コロナのニュースで持ち切りであまり話題になりませんでしたが、思えば2020年度から、小学校では英語が必修教科になっていたのでした。そんな中、大ベストセラー「うんこドリル」シリーズに小学生向け英単語本が登場。今回も、かなり攻めています!2人の小学生の母である、ライターの尾野がレポートします!
「うんこドリル」シリーズはスゴかった
「うんこドリル」シリーズの第1弾、『うんこ漢字ドリル』が発売されたのは、2017年のこと。すべての問題と例文に「うんこ」を取り入れたこのドリルは、発売からわずか1カ月半で100万部を突破しました。一時期は、ベストセラーのランキングでこのシリーズが上位を独占していたのです。
その後、算数ドリルや英語ドリル、未就学児向けドリルも発売され、今では500万部を超える一大ブランドに成長。大人気コンテンツとなっています。
しかし発売当初、「ちょっとこれは・・・」と思った親御さんも多かったのでは?私もそうでした。おまけにわが家の小学生には今ひとつ受けが悪く、「これ買ってあげようか?」と言ったら、無言で悲しそうな目を向けられた記憶があります。当然ながら子どもにも好みがあり、うんこなら喜ぶというものでもないんですよね。
しかし、あれから3年。本屋さんでふと『小学うんこ英単語1500』を手に取った私は、その充実した内容と作りこまれた世界観に瞠目(どうもく)したのです。子どもが使わなくてもいいから、自分のために買おう。だって面白いから!
レジで「カバーお掛けしますか?」と聞かれて「要りません」と即答したところ、店員さんはちょっと驚いた様子でしたがなんのその。
その日から、小学生2人を相手に試してみたところ、これが大当たりでした。
どんな本なの?全体像をチェック!
それではまず、スペックをチェックしていきましょう。
- 小学生のうちに身に付けておきたい1500語を収録
- 全単語に「うんこ」を使った例文が付いている
- 音声CDなどはないが、全単語にネイティブスピーカーによる発音動画付き
- 全ページがカラー。楽しい(うんこの)イラストもたくさん
- 巻末にミニ英和・和英辞典付き。気になる単語を逆引きできる
- 持ち運びに便利な文庫本サイズ
- 暗記に使える赤いシートつき
しかしこの本からは、「子どもに勉強を楽しんでもらいたい!」という熱意が強く感じられるのです。
テーマ別に学ぶから覚えやすい
1500語というとかなり多いような気もしますが、今年から英語は小学校で必修化されたのです。3~6年生まで4年間学ぶとすれば、確かにそれくらいになるのかもしれません。英検でいうと5~3級レベルのものを取り上げていて、各級で頻出する単語にはそれぞれマークが付いています。
とはいえ、単語の配置はレベル別ではなく、テーマ別。例えば、「生き物」「食べ物」「スポーツ・遊び」といった具合です。カテゴリごとにまとめて覚えると、記憶に定着しやすい気がしませんか?
最初から順番に進めてもいいですし、子どもの好きなテーマから 取り組む のも手です。わが家の場合は、最初に出てくる「生き物」の章から順番に進めましたが、もともと動物が好きなため知っている単語が多くて、親子ともにうれしい驚きでした。早い段階でこういう体験があると、やる気が出ますよね。
そして、大変細かいところですが、この見出し語の表示の仕方がとてもいいんですよ。
学校で使う英語ノートのように、罫線があり、その上に単語が書かれています 。これが大事!
学校でローマ字を習い始めたときのこと。たまたまわが子のノートを見てみたら、かなりぐちゃぐちゃに書いてありました。話を聞いてみると、「ノートに横線がいっぱいあるから、どこに何を書けばいいのかわからない」とのこと。ノートの使い方に戸惑っていたわけです。
この本ならお手本の見出し語どおりに書けばいいから、子ども戸惑うことがありません 。これは楽ちん。いちいち「これはどこに書くの?」と聞かれないで済むので、親も楽ちんです。
そして、見出し語の左上にチェックボックスが付いていますが・・・。
このチェックボックスも、うんこ型。1回目は上半分を、2回目は下半分を塗りつぶす 仕組み になっています。このこだわりもスゴイですね。
ちなみに 、 うんこは英語ではpoopなどと言いますが、この本ではunkoに統一 。ちょっと気になるところではありますが、「小学生が楽しく英語を学ぶ」という趣旨を考えると、これでいいのではないでしょうか。
表現には「子ども扱い」なし!
