「take for granted」はどういう意味で、どのように使うのでしょうか。「ありがたい」と「当たり前」の関連性を持つこの英語表現を、詳しい例文と共に深掘りします。言語学者のアン・クレシーニさんが語る、日本語に訳しづらい英語フレーズの魅力を体験しましょう。
目次
take ~ for granted、日本語にどう訳す?
数年前、友達に「ねぇ、『ありがたい』の反対語は何か知ってる?」と聞かれました。
なんだろう?「ありがたい=感謝」だから、「感謝しないこと」かな?
でも、それは違いました。「ありがたい」の反対語は、「当たり前」だそうです。つまり、何かが「当たり前だ」と思ってしまうと、「感謝の気持ち」や「ありがたさ」がなくなるということです。なるほど!確かに。
よく使われる英語の表現 take ~ for granted について、どう日本語に訳したらいいんだろう?とずっと考えていました。「~を当たり前に思う」と訳せるけど、なんだか微妙にニュアンスが違います。
今回は、この take ~ for grantedについて書いていきたいと思います。
さて、始めましょう。
「~を当然だと思う」という訳は物足りない
アメリカで育った方は、きっと今までこの表現を何百回と聞いたことがあると思います。
Don’t take being able to eat three meals a day for granted!
1日3食食べられることが当たり前だと思わないで!
You are taking me for granted.
あなたは私のことを当然だと思っている。
Don’t take your success for granted.
自分の成功を当たり前だと思わないで。
He is taking his parents for granted.
彼は親のことを当たり前だと思っている。
みたいな感じです。
この表現は英語の日常会話で本当によく使うので、日本に来てから、どう表したらいいんだろうとずっと悩んでいました。いちばん近い日本語は、「~を当たり前に思う」だと気付きましたが、なんだか物足りない感は半端なかったです。
英英辞書でtake for grantedを調べると、このような定義が出てきます。
- to assume (something) as true, real, unquestionable, or to be expected
- to value (something or someone) too lightly: to fail to properly notice or appreciate (someone or something that should be valued)
この定義を見ると、なぜ「当たり前に思う」という日本語訳が物足りないかすぐにわかると思います。
まず1番目の定義を見ていきましょう。
- to assume (something) as true, real, unquestionable, or to be expected
- (何かを)真実、現実、疑う余地のないもの、あるいは予期されるものとして当然に思うこと
assumeは、「当然だと思う」とか「思い込む」という意味です。つまり、何かがずっと存在することや真実であることを当然だと思っている状態です。
I have realized during the COVID-19 pandemic that I have taken many simple things for granted .
コロナ禍で、日常の多くのことを当たり前だと思っていたことに気付きました。
We Americans take for granted that we can eat three meals a day.
私たちアメリカ人は、毎日3食を食べられることを当然と思っている。
I have taken for granted being able to visit the U.S. anytime that I want to.
私はこれまで、いつでもアメリカに行けることが当たり前だと思っていました。
Don’t take clean drinking water for granted.
きれいな飲み水を毎日飲めることを当然と思わないでね。
「当然だと思う」とか「当たり前に思う」という日本語訳は、確かにtake for grantedの大事な部分を表していますが、冒頭で話した「感謝」の意味合いがそこまで強くないと感じます。
英語のtake ~ for grantedには、「当たり前だと思っていて、感謝の気持ちが足りない」というニュアンスがあります。
もう一度上記の例文を見てみましょう。
I have realized during the COVID-19 pandemic that I have taken many simple things for granted.
コロナ禍で、日常の多くのことを当たり前だと思っていた(=あまり感謝の気持ちがなかった)ことに気付きました。
We Americans take for granted that we can eat three meals a day.
私たちアメリカ人は、毎日3食を食べられることを当然と思っている(=もっと感謝しなければいけない)。
I have taken for granted being able to visit the U.S. anytime that I want to.
