アメリカで生まれ、日本で暮らし、博多弁を操る言語学者のアンちゃんことアン・クレシーニさんが、「日本語に訳しづらい英語」と、その裏にある文化の違いを考察します。第9回では、upsetやshockなど、感情を表す英単語を紹介します。
目次
アメリカ人が言いがちな言葉3選
私が思うに、アメリカ人には「ほどほど」という概念が分からず極端な人が多いです。全然食生活を気にしない人がいる一方で、すごく健康に気をつけている人もいます。また、超フレンドリーな人もいるし、すごく失礼な人もたくさんいます。
同じくアメリカ人の私も、なんでも極端な傾向があり、何事も110%やるタイプです。まぁ、それは悪いことではないけれど、時々、精神的にも肉体的にも疲れてしまいます。親友にはよく「アンちゃん、ほどほどにね!」と言われます。
言葉づかいも極端です。アメリカ人がどれだけloveという言葉を使うか知っていますか?あまりに頻繁に言うので、もはや挨拶のようになっています。
「いってきます」「いってらっしゃい」もI love you、電話を切る時の「じゃあね」もI love you。それに、I love ice cream、I love dogs、I love K-pop。よく考えてみると、自分の子供に対する感情とアイスクリームに対する感情を同じ言葉で表すのは面白いですね。
私の場合は、特にbestとfavoriteを言い過ぎるきらいがあります。bestは「一番の」という意味なので、She’s my best friend.と言ったら、「たくさんいる友達の中で、彼女は私にとって一番大事な親友だ」という意味です。けれど、私は極端な人間なので、いろんな友達のことをShe’s my best friend!と言っていました。
favoriteにも、bestと同じように「数ある選択肢の中、これが一番好き!」というニュアンスがあります。けれど、ここでもアメリカ人は適当に喋る傾向があります。
Nikujaga/Sushi/Nabe is my favorite Japanese food!
肉じゃが/寿司/鍋は、私の大好きな和食です!
などと毎日頻繁に言っている気がします。「一体、どれが一番なん?」と言いたくなるでしょう?
私の夫は、いつもこのように突っ込みます。
Just how many best friends do you have anyway? And how many favorite Japanese foods?
一体何人一番の友達がいるの?それに、いくつ一番好きな日本食があるの?
確かに、言う通りですね(笑)。
数ある好きなもの中の一つ(好きな人の中の1人)であるということを表したい場合は、こんな風に言います。
She is one of my best friends.
彼女は私の親友の1人です。
This is one of my favorite Japanese foods.
これは私の好きな日本食の一つです。
アメリカ人っぽく「極端度」をレベルアップしたかったら、こんな言い方もあります。
She is one of my best friends in the whole world.
彼女はこの世で最も仲良しな友達です。
This is one of my favorite Japanese foods in the whole world.
これは、この世で最も好きな日本食の一つです。
「感情」をあらわす英語表現を使いこなそう
最近よく感情的なアメリカ人について考えているので、今回は感情を表す「日本語に訳しづらい英語表現」について話していきたいと思います。
さて、始めましょう。
upset
upsetは「怒り」それとも「悲しみ」?
この言葉は、場合によって日本語への訳し方が変わってきます。英英辞書で調べると、次のように定義されています。
to make someone worried, unhappy, or angry
UPSET | meaning in the Cambridge English Dictionary
これを見ると、なぜこの単語が日本語に訳しづらいのかすぐ分かりますね。
- unhappy(幸せじゃない)
- angry(怒っている)
- worried(心配している)
この三つの感情を1語で表す日本語はありません。そのため、文脈によって訳し方が変わります。
例文を見ていきましょう。
- She is really upset that she failed the university entrance exam.
彼女は、大学入試に落ちてすごく動揺している。
- She is so upset that her boyfriend cheated on her.
彼女は、彼氏に浮気されて相当怒っている。
1の例文は、「悲しみ」「落ち込み」が強く、「怒り」とか「心配」は薄い状態です。
けれど、2の例文では、「怒り」や「悲しみ」、「苦しみ」の気持ちも入っています。
イメージとしては「精神的に動揺している状態」で、悲しんだり、泣いたり、怒ったりすることです。とにかく、感情や精神が乱れた状態です。
もうちょっと例文を見ていきましょう。
I'm so sorry I upset you.
あなたを苦しませて(怒らせて)(悲しませて)ごめんね。
I'm really upset with you.
本当にあなたに怒っているよ。
I'm so upset that you lied to me.
嘘をつかれて、悔しいです。
angryは単なる「怒り」ですが、upsetは怒りに加えて「悲しい気持ち」や「がっかりする気持ち」が入っている場合が多いです。
I'm really upset with you.は、「あなたを信用していたのに、私を怒らせたり、裏切ったりしたからがっかりしている、悲しんでいる」みたいなニュアンスです。
upsetは人以外にも使える
upsetを形容詞にすると、upsettingになります。例文を見ていきましょう。
It was a really upsetting time in my life.
私の人生において本当に動揺した時期でした。
It was a really upsetting event for the entire family.
家族全員が本当に動揺した出来事でした。
つまり、感情をひっくり返された、いろいろうまくいっていたのに気持ちがひっくり返されたという状態です。このように捉えると、次のようなupsetの使い方も理解できます。
The COVID-19 pandemic has upset my plans for Christmas.