本書をパラパラとめくって例文をチェックしているとき、「結構難しいこと言っているなあ。小学校の英語でここまでやるの?」と思いましたが、これについても最初に但し書きがありました。
英語表現の幅を広げ、英文としての自然さを 優先する ため、一部の例文では小学校学習指導要領範囲外の文法を使用しているものもありますのでご了承ください。私はこれ、とてもいいことだと思います。
小学校というのは不思議な世界で、授業で習っていない漢字をテストで書くと減点されることがあります。でもそれは変だと思うのです。日常の「ことば」の世界には、「小学生レベル」も「中学生レベル」もないのですから。さまざまな表現に触れ、まねしてどんどん使った方が、表現力が養われるのではないでしょうか。
それに、小学生向けの英語の本が何となくつまらないと思う理由のひとつは、やはりこの「小学校ではここまで」という学習指導要領上の縛りではないかと思います。結果として「これはりんごですか?」「いいえ、みかんです」のようなものばかり。これではいくらかわいいキャラクターをちりばめても、子どもも飽きるというものです。
さて、こうして「英語表現の幅を広げ、英文としての自然さを優先」した結果、登場する例文は非常にシュール。 ちなみに 強調されている部分が見出し語です。
Size is more important than shape for unko.なるほど・・・。大人は知らない新常識です。お次はTOEICでも頻出のこちら。うんこは 形 よりも大きさが大事だ。
Not even a vet can cure unko.おそらく、 surgeon (外科医)でもdentist(歯科医)でも、 pharmacist (薬剤師)でも無理でしょう。職業カテゴリではこんな例文も。いくら じゅう医 さんでもうんこは治せない。
I wonder if unko differs by job .江戸時代には、武家屋敷から出る下肥(しもごえ)は、栄養分を豊富に含むため高値だったという話があります。今はどうでしょう?職業 によってうんこはちがうのかな。
ついにはこんな例文も。
It was invited to the “ See -the- prime -minister's-unko Meet .”コロナ騒ぎでバタバタするうちに、総理大臣も代わった2020年。 今後 、数々の疑惑は解明されるのでしょうか。それとも、「臭いものにフタ」状態が続くのか・・・。「総理大臣のうんこを見る会」に 招待され た。
社会問題系?といえば、こんな例文もありました。
I poured gunpowder inside the unko.これはテロ等準備罪に当たるのでは・・・。うんこ の内側に 火薬をうめこんだ。
この辺りについては、巻末に「おうちの方へ」と題した但し書きがあります。
本書に掲載されている内容は、学習にユーモアを取り入れ、お子様の学習意欲向上に役立てる目的で作成されたフィクションです。一部の例文において、お子様が実際に真似されますと、他の方に迷惑をおかけするような内容も含まれておりますが、本書はあくまでも学習用であり、お子様の不適切な行為を助長することを意図しているものではありませんので、 ご理解 いただきますようお願い申し上げます。おそらく最初に「うんこドリル」シリーズを出版するときから、社内でもさまざまな議論があっただろうと思います。でも、「子どもの学習意欲向上に役立てる」というラインは守りつつ、ふざけるところは全力でふざける、このバランス感覚は素晴らしい!