私はこれまで、いつでもアメリカに行けることが当たり前だと思っていました(=その状況に感謝していなかったことを反省している)。
Don’t take clean drinking water for granted.
きれいな飲み水を毎日飲めることを当然と思わないでね(=感謝の気持ちを持ち続けてね)。
次に、2番目の定義です。
- to value (something or someone) too lightly: to fail to properly notice or appreciate (someone or something that should be valued)
- (何かもしくは誰かを)何かを、あるいは誰かを、軽く評価すること。(大切にすべき人もしくは物に)正しく気付けなかったり、評価できなかったりすること
つまり、物や人を十分大事にしない、感謝しないということです。辞書では1と2の意味を分けて記載していますが、実際に使うときには1も2も一緒にして使っていることが多いと思います。
そのため、日本語に訳すなら、「当たり前だと思って、感謝の気持ちが足りていないこと」とするのがいちばん近いと思います。
ただ、このように訳すと、日本語の日常会話では不自然になってしまいます。
例えば、アメリカでは奥さんが夫に(逆もあるかも)こんなことをよく言います。
You are taking me for granted!
この発言のニュアンスを日本語にすると、「あなたは、私がずっとそばにいていろいろしてあげることを当然と思っていて、私の存在に感謝してない!」という意味になります。でも、実際の日本語の会話としては長すぎますね。
「当然」と「感謝」は表裏一体
もう少し例文を見てみましょう。
I took it for granted that I would find a job after college.
大学を卒業したら、当然就職できると思っていた。
You have got such a great husband! Don’t take him for granted .
そんなに素敵な夫がいるなんて、感謝しなきゃ。
最近よく「今までの『当たり前』がなくなった」という表現を耳にしますが、これを英語にすると、I have taken so many things for granted.(私はこれまで、たくさんのことを当たり前だと思っていた)みたいな感じになります。
当たり前だと思うと、感謝の気持ちがなくなる。そして、当たり前ではないことに気付くと、感謝の気持ちが増す。こんなふうに、「感謝」と「当たり前」はつながっています。そして、take ~ for grantedにはどちらの要素も入っています。
「感謝」は英語でなんて言う?
最後に、日本語の「感謝」を表す英語について少し説明しますね。
名詞の「感謝」を英語に訳すと、thankfulness、appreciation、gratitudeとなります。
動詞の「感謝する」は、to be thankful、to appreciate、to be gratefulと言います。
使い方を見ていきましょう。
You should be grateful to you parents for all they do for you.
親に感謝しなきゃ。
You don’t appreciate all they do for you.
あなたは、彼らのしてくれていることに対して感謝の気持ちが足りない。
I really appreciate it.
I am so thankful.
とても感謝しています。
I am so grateful / thankful for this opportunity.
こんなチャンスをもらえて、とても感謝しています。
Do you appreciate all that your wife does for you?
奥さんが日々やってくれていることに感謝していますか?
やっぱり、こういった文を見ると、改めて「感謝」と「当たり前」のつながりが見えます。友達が言った通り、「ありがたい」の反対語は間違いなく「当たり前」です!
コロナ禍で気付いた感謝の気持ち
コロナウイルス感染症が流行し、最初に緊急事態宣言が出たとき、登壇を予定していた22の講演会が中止になりました。私は、文章を書くことと同じぐらい講演することが好きです。それまで講演会に出ることをあまりにも当然だと思い過ぎていて、それは大きな特権であるということを忘れていました。
緊急事態宣言が解除された後、初めて講演会に出た時の喜びを、いまだに忘れられません。感謝の気持ちがあふれました。
I will never again take for granted the privilege to stand on that stage and talk.
あのステージに立ち、話すことができるという特権を、私はもう二度と当たり前だとは思いません。
それ以来、ずっと感謝の気持ちを持ちながら講演会を続けています。
皆さんも、感謝の気持ちを忘れないように日々を送りましょう!
アン・クレシーニさんの本
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