フィンランド在住の星利昌(ほしとしあき)さんは、オンライン料理教室「マクヤマク」を通して、フィンランドの魅力を世界に発信する日本人シェフ。星さんのエッセイ『マクヤマク しあわせの味あわせ』から、今回は、料理人である星さんの真摯な思いをお届けします。
フィンランドの自然・料理・人々について綴った第1~3回はこちら
フィンランドと私
料理人が向き合うもの
私は22歳でフィンランドに来たのですが、料理人としてこの国で生きる上で大事にしてきたことが二つあります。
一つ目は食材を自分の目で見て、吟味することです。
フィンランドでは森にどのような植物が自生しているのか、魚はどのような場所で取れるのか、野菜はどのような風土で育っているのか、家畜はどのような環境で育てられているのか、つまり、どのような食材があって、その食材がどのように人々に食されているか、こういったことを自分の目で確かめ、食材を扱うことを大事にしてきました。
こうすることでまず地の利を得ることができ、そしてだんだんと、知っている食材の組み合わせなら、頭の中で味を想像できるようになってきました。
その結果、料理の味をはっきりとイメージし、適切に食材を選べるようになりました。
たとえば、肉は部位ごとに食感や味、栄養素まで変わります。
フィンランドでは食用肉として一般的に牛、鶏、羊、豚、山羊、鹿、猪、鴨、鳩、兎、例外的に熊、カワウソがあります。
シカ類は、ヘラジカ、子鹿、鹿、トナカイといった種類が食べられています。そして部位に分けると、舌、頰肉、首肉、フィレ肉、サーロイン、テンダーロイン、バラ肉、尻肉、もも肉、前足肉、後ろ足肉、すね肉、尻尾肉、レバー、心臓と、実際はもう少し細分化できますが、ざっとこのくらいあります。
これらの肉を一つ一つ、焼くのがいいのか、炊くのがいいのか、蒸すのがいいのか、揚げるのがいいのか、生で食べられるのかを実際に触れ、調理し、味などを検証していきました。
魚はというと、フィンランドでは、サーモン、クハ、シーカ、ハウキ、アハヴェン、ムイック、シラッカ、これらの魚は年中食すことができます。フィンランドは湖が多いので、魚も湖に住む淡水魚が中心です。
この中で、クハという白身魚はフィンランドの海と湖の両方で生息していますが、生息地で味が異なります。
湖のクハは、泥の味というか淡水特有のくせがあり、一口食べただけでわかります。そして、冬はあまり動かないので、魚の表面がどす黒くなります。
こういった味にくせのある魚は、バターや香草などを使って、香りや味を加えることで抵抗なく食べられるようにします。
肉や魚がどういう環境で育っているか、どういう物を食べているかで肉質や味が変わってくるので、どこで取れたものかを知っておくことは欠かせません。
私の場合でいうと、肉や魚、そしてもちろん野菜も食材の選び方で料理の味の70%以上が決まります。
二つ目に大事にしてきたことは、食事をする人がどのような人なのかを徹底的に考えることです。
新しいお客さまが店に入った瞬間から料理人はその人の服装、表情、歩き方、注文の仕方、はしや食器の扱い方、何をどれくらい食べるのか、ずっと観察しています。もちろん、その人が今何を食べたいのかは予想できませんが、常連になれば好みなどもわかるので、お客さまの情報を頭の中にインプットします。その積み重ねによって、満足してもらえる料理が作れるようになります。
これまでフィンランド人にも日本人にもそれ以外の国の人にも、フィンランドの食材を使ってほっとしてもらえる日本料理を作ろうという思いでやってきました。レストラン閉店後もケータリングの依頼など料理の仕事は続けています。人に料理を出す時に「ほっとしてもらえる日本料理を作る」という思いは変わりません。それは、これからも続く料理人としての信念でもあります。
フィンランドってこんな国④
発祥の地!サウナ大国フィンランド
日本でも人気のサウナの発祥地であるフィンランドには、国内に300万以上のサウナがあるといわれています。フィンランド文化を象徴するサウナはフィンランド人の憩いの場であり、リラックスできる場でもあるのです。
料理人・星利昌さんの生き様を通してフィンランドの魅力を知る1冊
フィンランドで暮らす星利昌さんによるエッセイ『マクヤマク しあわせの味あわせ』。自然の豊かさ、家族への思い、料理に対しての信念など、フィンランドの地で星さんが抱いてきた考えが綴られています。星さんの人生を通して、観光ガイドブックでは決して知ることのできないフィンランドの「生きた魅力」を感じることができる1冊。ぜひお手に取って、丁寧な文章と多数の写真をお楽しみください!
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※この記事は、『マクヤマク しあわせの味あわせ』から一部編集・抜粋してお届けしています。
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