コロナの感染拡大は、私のクリスマスの予定をめちゃくちゃにした。
The storm upset their plans to go camping this weekend.
この嵐で、週末にキャンプに行く予定がだめになった。
この場合のupsetは、「予想外のことが起きて、予定通り行うことができなくなった」ということです。
ちなみに、upset stomachという使い方もあります。
I have an upset stomach.
直訳すると、「お腹が怒っている」とか「お腹が精神的に不安定」です。面白いでしょう?
でも、まさにそんな感じの意味です。つまり、「お腹の調子が悪い」ということです。
shock
ポジティブな驚きにも使うshock
では、次の表現を見ていきましょう。
ある日、私の娘が家に帰ってきて、こう言いました。
「ね、ママ。日本語のショックと英語のshockは違うって知ってた?」。
朝から晩まで日本語のことしか考えていない私は、娘の話に興味津々でした。娘はこう続けました。
「今日、テストが返ってきて、私は絶対に落ちたと思ってたんだけど、嬉しいことに受かってたんだ。それで、友達に『受かった!ショック!』って言ったら、友達が、『え?なんでショックなん?』と言ってきたの。日本語では、嬉しい時には『ショック』って言わないんだね!」。
確かに!
日本語では、「ショック」はネガティブな驚きを表したい時にしか使いません。そして、日本語の「ショック」は英語の名詞のshockよりも動詞の be shocked のほうが意味が近いです。
I’m shocked my boyfriend cheated on me.
彼氏に浮気されてショックを受けている。
I’m shocked that I failed my test.
試験に落ちた。マジでショック。
名詞のshockを使うとこうなります。
My boyfriend cheated on me. It was a huge shock.
彼氏に浮気されて、精神的にこたえた。
I can’t believe I failed my test. What a shock.
試験に落ちたなんて信じられない。なんてショックなんだ。
日本語の「ショック」は、英語のI’m shocked.より軽い時もありますね。若者言葉の「ぴえん」くらいの感覚です(例えば、「彼氏と一緒にライブに行けなくなった。ショック!」を「彼氏と一緒にライブに行けなくなった。ぴえん!」と言い換えても、あまり意味は変わりませんよね?)。
英語のI’m shocked!は、日本語の「ショック」よりさまざまな場面で使われています。
I’m shocked that you said that to me.
そんなことを言うなんて、信じられない。
I can’t believe I passed my test! I’m shocked.
テストに合格したなんて信じられない!やった。
I was so shocked when she came to my wedding.
彼女が私の結婚式に来た時、言葉が出ないほど驚いた。
I'm shocked they broke up.
あの二人が別れたなんて、信じられない。
I was shocked by the death of my father.
父の死は大きなショックでした。
ポジティブ、ネガティブ、ニュートラルな使い方があるのに気付きましたか?
I’m so shocked that I won the contest!
コンテストに優勝したなんて信じられない!(ポジティブ)
I was shocked by the sudden death of my best friend.
親友の突然の死に大きなショックを受けた。(ネガティブ)
I’m shocked they broke up!
2人が別れたことにびっくり!(ニュートラル)
形容詞shockingの使い方
また、形容詞としても使えます。
It was one of the most shocking things that’s ever happened to me.
それは今までの人生で最もショッキングな出来事だった。
It was a shocking development.
ショッキングな出来事だった。
It was so shocking.
大きなショックだった。
バリバリ鮮明なピンクのことを英語でshocking pinkと言いますが、これは「驚くほどピンク!」みたいなニュアンスです。
それでは最後に、今日勉強したupsetとshockingを使った文章でおさらいしましょう。
His betrayal of me was shocking. I was upset for a long time.
彼の裏切りは精神的にこたえた。私は長い間、取り乱していた。
His shocking disappearance was very upsetting to his family.
彼の衝撃的な失踪は、家族を非常に動揺させた。
一緒に言葉の理解を深めよう!
私を含めて、多くのアメリカ人(もちろん皆じゃないけど)は結構感情的なので、感情を表す表現は大事です。今回は、よく会話に出てくるlove、best、favorite、upset、shockなど、さまざまな表現を紹介しました。もっともっとあるので、第2弾が必要だね!
外国語を勉強している中で、例文を見たり、辞書でいろいろ調べたりしても、あまり理解ができない時がたまにありますよね。特に、母語に当てはまる表現がない時、理解するまでにかなり時間がかかります。
例えば私は、日本語の「微妙」や「さすが」を理解するまでに、すごく時間がかかりました。周りの人が使うのを聞いて分析したおかげで、やっと意味がわかってきました。なぜなかなか理解できなかったかというと、英語に似たような表現がないからです。
未だに理解しづらい表現もあります。それは「あえて」です。何回も辞書で調べたり友達に説明してもらったりしたけど、「うーん、ようわからん」って感じです。
もしかしたら、upsetもshockも同じように理解しづらいかもしれません。でも、大丈夫! Don’t let it upset you!
頑張れば、いずれネイティブっぽく使えるようになりますよ。諦めないで!
私も「あえて」を使いこなせるようになるまで、頑張るバイ!
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