「本」を通じて世界と日本をつなぐ会社に突撃取材する、全3回のインタビューシリーズ。第3回は、国内外の著作権の仲介及び代理業務を行う「日本ユニ・エージェンシー」の竹内えり子さんにお話をお聞きしました。
日本ユニ・エージェンシーって?
――事業内容について教えてください。
日本ユニ・エージェンシーは、主に海外の本を日本で出版するため著作権の仲介と代理業務や、日本国内の著作権を海外へ仲介する業務を行っています。特にこの4、5年は、「もっと日本の書籍を世界で売り出したい」と考える日本、海外の出版社が増えてきました。
また、翻訳者を養成するためのワークショップや、書籍の装丁講座なども主催し、日本の出版社への翻訳者の紹介も行っています。
社内には、大きく分けてエージェント業務を行う「営業部門」と、翻訳出版の 契約 が成立した案件について 契約 書等の 手続き を行う「 契約 管理部門」があります。
エージェント業務ってどんなお仕事?
――海外で出版された原書の翻訳版が日本で出版されるまで、どのような流れなのでしょうか。
書籍によっていろいろなケースがあります。
まず、海外から新刊情報を仕入れ、日本でも売れそうだという本を、日本の出版社に紹介して刊行が決まるケース。日本ユニ・エージェンシーがこれまで関係を築いてきた海外の出版社からは、原書が刊行される前、つまり企画・編集の段階で新刊情報が送られてきます。海外では「版権を国外に売る」というビジネスは広く行われているので、積極的に情報が発信されているのです。
例えば、こちらの『おやすみ、ロジャー』は、もともとスウェーデン語で自費出版され英語版の発売と 同時に SNSで話題になった絵本で、現地エージェンシーから情報を入手し、いくつかの日本の出版社に紹介した結果、最終的に飛鳥新社さんから翻訳版が刊行され、ベストセラーとなりました。
あらかじめ海外の出版社や権利者からいろいろな情報を仕入れて臨み、ブックフェア会場では対面で情報を共有したり商談を行ったりします。すでに刊行された書籍も取り扱われていますが、多くは刊行前の書籍です。
かんき出版さんから刊行された『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』は、ブックフェアが きっかけ で生まれた本です。
あるブックフェアで私たちのブースを訪れたかんき出版の編集者さんに、「何かおすすめの海外書籍はないか」と尋ねられたので、アメリカで出版前から注目されていた原書の"Essentialism: The Disciplined Pursuit of Less "を紹介したところ、 契約 がまとまり、翻訳版の刊行が決まりました。
2020年は、コロナウイルス感染 拡大 の 影響 でメールやオンラインで行われましたが、こうした状況になって、あらためて対面で話す必要性を実感しました。これまでのブックフェアだと、無名の著者であっても面白い本が会場の口コミからにわかに話題になるようなことがありましたが、メールやオンラインだと、なかなかそういう本を見つけるのは難しいと感じます。
次に、日本の出版社から「翻訳書を刊行したいが、海外にこういう本はないか」とリクエストされて、海外の著作物を探すケースもあります。リクエストは、 具体的な 書名を指定されることもあれば、特定のジャンルやテーマで相談されることもあります。
また、海外の著者にオリジナルの企画を持ち込んで執筆してもらうケースもあります。
――竹内さんご自身のお仕事について教えていただけますか?
私は海外著作を日本で刊行するための仲介業務を担当しています。海外から届いている新着情報をチェックし、面白いと思うものがあれば、メールや電話で日本の出版社に紹介します。また、翻訳権の 問い合わせ (日本語に翻訳して刊行する権利が空いている かどうか )への対応や、 契約 ・交渉に関わる事務 作業 も行います。
いろいろな本の情報が入ってきますが、ジャンルが多岐にわたるので、自分自身の趣味の範囲で選別していると仕事が限られてしまいます。そのため、なじみのないジャンルの本であっても、著者や内容について調べ、理解するように努めています。
普段はメールのやりとりが多めです。私はもともとある出版社の編集職に就いていたのですが、留学経験を生かして英語を使う仕事をしたいと考え、日本ユニ・エージェンシーに入社しました。 契約 関連の 手続き をしていると、翻訳権業界特有の英語が出てくるので、先輩に教えてもらいながら習得してきました。
私は日本語と英語を使って仕事をしていますが、社内のスタッフにはスペイン語などほかの言語を使って働いている日本人もいますし、外国人も在籍しています。
エージェント業務の難しさとやりがい
――お仕事される中で、どんなところに気を付けていますか?
日本の出版社に海外の原書を紹介するために、それぞれの出版社の編集者さんがどんなことに興味があるのかを 把握 しておきたいので、雑談など日々のコミュニケーションを大切にしています。
また、 契約 成立後に日本の出版社から「タイトルや装丁を原書から変えたい」という 希望 が出た場合、 事前に 海外の権利者に許可を取らなければならないのですが、単に変更する旨を伝えるだけではなく、「なぜこのように変える必要があるのか」という日本の出版社側の意図をくみ取り、それを海外の権利者にも伝わるようにうまく説明する必要があります。
タイムリミットがある中で、海外の方に「日本の出版社は、むやみに原書を変えようとしているのではなく、きちんと原書の内容を理解した上で、日本人により受ける形に変化させようとしているのだ」という信頼感を持ってもらわなければなりません。日本人であれば「なるほど、こう変えたら 売上 が上がりそうだ」とわかることでも、文化を共有していない海外の方はピンとこないこともありますので、その理解のギャップを埋める 作業 が大変でもあり、やりがいを感じる部分でもあります。
一方で、日本の編集者の方々が、日本で少しでも多く売ろうといろいろな仕掛けを考えたり工夫を凝らしたりされているのを見ると、とても感銘を受けます。
この"Spark"という本は、日本の書籍の装丁をがらりと変えてイギリスで翻訳出版した例です。この書籍の原書は、芥川賞を受賞した又吉直樹さんによる小説『火花』です。
- 作者:【第153回 芥川賞受賞作】火花
- 作者: 又吉 直樹
- 発売日: 2015/03/11
- メディア: 単行本
『サードドア 精神的資産のふやし方』(原題:The Third Door: The Wild Quest to Uncover How the World's Most Successful People Launched Their Careers)ですね。
ある無名の大学生が進路に悩み、ビル・ゲイツやレディー・ガガなど、そうそうたる面々にインタビューするべく奮闘するという内容の本です。
海外で売れている本だからといって、日本で売れるとは限りません。日本の編集者の方が、「日本の読者にどう届けるか」ということを 具体的に イメージできて初めて刊行が決まるので、本の魅力を十分伝えられるよう、力を尽くしています。
取材後記
原書の発掘、書籍情報の精査、出版社への紹介、ブックフェア出展、日本と海外の出版社との交渉、 契約 管理 手続き など、翻訳書の刊行までの仲介業務には想像していた以上にさまざまな種類があることがわかりました。
「交渉は人と人とのやりとりなので、いくらこちらが渾身(こんしん)の説明をしたと思っていても、相手には理解されなかったというときもあります。でも、なんとかわかってほしい、説得したいという気持ちで日々頑張っています」と話されていた竹内さん。
原書の面白さや魅力を伝えたいという熱意が、ベストセラーの翻訳書を生み出す第一歩なのかもしれません。
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