そして、「よし、やっぱり出そう(うんこだけに)」と決断した出版社は本当にエライと思います。
何より、1500語すべてにうんこにまつわる例文を用意するのは、「学習にユーモアを取り入れ、お子様の学習意欲向上に役立てる」ことに対して相当な熱意がなければできないことです。
「子ども向け」と「子どもだまし」の違いとは
子ども受けしそうなドリルや学習本は、英語も含めたくさんあります。いかにも子ども受けしそうなキャラクターが出てきたり、やたらとカラフルだったり。ただ、「面白さ」という面では今ひとつのものが多いんですよね。
「うんこドリル」シリーズが子どもたちに受けるのは、たぶん「子ども向け」と「子どもだまし」の違いをよくわかっているからではないかと思います。
ちょっと話がそれますが、「小学生×うんこ」と言えばマンガ雑誌『コロコロコミック』でしょう。その『コロコロコミック』の編集の方が、あるセミナーで、こんな話をされていました。
子供向けのコンテンツとは、「大人の自分が本当にかっこいいと思っている(こと)を、分かりやすく伝えているコンテンツ」です。本書の作り手たちは、「ことば」の世界の豊かさを本気で面白いと信じている感じがします。「ことば」を学ぶことも、実際にそれを使ってみることも、本当に面白い。それを、本気で子どもたちに伝えたいと思っている。この本は、そんな熱意がページのすみずみから伝わってくる気がするのです。「これは絶対に子供だってかっこいいと思うはず!でもちょっと難しい(分かりづらい)かもだから、分かりやすくしよう!」これが子供向け。(中略)
逆に子供だましとは、「大人の自分はあんまり好みじゃないけど、たぶん子供はこういうのがたぶん好きなんだろうと思って作られているコンテンツ」です。
本書の魂はリバーシブルカバーにあり!
その熱意が最も強く伝わってくるのが、この本のカバーです。
本書の帯に「2種類のデザインで使えるリバーシブルカバー!」と書いてあるのを見て、私は「はいはい、あれね」と思いました。
大人向けの英語本でもよくありますよね。『TOEIC700点絶対突破!英単語1000』みたいな本だと(あくまでも架空のタイトルです)、正直持ち歩くのが恥ずかしい。電車の中でこの本を広げていたら、「ああ、あの人はTOEIC700点を絶対突破したくて、そのために英単語を1000個覚えようとしているんだな」と思われそうですからね。まあ、そこまで意識しなくてもいいのですが。
で、そんな状態を回避するためか、本のカバーがリバーシブルになっている場合、裏面はタイトルが入っていない、モノグラムみたいなおしゃれなデザインになっているものがよくあります。
私は「この本もそうなんだろうな」と思ったのです。なにしろタイトルにうんこが入っているのですから、小学生といえども高学年にもなれば異性の目も気になるでしょう。
「きっとこの裏にはおしゃれですましたデザインが・・・」と思いつつ、カバーをひっくり返した私は度肝を抜かれました!
表カバーより、もっと激しく漂う「うんこ感」!うんこをテーマにしたマンガ本を思わせるこのデザイン。もう、隠すつもりはまったくありません。
そして、このカバーを見た私は思ったのです。
ひとはうんこをする。「ことば」を学ぶ。そして生きていく。それが当たり前ではないか。自然な姿ではないか。その何が恥ずかしいというのか。なぜ隠そうとするのか・・・と。
もしかしたら私たち大人は、「頑張るのは恥ずかしい」「勉強するところは人に見せないほうがいい」という無言のメッセージを、子どもたちに送っていたのかもしれません。
でも、そんなのはやっぱりおかしいですよね。「自分がやりたいこと、面白いと思うことは全力でやっていいんだよ!」。深読みし過ぎかもしれませんが、この本にはそんな思いがカバーにまで詰まっている気がしました。
まとめ
数年前、わが家の子どもたちは『うんこ漢字ドリル』に興味を示さなかったので(というより割と嫌がったので)、今回もどうかなと思いましたが、本書は気に入ったようです。
いわく、文庫本サイズなのが「大人の本みたいでかっこいい」とのこと。暗記シートも中学生や高校生が使う本みたいで、気に入ったようです。言い回しはなんですが、「今日もうんこやる」「うんこしてから寝る」という毎日が続いています。親としてはありがたい限り。
今後も 、学習書を出す出版社には(うんこに限らず)面白い本をどんどんつくってもらいたいものです。そして、私たちはそれを使って、大人も子どももバリバリ勉強していきましょう!
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尾野七青子 都内某所で働く初老のOL兼ライター。
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
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