英語圏で日本の「新語・流行語大賞」に当たるのが「Word of the Year」。アメリカやイギリスの辞書や学会から発表され、中でもアメリカのメリアム・ウェブスター英語辞典の出版社が選ぶものは有名です。最近のアメリカや世界の動きを象徴する言葉を、ニュースなどを手掛ける翻訳者でライターの松丸さとみさんが紹介します。
英米の新語・流行語に当たる「Word of the Year」
日本で毎年、年末になると「新語・流行語大賞」が選ばれるように、 英語圏でもその年に注目された言葉、Word of the Year(今年の言葉)が選ばれます 。イギリスでは英英辞典のコリンズが、アメリカではアメリカ方言学会(ADS)がそれぞれ選ぶ単語が有名です。
そしてアメリカの英英辞典の代表格と言えるメリアム・ウェブスター辞典も、毎年Word of the Yearを選出しています。この記事では、 メリアム・ウェブスター辞典が近年選んできたWord of the Year と共に、その年がどんな1年だったかを振り返っていきます。
メリアム・ウェブスター辞典のWord of the Yearとは?
メリアム・ウェブスター社は、 150年以上の歴史を持つ辞書出版社 です。同社の最も代表的な辞典といえる英英辞典、メリアム・ウェブスターは、その信頼性の高さからアメリカで愛されています。オンライン版は収録単語が数カ月の頻度で 更新 されており、毎月の訪問者数は延べ4000万人以上。ほかにも紙の辞書とアプリ版があります。
Word of the Yearは、それまでの 12カ月間でどんな言葉が検索されたか によって決まります。 merriam-webster.com でその年に最も検索された単語の中から、常に探される定番は除外した上で、前年と比べて検索件数が急増した言葉に焦点を絞り込んでいきます。そうして選ばれたのが、メリアム・ウェブスター辞典のWord of the Yearというわけです。
選ばれたWord of the Yearや最終 候補 として残った単語を見れば、その年にユーザーが何を見て何を感じていたのかがわかります。
2015年は-ismが付いた言葉が急上昇
2015年の言葉には、 接尾語の-ism が選ばれました。というのもこの年、-ismが付いた単語が数多く検索されたからでした。
具体的に は、多い順に socialism 、fascism、racism、feminism、communisum、 capitalism 、terrorism の7つ。こうして見ただけでも、確かにここ数年の世相を表している言葉ばかりですね。
メリアム・ウェブスター辞典によると、-ismはもともと古代ギリシャ語から来ており、 動詞を名詞に変える働き がありました。例えば動詞criticize(非難する)の末尾を変えるとcriticism(批判)という名詞になるといった具合です。 メリアム・ウェブスター辞典有料版には現在、-ismが付く言葉が2733単語収録されている そうです。
socialism は、検索回数が前年から169%も増加しました。 きっかけ は、翌2016年に行われることになっていた アメリカ大統領選 。2015年5月にバーニー・サンダース上院議員が民主党 候補 として出馬を表明したのですが、彼は自らをdemocratic socialist (民主社会主義者)と呼んでいました。そのため、 socialism の検索頻度が増えたと考えられています。
ほかに気になる言葉としては、 terrorism があります。この頃、 数多くのテロ が世界を震撼(しんかん)させていました。2015年は、11月にフランスのパリで、コンサート会場やサッカー・スタジアムなどを標的とした大掛かりな同時多発テロが発生しました。同じく11月、アメリカのコロラド州コロラド・スプリングスでは病院が銃撃され、翌12月にはカリフォルニア州サンバーナディーノで銃乱射事件が発生。いずれもテロ事件として認定されました。
2016年には「シュール」が社会事象を表す言葉に
テロの話は、翌年のWord of the Yearである surreal(超現実的、奇想天外) にも 影響 を与えています。
3月にはベルギーの ブリュッセル空港などで連続テロ が、7月にはフランスの ニースで大型トラックを暴走させたテロ事件 がそれぞれ発生しました。
一方で、この年の6月には イギリスが国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決定 し、トルコでは7月にクーデター未遂事件が起きました。
2016年に選ばれたsurrealは、こうした驚きの出来事や惨劇の後に検索が増えたそうです。そしてこの年、最もsurrealが検索されたのは、11月の アメリカ大統領選 の後でした。
ちなみに この単語、「シュール」という日本語にもなっていますが、「ソリアル」や「シュリアル」などと発音した方が英語らしい音になります。
2017年は抑圧に声を上げる「フェミニズム」に注目
翌2017年の言葉に選ばれたのは、 feminism でした。
2017年といえば、アメリカで ドナルド・トランプ氏が大統領に就任した年 です。就任翌日の1月21日、約50万人が「ウィメンズ・マーチ」に参加するために首都ワシントンに集まりました。 女性を軽視した発言 で問題になっていた同氏に抗議し、 女性の権利を訴える ことが目的のイベントで、ワシントン以外でも全米で300万~460万人が類似のイベントに参加したとみられています。
さらにこの年、フェミニズムにおいてもう一つ重要な出来事がありました。セクシャル・ハラスメント(セクハラ)や性暴力を告発する動き、 #MeToo運動 です。 きっかけ は、ニューヨーク・タイムズが10月5日に、映画プロデューサーだった ハーヴェイ・ワインスティーン(ワインスタイン)によるセクシャル・ハラスメントを告発 する 記事 を掲載したことでした(その後、複数の裁判で有罪になり現在は服役中です)。
これまで虐げられていた女性たちが平等かつ正当に扱われることを求めて声を上げた動きが目立った1年であったことから、feminismという単語がよく検索されたのも納得です。
さて2021年はどんな年になり、どんな単語が注目を集めるでしょうか?来年も英語のニュースに注目しつつ気になる単語を覚えておいて、年末に振り返ってみると楽しいかもしれません。
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松丸さとみ フリーランス翻訳者・ライター。学生や日系企業駐在員としてイギリスで計6年強を過ごす。現在は、フリーランスにて時事ネタを中心に翻訳・ライティング(・ときどき通訳)を行っている。訳書に 『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』 (日経BP)、 『限界を乗り超える最強の心身』 (CCCメディアハウス)、 『FULL POWER 科学が証明した自分を変える最強戦略』 (サンマーク出版)などがある。
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