい意味や使い方を学べたのではないでしょうか。私の文章が皆さんの勉強につながるのは、何よりもうれしいことです。
この連載で、皆さんと一緒に言葉の持つ深い意味を考えることを楽しみにしています!
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